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2023年03月07日 (火) 16:00:00

労働政策研究・研修機構(JILPT)のディスカッションペーパー「職業の自動化確率についての日米比較」の試算結果をどう見るか?

10年前のオックスフォード大学研究チームの研究成果 "The future of employment" から人工知能(AI)などの発達によって自動化される、というか、代替される職業に関する関心が高まっています。これに基づいて、先月2月28日付けで労働政策研究・研修機構(JILPT)から「職業の自動化確率についての日米比較」と題するディスカッションペーパーが公表され、かなりあからさまに試算していたりします。こういったマイクロな労働関係は私には専門外なのですが、とても興味ある分野ですので、簡単に取り上げておきたいと思います。まず、参照すべき労働政策研究・研修機構(JILPT)とオックスフォード大学のペーパーへのリンクは以下の通りです。なお、Frey and Osborne のワーキングペーパーは2017年にジャーナルに収録されています。Technological Forecasting & Social Change 114, 2017, pp.254-80 です。中身が違うのかどうかについて、私はチェックしていません。査読が入っているのであれば、多少とも修正はされているのだろうと想像するだけです。


そして、私の興味の対象である 日米における職業12(13)カテゴリー別自動化確率と就業者割合 をJILPTのディスカッションペーパーから引用すると以下の通りです。

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大雑把に理解できなくもないですが、やや疑問あるのは、第1に、日米間で自動化確率に差があるのは当然ですが、総計での差が▲0.035であるにもかかわらず、カテゴリー別に見て、どうして、ここまで大きな差があるのか、という点です。いわゆるボリューム・ゾンで、日本の就業人口割合が10%を超えるカテゴリーを見ると、サービス職業従事者、販売従事者、事務従事者、生産工程従事者ではその差が▲0.1を超えており、▲0.2を超えているカテゴリーすらあります。にもかかわらず総計での確率の差が▲0.035という結果です。やや不思議な気がします。第2に、なぜかすべてのカテゴリーで日本の自動化確率が米国を下回っています。ディスカッションペーパーでは「同じ職種でも日本の方が,職務の遂行において,総じて知覚と巧緻性,創造的知性,あるいは社会的知性のいずれかについて米国より高い水準が求められることを意味している」(p.17)と指摘していますが、経営者団体から盛んに指摘される日本の労働者の生産性の低さは、アレは何だったのだろうか、という気がしますし、何よりも、日本では非正規雇用がこれだけ多いにもかかわらず、自動化確率が低いのは、大きな疑問です。

私の直感では、上のいずれの点においても、特に、第2の点については、客観的に計算された労働政策研究・研修機構(JILPT)の試算結果が正しいと考えています。ついでながら、ちょっとしたご縁もあって、労働政策研究・研修機構(JILPT)の研究者の中には何人か私と面識ある人もいて、このディスカッションペーパーは労働政策研究・研修機構(JILPT)の研究者が書いたものではありませんが、それなりに高い研究能力が認められます。ですから、日本の労働者はほぼほぼすべてのカテゴリーの職種で米国よりも総じて高い水準を維持しているにもかかわらず、低い賃金しか支払われていない、というのが私の直感に従った解釈となります。
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2023年03月06日 (月) 11:00:00

木曜日に公表される昨年2022年10-12月期GDP統計速報2次QEの予想やいかに?

先週の法人企業統計をはじめとして、必要な統計がほぼ出そろって、今週木曜日の3月9日に昨年2022年10~12月期GDP統計速報2次QEが内閣府より公表される予定となっています。すでに、シンクタンクなどによる2次QE予想が出そろっています。1次QEは小幅なプラス成長でしたが、大きな改定幅ではないものの、上方改定を予測するシンクタンクが多くなっている印象です。でも、下方改定を予想するシンクタンクもあったりします。ということで、いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、web 上でオープンに公開されているリポートに限って取りまとめると下の表の通りです。ヘッドラインの欄は私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しています。可能な範囲で、GDP統計の期間である2022年10~12月期ではなく、足元の今年2023年1~3月期から先行きの景気動向について重視して拾おうとしています。ただ、2次QEですので法人企業統計の「オマケ」的な扱いのシンクタンクがほとんどです。例外は、みずほリサーチ&テクノロジーズと東京財団政策研究所であり、みずほリサーチ&テクノロジーズについては下のテーブルに引用しただけではなく、実は、もっと長々と足元から先行きの見通しについて言及されています。また、東京財団政策研究所のナウキャスティングについては、もはや、昨年2022年10~12月期からすでに今年2023年1~3月期に視点が移っていたりします。ですので、正確にいえば2次QE予想ではないのですが、一応、テーブルに収録しています。いずれにせよ、詳細な情報にご興味ある向きは一番左の列の機関名にリンクを張ってありますから、リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開いたり、ダウンロード出来たりすると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちにAcrobat Reader がインストールしてあってリポートが読めるかもしれません。

機関名実質GDP成長率
(前期比年率)
ヘッドライン
内閣府1次QE+0.2%
(+0.6%)
n.a.
日本総研+0.2%
(+0.9%)
実質GDP成長率は前期比年率+0.9%(前期比+0.2%)と、1次QE(前期比年率+0.6%、前期比+0.2%)から小幅に上方改定される見込み。
大和総研▲0.0%
(▲0.0%)
2次速報では、民間在庫の減少がGDPを下押ししたものの個人消費や輸出は底堅く推移し、実態としては、GDP成長率が示すよりも景気の回復基調は強かったことが改めて示されるだろう。
みずほリサーチ&テクノロジーズ+0.4%
(+1.5%)
先行きもサービス消費やインバウンド需要の回復が継続する一方、欧米を中心とした海外経済の減速が逆風になり、回復ペースは緩やかに。1~3月期は年率+1%弱の成長にとどまると予測。
ニッセイ基礎研+0.3%
(+1.0%)
3/9公表予定の22年10-12月期GDP2次速報では、実質GDPが前期比0.3%(前期比年率1.0%)となり、1次速報の前期比0.2%(前期比年率0.6%)から上方修正されるだろう。
第一生命経済研+0.1%
(+0.4%)
22年10-12月期はプラス成長とはいえ伸びは僅かなものにとどまり、7-9月期の落ち込み分を取り戻せない。景気の持ち直しのペースが鈍いものにとどまっていることが改めて確認される見込みだ。
伊藤忠総研+0.2%
(+0.8%)
10~12月期の実質GDP成長率(2次速報)は前期比+0.2%(年率+0.8%)と1次速報から小幅上方修正される見通し。個人消費が持ち直しインバウンド需要も回復しているが、財の輸出減と設備投資の停滞で成長ペースが期待されたほど高まっていない姿は変わらず。
三菱総研+0.1%
(+0.2%)
2022年10-12月期の実質GDP成長率は、季調済前期比+0.1%(年率+0.2%)と、1次速報値(同+0.2%(年率+0.6%))から下方修正を予測する。
明治安田総研+0.3%
(+1.0%)
先行きはエネルギー関連や食品など、生活必需品の価格高騰が個人消費の下押し圧力となる状況が続くとみられる。1月の全国消費者物価指数(生鮮食品を除く総合指数、コアCPI)は前年比+4.2%と、前月から+0.2%ポイント上昇幅が拡大し、約41年ぶりの高い伸びとなった。今後は高めの賃上げや、政府の物価高騰対策が個人消費の下支え役になるものの、食品メーカーによる値上げトレンドが予想以上に長期化するリスクがあり、2023年度前半にかけての個人消費はいったん厳しさを増す展開を予想する。
海外経済の動向を見ると、中国は、すでに都市部を中心に感染者数がピークアウトしたとみられるものの、不動産市場の低迷が続くことで、景気回復ペースは緩慢なものにとどまる可能性が高い。米国では、インフレの高止まりに、累積的な利上げの影響の波及が加わることで、今後大方の予想以上に景気が悪化するリスクがある。日本経済の方向性は米国経済の動向に大きく左右される。米国経済が減速度合いを強めるようであれば、日本も年度前半に景気の山を付ける可能性が否定できない。
東京財団政策研n.a.
(n.a.)
モデルは、2023年1-3月期のGDP(実質、季節調整系列前期比)を、0.18%と予測。※年率換算: 0.72%


上のテーブルの通り、ということで、繰り返しになりますが、私の印象としては法人企業統計からして小幅な上方改定、ということなのですが、下方改定を予測するシンクタンクもあります。ただ、下方改定されるとしても、設備投資と在庫の下方改定が主因と私は見ており、設備投資はともかく在庫調整が進むのであれば、経済の姿としてはそれほど悲観する必要はありません。その意味で、上のテーブルに引用した第一生命経済研究所の見方は、ちょっと見当違いかもしれません。
ということで、成長率については、上方改定にせよ、下方改定にせよ、小幅にとどまるということですので、2次QEから目を転じて、上に引用した各シンクタンクのリポートから、2点だけ興味深いトピックを指摘しておきたいと思います。第1に、みずほリサーチ&テクノロジーズのリポートから、日銀の総裁・副総裁の交代に関連して、金融緩和の方向性は不変としても、今年2023年4~6月期に長期金利目標が撤廃され、来年2024年10~12月期にマイナス金利が解除されると予想しています。第2に、これは上のテーブルに引用しておきましたが、明治安田総研のリポートでは、2023年度前半に景気転換点を迎える可能性について言及されています。要因としては見ての通りで、国内の食料品などの値上がりに伴う消費停滞に加えて、米国経済の減速次第では、「日本も年度前半に景気の山を付ける可能性が否定できない」と結論しています。果たしてどうなのでしょうか?
下のグラフはのリポートから引用しています。

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2023年03月03日 (金) 15:00:00

堅調に推移する2023年1月の雇用統計をどう見るか?

本日は、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が公表されています。いずれも1月統計です。失業率は前月から▲0.1%ポイント低下して2.4%を記録し、有効求人倍率は前月から▲0.01ポイント悪化して1.34倍となっています。まず、日経新聞のサイトから各統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

1月求人倍率1.35倍、求職増で低下 失業率2.4%に改善
厚生労働省が3日に発表した1月の有効求人倍率は1.35倍(季節調整値)と、前月から0.01ポイント低下した。2年5カ月ぶりに前月を下回った。有効求職者数は178万1603人で前月から0.6%増え、有効求人数は256万2353人で0.1%減少した。物価高を背景に収入を増やそうと転職を希望する人が増え、求職者1人当たりの求人数を示す求人倍率が低下したとみられる。
総務省が同日発表した1月の完全失業率は2.4%と前月比0.1ポイント低下し、2020年2月以来の水準となった。失業率の改善は2カ月ぶり。
有効求人倍率は全国のハローワークで仕事を探す人、1人当たり何件の求人があるかを示す。倍率が高いほど職を得やすい状況となる。新型コロナウイルス禍で2020年9月に1.04倍まで落ち込み、その後は上昇傾向にある。22年8月以降は1.3倍台で推移する。
景気の先行指標とされる新規求人数は93万9104人と前年同月比4.2%増えた。業種別では、コロナの感染拡大下でも訪日外国人など客足が堅調だった宿泊・飲食サービスの伸びが大きく、27.0%増加した。原材料の高騰で生産を減らした製造業は4.0%減少した。新規求人倍率は2.38倍で2カ月連続の横ばいだった。
就業者数は6689万人で前年同月比43万人増えた。6カ月連続で増加した。完全失業者数は21万人減少して164万人となった。非労働力人口は65万人減って4161万人だった。休業者数は219万人で30万人減少した。


続いて、雇用統計のグラフは下の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。よく知られたように、失業率は景気に対して遅行指標、有効求人倍率は一致指標、新規求人数ないし新規求人倍率は先行指標と見なされています。なお、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、失業率に関する日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、前月から横ばいの2.5%と見込まれ、有効求人倍率に関する日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスも、これまた、前月から横ばい1.35倍と見込まれていました。ともに前月から横ばいと予想されていましたが、実績では、失業率はわずかに改善し、有効求人倍率は市場予想からやや下振れしました。総合的に見て、「こんなもん」という気がします。いずれにせよ、足元の統計はやや鈍い面もあるとはいえ、雇用は底堅いと私は評価しています。季節調整済みのマクロ統計で見て、労働力人口が前月から+12万人増加し、就業者が+18万人、雇用者も+12万人増加する中で、非労働力人口は▲22万人減少しています。失業者が労働市場から退出して非労働力人口化するわけではなく、逆に、非労働力人口から職を得て雇用者・就業者になるわけですので、失業率の低下の要因としては好ましいと私は考えています。マイクロに産業別の雇用を見るため休業者数に着目すると、昨年2022年12月統計では前年同月から+42万人増と、やや増え方が大きくなっていたのですが、直近で利用可能な本日公表の今年2023年1月統計では▲30万人減となっていて、産業別では、宿泊業・飲食サービス業の▲9万人減が目立っています。また、引用した記事にもあるように、雇用の先行指標とみなされている新規求人数でも宿泊業・飲食サービス業では前年同月比で+27.0%増と大きく伸びており、さらに、+27%の内訳では、パートタイムの+24.2%増に対してパートを除く常用雇用は+32.6%増ですから、質的な中身もいいと考えるべきです。新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染状況に応じ、また、インバウンド観光客の水際対策の緩和や国内旅行でも全国旅行支援など、一連の旅行に関する需要の増加が感じられる統計となっています。

最後に、日本時間の本日夜に米国雇用統計も公表される予定となっています。コチラは2月統計です。夜遅くになっても、本日中に取り上げたいと思います。
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2023年03月02日 (木) 16:00:00

いよいよ企業収益が停滞し始めた2022年10-12月期法人企業統計をどう見るか?

