FC2ブログ

2021年03月06日 (土) 10:00:00

今週の読書は経済学と政策形成の歴史に関する経済書をはじめとして計5冊!!!

今週の読書は、経済学がいかに政策へ反映されていったかの歴史を紐解いたジャーナリストの手になる経済書のほか、将棋界に大きな旋風を巻き起こした藤井聡太八段の勝負の歴史、さらに、メディアやプロパガンダに関する新書の新刊書計4冊、それに、1年半前のミステリ話題作を含めると計5冊です。

photo


まず、ビンヤミン・アッペルバウム『新自由主義の暴走』(早川書房) です。著者は、ニューヨーク・タイムズのジャーナリストです。英語の原題は The Economists' Hour であり、2019年の出版です。邦訳タイトルはやや意訳が過ぎており、たしかに、結論としては新自由主義ネオリベ経済学の役割が終了したという結論であることは私も同意するものの、少なくともネオリベが暴走したことをジャーナリストとして跡づけているわけではありません。そうではなく、本書は基本的には欧米において経済学がどのように政策形成に影響を及ぼしてきたかについて歴史的な考察を加えています。戦後すぐの米国アイゼンハウアー政権発足のころまではほとんど経済学、あるいはエコノミストは政策形成に影響を及ぼしたとはみなされておらず、ケネディ政権でケインズ政策が本格的に取り入れられるようになり、ニクソン大統領は「今や我々みんなケインジアンである」という人口に膾炙したセリフを口にしたわけですが、その後、1970年代の2度の石油危機からインフレ抑制に失敗したケインズ政策がマネタリズムを始めとするネオリベ経済政策に取って代わられ、1980年前後から政権についた米国レーガン政権、英国のサッチャー政権でネオリベ経済政策が実践され、サプライサイドの重視による減税や規制緩和も含めて、いかに経済的な格差の拡大をもたらし経済を歪め、現在の長期停滞をもたらしたかを明らかにするとともに、2008-09年のリーマン証券破綻後のGreat Recessionでネオリベ政策に終止符が打たれて、ふたたびケインズ経済学に取って代わられるまでの歴史的な経緯をたんねんに追っています。ただし、ジャーナリストらしく、中心に据えられているのは経済学の理念とか方法論ではなく、原タイトルにもあるようにエコノミスト個々人に焦点が当てられています。もっとも、マネタリズムとかのネオリベ経済学がすべて否定されているわけでもなく、典型的にはマネタリストの中心人物だったフリードマン教授が強烈に主張した変動為替相場は今でもEU以外の主要な先進国では堅持されているわけで、経済政策のすべてが大きくスイングしたわけではありません。なお、本書後半で、私が外交官として3年余りを過ごしたチリが取り上げられています。フリードマン教授に率いられたシカゴ学派のシカゴ・ボーイズがピノチェット将軍がクーデタでアジェンデ政権を転覆させた後、民主的ならざる方法でネオリベ政策を展開した例として持ち出されています。現地で経済アタッシェをした経験から、かなりの程度に正確な分析と受け止めています。

photo


次に、朝日新聞将棋取材班『藤井聡太のいる時代』(朝日新聞出版) です。著者は、朝日新聞のジャーナリスト集団であり、テーマは今をときめく藤井聡太八段です。2016年に史上最年少で四段に昇進してプロ棋士の仲間入りを遂げると、そのまま公式戦での連勝を29まで伸ばして、現在は王位と棋聖の2冠を手中にしています。その藤井聡太八段を2002年の誕生から直近まで朝日新聞のジャーナリストがていねいに取材して構成しています。各章のタイトルが、修行編、飛躍編など、いかにも棋士らしいタイトルにされており、読書の際に心をくすぐられます。私はそれほど藤井八段に関係する本を読んでいるわけではありませんが、本書では中心は人柄とか周囲の人間関係とかに置かれているのではなく、そのものズバリの勝負の軌跡がメインとされています。ですから、まったく将棋のシロートである私にはムズいところがあり、加えて、勝負の展開を中心に据えているにもかかわらず、盤面がほとんど収録されていないので、理解がはかどりませんでした。でも、私も藤井八段がおそらく数十年に一度の棋士であろうことは理解できますし、こういった形で誕生からの歴史を取りまとめておくのも大きな意味があると思います。私なんぞのシロートではなく、将棋にたしなみがあり、藤井八段のファンにはたまらない読書になると思います。

photo


次に、佐藤卓己『メディア論の名著30』(ちくま新書) です。著者は、京都大学の研究者です。タイトル通りに、メディアの名著30冊について、大衆宣伝=マス・コミュニケーションの研究、大衆社会と教養主義、情報統制とシンボル操作、メディア・イベントと記憶/忘却、公共空間と輿論/世論、情報社会とデジタル文化の6分類で紹介しています。専門外の私が読んだ記憶あるのはパットナム教授の『孤独なボウリング』くらいのもので、書名を聞いたことがあるものですら、リップマンの『世論』とマクルーハンの『メディア論』のほか極めて少なかったです。私は基本的に、原典に当たるのがベストと考えていて、報道を引いてツイートするのとか、書評でもって読んだ気になるのは戒めているのですが、メディア論という専門外の分野では、こういった新書に目を通して古典的な名著を読んだ気になるのもいいかもしれないと考えてしまいました。

photo


次に、内藤正典『プロパガンダ戦争』(集英社新書) です。著者は、現代イスラムの地域研究を専門とする同志社大学の研究者です。本書の副題は「分断される世界とメディア」となっており、この副題の方が本書の中身をより正確に表しているような気がします。というのも、分断の基となったメディアの報道を引いていて、そういったカッコつきの「プロパガンダ」が分断を引き起こしたといえなくはないものの、結局、イスラム世界の擁護に回っているとしか思えません。私はインドネシアに3年間家族とともに暮らして、宗教的にも地域的にもイスラム世界に偏見や差別は持たないと考えていますが、タイトルからしてプロパガンダによってイスラムや中東世界が先進諸国から分断されている、といいたいんだろうと読んでしまい、かえって逆効果のような気がします。