本日、財務省から昨年2022年10~12月期の法人企業統計が公表されています。統計のヘッドラインは、季節調整していない原系列の統計で、売上高は前年同期比+6.1%増の372兆5850億円だったものの、経常利益は▲2.8%減の22兆3768億円と8四半期ぶりのマイナスを記録しました。そして、設備投資は+7.7%増の12兆4417億円を記録しています。季節調整済みの系列で見ても原系列の統計と同じ基調であり、売上高と設備投資は前期比プラスながら、経常利益はマイナスとなっています。ただ、GDP統計の基礎となる設備投資については前期比+0.5%増にとどまっています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

法人企業統計、経常益8期ぶりマイナス 22年10-12月
財務省が2日発表した2022年10~12月期の法人企業統計によると、全産業(金融・保険業を除く)の経常利益は前年同期比2.8%減の22兆3768億円だった。マイナスは8四半期ぶり。製造業が15.7%の大幅減で全体を押し下げた。物価高や世界経済の減速が影を落とし、企業業績の拡大にブレーキがかかった。
経常利益の額は10~12月期として過去最高だった前年を下回ったものの2番目に高い水準となっている。
主要業種をみると、製造業は化学が26.9%の減益だった。石油・石炭は赤字に転落した。原材料価格の上昇が響いている。化学は研究開発費もかさんだ。情報通信機械は海外需要の減少を背景に34.4%の減益だった。
非製造業は5.2%の増益だった。新型コロナウイルス禍からの回復基調を保っている。政府の「全国旅行支援」の補助効果があり、運輸業・郵便業は93.7%増と目立って伸びた。
非製造業でも一部の業種は電気料金の高騰が響き、減益となった。22.9%減の情報通信業は電力消費量の多いデータセンターの経費が膨らんだ。サービス業も11.8%減少した。
売上高は6.1%増の372兆5850億円だった。業種別では製造業が9.2%増。輸送用機械関連が13.6%増えた。非製造業は4.9%増で、電気料金の高騰を背景に電気業(44.8%)の売上増が目立った。
設備投資は全体で7.7%増の12兆4417億円と7期連続のプラスだった。デジタル化や省人化などで旺盛な投資が続いているとみられる。非製造業で8.6%、製造業で6.0%伸びた。
製造業は化学(26.2%)や金属製品(56.4%)が大きく増えた。脱炭素やデジタル関連の投資が旺盛だ。非製造業は新規出店が進んだサービス業で21.9%伸びた。
財務省は今回の法人企業統計について「緩やかに持ち直している景気の状況を反映している」と説明した。先行きについては「物価上昇などの影響を注視する」と、コスト高が企業経営を圧迫するリスクに懸念を示した。


いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がしますが、やや長くなってしまいました。次に、法人企業統計のヘッドラインに当たる売上高と経常利益と設備投資をプロットしたのが下のグラフです。色分けは凡例の通りです。ただし、グラフは季節調整済みの系列をプロットしています。季節調整していない原系列で記述された引用記事と少し印象が異なるかもしれません。影を付けた部分は景気後退期となっています。

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ということで、法人企業統計の結果について、海外景気に依存する割合の高い製造業と内需に基礎を置く非製造業で少し差が出始めた気がします。すなわち、今年2022年に入って1~3月期から内外で物価上昇が進み、日本を除いて先進各国は軒並み金融引締めに転じています。従って、海外経済の停滞から製造業に逆風となる一方で、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大防止のための行動制限がなく、5月のゴールデンウィーク明けからは5類の季節性インフルエンザと同じ分類に見直されると決定されていることから、水際規制の緩和に伴うインバウンドの復調も合わせて、非製造業には追い風となっています。ですから、前年同期比で見る限り、売上高については増収が続いています。引用した記事にもあるように、物価上昇による名目の売上増という面があります。数量ベースの増加にどこまで支えられているかは不明です。他方で、経常利益は製造業と非製造業で明確な差が出ました。非製造業では+5.2%の増益でしたが、製造業では▲15.7%の大きな減益を記録しています。季節調整済みの系列で見ても同様で、季節調整済みの系列の経常利益では、非製造業が前期比+16.5%となったのに対して、製造業は▲23.7%と大きく落ち込みました。このあたりの産業別の跛行性については、キチンと把握しておく必要があります。同時に、上のグラフを見ても理解できるように、売上高はリーマン・ショック直前のサブプライム・バブル期のピークには達していませんが、経常利益はとっくに過去最高益を突破しています。企業サイドからすればカッコ付きで「体質強化」をいえるのかもしれませんが、従業員や消費者のサイドから考えれば、企業利益ばかりが溜め込まれるのがどこまで現在の日本経済に好ましいのかどうか、もちろん、日本経済がかつての高度成長期のように拡大基調であればまだしも、トリックルダウンはほぼほぼ完全に否定され、ほとん経済成長なしに賃金も上がらない中で、企業部門ばかりが利益を積み上げるのが経済社会的に見ていいのかどうか、疑問とする意見もありそうな気がします。

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続いて、上のグラフは私の方で擬似的に試算した労働分配率及び設備投資とキャッシュフローの比率、さらに、利益剰余金、最後の4枚目は件費と経常利益をそれぞれプロットしています。労働分配率は分子が人件費、分母は経常利益と人件費と減価償却費の和です。特別損益は無視しています。また、キャッシュフローは法人に対する実効税率を50%と仮置きして経常利益の半分と減価償却費の和でキャッシュフローを算出した上で、このキャッシュフローを分母に、分子はいうまでもなく設備投資そのものです。人件費と経常利益も額そのものです。利益剰余金を除いて、原系列の統計と後方4四半期移動平均をともにプロットしています。見れば明らかなんですが、コロナ禍の中でを経て労働分配率とともに設備投資/キャッシュフロー比率が大きく低下を示しています。他方で、ストック指標なので評価に注意が必要とはいえ、利益剰余金は伸びを高めています。また、4枚めのパネルにあるように、人件費が長らく停滞する中で、経常利益は過去最高水準をすでに超えています。繰り返しになりますが、勤労者の賃金が上がらない中で、企業収益だけが伸びるのが、ホントに国民にとって望ましい社会なのでしょうか、それとも、現在の経済社会は誰にとって望ましくなるようになっているのでしょうか?

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最後に、本日、内閣府から2月の消費者態度指数が公表されています。2月統計では、前月から+0.1ポイント上昇し31.1を記録しています。指数を構成する4指標のうち、2指標が上昇しています。すなわち、「雇用環境」が+0.8ポイント上昇し38.0、「収入の増え方」が+0.6ポイント上昇し36.2、他方で、「暮らし向き」が▲0.8ポイント低下して27.0、また、「耐久消費財の買い時判断」も▲0.5ポイント低下し23.0を記録しています。「雇用環境」も「収入の増え方」も改善しているにもかかわらず、「暮らし向き」が悪化しているのは明確に物価上昇が原因です。たぶん、「耐久消費財の買い時判断」についても、いく分なりとも物価上昇の影響が見られると私は考えています。統計作成官庁である内閣府では、消費者マインドの基調判断について、先月1月統計で「弱い動きがみられる」と修正し、今月2月統計ではそのまま据え置いています。

なお、本日の法人企業統計を受けて、来週3月8日に内閣府から2022年10~12月期のGDP統計速報2次QEが公表される予定となっています。私は1次QEから設備投資を中心として小幅に上方修正されるであろうと考えていますが、大きな修正ではなかろうと予想しています。この2次QE予想については、また、日を改めて取り上げたいと思います。
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2023年03月01日 (水) 16:00:00

日本の賃金について考えるニッセイ基礎研究所のリポート「生産性向上が先か、賃上げが先か」やいかに?

一昨日、今週月曜日の2月27日に、日本の生産性と賃金に関してニッセイ基礎研究所から「生産性向上が先か、賃上げが先か」と題するリポートが明らかにされています。まあ、何と申しましょうかで、シンクタンクの数ページのリポートで日本の賃金を語り尽くせるわけもないのですが、少なくとも途中までの分析は秀逸であり、ほぼほぼ私も合意できる内容ですので、簡単に見ておきたいと思います。

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まず、上のグラフはリポートから 名目賃金の国際比較 を引用しています。いわゆるバブル経済崩壊の1990年を起点としていますので、特に差が際立っているとはいえ、国際比較すると我が国の賃金がほとんど伸びていない、というより、やや減少すら示している点が確認できると思います。このあたりは、同様の指摘が相次いでいて、「韓国にも抜かれた」といった論調があるのは広く知られているとおりかと思います。もっとも、リポートでも指摘していますが、この間、我が国はデフレでもありましたので、実質賃金で見ると、2倍を超えるような大きな差なはない、とはいうものの、数十パーセントの開きが生じていることは確かです。

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そして、経営サイドからは「生産性が伸びないから賃金が伸びない」と言った反論がなされる場合が多いのですが、それを否定するのが上のグラフであり、リポートから 労働生産性(時間当たり)の国際比較 を引用しています。国際比較をすると、時間当たりの労働生産性は名目賃金ほどの乖離がない点は明らかです。米国には及びませんが、我が国の時間当たり労働生産性は欧州先進各国と大差ないと感じるのは私だけではないと思います。イタリアを上回ってすらいます。そして、ここまでの分析は、リクルートワークス研究所のサイトでも同様の結論となっています。

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そして、時間当たりの労働生産性がそれほど差がないにもかかわらず、賃金では大きな差を生じている原因として、上のグラフの通り、リポートでは 労働生産性(時間当たり)の要因分解 を示して、労働時間減少の寄与が大きいからである、と指摘しています。まったくその通りです。そして、別の表現をすれば、上のグラフでは黄色っぽい労働投入量の削減による生産性向上となっていて、緑のGDP=付加価値の拡大を伴わないからである、との指摘です。特に、家計消費と設備投資の停滞を考慮し、家計消費の拡大のためには賃上げが必要、との結論です。生産性向上と賃上げの「ニワトリとタマゴ」の関係では、我が国の生産性の伸びは先進諸国と比較しても遜色ないのであるから、賃上げが欠けている、という結論は十分に受入れられるものです。ただ、1点だけ忘れるべきでないのは。労働投入の削減、すなわち、労働時間の減少がいわゆる「働き方改革」などによってもたらされているわけではない、という事実です。下のグラフは、やや古いんですが、2013年に開催された厚生労働省の雇用政策研究会の資料「正規雇用労働者の働き方について」から引用しています。左のパネルが 年間総実労働時間の推移(パートタイム労働者を含む)、右が 就業形態別年間総実労働時間及びパートタイム労働者比率の推移 となっています。横軸の始点である平成6年はバブル経済崩壊後の1994年、最終データのある平成24年は2012年です。このグラフに収録された20年近くの間に、左のパネルに示されているように、正規と非正規を合わせた年間の総実労働時間は1900時間超から1800時間弱に▲100時間あまり減少しましたが、右のパネルから正規=一般労働者の総実労働期間がまったく減少していないのが見て取れます。他方で、パートタイム労働者の比率は10%強から25%近くに上昇しています。すなわち、賃金が上がらないのは、労働時間が減少しているからであり、労働時間が減少しているのはパートタイム労働者などの非正規雇用が拡大しているからである、と結論されるべきです。ですから、ニッセイ基礎研究所のリポートは、前段の 労働時間の減少 → 賃金が上がらない、は十分に分析されているのですが、後段の 非正規雇用の拡大 → 労働時間の減少、にまで分析が及んでいません。私は、ニッセイ基礎研究所のリポートにあるように、特に現在のような高インフレ下では、需要サイドで 賃上げ → 付加価値拡大、もとても重要だと思いますが、供給サイドで 非正規雇用の拡大 → 労働時間の減少、にも目を向けるべきであり、賃上げほかの手段による需要拡大とともに、何らかの非正規雇用への歯止めが必要だと考えています。ただ、こういった「非正規雇用歯止め」論は支持がないのだろうということは自覚しています。でも、同じように長期のトレンドに抗している反グローバリズムも一定の支持を得ているわけですし、非正規雇用歯止め論も主張し続けるべきだと私は考えています。

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2023年02月28日 (火) 13:00:00

大きな減産となった鉱工業生産指数(IIP)とインバウンドで堅調な伸び続く商業販売統計をどう見るか?

本日は、月末閣議日ということで、経済産業省から鉱工業生産指数(IIP)商業販売統計が、それぞれ公表されています。いずれも1月統計です。IIP生産指数は季節調整済みの系列で前月から▲4.6%の減産でした。商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額は、季節調整していない原系列の統計で前年同月比+6.3%増の13兆150億円でした。季節調整済み指数では前月から+1.9%の増加を記録しています。まず、日経新聞のサイトから各統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

1月の鉱工業生産4.6%低下 3カ月ぶりマイナス
経済産業省が28日発表した1月の鉱工業生産指数(2015年=100、季節調整済み)速報値は91.4となり、前月から4.6%下がった。低下は3カ月ぶり。中国・上海市がロックダウン(都市封鎖)されていた22年5月(88.0)以来の低水準となった。半導体不足で自動車工業が落ち込み、半導体産業の設備投資の先送りで生産用機械工業も振るわなかった。
新型コロナウイルス流行前の19年平均(101.1)を下回る水準となった。生産の基調判断は「弱含み」を維持した。
生産は全15業種のうち、12業種で低下した。普通乗用車や駆動伝導部品といった自動車工業は前月比で10.1%のマイナスだった。半導体不足を受け、米国や中国向けの輸出が減少した。大雪の影響で工場生産も滞っていた。
半導体製造装置などの生産用機械工業は13.5%のマイナスだった。国内外で設備投資を延期する動きがあったという。スマートフォンの需要低迷を背景に、メモリ半導体といった電子部品・デバイス工業も4.2%のマイナスとなった。
残る3業種は上昇した。汎用・業務用機械工業はコンベヤーで国内大型案件が成立し、5.1%のプラスだった。無機・有機化学工業・医薬品を除いた化学工業は3.9%上昇した。新製品発売を受け、頭髪用化粧品などが伸びた。
主要企業の生産計画から算出する生産予測指数は2月に前月比8.0%の上昇を見込む。企業の予測は上振れしやすく、例年の傾向をふまえた経産省の補正値は1.3%のプラスとした。部材供給不足の緩和で、生産用機械工業や輸送機械工業が伸びるとみる。3月の予測指数は0.7%上昇となっている。
経産省の担当者は今後の見通しについて「コロナ感染の拡大状況や物価上昇の影響に加え、企業が先送りした投資計画が2~3月に実施されるか注目する必要がある」と話した。
小売販売額6.3%増 1月、11カ月連続でプラス
経済産業省が28日発表した1月の商業動態統計速報によると、小売業販売額は前年同月比6.3%増の13兆150億円だった。11カ月連続で前年同月を上回った。インバウンド(訪日外国人)の復調や飲食料品の価格上昇などが寄与した。
業態別でみると、百貨店は前年同月比14.4%増の4764億円と大きく伸びた。スーパーは3.1%増の1兆2989億円、コンビニエンスストアは4.1%増の9924億円、ドラッグストアは4.9%増の6479億円だった。
一方、家電大型専門店は1.2%減の4184億円、ホームセンターは1.7%減の2462億円とマイナスだった。
小売業販売額の季節調整済みの指数は108.7で、前月から1.9%上昇した。経産省は基調判断を「持ち直している」から「緩やかな上昇傾向にある」に引き上げた。


とてつもなく長くなりましたが、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは下の通りです。上のパネルは2015年=100となる鉱工業生産指数そのものであり、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷のそれぞれの指数です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、引用した記事にはありませんが、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、鉱工業生産指数(IIP)は予測中央値で▲2.7%、下限で▲4.2%の減産でしたので、実績の▲4.6%減は加減を下回って、少しサプライズだったかもしれません。統計作成官庁である経済産業省では生産の基調判断を「生産は弱含んでいる」で据え置いています。先月の下方修正を維持した形です。欧米先進国ではインフレ抑制のために急激な金融引締を進めており、海外景気は大きく減速していますので、これも含めて内外の需要要因の方が大きいと私は考えています。例えば、経済産業省の解説サイトでは、昨年後半からの精算動向について、7-8月は「部材供給不足の影響が緩和」して増産、9-10月は増産の「反動」により減産、11-12月は「化学工業(除.無機・有機化学工業)や食料品・たばこ工業などが堅調」であり増産、と要因を解説しています。1月には、「自動車工業や生産用機械工業を始めとして多くの業種」で減産となっています。他方で、製造工業生産予測指数を見ると、足元の2月は+8.0%、3月も+0.7%の増産と、それぞれ予想されています。もっとも、上方バイアスを除去すると、2月の予想は前月比+1.3%となります。産業別に1月統計を少し詳しく見ると、減産寄与が大きいのは自動車工業の前月比▲10.1%減、寄与度▲1.45%、生産用機械工業の前月比▲13.5%減、寄与度▲1.23%減、電子部品・デバイス工業の前月比▲4.2%減、寄与度▲0.25%、などとなっています。逆に、生産増の寄与がもっとも大きかった産業は汎用・業務用機械工業の前月比+5.1%増、寄与度+0.37%、化学工業(除、無機・有機化学工業・医薬品)の前月比+3.9%増、寄与度+0.17%、石油・石炭製品工業の前月比+6.6%増、寄与度+0.06%、などとなります。

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続いて、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額のグラフは上の通りです。上のパネルは季節調整していない小売業販売額の前年同月比増減率を、下は季節調整指数をそのままを、それぞれプロットしています。影を付けた部分は景気後退期を示しています。小売業販売額は新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大による行動制限のない状態が続いており、外出する機会にも恵まれて堅調に推移しています。今年のゴールデンウィーク明けにはCOVID-19が感染法上の5類に分類されるようですから、小売業をはじめとする商業販売の上では、インバウンドも含めて追い風といえるかもしれません。季節調整済み指数の後方3か月移動平均でかなり機械的に判断している経済産業省のリポートでは、1月までのトレンドで、この3か月後方移動平均の前月比が+0.6%の上昇となり、引用した記事にもある通り、基調判断を「持ち直している」から「緩やかな上昇傾向」に引き上げています。他方で、消費者物価指数(CPI)との関係では、今年2023年1月統計では前年同月比で+4%超のインフレ率となっており、小売業販売額の1月統計の+6.3%の増加はこれを超えていて、実質でも小売業販売額は前年同月比でプラスになっている可能性があります。通常は、インフレの高進と同時に消費の停滞も生じるのですが、国内需要ではなく海外からのインバウンドにより小売業販売額の伸びが支えられてい可能性があります。ですから、国内消費の実態よりも過大に評価されている可能性が否定できません。他方で、最近まで石油価格の上昇に伴って増加を示していた燃料小売業が、1月統計の前年同月比では+0.7%の増加にまで縮小しています。おそらく、数量ベースではさらに停滞感が強まっている可能性が強いと私は考えています。
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2023年02月27日 (月) 15:00:00

リクルートによる1月のアルバイト・パートと派遣スタッフの募集時平均時給やいかに?