photo


オマケで、相沢沙呼『medium』(講談社) です。著者は、ミステリやラノベの分野の作家であり、私は初めてこの作者の作品を読みました。約1年半前の2019年の出版であり、私がこのブログで取り上げる新刊書ギリギリ、もしくは少し外れ気味かもしれませんが、一応、最後に取り上げておきたいと思います。というのも、何せ、出版社の謳い文句そのものに、第20回本格ミステリ大賞受賞、このミステリーがすごい! 1位、本格ミステリ・ベスト10 1位、SRの会ミステリベスト10 1位、2019年ベストブック、の五冠を制したミステリ作品だからです。タイトルのmediumとは「霊媒」という邦訳が当てられており、その複数形がまさにメディアなわけです。ということで、霊媒探偵が降霊によって犯人を特定するというミステリにあるまじき反則技、まさに、ノックスの十戒に真っ向から反するような謎解きに見えるんですが、実はそうではなく緻密な推理による謎解きが最終章にて明らかにされます。極めて論理的な解決です。その意味で、明らかに本格ミステリといえます。ただ、別の観点からはやや反則気味であると指摘する識者もいる可能性は私も否定しません。この「別の観点」は明らかにしないのがミステリ作品紹介の肝だと思います、というか、この点を除けば、本格ミステリ好きのファンには大いにオススメです。本書だけは、別途、Facebookでも紹介してあります。
Entry No.6975  |  読書感想文の日記  |  コメント(0)  |  トラックバック(0)  |  to page top ↑

2021年03月05日 (金) 23:30:00

2月の米国雇用統計に見る米国景気の本格回復の要因は何なのか?

日本時間の今夜、米国労働省から2月の米国雇用統計が公表されています。非農業雇用者数の前月差は昨年2020年12月には▲306千人減と減少に転じましたが、今年2021年に入って1月には+166千人増、2月も+379千人増と順調に増加しています。失業率は前月の6.3%から2月にはわずかながら6.2%に低下しました。まず、長くなりますが、USA Today のサイトから統計を報じる記事を引用すると以下の通りです。

The economy added 379K jobs in February, unemployment fell to 6.2% as COVID cases dropped
Hiring rebounded sharply in February after a two-month slump with employers adding 379,000 jobs as falling COVID-19 cases and easing business restrictions offset harsh winter weather across much of the country.
The unemployment rate fell from 6.3% to 6.2%, the Labor department said Friday.
Economists surveyed by Bloomberg expected about 200,000 job gains, according to their median estimate.
After stalling in December and January while the pandemic spiked, job growth is projected to increasingly pick up steam in coming months amid declining infection rates, easing business constraints and growing vaccinations. About 16% of the population already has been vaccinated and another 25% have immunity as a result of prior infection, economist Ian Shepherdson of Pantheon macroeconomics estimates.
The $900 billion COVID relief package, passed by Congress in December, also likely boosted activity last month, Oxford Economics says. The legislation extended unemployment benefits for 11 million people, sent $600 checks to most households and renewed the Paycheck Protection Program’s forgivable small business loans.
The $1.9 trillion package, which is expected to be passed by Senate this month, is likely to only further juice the rebounding economy this spring.
In February, the number of employees working rose for the first time since October, according to Homebase, which supplies payroll software to small businesses. And early last month, the number of restaurant diners increased to the highest level since November, according to Open Table, an online restaurant reservation service, and Capital Economics.
The snowstorm that devastated southern states such as Texas came too late to dampen Labor’s employment survey, which is conducted during the week that includes the 12th of each month, Oxford says. But harsh weather earlier in the month -- including snowstorms in the Northeast and frigid temperatures in the Midwest and Plains states - might have tempered payrolls in sectors such as construction and leisure and hospitality, according to Oxford and Capital Economics.
The nation has recovered more than half of the 22.2 million jobs wiped out in the health crisis as restaurants, shops and other businesses shuttered by the coronavirus outbreak were allowed to reopen. Many economists are forecasting more than 6 million job gains this year - a surge that would still leave payrolls about 4 million short of pre-pandemic levels and epitomize the scars the crisis is certain to leave.
The chief threat to a booming economy by midyear is the rapid spread of a COVID variant that could outrun the drop in cases, Shepherdson says.


長くなりましたが、まずまずよく取りまとめられている印象です。続いて、いつもの米国雇用統計のグラフは下の通りです。上のパネルでは非農業部門雇用者数の前月差増減の推移とそのうちの民間部門を、さらに、下は失業率をプロットしています。いずれも季節調整済みの系列であり、影をつけた部分は景気後退期です。NBERでは今年2020年2月を米国景気の山と認定しています。ともかく、4月の雇用統計からやたらと大きな変動があって縦軸のスケールを変更したため、わけの判らないグラフになって、その前の動向が見えにくくなっています。少し見やすくしたんですが、それでもまだ判りにくさが残っています。

photo


引用した記事にもあるように、Bloombergによる市場の事前コンセンサスでは+200千人増と予想されていましたので、+379千人増はかなりこれを上回っています。他方で、失業率は昨年2020年12月の6.7%から、今年2021年1月には6.3%まで低下しましたが、2月は6.2%と僅かに0.1%ポイントの改善にとどまりました。やはり、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のワクチン接種が進んで、引用した記事にあるように、ワクチンによって人口の16%が、感染からの回復によって25%が、それぞれ免疫を得た、と報じられています。明らかに、雇用統計に見る米国景気回復はワクチンを含めた新型コロナウィルス感染症(COVID-19)に対する免疫獲得という基礎の上に成り立っている可能性が示唆されています。従って、というか、何というか、2月の非農業部門雇用者増をさらに産業別に詳しく見ると、人的接触の大きな Leisure and hospitality が何と+355千人増と非農業部門全体の+379千人増の93.7%を占めています。私の目から見ても、これはかなりホンモノの景気・雇用の回復に見えます。ですから、日経新聞の記事によれば、市場では米国長期金利が上昇して、為替も円安ドル高が進んでいるようです。加えて、引用したBloombergの記事でも報じられている9000億ドルの財政出動もあって、インフレ懸念すら出始めています。我が日本もこれくらいの政策発動が出来ないものなのでしょうか?
Entry No.6974  |  経済評論の日記  |  コメント(0)  |  トラックバック(0)  |  to page top ↑

2021年03月04日 (木) 23:30:00

緊急事態宣言解除に先駆けて2月の消費者態度指数は改善を示す!!!