今週金曜日3月3日の雇用統計の公表を前に、ごく簡単に、リクルートによる9月のアルバイト・パートと派遣スタッフの募集時平均時給の調査結果を取り上げておきたいと思います。参照しているリポートは以下の通りです。計数は正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、以下の出典に直接当たって引用するようお願いします。


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まず、いつものグラフは上の通りです。アルバイト・パートの時給の方は、前年同月比で見て、昨年2022年11月+2.3%増、12月+3.3%増の後、今年2023年1月も+2.9%増と順調に伸びています。ただし、足元でやや伸びが鈍化している上に、+4%を超える消費者物価指数(CPI)の上昇率には追いついておらず、実質賃金はマイナスと想像されますので、もう一弾の伸びを期待してしまいます。でも、時給の水準を見れば、昨年2021年年央からコンスタントに1,100円を上回る水準が続いており、かなり堅調な動きを示しています。10月には最低賃金が時給当たりで約30円ほど上昇しましたので、その影響も出た可能性はあります。他方、派遣スタッフの方は昨年2022年11月+1.8%増、12月+2.0%増の後、今年2023年1月も+2.2%増と、伸びを加速させていますが、こちらも消費者物価指数(CPI)の上昇率を下回っています。
まず、三大都市圏全体のアルバイト・パートの平均時給の前年同月比上昇率は、繰り返しになりますが、1月には前年同月より2.9%、+32円増加の1,142円を記録しています。職種別では、「フード系」(+52円、+5.0%)、「製造・物流・清掃系」(+37円、+3.3%)、「専門職系」(37円、+2.9%)、「販売・サービス系」(+27円、+2.5%)で上昇を示した一方で、「事務系」(▲13円、▲1.1%)、「営業系」(▲73円、▲5.7%)、では減少しています。「フード系」では過去最高額になっています。なお、地域別では関東・東海・関西のすべての三大都市圏でプラスとなっています。
続いて、三大都市圏全体の派遣スタッフの平均時給は、1月には前年同月より+2.2%、+35円増加の1,602円になりました。職種別では、「クリエイティブ系」(+87円、+4.8%)、「製造・物流・清掃系」(+53円、+4.0%)、「IT・技術系」(+78円、+3.7%)、「営業・販売・サービス系」(+37円、+2.6%)、「オフィスワーク系」(+4円、+0.3%)、「医療介護・教育系」(+4円、+0.3%)、とすべてプラスとなっています。「営業・販売・サービス系」、「製造・物流・清掃系」、「クリエイティブ系」、「IT・技術系」の4職種では過去最高を記録しています。なお、地域別でも関東・東海・関西のすべての三大都市圏でプラスとなっています。

基本的に、アルバイト・パートも派遣スタッフもお給料は堅調といえますが、物価上昇を下回っていて実質賃金は減少していると考えるべきです。加えて、日本以外の多くの先進国ではインフレ率の高まりに対応して金利引上げなどの金融引締め政策に転じていることから、世界経済が景気後退の瀬戸際にあることは確実であり、雇用の先行きについては下振れ懸念が払拭されていないと考えるべきです。
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2023年02月24日 (金) 14:00:00

+4%台の上昇続く消費者物価指数(CPI)をどう見るか?

本日、総務省統計局から1月の消費者物価指数 (CPI) が公表されています。生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPI上昇率は、季節調整していない原系列の統計で見て前年同月比で+4.0%を記録しています。報道によれば、第2次石油危機の影響がまだ残っていた1981年12月の+4.0%以来、41年ぶりの高い上昇率だそうです。ヘッドライン上昇率も+4.0%に達している一方で、エネルギー価格の高騰に伴うプラスですので、生鮮食品とエネルギーを除く総合で定義されるコアコアCPI上昇率は+3.0%にとどまっています。というか、エネルギーと生鮮食品を除いてもインフレ目標の+2%を超えています、というべきかもしれません。まず、日経新聞のサイトから統計を報じる記事を引用すると以下の通りです。

日本の消費者物価、1月4.2%上昇 41年4カ月ぶり伸び
総務省が24日発表した1月の消費者物価指数(CPI、2020年=100)は変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が104.3となり、前年同月比で4.2%上昇した。第2次石油危機の影響で物価が上がっていた1981年9月(4.2%)以来、41年4カ月ぶりの上昇率だった。円安や資源高の影響で、食料品やエネルギーといった生活に身近な品目が値上がりしている。
上昇は17カ月連続。QUICKが事前にまとめた市場予想の中央値(4.3%)は下回った。消費税の導入時や税率の引き上げ時も上回り、日銀の物価上昇率目標2%の2倍以上となっている。
調査品目の522品目のうち、前年同月より上がったのは414、変化なしは44、下がったのは64だった。
生鮮食品を含む総合指数は4.3%上がった。81年12月(4.3%)以来、41年1カ月ぶりの上昇率だった。生鮮食品とエネルギーを除いた総合指数は3.2%上昇し、消費税導入の影響を除くと82年4月(3.2%)以来40年9カ月ぶりの伸び率となった。
品目別に上昇率をみると、生鮮を除く食料が7.4%上昇し全体を押し上げた。食料全体は7.3%だった。食品メーカーが相次いで値上げに踏み切っており、食用油が31.7%、牛乳が10.0%、弁当や冷凍食品といった調理食品は7.7%伸びた。
エネルギー関連は14.6%上がった。都市ガスは35.2%、電気代は20.2%の上昇だった。
宿泊料は2022年12月のマイナス18.8%からマイナス3.0%となり、指数全体を押し下げる効果は小さくなった。政府が観光支援策「全国旅行支援」の割引率を縮小した影響が表れた。


なにせ今一番の注目の経済指標ですのでやや長くなりましたが、いつものように、よく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、消費者物価(CPI)上昇率のグラフは下の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIと生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPI、それぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフはコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。寄与度はエネルギーと生鮮食品とサービスとコア財の4分割です。加えて、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1ケタの指数を基に私の方で算出しています。丸めずに有効数字桁数の大きい指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。統計局の公表数値を入手したい向きには、総務省統計局のサイトから引用することをオススメします。

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まず、引用した記事にもあるように、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは+4.3%の予想でしたので、実績の4.2%の上昇率はほぼほぼ予想通りと考えられます。もちろん、物価上昇の大きな要因は、基本的に、資源とエネルギー価格の上昇による供給面からの物価上昇と考えるべきですが、もちろん、円安による輸入物価の上昇も一因です。すなわち、コストプッシュによるインフレであり、日銀による緩和的な金融政策による需要面からのディマンドプルが主因となっている物価上昇ではありません。CPIに占めるエネルギーのウェイトは1万分の712なのですが、1月統計におけるエネルギーの前年同月比上昇率は+14.6%に達していて、ヘッドラインCPI上昇率に対する寄与度は+1.17%あります。このエネルギーの寄与度+1.17%のうち、電気代が+0.75%と大きな部分を占め、次いで、都市ガス代の+0.35%などとなっています。加えて、生鮮食品を除く食料の上昇率も高くなってきていて、昨年2022年10月統計+5.9%、11月統計+6.8%、12月統計+7.4%に続いて、今年2023年1月統計でも+7.4%の上昇を示しており、ウェイトがエネルギーの3倍超の1万分の2230ありますので影響も大きく、+1.66%の寄与となっています。統計からしても、値上がりの主役はエネルギーから食料に移ったと考えるべきです。1月統計の生鮮食品を除く食料の前年同月比上昇率とヘッドライン上昇率に対する寄与度を少し細かく中分類で見ると、+17.9%の上昇を示したハンバーガーをはじめとする外食が+5.9%の上昇率で+0.27%の寄与、+9.9%の上昇を示したからあげをはじめとする調理食品が+7.7%で+0.27%の寄与、+10.0%の上昇を示した豚肉(国産品)をはじめとする肉類が+7.6%で+0.19%の寄与、+11.5%の上昇をを示した食パンをはじめとする穀類が+8.1%の上昇率で+0.17%の寄与度、+16.1%の上昇を示したポテトチップスをはじめとする菓子類が+7.0%の上昇で+0.17%の寄与、などとなっています。私も週に2~3回くらいは近くのスーパーで身近な商品の価格を見て回りますが、ある程度は生活実感にも合っているのではないかと思います。繰り返しになりますが、ヘッドライン上昇率とコアCPI上昇率は1月統計で、どちらも+4%ですから、エネルギーの寄与度が+1.17%、生鮮食品を除く食料による寄与度が+1.66%ですから、これだけで+3%近い寄与となります。それ以外の寄与は+1.5%ほどなわけです。
ただし、現在のインフレ目標+2%を超える物価上昇率は長続きしません。すなわち、おそらく、今年2023年1月統計で+4%が続く可能性は十分あるとしても、その後、急速にインフレ率は縮小します。引用した記事にもある通り、日本経済研究センター(JCER)によるEPSフォーキャストでは今年2023年1~3月期+2.95%、4~6月期+2.51%の後、7~9月期には日銀のインフレ目標を下回って+1.82%まで上昇幅を縮小させると予想されています。他にも、ニッセイ基礎研究所のリポートによれば、「23年1月のコアCPIは前年比4.2%と41年4ヵ月ぶりの高い伸びとなったが、2月には電気・都市ガス代の負担緩和策が実施されることから、一気に3%程度まで伸びが低下する可能性が高い。」と日本経済研究センターのESPフォーキャストと同じように物価上昇率は高止まりしつつも鈍化するという見方をしています。加えて、引用した記事の最後のパラにあるように、「全国旅行支援」が宿泊料に及ぼす影響も無視できず、需給や通貨供給ではない政府による物価の撹乱が大きいといえます。

最後に、現在の物価上昇がなぜ家計へのダメージ大きいかについてグラフを追加しておきます。以下の通りです。上のパネルは購入頻度別消費者物価上昇率、下は基礎的・選択的支出別消費者物価上昇率です。見れば明らかなように、購入頻度が高くて、基礎的な生活必需品である品目ほど物価上昇率が大きくなっています。ですから、平均的な家計では+4%を上回る物価上昇の実感を持っている可能性が高いと考えるべきです。

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2023年02月22日 (水) 16:00:00

企業向けサービス価格指数(SPPI)はそろそろピークアウトするのか?

本日、日銀から1月の企業向けサービス価格指数 (SPPI)が公表されています。ヘッドラインSPPIの前年同月比上昇率は+1.6%を記録し、変動の大きな国際運輸を除くコアSPPIも+1.5%の上昇を示しています。サービス物価指数ですので、国際商品市況における石油をはじめとする資源はモノであって含まれていませんが、こういった資源価格の上昇がジワジワと波及している印象です。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

企業向けサービス価格、1月1.6%上昇 23カ月連続プラス
日銀が22日発表した1月の企業向けサービス価格指数(2015年平均=100)は107.4と、前年同月比1.6%上昇した。23カ月連続でプラスだった。観光振興策「全国旅行支援」の割引率縮小やインバウンド(訪日外国人)需要の回復を背景に、宿泊サービスが全体を押し上げた。
機械修理サービスも価格が上がった。光熱費や人件費の上昇を転嫁する動きがみられる。新聞広告も旅行関連の出稿需要の高まりで押し上げられた。
タンカーなどの国際運輸は下落した。海運市況の悪化や円高傾向が影響した。
調査対象となる146品目のうち、価格が前年同月比で上昇したのは98品目、下落したのは16品目だった。


コンパクトによく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業向けサービス物価指数(SPPI)のグラフは下の通りです。上のパネルはヘッドラインのサービス物価(SPPI)上昇率及び変動の大きな国際運輸を除くコアSPPI上昇率とともに、企業物価(PPI)の国内物価上昇率もプロットしてあり、下のパネルは日銀の公表資料の1ページ目のグラフをマネして、国内価格のとサービス価格のそれぞれの指数水準をそのままプロットしています。企業物価指数(PPI)とともに、企業向けサービス物価指数(SPPI)が着実に上昇トレンドにあるのが見て取れます。なお、影を付けた部分は、日銀公表資料にはありませんが、景気後退期を示しています。

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上のグラフで見ても明らかな通り、企業向けサービス価格指数(SPPI)の前年同月比上昇率の2022年中の推移は、2022年6月に上昇率のピークである+2.1%をつけ、その後も、7月と9月は+2.0%を記録しましたが、10月+1.8%、11月+1.7%、12月1.5%、そして、本日公表された1月統計では+1.6%と、ジワジワと上昇幅を縮小させ始めているように見えます。もちろん、前年同期比プラスは2年近い23か月の連続となっていますし、石油価格の影響の大きい国際運輸を除くコアSPPI上昇率は昨年2022年9~11月に3か月連続で+1.5%まで拡大した後、1月でもまだ+1.5%を記録しています。すなわち、上昇幅が縮小し始めたと判断するのは早計かもしれませんが、他方で、少なくとも上昇率がグングン加速するという段階は脱したといえそうです。しかも、ヘッドラインSPPI上昇率は日銀の物価目標に届かない+1%台半ばですから、私の見方からすれば高止まりしているとすら表現しかねます。もう何度も指摘されている点ですが、基本的には、石油をはじめとする資源価格の上昇が円安と相まってサービス価格にも波及したコストプッシュが主な要因と考えるべきです。もちろん、ウクライナ危機に起因する資源高の影響に加えて、新興国や途上国での景気回復に伴う資源需要の拡大というディマンドプルの要因も無視できません。
もう少し詳しく、SPPIの大類別に基づく直近1月統計のヘッドライン上昇率+1.6%への寄与度で見ると、引用した記事にもある通り、機械修理や宿泊サービスなどの諸サービスが+0.71%と大きな寄与を示し、ほかに、石油価格の影響が強い外航貨物輸送、鉄道旅客輸送などの運輸・郵便が+0.32%、リース・レンタルが+0.32%、などとなっています。また、寄与度ではなく大類別の系列の前年同月比上昇率で見ても、特に、運輸・郵便が+2.0%の上昇となったのは、エネルギー価格の上昇が主因であると考えるべきです。ただし、この上昇率も昨年2022年12月の+2.5%からはいくぶん縮小しています。もちろん、資源価格のコストプッシュ以外にも、リース・レンタルの+4.1%、広告の+2.8%の上昇など、ヘッドライン上昇率を超える上昇幅を示している項目は、それなりに景気に敏感な項目であり、需要の盛り上がりによるディマンドプルの要素も大いに含まれている、と私は受け止めています。ですので、エネルギーなどの資源価格のコストプッシュだけでなく、国内需要面からもサービス価格は上昇基調にあると考えていいように私は受け止めています。

最後に、本日公表された企業向けサービス価格指数(SPPI)だけでなく、幅広く物価動向について一般的に考えると、第1に、私はクルーグマン教授がニューヨーク・タイムズで述べているように、一貫して Team Transitory の一員、すなわち、高インフレは一時的とみなしています。第2に、物価上昇が中小企業の価格転嫁を認めないという大企業の過酷な取引慣行によって阻害されるのは好ましくないと考えています。例えば、朝日新聞NHKで報じられているように、中小企業庁では「価格交渉促進月間(2022年9月)フォローアップ調査の結果について」と題して、中小企業10社以上から名指しされた発注元150社の実名を公表しています。こういった点を考え合わせると、あるいは、下請けに対する価格転嫁の受入れ拒否などの不当な取引慣行によって物価が上昇しないのも、日本経済の弱点のひとつかもしれません。ただし、これは企業担当者や経営者の気持ちの問題ではなく、価格転嫁のシステムに関して制度的な裏付けが必要です。
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2023年02月21日 (火) 13:00:00

第一生命経済研究所のリポート「花粉の大量飛散が日本経済に及ぼす影響」やいかに?