本日、内閣府から2月の消費者態度指数が公表されています。季節調整済みの系列で見て、3か月振りに改善し前月から+4.2ポイント上昇して33.8を記録しました。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

2月の消費者態度指数、3カ月ぶり改善 判断「持ち直しの動き」に上げ
内閣府が4日発表した2月の消費動向調査によると、消費者心理を示す一般世帯(2人以上の世帯)の消費者態度指数(季節調整値)は前月比4.2ポイント上昇の33.8だった。前月から改善するのは3カ月ぶりで、上昇幅は比較可能な2013年4月以降では2番目の大きさだった。内閣府は消費者心理についての基調判断を「依然として厳しいものの、持ち直しの動きがみられる」に上方修正した。前月は「弱含んでいる」だった。
新型コロナウイルスの感染再拡大に伴い、一部地域での緊急事態宣言は続いているが、1月と比べて全国の新規感染者数が減少傾向にあることなどが消費者心理を上向かせたようだ。指数を構成する「暮らし向き」や「収入の増え方」「雇用環境」「耐久消費財の買い時判断」の4指標はいずれも前の月から上昇した。
日ごろよく購入する物の1年後の物価見通し(2人以上の世帯が対象)では「上昇する」と答えた割合が69.8%(原数値)と前の月を4.4ポイント上回った。
態度指数は消費者の「暮らし向き」など4項目について、今後半年間の見通しを5段階評価で聞き、指数化したもの。全員が「良くなる」と回答すれば100に、「悪くなる」と回答すればゼロになる。調査基準日は2月15日で、調査は全国8400世帯が対象。有効回答数は7595世帯、回答率は90.4%だった。


いつものように、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、消費者態度指数のグラフは下の通りです。ピンクで示したやや薄い折れ線は訪問調査で実施され、最近時点のより濃い赤の折れ線は郵送調査で実施されています。また、影を付けた部分は景気後退期なんですが、このブログのローカルルールで直近の2020年5月を景気の谷として暫定的に同定しています。

photo


ということで、消費者態度指数は3か月振りに改善を示し、前月統計から+4.2%とかなり大幅な上昇を見せました。従って、引用した記事にもある通り、統計作成官庁である内閣府では基調判断を1月の「弱含んでいる」から「依然として厳しいものの、持ち直しの動きがみられる」へ引き上げています。消費者態度指数は景気に対して先行性あるマインド指標らしく、昨年2020年4月からの第1回目の緊急事態宣言を底として、翌5月から回復を始め、さらにその次の6月の改善幅が+4.4ポイントでしたから、それに次ぐ大きな改善といえます。調査期間は2月22日までであり、調査時点ではまだ緊急事態宣言は解除されていませんでしたが、首都圏を除く関西圏などの緊急事態宣言解除を見通してのマインド改善といえます。ただ、消費者態度指数を構成する指標の前月差を詳しく見ると、「雇用環境」が+6.4ポイントともっとも大きく改善したほか、「暮らし向き」や「耐久消費財の買い時判断」も+4ポイント超の改善を示している一方で、消費の原資となる「収入の増え方」はわずかに+1.9ポイントの改善にとどまっています。まあ、何と申しましょうかで。前月差で+2ポイント近い改善は、それなりに評価すべきとは考えるものの、他の指標との関係で将来の収入の期待がまだそれほど高まっていないのは、やや懸念が残るところです。ただ、何度も繰り返しになりますが、将来期待はすべからく新型コロナウィルス感染症(COVID-19)パンデミック次第であって、経済外要因としか私には考えられません。
Entry No.6973  |  経済評論の日記  |  コメント(0)  |  トラックバック(0)  |  to page top ↑

2021年03月03日 (水) 18:00:00

来週公表の2020年10-12月期GDP統計2次QEは1次QEから小幅修正で足元の1-3月期はマイナス成長か?

昨日の法人企業統計など、必要な統計がほぼ出そろって、来週火曜日の3月9日に昨年2020年10~12月期GDP統計速報2次QEが内閣府より公表される予定となっています。年末から新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の第3波の感染拡大が始まっていましたが、まだ、その影響は大きく現れたわけではなく、1次QEでは前期比+3.0%、前期比年率+12.7%との結果が示された後、シンクタンクなどによる2次QE予想が出そろっています。いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、web 上でオープンに公開されているリポートに限って取りまとめると下の表の通りです。ヘッドラインの欄は私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しています。可能な範囲で、足元の1~3月期から先行きの景気動向について重視して拾おうとしています。1月に緊急事態宣言が出た後、関西の京阪神では2月末をもって解除された一方で、東京都をはじめとする首都圏では3月7日に予定通り終了するかは不透明となっており、そういった影響も気にかかるところです。ただし、何せ2次QEですので、法人企業統計のオマケの扱いのリポートも少なくなく、明示的に足元の1~3月期の動向を盛り込んでいるのはみずほ総研と伊藤忠総研だけでした。いずれにせよ、詳細な情報にご興味ある向きは一番左の列の機関名にリンクを張ってありますから、リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開いたり、ダウンロード出来たりすると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちにAcrobat Reader がインストールしてあってリポートが読めるかもしれません。

機関名実質GDP成長率
(前期比年率)
ヘッドライン
内閣府1次QE+3.0%
(+12.7%)
n.a.
日本総研+2.4%
(+10.1%)
10~12月期の実質GDP(2次QE)は、設備投資が大幅な下方修正となる一方、公共投資が上方修正となる見込み。その結果、成長率は前期比年率+10.1%(前期比+2.4%)と、1次QE(前期比年率+12.7%、前期比+3.0%)から下方修正される見込み。
大和総研+2.8%
(+11.6%)
2020年10-12月期GDP2次速報(3月9日公表予定)では、実質GDP成長率が前期比年率+11.6%と、1次速報(同+12.7%)から下方修正されると予想する。
みずほ総研+3.1%
(+13.1%)
1~3月期については、11都府県を対象として緊急事態宣言が1月に発令され、首都圏を除く6府県については2月末、首都圏の1都3県については3月7日まで延長されたことを受け、サービスを中心とした個人消費の落ち込みは不可避な情勢だ。輸出や設備投資についても、内外の経済活動再開後のペントアップ需要が剥落することに加え、車載向け半導体の供給制約や地震の影響が下押し要因となることで、伸びが鈍化することが見込まれる。1~3月期の日本経済は、3四半期ぶりのマイナス成長となるだろう。
前回(昨春)に比べると、今回の緊急事態宣言による経済活動への制限は緩いものになっている。前回は飲食店への時短営業要請だけでなく、遊興施設や劇場、商業施設などにも休業が要請されたが、今回は飲食店に対する時短要請に的を絞った内容となっており、商業施設等に対しては休業要請ではなく時短の「働きかけ」にとどまる。商業施設の営業が継続されるため財消費の落ち込み幅が小さいほか、生産活動が停滞せず輸出への影響が限定的であることから、昨春と比較すれば日本経済への全体的な影響は抑制されるとみられる。
ただし、対人接触型のサービス消費(外食、宿泊、旅行・交通、娯楽)は大幅な減少が避けられないほか、インバウンド需要も底這いでの推移が続く見通しだ。緊急事態宣言が解除された後も、まん延防止等重点措置や都道府県独自の対策が実施される可能性が高く、時短要請やイベント開催制限などサービス業に対する制約が一定程度残ることになるだろう。予備費の活用などにより、飲食店など対人接触型サービス業種に対する重点的な支援を行う必要がある。
ニッセイ基礎研+3.1%
(+13.1%)
3/9公表予定の20年10-12月期GDP2次速報では、実質GDPが前期比3.1%(前期比年率13.1%)となり、1次速報の前期比3.0%(前期比年率12.7%)から若干上方修正されると予想する。
第一生命経済研+3.0%
(+12.8%)
3月9日に内閣府から公表される2020年10-12月期実質GDP(2次速報)を前期比年率+12.8%(前期比+3.0%)と、1次速報の前期比年率+12.7%(前期比+3.0%)からほぼ変化なしと予想する。内容も1次速報からほとんど変わらず、景気認識に変更を迫るものにはならないだろう。
伊藤忠総研+3.1%
(+12.8%)
設備投資(機械投資)の先行指標である機械受注は10~12月期こそ前期比で大幅に増加し下げ止まったものの、1~3 月期は再び減少が予想されており、建設投資の先行指標である建設着工床面積も減少基調が続いているため、このまま設備投資が拡大傾向に転じるとは見込み難い。足元で大きく増加した電気業の設備投資は振れが大きく一時的な動きの可能性もあり、むしろ設備投資は 1~3月期の反動落ちを見込んでおくべきであろう。
また、個人消費は緊急事態宣言の再発令を受けて確実に落ち込んでおり、3月にある程度の挽回を想定しても 1~3月期は前期比でマイナスとなろう。輸出も欧米向けの増勢に陰りが見らており、少なくともこれまでのような大幅増は期待できない。そのため、1~3月期の実質GDP成長率は前期比マイナス成長に転じる可能性が高いと予想される。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング+3.1%
(+13.0%)
2020年10~12月期の実質GDP成長率(2次速報値)は、前期比+3.1%(年率換算+13.0%)と1次速報値の+3.0%(年率換算+12.7%)からわずかに上方修正される見込みである。
三菱総研+3.0%
(+12.6%)
2020年10-12月期の実質GDP成長率は、季調済前期比+3.0%(年率+12.6%)と、1次速報値(同+3.0%(年率+12.7%))からほぼ変更なしと予測する。


私の直感からしても、昨日公表された法人企業統計を見る限り、先月内閣府から公表された1次QEでは前期比+3.0%、前期比年率+12.7%の成長でしたが、修正幅は極めて小さいと見込んでいます。もっとも、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは前期比+2.3%、前期比年率+9.4%となっていますので、小幅ながら下方修正を見込むエコノミストの方が多いのかもしれません。しかし、ここで注目すべきポイントは、1次QEからの変更の方向や幅ではなく、足元の1~3月期はかなり確度高くマイナス成長である、という点です。ただし、GDPやその他の経済指標はほぼほぼ市場価格で評価されていますので、本来の社会的なコストやベネフィットを反映していません。何度も強調した点ですが、短期的に目先の経済活動が低迷したとしても、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のパンデミック拡大の防止に重点を置く方が、結局、中長期的に成長につながるという事実は忘れるべきではありません。
最後に、下のグラフは、みずほ総研のリポートから引用しています。

photo
Entry No.6972  |  経済評論の日記  |  コメント(0)  |  トラックバック(0)  |  to page top ↑

2021年03月02日 (火) 17:00:00

法人企業統計は企業部門が最悪期を脱した可能性を示唆し、も下げ止まりから改善の可能性!!!

本日、財務省から昨年2020年10~12月期の法人企業統計が、また、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が、それぞれ公表されています。法人企業統計のヘッドラインは、季節調整していない原系列の統計で、売上高は6四半期連続の減収で前年同期比▲4.5%減の332兆903億円、経常利益も7四半期連続の減益で▲0.7%減の18兆4505億円、設備投資はソフトウェアを含むベースで▲4.8%減の11兆761億円を記録しています。GDP統計の基礎となる季節調整済みの系列の設備投資についても前期比▲1.2%減の11兆4247億円となっています。加えて、雇用の方は、失業率は前月から0.1%ポイント改善して2.9%、有効求人倍率は前月から0.05ポイント改善して1.10倍と、徐々に下げ止まりないし改善を示しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