昨日2月20日に第一生命経済研究所から「花粉の大量飛散が日本経済に及ぼす影響」と題するリポートが明らかにされています。やや、際物っぽい気もしますが、今年の花粉飛散で苦しんでいる身としては切実なものもあります。まあ、何と申しましょうかで、それほど真面目に考えるべき分析ではありませんが、まあ、面白半分に取り上げておきます。

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まず、リポートから 1-3月期の家計消費と前年7-9月期の気温の関係 の散布図グラフを引用すると上の通りです。決定係数が極めて低いので、基本的に無相関なのですが、順相関か逆相関か、といわれれば、一応、夏季の気温とその半年後の家計消費の間には負の相関関係が観察されています。そして、この相関関係は、時間をさかのぼって因果関係となることはない、という絶対的な真理により、夏季の気温から半年後の家計消費への因果関係は考えられなくはないものの、その逆はあり得ません。家計消費が半年前の夏季の気温の原因となることは絶対にありえません。当然です。

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続いて、リポートから 1-3月期の消費支出と前年7-9月期の平均気温の相関関係 のグラフを引用すると上の通りです。保健医療に正の相関があるのは、「あるいは」という気を起こさせます。また、通常の食料や被覆及び履物と負の相関があるのは、花粉飛散による外出手控えが関係している可能性もあり得ます。

まあ、何と申しましょうかで、バックグラウンドに理論モデルがほぼほぼ存在せず、単純な回帰分析の計測で終わっているわけですので学術論文にはなり得ませんが、十分に遊び心は感じられます。
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2023年02月20日 (月) 10:00:00

帝国データバンク「2023年度の賃金動向に関する企業の意識調査」結果やいかに?

先週水曜日2月15日に帝国データバンクから「2023年度の賃金動向に関する企業の意識調査」の結果が明らかにされています。調査対象起業の過半数となる56%で賃上げが見込まれている一方で、中小企業では人件費負担から厳しい部分も予想されています。まず、帝国データバンクのサイトから調査結果の用紙を4項目ヘッドラインだけ引用すると以下のとおりです。

調査結果
  1. 2023年度、企業の56.5%で賃金改善見込み、ベアは過去最高
  2. 賃金改善の理由、「物価動向」が急増。「従業員の生活を支えるため」も7割超
  3. 総人件費は平均3.99%増加見込みも、従業員給与は平均2.10%増と試算
  4. 非正社員は企業の25.9%で賃金改善「あり」


2023年度に賃金改善があると見込む企業は56.5%に上っており、昨年2022年度の同じ時点から+1.9%ポイント増加しています。他方、賃金改善が「ない」企業は17.3%となり、前年から▲2.2%ポイント減となっています。賃金改善の具体的な内容では、「ベースアップ」が49.1%、「賞与(一時金)」が27.1%となり、「賞与(一時金)」が昨年の27.7%から低下し、「ベースアップ」は前年の46.4%を上回っています。
また、規模別に少し詳しく見ると、「6~20人」、「21~50人」、「51~100人」で賃金改善があると見込む企業は6割を超えているものの、「5人以下」の小規模企業では39.6%「1,000人超」の大企業でも39.4%と、小規模と大規模の両端の企業で賃金改善を行う割合が低くなっています。加えて、賃金改善を実施しない割合は「5人以下」(33.1%)が突出して高くなっています。大規模企業はすでに賃金が高水準にあって、賃金改善の必要性が小さい可能性あるものの、従業員が5人以下の小規模企業では環境が厳しくなっている可能性があります。
2023年度の賃金改善見込みのグラフをpdfの全文リポートから引用しておきます。

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2023年02月17日 (金) 14:00:00

日銀ワーキングペーパー「わが国の賃金動向に関する論点整理」やいかに?

一昨日の2月15日に日銀調査統計局から「わが国の賃金動向に関する論点整理」と題するワーキングペーパーが明らかにされています。もちろん、ペーパー本体のpdfファイルもアップされています。まず、日銀のサイトから論文の要旨を引用すると以下の通りです。

要旨
本稿では、日本の名目賃金を上がりにくくしていた様々な要因について米欧と比較しつつ整理し、それらの一部については感染症拡大の前後において変化の兆しがみられることを示す。具体的には、人口動態も反映した労働供給面から生じる労働需給の引き締まり、パート労働者比率の上昇トレンドの頭打ち、転職市場が賃金上昇を伴う形で活発化する兆し、賃上げ交渉における物価上昇への意識の高まり、といった点を指摘する。今後の日本の賃金上昇のペースや持続性を展望するうえで重要な論点としては、(A)一般労働者の中でも相対的に雇用流動性が低い労働者も含めて賃金が幅広く上昇するか、(B)企業の成長期待が高まって投資活動が活発化し労働生産性の上昇につながるか、(C)スキルアップを通じた労働移動が円滑に行われるか、(D)低インフレのノルムのもとで賃上げが抑制されていた状況が変わって物価と名目賃金が共に上昇していくか、といった点が挙げられる。


少しややこしくて混乱を来すのですが、上に引用した要旨の(A)から(D)までと同じ表章で、以下の4点が、「コロナ前から日本の名目賃金を上がりにくくしていたと考えられる要因」として論文p.4に上げられています。
  1. 家計の労働供給、労働市場の二重構造
  2. 企業の労働需要・賃金設定行動
  3. 業種別の要因、雇用流動性
  4. 低インフレの定着


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上のグラフ2枚はワーキングペーパーのp.5から引用しています。ここでは「パート」ということで非正規雇用全体を代理させていますが、明らかに、正規職員と非正規職員の賃金格差に基づいて非正規雇用の拡大が図られた事実が示されています。しかも、賃金が低い非正規雇用の方が、いわゆる「雇用の流動性」が高くなっているのが日本の労働市場の特徴でもあります。経営者が「雇用の流動性」を高めたいと考えているのは、同時に低賃金の非正規職員の雇用を拡大したいということです。賃金上サポートするためには、何らかの非正規雇用の歯止めが必要だと私は考えます。

5年ほど前の玄田教授の編集による『人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか』(慶應義塾大学出版会)も読みましたが、やっぱり、非正規雇用の増加が原因、そして、それを許容した「労働者派遣法」の対象拡大も一因であるとしか、私には考えられません。例えば、この日銀ワーキングペーパーには「派遣」という用語はp.5の脚注に1か所現れるだけです。もちろん、本論文は政府や日銀の公式見解ではあり得ないのですが、「派遣」は賃金について分析する際に言及したくない用語のひとつかもしれません。
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2023年02月16日 (木) 16:00:00

赤字が定着しつつある貿易統計と2四半期連続マイナスの機械受注をどう見るか?

本日、財務省から1月の貿易統計が、また、内閣府から昨年2022年12月の機械受注が、それぞれ公表されています。季節調整していない原系列で見て、貿易統計では、輸出額が+3.5%増の6兆5511億円に対して、輸入額は+17.8%増の10兆477億円、差引き貿易収支は▲3兆4966億円の赤字となり、一昨年2021年8月から18か月連続で貿易赤字を計上しています。次に、機械受注では、民間設備投資の先行指標であり、変動の激しい船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注が、季節調整済みの系列で見て前月比+1.6%増の8519億円となっています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

貿易赤字最大の3.4兆円 1月、対中輸出停滞や円安響く
財務省が16日発表した1月の貿易統計速報によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は3兆4966億円の赤字だった。単月として比較可能な1979年以降で最大の赤字となった。円安と資源高で輸入が増えた。中国向けの輸出の停滞も響いた。
2022年8月の2兆8248億円の赤字を上回った。赤字は18カ月連続となる。15年2月まで32カ月続けて赤字になったとき以来の長さだ。
輸入は前年同月比17.8%増の10兆477億円だった。値上がりした石炭や液化天然ガス(LNG)、原油などの輸入額が増えた。原油の輸入価格は1キロリットルあたり7万3234円と前年同月比27.1%上がった。ドル建て価格の上昇率は10.5%で、円安が輸入価格をさらに押し上げた。
輸出は3.5%増の6兆5511億円だった。米国向けの自動車などが増えた。
輸出の増加は輸入に比べて小幅にとどまった。地域別にみると、中国向けの輸出は17.1%減の9674億円だった。1兆円を下回るのは新型コロナウイルスの感染が最初に広がった20年1月以来となる。自動車や自動車部品のギアボックス、半導体製造装置などが減った。
大幅な減少は「春節(旧正月)が早まったことが影響した」(財務省)。今年の春節は1月22日で、22年の2月1日より早かった。中国の物流や工場が止まる春節休みの間は日本からの輸出は減る。同国での新型コロナウイルスの感染拡大も響いたとみられる。
荷動きを示す輸出数量指数(15年=100)は対世界全体が77.2と前年同月比11.5%下がった。対中国が30.7%の大幅な落ち込みとなり、全体を押し下げた。対中国の低下率は09年2月以来の大きさだった。
円安や資源高による輸入の押し上げは一時期より和らいできたが、輸出の停滞が記録的な貿易赤字につながった。1月は日本の正月休みで輸出が減る一方、春節前の在庫確保のため中国からの輸入が増えやすい。赤字になりやすい季節性がある。
季節調整値でみると、輸入は前月比5.1%減の9兆6093億円、輸出は6.3%減の7兆7880億円だった。収支は1兆8212億円の赤字となった。
機械受注5.0%減 22年10-12月、2四半期連続マイナス
内閣府が16日発表した2022年10~12月期の機械受注統計によると、設備投資の先行指標とされる「船舶・電力除く民需」(季節調整済み)は前期比5.0%減の2兆6054億円だった。マイナスは2四半期連続。海外景気の減速への懸念から、企業が設備投資に慎重になっている可能性がある。
製造業が前期比14.0%減となり、2四半期連続でマイナスだった。半導体製造装置などの発注者となる電気機械の製造業は14.6%、情報通信機械の製造業は13.5%それぞれ減った。海外経済が減速し、輸出が減るとの観測が背景にあった。
船舶と電力を除く非製造業は4.7%増で、2四半期ぶりのプラスだった。卸売業・小売業では10.0%、ソフトウエアやインターネット関係といった情報サービス業では13.6%それぞれ増加した。デジタル化のための投資意欲が高かった。
12月末時点での23年1~3月期の受注見通しは、22年10~12月期から4.3%増とした。海外経済の状況変化をにらみ、いったん見送った投資を1~3月期に実施するとみる。
同日発表した12月の「船舶・電力除く民需」(季節調整済み)の受注額は前月比1.6%増で、2カ月ぶりのプラス。内閣府は基調判断を「足踏みがみられる」で据え置いた。22年通年の受注額は前年比5.2%増の10兆7418億円で、2年連続の増加だった。
12月は、船舶と電力を除く非製造業からの受注は2.5%減った。製造業は2.1%増加し、4カ月ぶりのプラスとなった。


どうしても長くなってしまいましたが、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、▴兆円近い貿易赤字が見込まれていて、実績の▲3.5兆円台半ばの貿易赤字は大きなサプライズない印象です。加えて、引用した記事にもあるように、季節調整していない原系列の統計で見て、貿易赤字は昨年2021年8月から今年2023年1月までの18か月連続なんですが、上のグラフに見られるように、季節調整済みの系列で見ると、貿易赤字は昨年2021年4月から始まっていて、従って、22か月連続となります。しかも、直近時点では貿易赤字額がかなり大きいのが見て取れます。季節調整していない原系列の統計で見ても、季節調整済みの系列で見ても、グラフから明らかな通り、輸出額もそこそこ伸びているのですが、輸入が輸出を上回る水準で推移しているのが貿易赤字の原因です。ただし、ここ数ヶ月ではさすがに輸入の伸びは反転した可能性すらあり、貿易赤字がこのまま一本調子で拡大するとは考えにくく、むしろ、昨年2022年後半に毎月▲2兆円超の貿易赤字を記録していたころから赤字幅はやや縮小しています。円安も一時に比べて落ち着きを取り戻しているのは多くのエコノミストの意見が一致するところです。ですので、私の主張は従来から変わりなく、エネルギーや資源価格の上昇に伴う輸入額の増加に起因する貿易赤字であり、輸入は国内生産や消費などのために必要なだけ輸入すればよく、貿易赤字や経常赤字は何ら悲観する必要はない、と考えています。
1月の貿易統計を品目別に少し詳しく見ると、まず、輸入については、国際商品市況での石油価格の上昇から原油及び粗油や液化天然ガス(LNG)の輸入額が大きく増加しています。しかし、前年同月比の伸び率は大きく鈍化しています。すなわち、原油及び粗油は数量ベースで+6.4%増に過ぎないのですが、金額ベースでは+48.4%増と円安を含む価格要因によって大きく水増しされています。でも、昨年2022年10月統計までは原油及び粗油の輸入金額はほぼほぼ倍増でしたので、伸びはやや鈍化してきている印象です。LNGも同じで数量ベースでは0.5%増であるにかかわらず、金額ベースでは+57.0%増となっています。加えて、食料品のうちの穀物類も数量ベースのトン数では+4.1%増に過ぎませんが、金額ベースでは+24.1%増とお支払いがかさんでいます。また、ワクチンを含む医薬品も数量ベースと金額ベースで違いが際立っています。すなわち、前年同月比で見て数量ベースで▲0.8%減と減少していますが、金額ベースでは+3.7%増を記録しています。でも、当然ながら、貿易赤字を抑制するために、ワクチン輸入を制限しようという意見は少数派ではないか、と私は考えています。目を輸出に転じると、輸送用機器の中の自動車は季節調整していない原系列の前年同月比で数量ベースの輸出台数は+1.8%増にすぎないながら、金額ベースでは+13.7%増と伸びています。また、いずれも金額ベースで一般機械+4.3%増、電気機器▲1.5%減と、自動車以外の我が国リーディング・インダストリーの輸出の伸びはやや停滞しています。これは、先進各国がインフレ抑制のために金融引締めを継続していて、景気が停滞していることが背景にあります。ですから、繰り返しになりますが、輸出額の伸びを上回る輸入額の伸び、中でも価格要因が貿易赤字の原因であり、私はむしろ、少ない輸出で多くの輸入が出来ているお得感すらあると感じています。

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引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注で見て前月比+3.0%増の予想でしたから、実績の+1.6%増はやや下振れた印象です。統計作成官庁である内閣府では基調判断を「足踏みがみられる」に据え置いています。上のグラフで見ても、増加のトレンドが反転した可能性が読み取れると思います。ただし、受注水準としては決して低くはない、と私は受け止めています。また、今年2023年1~3月期の見通しでは、前期比+4.3%増の2兆7179億円と見込まれていますので、海外景気が停滞していることを反映していることは確かですが、国内からの受注も含めれば、まだトレンドが反転したと見ることはないと考えています。昨年2022年12月統計について産業別に少しだけ詳しく見ると、製造業が+2.1%増の3,941億円、船舶と電力を除く非製造業は▲2.5%減の4,581億円となっています。
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2023年02月15日 (水) 18:00:00

東京商工リサーチによる価格転嫁と賃上げの相関分析の結果やいかに?