全産業経常利益10-12月0.7%減 製造業10期ぶりプラス
財務省が2日発表した2020年10~12月期の法人企業統計によると、全産業(金融・保険業を除く)の経常利益は前年同期比0.7%減の18兆4505億円だった。7~9月期の28.4%減から減少幅が縮小した。製造業は21.9%増の7兆1837億円で、10期ぶりにプラスに転じた。自動車などの輸送用機械や生産用機械が好調だった。
自動車は国内での販売が特に伸びた。生産用機械は国内外での建設機械などの販売が回復したという。1年前の19年10~12月には米中貿易摩擦や大型台風の影響で製造業の経常利益が落ち込んだ。20年10~12月の回復は「前年が低かったという影響もある」(財務省)という。
非製造業の経常利益は11.2%減の11兆2668億円だった。前期の29.1%減から減少幅を縮めた。新型コロナウイルス禍で打撃を受ける運輸業・郵便業やサービス業が大きな減益となる一方、卸売業・小売業や建設業が全体を押し上げた。小売業では在宅需要の高まりで家電の販売が好調だった。
財務省は経常利益が大幅に回復したことについて「業種ごとにばらつきがある」と指摘した上で「総じて言えば持ち直してきている」と評価した。
全産業の売上高は4.5%減の332兆903億円、設備投資は4.8%減の11兆761億円と、それぞれ7~9月期から下げ幅を縮小した。設備投資は製造業が8.5%減と落ち込みが大きい。全体を押し下げた食料品や電気機械などで前年度の大型投資の反動が出たという。
1月の失業率2.9%、有効求人倍率1.10倍 2カ月ぶり改善
総務省が2日発表した1月の完全失業率(季節調整値)は2.9%と前月に比べ0.1ポイント低下した。厚生労働省が同日発表した1月の有効求人倍率(同)は1.10倍で前月から0.05㌽上昇した。いずれも2020年11月以来、2カ月ぶりに改善した。緊急事態宣言による雇用情勢への影響は1月時点では見極めづらく、改善が続くかは見通せない。
1月の完全失業者は前年同月比で38万人増加した。正社員は36万人増え、8カ月連続で増加した一方、非正規は91万人減り、11カ月連続で減少した。非正規の厳しい雇用情勢が続いている。
昨年末からの感染の急拡大を受け、1月8日には緊急事態宣言が再び発動した。1月の休業者は244万人で前月から42万人増えた。休業者は597万人と過去最高に増えた昨年4月と比較すると大幅な拡大はみられなかった。昨年4月の緊急事態宣言と比較すると営業制限の対象業種や地域が絞られているためとみられる。
有効求人倍率は仕事を探す人1人に対し、企業から何件の求人があるかを示す。1月は企業からの有効求人が前月から3.1%増え、働く意欲のある有効求職者は2.3%減った。厚労省の担当者は「緊急事態宣言の影響は遅れてあらわれる可能性があり、2月や3月の雇用情勢は慎重にみている」と語る。
雇用の先行指標となる新規求人(原数値)は前年同月比で11.6%減った。減り幅を産業別にみると、宿泊・飲食サービス業(37.5%減)や生活関連サービス・娯楽業(26.2%減)、卸売業・小売業(17.2%減)が大きかった。
雇用情勢は地域や産業によってばらつきは大きい。就業地別の有効求人倍率は最高の福井県が1.64倍で、最低の沖縄県は0.77倍だった。東京都は0.91倍だった。
産業別の就業者数を対前年の増減でみると、宿泊・飲食サービス業(39万人減)や卸売・小売業(22万人減)は減少した一方、医療・福祉(29万人増)や建設業(22万人増)は増えた。
新型コロナに関連した解雇・雇い止めにあった人数(見込みを含む)は2月末時点で累計9万人を超えた。厚労省が全国の労働局やハローワークを通じて集計した。


やたらと長くなりましたが、いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がしますが、やや長くなってしまいました。次に、法人企業統計のヘッドラインに当たる売上高と経常利益と設備投資をプロットしたのが下のグラフです。色分けは凡例の通りです。ただし、グラフは季節調整済みの系列をプロットしています。季節調整していない原系列で記述された引用記事と少し印象が異なるかもしれません。影を付けた部分は景気後退期なんですが、直近の2020年5月ないし4~6月期を直近の景気の谷として暫定的にこのブログのローカルルールで同定しています。

photo


法人企業統計については、メディアでは季節調整していない原系列の統計の前年同期比で報じられることが多い一方で、私はGDP統計との関係でどうしても季節調整済みの系列で見る場合が多いんですが、上のグラフでも明らかな通り、企業部門では売上高や経常利益については完全に最悪期を脱しているように見えます。加えて、売上高も経常利益も水準として決して低くありません。特に経常利益はほぼ新型コロナウィルス感染症(COVID-19)パンデミック前に水準を取り戻しています。すなわち、COVID-19パンデミック前の2019年10~12月期の経常利益は17.6兆円でしたが、本日公表の2020年10~12月期には17.3兆円まで回復を見せています。もちろん、回復の方向にあることは見ての通りです。その一方で、設備投資は相変わらず低迷したままです。さらに、今日のところは後に雇用統計が控えていますので、いつもの労働分配率や利益剰余金のグラフは省略していますが、利益剰余金については、COVID-19パンデミック前の2019年10~12月期のピークから、昨年2020年1~3月期、4~6月期、7~9月期と3四半期連続で減少を見た後、直近でデータが利用可能な2020年10~12月期には回復に転じています。当然ながら、人的接触の大きな宿泊や飲食といったCOVID-19の感染拡大のために影響大きいセクターはあるわけで、企業部門すべてが回復というわけではないのは十分に承知していますが、先進国の中でもワクチン接種が飛び抜けて遅れているわけですので、もう一度、政策的な支援の重点を消費者=国民に向けることも大いに考えるべきではなかろうか、という気がしています。

photo


続いて、雇用統計のグラフは上の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。景気局面との関係においては、失業率は遅行指標、有効求人倍率は一致指標、新規求人数は先行指標と、エコノミストの間では考えられています。また、影を付けた部分は景気後退期であり、直近の2020年5月を景気の谷として暫定的にこのブログのローカルルールで同定しています。日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスについては、失業率が3.1%だった一方で、有効求人倍率は1.03倍でしたので、昨年2020年の暮からのCOVID-19パンデミック拡大と今年2021年1月からの緊急事態宣言で、いずれも横ばいないし小幅の悪化を見込んでいたわけですが、実績は市場の事前コンセンサスとは逆に雇用改善と出たわけですから、それなりに雇用は底堅い、と私は認識しています。人口減少の経済的影響がまだ残っている可能性があるわけです。ただし、失業率の関係では、失業者が12月の210万人から1月には203万人に▲7万人減少している一方で、引用した記事にもあるように、休業者は逆に+42万人増加しています。特に、対人接触の多い宿泊業、飲食サービス業では休業者が+16万人増、卸売業、小売業でも+5万人増などと、全体の+42万人増のうちの半分がこの2業種となっています。有効求人倍率の方でも、全国レベルでは1倍を上回っていますが、都道府県別では1倍を割り込んでいる地域も少なくなく、例えば、これも引用した記事にもある通り、就業地ベースで東京都ですら1倍を割っており、東京都をはじめとする1都3県では軒並み1倍を下回っています。近畿圏でも、兵庫県は1倍を超えていますが、京都府と大阪府ではまだ1倍を下回ったままです。このように、全体として雇用は堅調ですが、産業別・地域別では改善の足並みはバラバラです。
Entry No.6971  |  経済評論の日記  |  コメント(0)  |  トラックバック(0)  |  to page top ↑

2021年03月01日 (月) 10:00:00

カミさんの誕生日を祝う!