日曜日なのですが、さる2月12日付けで東京商工リサーチから価格転嫁と賃上げの相関分析の結果が明らかにされています。下のグラフに見られるように、資本金1億円で区分した中小企業では、相関係数0.87と強い正の相関を示した一方で、大企業では▲0.49と負の相関を示した、との結果が示されています。

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もちろん、賃上げを決定する要因は価格転嫁だけではありませんから、ここまで単純化した短回帰分析にどれだけの意味があるかは疑問なしとしませんが、資本金1億円で区分した中小企業と大企業とで規模別に対象的な結果が出たことは、エコノミストとしては興味あるところです。
渡辺努『世界インフレの謎』(講談社現代新書)でも指摘されていたように、賃上げと物価のスパイラルは、企業が製品価格引上げ⇒生計費上昇分の賃上げ要求⇒賃金引上げ⇒コストアップ分の価格転嫁⇒製品価格引上げ、のサイクルで進みます。鶏と卵の関係ですが、製品価格引上げ=物価上昇と賃上げとは両建てで進みますが、中小企業ではこれが成立する一方で、大企業ではそうでないわけです。まあ、、単純に考えれば、中小企業の製品、というか、サービスも含めて、コストに占める人件費の比率が高い一方で、大企業の製品・サービスでは人件費比率が低い、ということなのでしょう。大企業の製品・サービスには人件費以外の付加価値が多く含まれている、ということです。

経済学的な含意としては、下請けの比率が高いであろう中小企業からの部品供給に対して、大企業が価格転嫁に対して不寛容であるからデフレ脱却が進みにくい、といういかにも日本的な企業慣行がバックグラウンドになっている気がします。
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2023年02月14日 (火) 18:00:00

昨年2022年10-12月期GDP統計速報1次QEに見る景気動向やいかに?

本日、内閣府から昨年2022年10~12月期のGDP統計速報2次QEが公表されています。季節調整済みの前期比成長率は+0.2%、年率では+0.6%と、2四半期ぶりのプラス成長を記録しています。なお、GDPデフレータは季節調整していない原系列の前年同期比で+1.1%に達しています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

日本のGDP年率0.6%増 10-12月、2四半期ぶりプラス
内閣府が14日発表した2022年10~12月期の国内総生産(GDP)速報値は、物価変動の影響を除いた実質の季節調整値で前期比0.2%増、年率換算で0.6%増だった。プラス成長は2四半期ぶり。22年の実質GDPは前年比1.1%増で、2年連続のプラスだった。新型コロナウイルス禍から経済の正常化が緩やかに進んでいる。
10~12月期の年率換算の成長率はQUICKが事前にまとめた市場予測の中心値(1.8%)を下回った。前期比で外需がプラス0.3ポイント、内需がマイナス0.2ポイントの寄与だった。
内需の柱でGDPの過半を占める個人消費は前期比0.5%増えた。供給制約の緩和で自動車などの耐久財が伸び、政府の観光促進策「全国旅行支援」も追い風に宿泊や交通がプラスだった。飲料など非耐久財は10月の値上げを前に駆け込みがあった反動で減少した。
内需のもう一つの柱の設備投資は0.5%減と、3四半期ぶりにマイナスに転じた。半導体製造装置や一般機械などが減った。世界的な半導体需要の減少や海外経済の減速懸念が影響した可能性がある。
住宅投資は0.1%減で6四半期連続のマイナス。資材価格の高騰で持ち家の着工が鈍っている。コロナワクチンの接種費用を含む政府消費は0.3%増だった。
民間在庫変動の寄与度は0.5ポイントのマイナスとなった。原油などの原材料の在庫積み増しが前期より減ったとみられる。
輸出は1.4%増えた。計算上、輸出に分類するインバウンド(訪日外国人)消費が10月の入国規制の緩和に伴って伸びた。輸入は前期に海外への広告関連の支払いが大幅に増えた反動もあり、0.4%減った。輸出から輸入を差し引いて計算する外需はプラスの寄与となった。
名目GDPは前期比1.3%増、年率換算で5.2%増だった。
国内の総合的な物価動向を示すGDPデフレーターは前年同期比1.1%上昇し、3四半期ぶりにプラスに転じた。輸入物価の上昇が一服したのに加え、国内で価格転嫁が徐々に広がり始めたことを示す。
雇用者報酬は名目で前年同期比2.9%増えた。実質は1.4%減で、5四半期連続でマイナスとなった。物価上昇に賃金が追いついていない。


ということで、いつもの通り、とても適確にいろんなことが取りまとめられた記事なんですが、次に、GDPコンポーネントごとの成長率や寄与度を表示したテーブルは以下の通りです。基本は、雇用者報酬を含めて季節調整済み実質系列の前期比をパーセント表示したものですが、表示の通り、名目GDPは実質ではなく名目ですし、GDPデフレータと内需デフレータだけは季節調整済み系列の前期比ではなく、伝統に従って季節調整していない原系列の前年同期比となっています。また、項目にアスタリスクを付して、数字がカッコに入っている民間在庫と内需寄与度・外需寄与度は前期比成長率に対する寄与度表示となっています。もちろん、計数には正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、データの完全性は無保証です。正確な計数は自己責任で最初にお示しした内閣府のリンク先からお願いします。

需要項目2021/10-122022/1-32022/4-62022/7-92022/10-12
国内総生産GDP+1.1▲0.4+1.1▲0.3+0.2
民間消費+3.0▲0.9+1.6+0.0+0.5
民間住宅▲1.3▲1.7▲1.9▲0.4▲0.1
民間設備+0.6▲0.3+2.1+1.5▲0.5
民間在庫 *(▲0.2)(+0.8)(▲0.3)(+0.1)(▲0.5)
公的需要▲1.5▲0.3+0.7+0.1+0.3
内需寄与度 *(+1.0)(+0.1)(+1.0)(+0.4)(▲0.2)
外需(純輸出)寄与度 *(+0.0)(▲0.5)(+0.1)(▲0.6)(+0.3)
輸出+0.4+1.2+1.5+2.5+1.4
輸入+0.3+3.8+0.9+5.5▲0.4
国内総所得 (GDI)+0.3▲0.7+0.4▲1.0+0.4
国民総所得 (GNI)+0.6▲0.4+0.6▲0.5+1.2
名目GDP+0.7+0.2+1.0▲0.8+1.3
雇用者報酬 (実質)▲0.3▲0.8▲0.4▲0.0▲0.2
GDPデフレータ▲0.3+0.4▲0.3▲0.4+1.1
国内需要デフレータ+2.1+2.6+2.7+3.2+3.3


上のテーブルに加えて、いつもの需要項目別の寄与度を示したグラフは以下の通りです。青い折れ線でプロットした季節調整済みの前期比成長率に対して積上げ棒グラフが需要項目別の寄与を示しており、縦軸の単位はパーセントです。グラフの色分けは凡例の通りとなっていますが、本日発表された昨年2022年10~12月期の最新データでは、前期比成長率がプラス成長を示し、GDPのコンポーネントのうち、赤色の民間消費や黒の純輸出などがプラス寄与している一方で、灰色の民間在庫のマイナス寄与が目立っています。

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まず、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは前期比年率成長率が+1.8%でしたので、やや下振れた印象ながら、大きなサプライズはありませんでした。先進国でインフレにより消費の伸びが大きく鈍化している一方で、下のグラフに見るように、デフレータの上昇率はかなり高まったものの、我が国では他の先進諸国と比べてインフレのダメージが少ない上に、引用した記事にもあるように、半導体などの供給成約で生産が停滞していた自動車などの耐久消費財が伸びており、また、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のダメージが大きかった宿泊や交通が「全国旅行支援」もあって、10~12月期には消費の伸びが高まっています。民間消費を少し詳しく見ると、耐久財は前期比+2.7%増、前年同期比+11.1%増と大きく伸びましたし、サービスも前期比+1.4%増、前期比年率+5.6%増と、これも増加しています。前期の2022年7~9月期は、ややイレギュラーなサービス輸入の増加によるマイナス成長を記録しましたが、基本的に、景気判断としては引き続き堅調と考えてよさそうです。もちろん、統計の数字だけを見ると、2022年7~9月期に前期比で▲0.3%減の後、10~12月期は+0.2%ですから、7~9月期のマイナス分を10~12月期に取り戻せていないという見方もできますが、もう少し詳しくGDPコンポーネントを見ると、民間在庫の寄与度が2022年7~9月期に前期比成長率に対する寄与度が+0.1%と在庫が積み上がった後、10~12月期は▲0.5%ですから、成長率の足は引っ張ったものの在庫調整が進んだと考えると、決して悪い話ではないと私は受け止めています。加えて、インバウンドの消費に当たる「非居住者家計の購入額」はここ数四半期に渡って年率で500重億円足らずだったのですが、2022年10~12月期には1500十億円近くに達しました。既往でもっとも大きなだった時期に四半期単位で5000十億円弱ですので、⅓くらいまで回復したことになります。それなりに期待は膨らむのかもしれません。ただ、海外経済について留保すべき点もあり、輸出の寄与度が+0.3%ありますので、海外景気が失速する可能性が十分ある中で、今年は輸出にそれほど期待できないかもしれません。

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堅調と考えるべき景気判断の根拠はもうひとつあり、資源高と円安による交易条件悪化=所得流出がピークアウトした可能性です。統計を詳しく見ると、2022年10~12月期のGDP成長率は前期比+0.2%、前期比年率+0.6%でしたが、より実感に近い国内総所得(GDI)の伸びは前期比+0.4%、前期比年率+1.6%、国民総所得(GNI)も前期比+1.2%、前期比年率+4.9%に達しています。繰り返しになりますが、家計や企業の景気実感はGDPよりもGDIやGNIに近いと私は考えていますので、昨年2022年10~12月期にはそれなりに経済が回復した、という感覚につながっている可能性が十分あります。ただし、欧米先進各国ほどではないとしても足元での物価上昇=インフレが進行しています。上のグラフは、GDPデフレータ、民間消費デフレータ、国内需要デフレータのそれぞれの季節調整していない原系列の前年同期比をプロットしています。GDPの控除項目である輸入物価に起因するインフレですから、GDPデフレータはそれほど上がっていませんが、民間消費と国内需要のそれぞれのデフレータはいずれも上昇率がグングン高まっています。資源高と円安による輸入価格の上昇に起因する交易条件の悪化や所得の流出から、ホームメードインフレの段階に達し、これをカバーするだけの賃上げが実現できるかどうかに消費の動向が左右されかねません。最初のテーブルで示したように、雇用者報酬は実質で5四半期連続で前期比マイナスを続けています。それだけに、今春闘における賃上げは日本経済の先行きの方向性に大きなな影響を及ぼす可能性があります。
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2023年02月13日 (月) 13:00:00

昨年2022年10~12月期GDP統計速報1次QE予想はわずかながらプラス成長か?

先週の鉱工業生産指数や商業販売統計や雇用統計をはじめとして、必要な統計がほぼ出そろって、明日の2月14日に昨年2022年10~12月期GDP統計速報1次QEが内閣府より公表される予定となっています。すでに、シンクタンクなどによる1次QE予想が出そろっています。2022年7~9月期は一時的なサービス輸入の増加のために小幅ながらマイナス成長を記録しましたが、10~12月期はプラス成長を予測するシンクタンクが多くなっている印象です。ということで、いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、web 上でオープンに公開されているリポートに限って取りまとめると下の表の通りです。ヘッドラインの欄は私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しています。可能な範囲で、GDP統計の期間である2022年10~12月期ではなく、足元の2023年1~3月期から先行きの景気動向について重視して拾おうとしています。三菱系の2機関を除いて、多くのシンクタンクで言及があり、特に、大和総研とみずほリサーチ&テクノロジーズについては長々と引用しています。いずれにせよ、詳細な情報にご興味ある向きは一番左の列の機関名にリンクを張ってありますから、リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開いたり、ダウンロード出来たりすると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちにAcrobat Reader がインストールしてあってリポートが読めるかもしれません。

機関名実質GDP成長率
(前期比年率)
ヘッドライン
日本総研+0.7%
(+2.7%)
1~3月期もプラス成長が続く見通し。新型コロナ感染者数の減少を背景に、人流の回復や全国旅行支援の継続に支えられ、サービスを中心に個人消費が増加する見込み。また、インバウンド需要の回復が続くことで、サービス輸出も底堅く推移する見込み。
大和総研+0.4%
(+1.8%)
2023年1-3月期の日本経済は、感染状況が落ち着く中で経済活動の正常化が一段と進み、個人消費や輸出などを中心に回復基調が強まる見込みだ。設備投資や公共投資も増加することで、実質GDPは2四半期連続のプラス成長(前期比年率+4.4%)になると見込んでいる。
個人消費は緩やかな回復基調を辿ろう。感染「第8波」は落ち着きつつあり、サービス消費の回復は加速するだろう。他方、1月以降も食品などの値上げが予定されており、家計の消費マインドが一段と悪化すれば、個人消費の回復が遅れる可能性もある。
なお、自動車生産は1-3月期に一段と増加しよう。トヨタ自動車が2月に見込む国内生産台数は約30万台と、1月(約20万台)から増加した。繰越需要に対応した大幅な挽回生産の発現が期待され、個人消費や設備投資、輸出を後押しするだろう。
住宅投資は緩やかな増加傾向に転じるだろう。引き続き、住宅価格の上昇は住宅投資の重しとなるものの、住宅ローン減税の制度変更に伴う反動減が一巡することで持ち直すとみられる。
設備投資は緩やかながらも増加傾向が続くだろう。機械設備投資に先行する機械受注は均して見ると減少傾向にある。ただし、国内ではサービス消費の回復余地が大きく、今後はとりわけ非製造業で設備投資の回復が見込まれる。他方、グリーン化、デジタル化に関連したソフトウェア投資や研究・開発投資は底堅く推移するとみられ、設備投資全体を下支えしよう。
公共投資は緩やかな回復傾向に転じるだろう。前述した「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」の執行が下支えするものの、人手不足や資材価格の高騰が影響することで、回復ペースは緩やかなものとなろう。政府消費は、医療費の増加が下支えするものの、オミクロン株対応ワクチン接種が一服することでしばらくは足踏みするとみられる。
輸出は、中国経済の正常化に沿って増加基調に転じるだろう。サービス輸出に含まれるインバウンド(訪日外客)消費は、堅調に回復するとみられる。また、中国政府は12月に実質的な「ウィズコロナ」政策に転換した。感染状況次第ではあるものの、今後は幅広い財の輸出の増加が見込まれる。他方、米欧における利上げの影響には引き続き注意が必要だ。
みずほリサーチ&テクノロジーズ+0.5%
(+2.0%)
1~3月期以降についても、対人サービスを中心に個人消費の回復継続が見込まれる。物価高が引き続き下押し要因になることで、大幅なリベンジ消費までは期待出来ないものの、政府による全国旅行支援が1月以降も延長されたことがサービス消費の押し上げ要因になろう。みずほリサーチ&テクノロジーズは、全国旅行支援について1~3月期までの延長を想定した上で、経済効果は波及効果を含めて約1兆円(2022年度GDPを+0.2%押し上げ)と試算している。全国旅行支援終了後は一時的に反動減が出ることが想定されるが、感染懸念の後退に伴い、均してみれば回復基調を維持するだろう。
インバウンドの回復が続くことも経済活動の押し上げに寄与するだろう。中国からの訪日客については、当面は日中間の国際便回復が停滞する中で大幅な回復は期待しにくいものの(2022年11月~2023年3月の冬ダイヤ時点で、日中間の国際便数はコロナ前の4%程度にとどまる)、中国で感染影響の収束が見込まれる春以降には、日本側の水際対策(出入国時の検査、日中間の国際便の増便抑制)も緩和されることで回復の本格化が見込まれる。特に関西・中部地方はインバウンド消費に占める中国人観光客への依存度が高く、回復に期待が高まる状況だ。
懸念されるのがサービス業における人手不足であり、宿泊業等の稼働率の抑制要因になるだろう。「売り」となるサービスの明確化等による客単価の引き上げが収益確保の鍵になる。高付加価値型施設(リゾートホテルや高級レストラン等)は国内外の高所得者を中心とした一部のリベンジ消費を取り込むことで客単価を引き上げ、収益を確保できる余地があるとみられる一方、競争力に乏しく客単価を引き上げにくい業態・企業は苦境に立たされる公算が大きい点には留意が必要だ。
一方で、これまでの根強いインフレ圧力を受けた急速な利上げの影響などにより、欧米経済は今後、一段の景気減速が見込まれる(特に米国は足元で財消費や企業の生産活動に弱含みの動きがみられるなど、景気下振れの兆候が出ている)。日本からの輸送用機械、電気・電子、設備機器などの輸出が下振れるほか、製造業の設備投資も下押しされる公算が大きい。足元のグローバル製造業PMIは既に50を割り込んでおり、欧米を中心とした海外経済のさらなる冷え込みが先行きの日本経済の最大の逆風になるだろう(現時点で今後の実質GDP調整幅については、米国が▲1.8%、欧州が▲1.6%と過去の景気後退期の平均並を想定している。なお、中国については一部地域の感染がピークアウトした1月以降に経済活動の底打ちの動きがみられるが、当面はサービス消費が回復の中心になるとみられ、財需要への波及効果は限定的だろう。中国経済が2023年に盛り返したとしても、欧米を中心とした世界経済の低迷をカバーすることは出来ないとみている)。需給軟化に伴う単価下落・調達抑制による出荷数量減少を受けてメモリを中心に世界的な半導体市況の悪化が続くことも、半導体製造装置や電子部品等の生産活動を下押ししよう。
コロナ禍の影響が長引く中、日本はこれまで欧米対比で経済活動の回復が遅れてきたが、その分回復余地が残されている状況だ。前述したとおりサービス分野の回復が下支えすることで、日本経済は景気後退入りを免れるとみているが、それでも海外経済の減速が逆風となることで回復ペースは緩やかにならざるを得ないだろう。現時点で、1~3月期は前期比年率+1%程度の成長に鈍化すると予測している。
ニッセイ基礎研+0.3%
(+1.0%)
2023年1-3月期は、民間消費、設備投資などの国内需要は底堅い動きが続く一方、欧米を中心とした海外経済の減速を主因として輸出が減少に転じることから、現時点では年率ゼロ%台の低成長を予想している。
第一生命経済研
その 2
+0.2%
(+0.7%)
海外経済の悪化に伴う輸出の下振れが23年の景気を下押しする。金融引き締めの実体経済への悪影響が本格化することで、23年の米国経済の下振れ懸念は大きい。中国経済の持ち直しが見込まれることは好材料だが、世界経済は全体として下押し圧力が強まる可能性が高いだろう。コロナ禍からの正常化に向けた回復の動きが続くことから、国内における景気回復の動きが頓挫するとまではみていないが、23年前半の景気は輸出の下振れを主因として減速感が強まると予想している。
PwC Intelligence+0.7%
(+2.7%)
2022年10-12月期は、輸出・消費によりプラス成長となるものの、設備投資は減少に転じる見込みである。2023年以降は、海外経済の減速を受けて設備投資の減少が進展するか、その下方圧力を国内消費およびインバウンド需要の回復がどこまで打ち返せるか、というのが日本経済を見通す上での注目点となろう。また、賃上げがベースアップのみで3%にまで上昇する環境を維持できるかも重要となろう。
伊藤忠総研+0.6%
(+2.3%)
続く2023年1~3月期も、インバウンド需要の増加は期待できそうであるが、物価上昇の加速により個人消費は伸び悩むとみられるため、一定の前期比プラス成長を維持できるかどうかは、財輸出がどの程度落ち込むのか、設備投資の様子見姿勢がいつまで続くのかが重要であり、加えて政府の「総合経済対策」で追加された公共投資がどの程度進捗するかもカギを握るとみられる。なお、当社は現時点では、若干減速するもののプラス成長を維持すると予想している。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング+0.7%
(+3.0%)
2022年10~12月期の実質GDP成長率は、前期比+0.7%(年率換算+3.0%)と2四半期ぶりのプラス成長が見込まれる。感染第7波の影響が一巡したうえ、全国旅行支援など政策支援も追い風に個人消費の増加が続いたほか、欧米向け輸出の増加や水際対策緩和によるインバウンドの回復などを背景とした輸出の増加がプラス成長の要因となったとみられる。
三菱総研+0.5%
(+1.8%)
2022年10-12月期の実質GDPは、季節調整済前期比+0.5%(年率+1.8%)と予測します。
明治安田総研+0.6%
(+2.2%)
2023年前半は、物価高が引き続き個人消費の足を引っ張ると予想される。1月の東京都区部の消費者物価指数(生鮮食品を除く総合指数)は前年比+4.3%と、41年8ヵ月ぶりの高い伸びとなった。食品メーカーは年明け以降も値上げを実施しているほか、「燃料費調整制度」に基づく電気料金が早ければ4月にも引き上げられることから、消費者物価は当面の間、高い伸びとなる可能性が高い。
海外景気の低迷も輸出の下押し要因となる。米国では、これまでの累積的な利上げの効果が発現することもあって、早ければ春先にも景気後退局面に陥る可能性がある。中国景気は、感染者数がこのままピークアウトに向かえば持ち直す展開が期待できるが、不動産市場の低迷が続くことで、回復の勢いは鈍くなると見込まれる。インバウンド需要の回復などが下支え要因となるものの、海外景気の不振が続くようなら、日本景気が回復基調を続けるのは難しい。
東京財団政策研+0.47%
(+1.89%)
2023年1-3月期のGDPについて、モデルは、海外経済の減速等を背景に弱さが見られる今年1月の製造工業生産予測指数(補正値)や景気ウォッチャー調査を反映することにより、引き続き、マイナス成長を予測。ソフトデータに基づく情報ではあるが、足もとで見られる経済の変化が年初のGDPを下振れさせる可能性を示唆している。


ということで、すべてのシンクタンクが昨年2022年10~12月期の成長率はプラスと予想しています。欧米先進各国は2ケタもしくは2ケタ近いインフレの抑制のために金融引締めを継続しおり、かなりの確率で米国や英国は景気後退に陥ると私は考えています。もちろん、市場における価格を資源配分のシグナルとしているわけですので、現在の資本主義経済においてはインフレが高進した場合、景気を犠牲にしてでもインフレを抑制するというのが、いわば、セオリーとなっています。他方で、全国旅行支援やインバウンド、あるいは、3月からマスクの着用が個人判断となり、5月と少し咲きながら新型コロナウィルス感染症(COVID-19)が季節性インフルエンザと同じ5類にカテゴリー変更されることなどから、「リベンジ消費」とまではいいませんが、消費が一定の回復を見せるかどうか、こういったプラス要因が海外経済のマイナス要因とどちらが大きいか、ということなのだろうと私は考えています。
ただし、先行き景気について注意すべき政策上の要因、国民のマインドにも影響を及ぼしかねない2点を指摘しておきたいと思います。第1に、国政選挙がほぼほぼない、いわゆる「黄金の3年」において、岸田内閣が財政政策を大きく緊縮路線に舵を切ろうとしているように私には見えてなりません。軍事費をGDP比2%に上げるだけでも、私はどうかと考えています。私はアベノミクスをそれなりに評価しているのですが、新規性を打ち出そうとココロがはやる岸田内閣は「逆コース」を志向する可能性なしとはしません。第2に、日銀総裁・副総裁人事と関連して金融政策の方向性です。明日の国会提示と報じられています。新総裁候補とされる植田教授は「金融緩和の継続が必要」と発言したと報じられていますが、それは植田教授の考える「金融緩和」であって、現在のアベノミクスの第1の矢となった金融政策の継続を意味しません。例えば、昨年、日銀がイールド・カーブ・コントロール(YCC)で長期金利の上限を25ベーシスから50ベーシスへと、バンドの拡大という形で修正した際、金融緩和の姿勢に変わりなくバンドの拡大だけ、と指摘するエコノミストもいましたが、市場はハッキリと金融引締めの第1歩と受け止めました。こういった黒田総裁による異次元緩和の事実上の修正が「金融緩和の継続」の名の下に実行される可能性があります。そして、市場はそれを「異次元緩和の終了」とみなす可能性は否定できません。ひいては、国民のマインドも下振れする可能性を指摘しておきたいと思います。
最後に、下のグラフはニッセイ基礎研究所のリポートから引用しています。

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2023年02月10日 (金) 15:00:00

1月統計に見る企業物価指数(PPI)上昇率はピークアウトしたか?

本日、日銀から1月の企業物価 (PPI) が公表されています。ヘッドラインとなる国内物価の前年同月比上昇率は+9.5%まで上昇幅が拡大しました。まず、日経新聞のサイトから統計を報じる記事を引用すると以下の通りです。

企業物価指数、1月9.5%上昇 企業の価格転嫁続く
日銀が10日発表した1月の企業物価指数(速報値、2020年平均=100)は119.8と、前年同月比9.5%上昇した。指数は過去最高だった前月から横ばいだった。上昇率は前月の10.5%から鈍化したものの、高水準で推移している。エネルギー関連を中心に企業が原材料コストの負担を価格転嫁する動きが続いている。
企業物価指数は企業間で取引するモノの価格動向を示す。上昇率は民間予測の中央値である9.6%を0.1ポイント下回った。22年12月の上昇率は10.2%から10.5%に上方修正され、1980年11月(11.8%)以来の高水準となった。
品目別にみると、電力・都市ガス・水道や金属製品などで高い伸び率が続く。電力・都市ガス・水道は49.7%上昇、金属製品は12.8%上昇した。消費者に近い飲食料品(8.0%上昇)などでも上昇が目立つ。公表している515品目のうち前年同月比で上昇した品目は88%と、幅広い品目で値上がりがみられる。
一方、国際商品価格の下落や円安進行の一服を背景に、サプライチェーン(供給網)の川上に近い品目では価格が下落している。石油・石炭製品は12月に前年同月比8.1%上昇していたが、1月は0.5%の下落に転じた。木材・木製品も1月は8.2%下落と、12月(4.8%下落)からマイナス幅を拡大させた。
輸入物価の伸びも減速している。輸入物価指数の円ベースの上昇率は17.8%と高水準ではあるものの、直近ピークの22年7月(49.2%)からは大きく低下している。


注目の指標のひとつであり、やや長くなりましたが、包括的によく取りまとめられています。続いて、企業物価(PPI)上昇率のグラフは下の通りです。国内物価、輸出物価、輸入物価別の前年同月比上昇率をプロットしています。また、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、企業物価指数(PPI)のヘッドラインとなる国内企業物価の前年同月比上昇率は+9.6%と見込まれていましたので、実績の+9.5%はほぼほぼジャストミートしたと私は受け止めています。PPI上昇の要因は主として2点あり、とりあえずの現象面では、コストプッシュが大きな要因となっています。すなわち、第1に、国際商品市況の石油価格をはじめとする資源価格やエネルギー価格の上昇とその波及を受けたの上昇です。ただ、この要因は、グラフからも明らかな通り、輸入物価上昇率がピークアウトしたのは明らかで、国内物価についても上昇幅が縮小しはじめたように見えますが、現段階では、国内への波及の方が主役となりつつあると私は考えています。消費者物価への反映はまだしも、企業間ではある意味で順調に価格転嫁が進んでいるという見方も成り立ちます。さらに、第2に、ディマンドプルの要因も含みつつ、前年同月に比べて為替レートが減価している円安要因です。ただし、これも広く報じられている通り、日銀に金融政策スタンスの微妙な変更により、円安は一定修正され始めています。
品目別には、引用した記事にもあるように、前年同月比で見て、電力・都市ガス・水道+49.7%、鉱産物+35.4%のほか、鉄鋼+19.2%、パルプ・紙・同製品+14.6%、金属製品+12.8%、窯業・土石製品+11.7%が2ケタ上昇となっています。しかし、ウッド・ショックとまでいわれた木材・木製品は先月統計からマイナスに転じて、1月統計でも▲8.2%の大きな下落を記録していますし、石油・石炭製品もとうとう▲0.5%のマイナスに転じました。もちろん、上昇率は鈍化しても、あるいは、マイナスに転じたとしても、価格としては高止まりしているわけですが、そろそろ、エネルギー価格についてはすでにピークアウトした可能性があると考えるエコノミストが多いと私は考えています。例えば、上のグラフでは資源価格に牽引された輸入物価上昇率が最近時点で大きく上昇率を鈍化させているのが見て取れます。ただし、飲食料品については+8.0%とまだ高い上昇率です。生活に不可欠な飲食料品ですので、政策的な対応は必要かと思いますが、市場価格に直接的に介入するよりは、消費税率の引き下げとか、所得の増加などが市場メカニズムを生かした望ましい政策と私は考えています。
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2023年02月09日 (木) 14:30:00

今年はバレンタインのチョコもやっぱり値上げの影響を受けるのか?