今日はカミさんの誕生日です。
くす玉のフラッシュ動画のサポートが終了しましたので、ポケモン画像で代替しておきます。

photo
Entry No.6970  |  記念日の日記  |  コメント(0)  |  トラックバック(0)  |  to page top ↑

2021年02月28日 (日) 18:00:00

「レポート 2030: グリーン・リカバリーと2050年カーボン・ニュートラルを実現する2030年までのロードマップ」やいかに?

2050年カーボン・ニュートラルを目指した日本版のグリーン・ニューディール≅グリー・リカバリーを提言するリポート「レポート 2030: グリーン・リカバリーと2050年カーボン・ニュートラルを実現する2030年までのロードマップ」が2月25日に明らかにされています。取りまとめに当たったのは「未来のためのエネルギー転換研究グループ」であり、数名の研究者から構成されています。2月25日には、サイトもオープンされ、ウェビナーも開催されています。なお、未来のためのエネルギー転換研究グループのメンバーはサイトで明らかにされています。

photo


上の画像は、リポートの要約の冒頭に置かれているINFOGRAPHICSです。縮小しているので見にくいかもしれませんが、現時点の2021年の左下からロードマップが伸びていて、右上の2050年カーボン・ニュートラルにつながっています。グリー・リカバリーとは私は聞き慣れない表現だったんですが、グリーン・ニューディールとほぼ同じ意味で使われているようです。原子力発電は2030年にはすでにゼロとし、2050年には再可能エネルギーが100%を占めます。当然です。累積の投資額は2030年までに202兆円、2050年までに340兆円に上り、雇用創出数は2030年までに2544万人に達します。なお、エコノミストとして気になる財源については、2030年までの総額約202兆円(年平均約20兆円)の投資資金のうち、パフォーマンス型の支援制度(FITのような制度)や省エネ規制、環境税のようなインセンティブ制度や公的融資制度などを整備すれば、大部分(年平均約15兆円)については民間企業や家計が自己資金や借り入れでまかなうことができ、必ずしも巨額の公的資金を投じる必要はなく、51兆円(年平均5兆円)程度がエネルギー供給インフラ等に対する財政支出となる、と試算しています。公的資金の取り扱いに関しては、3つのオプションが示されています。
データをはじめとする資料や参考文献まで含めると100ページを超えるリポートであり、エコノミストの私から見れば専門外の部分も多々あって、なかなかすべてを正確に評価することもできませんが、とても気にかかるリポートであることは事実です。しかし、理由は不明ながら、ほとんどメディアでは報じられていません。ぜひとも、多くの方に知って欲しいと私は考えています。
Entry No.6969  |  経済評論の日記  |  コメント(0)  |  トラックバック(0)  |  to page top ↑

2021年02月27日 (土) 10:00:00

今週の読書は経済書のほか文庫本の小説とややペースダウンして計3冊!!!

今週の読書は、エプシュタイン教授の現代貨幣理論(MMT)への批判的な解説書とともに、文庫本の小説2冊と、ややペースダウンしています。税金の確定申告の時期に入り、少し小説を読んでリラックスしたいと考えないでもありません。

photo


まず、ジェラルド A. エプシュタイン『MMTは何が間違いなのか?』(東洋経済) です。著者は、マサチューセッツ大学アマースト校の経済学の研究者であり、ポスト・ケインジアンの非主流派に属しているらしいです。本書の英語の原題は What’s Wrong with Modern Money Theory? であり、2019年の出版です。ということで、タイトルこそ勇ましくて、正面切ってMMTを批判しているように見えますが、最終章第8章の冒頭にあるように、著者は政策目標の多くをMMT派と共有しているように見えます。加えて、私は、基本的に、自分自身を主流はエコノミストと位置づけていますが、政策目標についてはよく似通っているつもりです。ただ、本書の著者は主流はエコノミストは、米国では民主党リベラルの均衡予算≅緊縮財政、物価安定、中央銀行の独立などのいわゆる新古典派経済学とみなしていて、むしろ、増税回避の観点から共和党は緊縮財政とは親和性ない、とみなしています。そして、著者が批判してようとしているのはMMT派経済学の否定ではなく、むしろ補足的な役割のような気すらします。結論として、私が重要と考える本書のポイントは、MMTが前提とする変動相場制について、ハードカレンシーを持たない途上国へのMMT派的な政策の適用が難しい、従って、MMT派の制作がかなり適用できるのはむしろ米国という基軸通貨国である、という点と、もうひとつは、これは私も同じで、政策適用の現実性、すなわち、MMT派経済政策をフルで適用すると需要超過からインフレになるんではないか、という恐れです。ミンスキー理解などの理論的な指摘もありますが、私は、この最後の財政政策だけで需要管理が適切にできるか、という疑問がもっとも大きいと考えます。現実に、多くの先進国では需要管理は金融政策に委ねられており、財政政策はファインチューニングには向かないと考えられています。むしろ、課税政策を特定の財の消費抑制に当てたり、歳出・歳入ともに格差是正に割り当てたり、という形です。というのは、本書では取り上げられていませんが、私が授業なんかで大きく強調するのは、金融政策はかなりの程度にユニバーサルである一方で、財政政策はそうではありません。すなわち、日本の場合を例にすると、九州で高速道路を建設しても関西の私の便益はそれほど大きくない可能性がありますし、保育所を建設しても一部の高齢者には迷惑施設と見なされる可能性も排除できません。ですから、金利やマネーサプライを市場を通じて操作するのは、全国一律で地域差はなく、年齢海藻屋職業別などの偏りも少ない一方で、財政政策は地域性や年齢や職業・所得階層別に細かな効果の差が生じ得ます。その意味で、マクロ経済安定化政策には私は金融政策が向いているような気がしてなりません。加えて、本書の観点では、詳しくは触れられていないものの、MMT派政策のひとつの目玉であるジョブ・ギャランティー・プログラム(JGP)はむしろ需要超過のバイアスがかかる可能性があると指摘しています。私自身は、MMT派政策を日本に適用する限り、それほどインフレの可能性が大きいとは考えませんが、米国ならそうかもしれません。いずれにせよ、私はMMT派が理論的なバックグラウンドにあるモデルの提示に失敗している現状では、何とも評価できかねるものの、実際の政策適用については、インフレの可能性については保留するとしても、金融政策よりも財政政策でマクロ安定化を図るほうが好ましいとはとても思えません。その意味で、私はまだリフレ派なんだろうと、自分自身で評価しています。加えて、本書で何度か指摘されているように、MMT派は租税回避の政策提言から富裕層、というか、超富裕層のウォール街の金融業者やシリコンバレーのGAFA経営者などの支持を取り付けています。これも、私は、ホントにそれでいいのか、と疑問に思わざるを得ません。これも、私をMMT派から少し距離を取らせている一因です。最後に本書に立ち返れば、貨幣と信用の区別なんて、ほとんど意味のない観点を持ち出してきたりして、ややMMT派経済学に対する無理解があったりして、ちょっとピンとこない点もいくつかあります。繰り返しになりますが、MMT派の背景となるモデルが不明である現時点では、私はマクロ経済安定化政策としての財政政策の適用可能性が最大の論点となると考えています。念のため。