食料品などの値上げが相次ぐ中、一昨日2月7日に帝国データバンクから「2023年シーズン『バレンタインチョコレート』価格調査」の結果が明らかにされています。チョコ1粒の平均価格は7%値上げされ、1粒365円から390円へと、+25円の上昇になるとしています。まず、帝国データバンクのサイトから調査結果を3点引用すると以下の通りです。

調査結果
  1. 「7%の値上げ」以上に水面下で広がる物価高と円安の影響 「ホワイトデー」商戦にも注目
  2. チョコレートにも物価高じわり 1粒価格は昨年から約7%上昇 砂糖などの価格高騰響く
  3. 国内ブランドに比べ、インポートブランドのチョコレートで大幅な値上げ 円安も影響


来週はバレンタイデーもあり、pdfの全文リポートから簡単にグラフを引用しつつ取り上げておきたいと思います。

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上のグラフは、リポートから バレンタインチョコ(1粒)の価格推移 を引用しています。ブランド全体では1粒当たりの平均値上げ幅は+25円なのですが、国内ブランドが+18円である一方で、輸入ブランドは+33円となっています。もとrん、昨年後半以降に急激に進んだ円高を反映していると考えてよさそうです。ただ、何といってもデフレマインドの払拭がまだ進んでいないためか、価格改定幅を詳しく見ると、前年から据え置きが国内ブランド・輸入ブランドを通じてもっとも多く40.7%、55ブランドとなっています。うちわけは、国内ブランドが48.6%、36ブランド、輸入ブランドが31.1%、19ブランドとなっています。円安の影響下、あるいは、輸入ブランドの価格付が強気なのか、デフレマインドの払拭にも「外圧」が必要、との説もあって、やや気にかかるところです。

はてさて、今年のバレンタイン商戦やいかに?
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2023年02月08日 (水) 23:00:00

先行き期待が垣間見える景気ウォッチャーと黒字幅縮小続く経常収支

本日、内閣府から1月の景気ウォッチャーが、また、財務省から昨年2022年12月の経常収支が、それぞれ、公表されています。各統計のヘッドラインを見ると、景気ウォッチャーでは、季節調整済みの系列の現状判断DIが前月から▲0.2ポイント低下の47.9となった一方で、先行き判断DIは+1.9ポイント上昇の47.0を記録しています。また、経常収支は、季節調整していない原系列の統計で+1兆8036億円の黒字を計上しています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

1月の街角景気、現状判断指数は3カ月連続悪化
内閣府が8日発表した1月の景気ウオッチャー調査(街角景気)によると、街角の景気実感を示す現状判断指数(季節調整済み)は48.5、前の月より0.2ポイント低下(悪化)した。悪化は3カ月連続。家計動向が悪化した。
2~3カ月後を占う先行き判断指数は49.3で、2.5ポイント上昇した。上昇は2カ月連続。家計動向、企業動向、雇用が改善した。
内閣府は景気の基調判断を「持ち直しの動きがみられる」に据え置いた。
22年12月の経常収支、334億円の黒字 民間予測984億円の黒字
財務省が8日発表した2022年12月の国際収支状況(速報)によると、海外との総合的な取引状況を示す経常収支は334億円の黒字だった。QUICKがまとめた民間予測の中央値は984億円の黒字だった。
貿易収支は1兆2256億円の赤字、第1次所得収支は1兆7952億円の黒字だった。
同時に発表した22年の国際収支状況(速報)によると経常収支は11兆4432億円の黒字だった。


いつもながら、よく取りまとめられている印象です。続いて、景気ウォッチャーのグラフは下の通りです。現状判断DIと先行き判断DIをプロットしており、色分けは凡例の通りです。影をつけた期間は景気後退期を示しています。

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現状判断DIは、ここ半年ほどを見れば、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大にほぼ従う形で、やや荒っぽい動きを示しています。上のグラフの通りです。すなわち、COVID-19の感染拡大により、昨年2022年8月45.5、9月48.9、10月50.8と、緩やかに改善してきていたものの、11月49.4、12月48.7の後、今年2023年1月48.5とわずかながら低下しています。足元では、新型コロナウイルスの感染者数も、死者数もピークを超えたと見られるものの、食品やエネルギーを中心に物価上昇が続いていることから、現状判断指数もやや低下気味です。ただ、全国旅行支援や入国制限の緩和が後押しとなってホテルや飲食店などから来客数が増加しているという見方も出始めていて、先行き判断DIは昨年2022年12月統計でも1月統計でも上昇しています。従って、統計作成官庁である内閣府では、引用した記事にもある通り、基調判断を「持ち直しの動きがみられる」に据え置いています。1月統計の現状判断DIを前月差で少し詳しく見ると、家計動向関連が▲0.6ポイントの悪化となった一方で、企業動向関連は+0.4ポイントの改善を示しており、差引きで▲0.2ポイントの悪化という結果になっています。しかし、1月統計の先行き判断DIを見ると、小売関連・飲食関連ともに前月から+2.8ポイント改善しており、物価上昇の先行きは不透明な一方で、繰り返しになりますが、全国旅行支援やインバウンドに対する期待が現れている可能性があります。

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続いて、経常収支のグラフは上の通りです。青い折れ線グラフが経常収支の推移を示し、その内訳が積上げ棒グラフとなっています。2011年3月の東日本大震災と福島第一原発の影響を脱したと考えられる2015年以降で経常赤字を記録したのは、季節調整済みの系列で見て昨年2022年10月統計▲6093億円だけです。ただし、赤字ではないとしても、経常黒字の水準は大きく縮小しています。グラフから見て取れる通りです。その要因は貿易収支の赤字です。もっとも、注意しておくべき点があります。すなわち、広く報じられているのでついつい信じてしまうのですが、昨年2022年2月末に始まったロシアのウクライナ侵攻による資源高、あるいはこれに対応した欧米での金融引締めに起因する円安が原因で貿易赤字になっているわけではない点は理解しておくべきです。正確には、季節調整済みの系列で見て、貿易赤字は一昨年2021年8月から2022年12月まで1年半近くに渡って継続しています。サービス収支も合わせた貿易サービス収支ではさらに2か月さかのぼって2021年6月から一貫して赤字が続いています。この期間で貿易収支も、貿易サービス収支も、黒字を記録した月はありません。季節調整していない原系列の貿易収支で見ても、一昨年2021年11月から1年余り連続して貿易赤字となっています。ですから、貿易赤字はウクライナ危機による資源高や円安の半年近く前から始まっている点は見逃すべきではありません。もちろん、国際商品市況で石油をはじめとする資源価格が値上がりしているのは事実であり、資源に乏しい日本では輸入額が増加するのは当然です。消費や生産のために必要な輸入をためらう必要はまったくなく、経常赤字や貿易赤字は何の問題もない、と私は考えていますので、付け加えておきます。
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2023年02月07日 (火) 15:00:00

とうとう基調判断が下方修正された12月の景気動向指数をどう見るか?

本日、内閣府から昨年2022年12月の景気動向指数公表されています。統計のヘッドラインを見ると、CI先行指数が前月から▲0.5ポイント下降の97.2を示した一方で、CI一致指数は▲0.4ポイント下降の98.9を記録しています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

景気「足踏み」に下方修正 22年12月の動向指数
内閣府が7日発表した2022年12月の景気動向指数(CI、2015年=100)の速報値は、足元の経済動向を示す一致指数が前月比0.4ポイント低い98.9だった。4カ月連続のマイナスとなった。海外経済の減速を背景に、ボイラーといった機械の出荷や、アジア向けの輸出が落ち込んだ。
内閣府は指数をもとに機械的に作成する景気の基調判断を「足踏みを示している」と下方修正した。22年1月以来11カ月ぶりの表現で、下方修正は21年9月以来、1年3カ月ぶりとなった。


いつもながら、コンパクトによく取りまとめられた記事だという気がします。次に、景気動向指数のグラフは下の通りです。上のパネルはCI一致指数と先行指数を、下のパネルはDI一致指数をそれぞれプロットしています。影をつけた期間は景気後退期を示しています。

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202年12月統計のCI一致指数については、7か月後方移動平均はまだ上昇を続けていますが、4か月連続の下降であり、3か月後方移動平均でも3か月連続の下降となっています。従って、統計作成官庁である内閣府では基調判断を「改善」から「足踏み」に下方修正しています。また、CI一致指数を構成する系列を詳しく見ると、マイナスの寄与が大きい順に、輸出数量指数▲0.50ポイント、鉱工業用生産財出荷指数▲0.22ポイント、商業販売額(卸売業)(前年同月比)▲0.11ポイントなどとなっています。他方、プラス寄与は、大きなものでは耐久消費財出荷指数+0.23ポイント、商業販売額(小売業)(前年同月比)+0.15ポイントなどが上げられます。景気の先行きについては、国内のインフレや円安の景気への影響については中立的と、私は見ています。ただし、国内要因は中立的としても、海外要因については、欧米をはじめとする各国ではインフレ対応のために金融政策が引締めに転じていて、米国をはじめとして先進国では景気後退に向かっている可能性が十分あります。景気動向指数の観点からして、輸出数量指数が最大のマイナス寄与を示している点に現れています。ですから、全体としては、先行きリスクは中立というよりも下方に厚い可能性があると考えるべきです。
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2023年02月06日 (月) 14:00:00

メディアをザッピングした本日の雑感

なかなかリポート採点が終わらない無間地獄に陥りつつも余裕を失いたくない今日このごろです。メディアをザッピングして簡単に2点だけ、そして、別件から1点だけ記録しておきたいと思います。

日経新聞のサイトで、「日銀次期総裁、雨宮副総裁に打診 政府・与党が最終調整」と題する記事を見ました。記事のポイントを3点引用すると以下の通りです。注目は3番めのポイントでしょう。さらに、頭の回転が鈍い私にはよく理解できないジェンダー論を振りかざして、日銀OGである日本総研理事長が副総裁に就任したりすれば、アベノミクスはこれで完全に終了し、デフレに逆戻りした上で新たな景気停滞の10年が始まると私は予想します。他方で、「新しい戦前」にならないよう願っています。
【この記事のポイント】
  • 日銀次期総裁に雨宮正佳副総裁を充てる案で政府が調整
  • 2人の副総裁も含めた人事案を2月中に国会に提示
  • 異次元緩和の副作用をふまえ金融政策の正常化が使命に


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Economist 誌から The world's most, and least, democratic countries in 2022 の画像を引用すると上の通りです。いくつかの段階に分けて民主主義と権威主義が色分けされています。米国はもはや full democracies のではなくなり、西欧以外では、日本・韓国、チリなどのごく限られた国しか残らなくなってしまったのかもしれません。私の直感的な印象で、当然ながら、ヘリテージ財団の Index of Economic Freedom と強く相関しています。ただし、ヘリテージ財団は日本の経済的自由度は韓国よりも低い、とランキングしています。まあ、中国についてはもっとも権威主義レジームが強くて、経済的自由度も低い、というのは衆目の一致するところかもしれません。

最後に、どうでもいい点をひとつだけ、リポートの採点をしていて気づきの点です。というのは、当然ながら、学生番号と指名をチェックしながら採点しているわけですが、伝統的な名前が少なくなっている気がします。何が伝統的な名前かといえば、名前の最後の文字です。すなわち、男子学生の名前で「x男」、「x雄」、「x夫」と書いて、「xxお」と読ませる名前はほとんど見かけなくなりました。女子学生の方では「x子」が、これもほとんどいません。むしろ、いわゆるキラキラネームの方が目につくくらいです。漢字も凝ったものが多いです。我が家では小学校2年生とか3年生で初めて自分の名前を漢字で書く時に苦労しないように考えて、子供達の名前には10画未満の漢字を使いましたが、恐ろしく複雑な漢字を使っている名前も見かけます。実は、私が東京にいた時に師事した書道の先生から、お勤めが定年になった後に非常勤で近くの都立高校の書道教員をして、卒業証書の名前を400人とか500人分書く時、もう60歳を過ぎた書道のお師匠さんでも初めて見る漢字が必ず2-3人はあった、と聞かされた記憶があります。私は多様化はそれそのものとしてはいいことだと考えていますが、社会的な混乱をもたらすまでに多様化するケースはどうか、とも思っており、それくらい年齢を重ねてしまったのかもしれません。
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2023年02月03日 (金) 23:30:00

1月の米国雇用統計はちょっとびっくりの+517千人増を記録

日本時間の今夜、米国労働省から1月の米国雇用統計が公表されています。統計のヘッドラインを見ると、非農業部門雇用者数の前月差は直近の1月統計でも+517千人増となり、失業率は前月からさらに低下して3.4%を記録しています。まず、USA Today のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を手短に5パラ引用すると以下の通りです。

U.S. jobs report today: Economy added 517,000 jobs despite recession risk; unemployment fell to 3.4%
Employers added a booming 517,000 jobs in January as hiring unexpectedly surged despite high inflation, rising interest rates and the prospect of a weakening economy.
The unemployment rate fell from 3.5% to 3.4%, lowest since 1969, the Labor Department said Friday.
Economists surveyed by Bloomberg had forecast 185,000 job gain.
The blockbuster jobs total will likely not be welcomed by a Federal Reserve looking for job gains and wage growth to slow to further reduce high inflation and bolster its plan to pause its aggressive interest rate hike campaign in coming months.
As a result, futures traded for the Dow Jones Industrial Average dropped by nearly 80 points after the report was released.


よく取りまとめられている印象です。続いて、いつもの米国雇用統計のグラフは下の通りです。上のパネルでは非農業部門雇用者数の前月差増減の推移とそのうちの民間部門を、さらに、下は失業率をプロットしています。いずれも季節調整済みの系列であり、影をつけた部分は景気後退期です。NBERでは2020年2月を米国景気の山、2020年4月を谷、とそれぞれ認定しています。ともかく、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックが広がった2020年4月からの雇用統計は、やたらと大きな変動があって縦軸のスケールを変更したため、わけの判らないグラフになって、その前の動向が見えにくくなっています。少し見やすくしたんですが、それでもまだ判りにくさが残っています。

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ということで、米国の雇用は非農業部門雇用者の増加が、ちょっとびっくりの+517千人蔵を記録しました。加えて、失業率もさらに低下して3%台半ばのここ50年来の水準を続けているわけですので、労働市場の過熱感は継続していると考えるべきです。もちろん、インフレ高進に対応して連邦準備制度理事会(FED)が強力な金融引締めを実施していますが、それでも、直近の連邦公開市場委員会(FOMC)では、従来の利上げ幅から大きく縮小させて25ベーシスポイントにとどめました。私自身は米国経済はインフレ抑制のコストとして景気後退に陥るであろうと考えていましたが、1月の雇用統計を見る限り、雇用はまだまだ強いとしか言いようがありません。例えば、引用した記事の3パラ目にあるように、Bloomberg による市場の事前コンセンサスでは+200千人を下回る+185千人程度の雇用増との見通しだったので、実績は上振れた印象です。加えて、失業率も前月からさらに低下しています。明らかに、米国連邦公開市場委員会(FOMC)のメンバーが長期的な均衡水準と考える+4%を下回った状態が続いています。私が知る限り、昨年2022年も、一昨年2021年も、なぜか、1月の雇用者数増加幅は大きく跳ねる傾向があるのですが、毎年1月には季節調整をかけ直すので、何らかの統計のクセが出ている可能性は否定できませんが、それにしても、+500千人超の雇用増はちょっとしたサプライズです。ですので、USA Todayの記事の5パラめにあるように、FEDのさらなる強力な金融引締めを予想して株式市場は下落するという反応を見せました。他方で、米国のメタなどの大手IT企業が相次いで大幅な人員整理を打ち出していると報じられており、こういった動きが統計に反映されるのには少し時間がかかるのかもしれません。他方で、量的には失業率も雇用者数も加熱気味なのですが、同じ米国労働省の統計で見る限り、賃金上昇もインフレもピークを越えたように見受けられるのも事実です。下のグラフは、時間あたり賃金の伸びと消費者物価の前年同月比上昇率をプロットしています。少なくとも、パッと見ではすでにピークを超えた印象があります。

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2023年02月02日 (木) 14:00:00

帝国データバンク「『食品主要195社』価格改定動向調査」やいかに?