photo


次に、浅田次郎『地下鉄(メトロ)に乗って 新装版』(講談社文庫) です。作者は、幅広くご活躍の小説家であり、本書はもともと1990年代半ばに単行本として出版され、本作品で吉川英治文学新人賞を受賞し、ついでながら、1997年『鉄道員(ぽっぽや)』で直木賞を受賞しています。この2作品はどちらも映画化されており、『地下鉄に乗って』は堤真一主演となっています。なお、本書は単行本の後、文庫本化され、さらに、昨年2020年10月に新装版が出版されていて、私はその新装版を借りて読みました。たぶん、確認はしていませんが、中身は同じだと思います。高倉健主演で映画化された『鉄道員』は、完全なファンタジーというよりも、主人公が幻想を見るという解釈も可能なのですが、コチラの『地下鉄に乗って』はタイムスリップですので、完全なファンタジーです。戦後闇市から大企業を育て上げた立志伝中の財界人の3人の倅のうち、次男を主人公とし、この主人公が愛人とともにタイムスリップを繰り返し、高校生のころに自殺した長男の自殺を食い止めようと試みつつ、父親が満州に出征するところ、同じく父親が闇市で精力的に活動するところ、などなど、さまざまな場面を目撃し、最後は驚愕の事実に遭遇する、というストーリーです。私のように、地下鉄で通勤する人間にはそれなりに興味を持って読めました。

photo


最後に、佐伯泰英『幼なじみ』(講談社文庫) です。著者は、スペインの闘牛の小説などを手がけつつも、ソチラはまったく売れず、時代小説で名の売れた小説家です。この作品は、長らく双葉文庫から出版されていた「居眠り磐音」シリーズが講談社文庫に移籍し、そのスピンオフ作品の5作目にして最終作です。なお、同じく「居眠り磐音」シリーズから、磐音のせがれの空也を主人公とする「空也十番勝負」もスピンオフしているんですが、当初予定の10作に満たずにすでに終了していますので、この作品がスピンオフも含めた「居眠り磐音」シリーズの最終作ということになります。スピンオフですので、主人公は坂崎磐音ではなく、鰻処宮戸川に奉公する幸吉と縫箔師を目指し江三郎親方に弟子入りしたおそめの2人です。小さいころから、磐音の媒酌により祝言に至るまで、本編では明らかにされていなかったトピックも交えつつ、幸吉中心の第1部と遅め中心の第2部に分けて語られています。おそらく、シリーズは武者修行を終えた空也がお江戸の神保小路の道場に戻って、この先も続くんでしょうね。私は引き続き買うのではなく、図書館で借りて読み続けるような気がします。
Entry No.6968  |  読書感想文の日記  |  コメント(0)  |  トラックバック(0)  |  to page top ↑

2021年02月26日 (金) 15:00:00

増産を示した鉱工業生産指数(IIP)と減少した商業販売統計の違いやいかに?

本日、経済産業省から1月の鉱工業生産指数(IIP)商業販売統計が公表されています。IIPのヘッドラインとなる生産指数は季節調整済みの系列で前月から+4.2%の増産でした。商業販売統計のヘッドラインとなる小売販売額は季節調整していない原系列の統計で前年同月比▲2.4%減の12兆970億円、季節調整済み指数では前月から▲0.5%の低下を記録しています。消費の代理変数である小売販売額は、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の第3波の感染拡大による影響、さらに、それに対応した緊急事態宣言の影響と考えるべきです。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

1月の鉱工業生産、4.2%上昇 2月予測は2.1%上昇
経済産業省が26日発表した1月の鉱工業生産指数(2015年=100、季節調整済み)速報値は、前月比4.2%上昇の97.7だった。上昇は3カ月ぶり。生産の基調判断は「持ち直している」に据え置いた。QUICKがまとめた民間予測の中央値は前月比4.0%上昇だった。
出荷指数は3.2%上昇の95.8で、在庫指数は0.2%低下の95.1。在庫率指数は6.3%低下の106.5だった。
同時に発表した製造工業生産予測調査では、2月が2.1%上昇、3月は6.1%低下を見込んでいる。
1月の小売販売額、2.4%減
経済産業省が26日発表した1月の商業動態統計(速報)によると、小売販売額は前年同月比2.4%減の12兆970億円だった。
大型小売店の販売額については、百貨店とスーパーの合計が5.8%減の1兆6275億円だった。既存店ベースでは7.2%減だった。
コンビニエンスストアの販売額は4.4%減の9290億円だった。


いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、商業販売統計のグラフは下の通りです。上のパネルは季節調整していない小売販売額の前年同月比増減率を、下は季節調整指数をそのままを、それぞれプロットしています。影を付けた部分は景気後退期であり、直近の2020年5月を景気の谷として暫定的にこのブログのローカルルールで同定しています。

photo


まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、生産は+4.0%の増産との見込みでしたので、ほぼほぼジャストミートしています。ただ、産業別に季節調整済みの系列の前月との比較で詳しく見ると、汎用・業務用機械工業と電子部品・デバイス工業が前月から2ケタ増を示したほか、電気・情報通信機械工業や生産用機械工業なども増産に寄与しています。他方、自動車工業を除く輸送機械工業と石油・石炭製品工業が減少しています。大雑把にいって、昨年2020年11~12月と2か月連続の原産の反動の要素がありますが、それにしても、指数水準は2020年10月の95.2を大きく上回る97.7ですから、昨年2020年5月を底とした生産の回復傾向が継続していると私は考えています。ひとつの根拠は製造工業生産予測指数であり、2月はさらに+2.1%の増産を見込んでいます。予測誤差のバイアスを取り除いた試算値でも▲0.4%の減産ですから、ほぼ横ばいと考えられます。ですから、統計作成官庁である経済産業省が基調判断を「持ち直している」に据え置いたのは、これらの実績統計を見る限り、当然とわたしは受け止めています。しかし、留保は必要で、もうひとつの可能性として、中華圏の春節休暇が2月中旬に当たっているため、その直前の1月に駆込み輸出が発生した可能性も否定できません。もしそうであれば、2月の生産は横ばいどころか、大きな減産となる可能性も否定できません。加えて、いずれにせよ、昨年2020年暮れあたりから日本も含めて、世界的に新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の第3波のパンデミックが始まっており、特に、日本のようなワクチン接種後進国では隔離を含めたソーシャル・ディスタンシングで対応せねばなりませんから、生産の先行きがそれほど明るいとは、私にはとても思えません。

photo


続いて、商業販売統計のグラフは上の通りです。上のパネルは季節調整していない小売販売額の前年同月比増減率を、下は季節調整指数をそのままを、それぞれプロットしています。影を付けた部分は景気後退期であり、鉱工業生産指数(IIP)と同じで、直近の2020年5月を景気の谷として暫定的にこのブログのローカルルールで同定しています。ということで、季節調整していない原系列の統計の前年同月比では2か月連続で、季節調整した系列の前月比でも3か月連続で、いずれでも小売販売額はマイナスを記録し、統計作成官庁である経済産業省では基調判断を「弱含み傾向」に据え置いています。2点だけ、強調しておきたいと思います。第1に、小売販売額は基本的に物販だけでサービス消費が含まれていない点です。COVID-19の経済的な影響については、基本的に、物販よりも外食とか宿泊などの対人接触型のサービスに大きく現れます。繰り返しになりますが、日本のようなワクチン接種後進国ではCOVID-19パンデミック防止のためにはソーシャル・ディスタンシングで対応せねばなりませんから、そうなります。ですから、消費の代理変数とはいえ、サービスを含めた消費全体では物販を主とする小売販売額の商業販売統計よりもさらに大きなマイナスとなっている可能性があります。総務省統計局の家計調査にもっと信頼性あれば、ソチラも見たい気がします。第2に、生産が昨年2020年5月を底に回復を示している一方で、小売販売額は季節調整済みの系列で見て、3か月連続で前月比マイナスを続けているわけですから、まったく内需中心の回復からほど遠く、輸出頼みの景気回復になっている可能性があります。3月に入れば、総合的な経済指標であるGDP統計2次QEが内閣府から公表される予定となっていますが、まだ昨年2020年10~12月期の統計です。足元の今年2021年1~3月期のGDP統計の公表は5月まで待たねばならないとはいえ、我が国の景気はかなり複雑な動きを示し始めていますので、確かな統計でキチンと判断すべきと考えます。
Entry No.6967  |  経済評論の日記  |  コメント(0)  |  トラックバック(0)  |  to page top ↑

2021年02月25日 (木) 14:00:00

ワクチン接種の遅れによる第3次の緊急事態宣言はあるのか?

先週金曜日の2月19日に、大和総研から「日本経済見通し: 2021年2月」と題するリポートが明らかにされています。実質GDP成長率の見通しは、2020年度▲5.0%、2021年度+3.8%、2022年度+2.3%と見込まれています。もちろん、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)パンデミック次第であり、2021~22年度はワクチン接種の進展や米国経済見通しの改善もあって高めの成長を見込んでいるようです。ただ、私の興味を引いたのは、メイン・シナリオとともにワクチン接種が遅れる可能性を考慮したリスク・シナリオが示されていることです。

photo


上のグラフが、その2つのシワクチン接種のナリオと結果としての東京の新規感染者数のグラフであり大和総研のリポートから 図表7: ワクチン接種ペースが想定より遅い場合の感染状況や経済への影響 のグラフ引用しています。左側のパネルにあるように、メイン・シナリオでは、今年2021年6月最終週から全国で毎週160万人、東京で毎週16万人がワクチン接種を受け、2021年度末の2022年3月時点で国民の50%超がワクチンの2回接種を終えることを想定している一方で、リスク・シナリオではその半分のペースでしかワクチン接種が進まず、2021年度末で全国民の25%強にとどまるケースが想定されています。右側のパネルでは、そのメイン・シナリオとリスク・シナリオのそれぞれに対応する東京都ベースの新規感染者数が推計されています。ワクチン接種が遅れるリスク・シナリオでは来年2022年早々に第3次緊急事態宣言の可能性が示唆されています。ちなみに、リスク・シナリオでは感染者数はメイン・シナリオに比べて24万人ほど、また、死者数も1,000人ほど増加し、個人消費額は約▲2.3兆円減少する、と見込まれています。

私は一貫して、経済ではなく人命優先で、まず、COVID-19のパンデミック終息を最優先にすべきであり、遠回りに見えるかかもしれませんが、人命優先の方が経済の回復にも有効である可能性を指摘し続けています。しかし、「自助、共助、公助」を振りかざして、COVID-19パンデミックに対しても、あくまで個人の自己責任で対応することを現在の菅政権は目論みつつ、GoToキャンペーン政策というまったく矛盾した政策を続け、まだ、予算組替えにも応じないなど、現政権の危機対応能力はメチャクチャです。少なくとも、ワクチン接種は国民個々人の自己責任ではない点は、十分に認識されるべきです。
Entry No.6966  |  経済評論の日記  |  コメント(0)  |  トラックバック(0)  |  to page top ↑
 | BLOG TOP |  OLDER ≫