一昨日1月31日に、帝国データバンクから「『食品主要195社』価格改定動向調査」の結果が明らかにされています。リポートでは、今年2023年に値上げする食品は調査対象となった主要食品メーカー195社で、4月までに1万品目を超え、足元で値上げの動きが収まる気配は見られない、としています。まず、帝国データバンクのサイトから主要な結論を3点引用すると以下の通りです。

調査結果
  1. 月間2000品目超の値上げ、夏まで常態化の可能性も 今後注目は「輸入小麦」と「飲料」
  2. 年内値上げは食品主要195社で1万品目突破 前年より3カ月早く到達
  3. 2月は加工食品で昨年以降最多の「値上げラッシュ」 3月には菓子が月間最多に


もちろん、pdfの全文リポートもアップされています。物価が上昇する中で、特に食品価格の動向は注目されるところですので、リポートから図表を引用しつつ簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、リポートから 2023年の食品値上げの品目数/月別 を引用すると上の通りです。2023年1月末までに決定した今年中の飲食料品値上げ品目数は、上場する主要105 社で1万482品目、非上場の主要90社で1572品目がそれぞれ予定されており、累計で1万2000品目を超え、4月1日までに累計で1万品目を突破します。特に、4月には輸入小麦の価格改定が控えており、その結果がどのように反映されるかは必ずしも十分に確定されていないものの、大きな注目の的となっています。当然に、改定幅次第では現在のところ値上げの動きが比較的沈静化しているパンなどの製品価格に波及する可能性が十分あります。ほかに、物流などのコスト増が続いていますので、かさ張って重い酒類や飲料の値上げ動向も注意が必要です。値上げの原因としては、原材料高を理由とするものが99.5%に達し、加えて、原油高などのエネルギー88%、プラスチック容器などの包装・資材71%、などが理由に上げられています。

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続いて、リポートから 主な食品分野 価格改定の動向 を引用すると上の通りです。品目別では、加工食品6657品目がもっとも多く、チルド麺や缶詰製品のほか、ウィンナー製品などの値上げが目立っています。次いで、ドレッシングや醤油、ポン酢製品を中心とした調味料2236品目、焼酎や輸入ワイン・ウイスキーなど酒類を中心にした酒類・飲料1810品目が続きます。

消費者サイドでは、値上げは消費抑制にしか働きませんが、企業サイドでは収益が改善される場合もありえます。それが従業員の所得に還元されれば、消費の停滞はいく分なりとも緩和される可能性もあります。コストダウンのための設備投資の動向も気にかかるところです。製品値上げの背景とした従業員への賃上げや設備投資など、企業行動に注目が集まります。
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2023年02月01日 (水) 14:00:00

民主党政権下での子ども手当をどう評価すべきか?

我が家で購読してい朝日新聞を読んでいると、「子ども手当への『愚か者』発言に立憲民主反撃 『罵詈雑言言われた』」と題する記事があり、民主党政権下での子ども手当に関する評価に対して岸田総理が反省を示した、と報じられています。朝日新聞のサイトから記事の最初のパラだけを引用すると以下の通りです。

子ども手当への「愚か者」発言に立憲民主反撃 「罵詈雑言言われた」
立憲民主党は、民主党当時に児童手当の代わりとして所得制限のない「子ども手当」を創設した際、自民党から受けた攻撃に対する逆襲に出た。所得制限がないことを理由に丸川珠代参院議員から「この愚か者めが」との批判を受けたことに強く反発。丸川氏も岸田文雄首相も「反省」に追い込まれた。


はい。私も当時の子ども手当には評価すべき点があると分析し、長崎大学の紀要論文「子ども手当に関するノート: 世代間格差是正の視点から」を取りまとめています。そして、最後に、 "This study reviews circumstances of Japanese nurturing from the viewpoint of its cost and concludes that redressing the inter-generational inequality between the working and the retired generations should be one of the most effective measures to pick up birth rate." と、訳せば「本研究は、日本の子育て事情をコストの観点から見直し、現役世代と引退世代の世代間格差を是正することが、出生率を引き上げるためのもっとも有効な手段のひとつであると結論付けた。」と結論しています。まあ、私の論文の中では割と出来のいい方で、法政大学の林教授の論文で引用されたりしています。誰も見ないだろうと思いますが、参照先は以下の通りです。
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2023年02月01日 (水) 11:00:00

国際通貨基金(IMF)の「世界経済見通し改定」やいかに?

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昨日、シンガポールにおいて国際通貨基金(IMF)から「世界経済見通し改定」World Economic Outlook Update が公表されています。IMFのサイトから成長率見通しの総括表を引用すると上の通りです。
現在のインフレは2023~24年にかけて低下するものの、平均的な成長率には達しない、と見込まれています。世界経済の成長率は今年2023年+2.9%と、昨年2022年10月時点の見通しから+0.2%ポイント上方改定されています。日本の成長率見通しも同じように、2023年1.8%と前回見通しよりも+0.2%ポイントの上方改定となっています。2023年の成長率見通しを国別に見ると、米国が+0.4%ポイント上方改定されて+1.4%、また、中国が+0.8%ポイント上方改定されて+5.2%となったあたりが寄与度が大きそうです。特に中国は0コロナ制作からの転換が成長率の上昇をもたらしている可能性があります。以下、リポートから少し引用しつつ、私なりに重点を振り返りたいと思います。
世界経済のインフレ率は、現在の+10%近い水準から、2023年+6.6%、2024年+4.3%に低下すると見込んでいますが、まだ新型コロナウィルス感染症(COVID-19)パンデミック前と比較すると+3.5%ポイント高い、と指摘しています。加えて、先行きに関しては、"The balance of risks remains tilted to the downside" としており、インフレ率は低下するとしつつも、生計費危機については、"amid the cost-of-living crisis, the priority remains achieving sustained disinflation" であると指摘しています。

最後に、私は、実は、「危機」crisis というのであれば、生計費もさることながら、現在の金融引締めが流動性供給や資金調達に影響して、小規模なものかもしれないとしても、何らかの金融的な不安定につながる懸念を持っているのですが、リポートでも "With tighter monetary conditions and lower growth potentially affecting financial and debt stability" と指摘しています。これはご参考です。
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2023年01月31日 (火) 15:30:00

弱含み続く鉱工業生産指数(IIP)と物価上昇に追いつかない商業販売統計と堅調な雇用統計ほか

本日は、月末閣議日ということで、経済産業省から鉱工業生産指数(IIP)商業販売統計が、また、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が、それぞれ公表されています。いずれも昨年2022年12月統計です。IIP生産指数は季節調整済みの系列で前月から▲0.1%の減産でした。商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額は、季節調整していない原系列の統計で前年同月比+3.8%増の15兆1930億円でした。季節調整済み指数では前月から+1.1%の増加を記録しています。また、雇用統計では、失業率は前月から横ばいの2.5%を記録し、有効求人倍率も前月から横ばいの1.35倍となっています。まず、日経新聞のサイトから各統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

鉱工業生産2年ぶり低下 22年0.1%下落 コロナ前下回る
経済産業省が31日発表した2022年通年の鉱工業生産指数(15年=100)は前年比0.1%低下の95.6だった。2年ぶりに低下した。新型コロナウイルス流行前の19年(101.1)を下回っている。中国・上海市のロックダウン(都市封鎖)が解除された22年6月以降、生産用機械工業や自動車工業が回復していた反動が影響した。
22年10~12月期は95.4(季節調整済み)と前期比で3.1%低下した。
22年12月の指数(同)速報値は前月比0.1%低下の95.4だった。2カ月ぶりに低下した。生産判断は「弱含み」を維持した。国内外での需要減が響き、幅広い業種で前月を下回った。
生産は全15業種のうち、10業種で低下した。汎用・業務用機械工業は前月比で6%マイナスだった。ボイラー部品で前月からの反動が出たほか、汎用内燃機関は搭載製品が他の部品の調達不足で生産が減少した。鉄鋼・非鉄金属工業は3%、電気・情報通信機械工業は1.2%、それぞれマイナスとなった。
4業種は増加した。航空機用発動機部品などの自動車工業を除く輸送機械工業は4.5%増えた。自動車工業は0.6%、生産用機械工業は0.7%、それぞれ増加した。無機・有機化学工業のみ横ばいだった。
主要企業の生産計画から算出する生産予測指数は1月は前月比で横ばいを見込む。企業の予測値は上振れしやすく、例年の傾向をふまえた経産省の補正値は4.2%のマイナスとなった。2月の予測指数は4.1%の増加を見込む。
経産省の担当者は今後の見通しに関して「コロナ感染拡大の国内外の経済への影響や、物価上昇について注視していく必要がある」と話した。
12月の小売販売額3.8%増 飲食料品の価格上昇も影響
経済産業省が31日発表した2022年12月の商業動態統計速報によると、小売業販売額は前年同月比3.8%増の15兆1930億円だった。10カ月連続で前年同月を上回った。飲食料品の価格上昇でコンビニエンスストアやスーパー、ドラッグストアなどで増加が目立った。
コンビニは前年同月比3.9%増の1兆1014億円、スーパーは4.2%増の1兆5490億円だった。ドラッグストアは11.1%増の7312億円。新型コロナウイルスの感染拡大で医薬品の販売が好調だったという。
百貨店は3.7%増の6776億円、家電大型専門店は2.5%増の4845億円となった。ホームセンターは2カ月ぶりに増加に転じ、2.8%増の3395億円だった。除雪用品がよく売れた。
小売業販売額を季節調整済みの前月比で見ると、1.1%の増加だった。基調判断は「持ち直している」で据え置いた。
22年の年間小売販売額は154兆4040億円に上り、前年比で2.6%の増加となった。
求人倍率1.28倍に上昇、失業率は2.6%に低下 2022年
厚生労働省が31日発表した2022年平均の有効求人倍率は1.28倍と、前年を0.15ポイント上回った。新型コロナウイルス禍からの経済活動の再開に伴い求人が伸びた。総務省が同日発表した22年平均の完全失業率は2.6%と前年に比べて0.2ポイント低く、4年ぶりの低下となった。雇用状況は改善している。
有効求人倍率は全国のハローワークで仕事を探す人1人あたり何件の求人があるかを示す。22年は平均の有効求人が前年比12.7%増となり、有効求人倍率の上昇に寄与した。
22年の雇用状況は月を追うごとに改善した。厚労省があわせて発表した22年12月の有効求人倍率(季節調整値)は1.35倍と前月比で横ばいだった。1月の1.20倍から上昇し、8月以降は1.3倍台で推移している。
コロナ禍前の19年平均(1.60倍)には届かないが、先行きは有効求人倍率の回復が続く可能性がある。先行指標となる新規求人倍率は22年平均が2.26倍と、前年を0.24ポイント上回った。22年12月も2.39倍と、コロナ禍前だった19年12月の2.41倍に近づいている。
22年平均の完全失業者数は179万人で前年比16万人減った。減少は3年ぶり。就業者数は6723万人と前年比10万人増えた。22年12月の完全失業率は2.5%で前月から横ばいだった。
15歳以上の人口に占める就業者の割合を示す就業率は22年平均が60.9%と、前年比0.5ポイント上昇した。上昇は2年連続で、25年ぶりの高水準となった。


とてつもなく長くなりましたが、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは下の通りです。上のパネルは2015年=100となる鉱工業生産指数そのものであり、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷のそれぞれの指数です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、引用した記事にはありませんが、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、鉱工業生産指数(IIP)は▲1.2%の減産という予想でしたので、実績の▲0.1%減にはサプライズはありませんでした。ただし、引用した記事にもある通り、減産は減産ですので、統計作成官庁である経済産業省では生産の基調判断を「生産は弱含んでいる」で据え置いています。先月の下方修正を維持した形です。中国の上海における6月からのロックダウン解除をはじめとする海外要因から、7~9月期は季節調整済みの系列の前期比で見て+5.8%の増産でしたので、9~12月の▲3.1%の減産は反動の面もあるともいえます。もっとも、欧米先進国ではインフレ対応のために急激な金融引締を進めており、海外景気は大きく減速していますので、これも含めて内外の需要要因の方が大きいと私は考えています。例えば、経済産業省の解説サイトでは「12月は、汎用・業務用機械工業を始めとして多くの業種で低下したことなどから、2か月ぶりに低下」と減産の要因を解説しています。他方で、製造工業生産予測指数を見ると、足元の1月は12月から横ばい、2月は+4.1%の増産と、それぞれ予想されています。もっとも、上方バイアスを除去すると、1月の予想は前月比▲4.2%減となります。産業別に112月統計を少し詳しく見ると、減産寄与が大きいのは汎用・業務用機械工業の前月比▲6.0%減、寄与度▲0.47%、鉄鋼・非鉄金属工業の前月比▲3.0%減、寄与度▲0.18%、電気・情報通信機械工業の前月比▲1.2%減、寄与度▲0.11%などなどとなっていて、他方、生産増の寄与がもっとも大きかった産業は輸送機械工業(除、自動車工業)の前月比+4.5%増、寄与度+0.09%、自動車工業の+0.6%増、寄与度+0.08%、生産用機械工業の前月比+0..7%減、寄与度+0.06%、となります。

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続いて、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額のグラフは上の通りです。上のパネルは季節調整していない小売業販売額の前年同月比増減率を、下は季節調整指数をそのままを、それぞれプロットしています。影を付けた部分は景気後退期を示しています。小売業販売額は新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大による行動制限のない状態が続いており、外出する機会にも恵まれて堅調に推移しています。今年のゴールデンウィーク明けにはCOVID-19が感染法上の5類に分類されるようですから、小売業をはじめとする商業販売の上では追い風といえるかもしれません。季節調整済み指数の後方3か月移動平均でかなり機械的に判断している経済産業省のリポートでは、12月までのトレンドで、この3か月後方移動平均の前月比が+0.1%の上昇となり、ギリギリでプラスを維持していますので基調判断を「持ち直している」で据え置いています。他方で、消費者物価指数(CPI)との関係では、8~10月統計では前年同月比で+4%を超える増加率となっており、CPIの上昇率を上回る伸びを示していたのですが、11~12月統計ではCPI上昇率に届かず、やや雲行きが怪しくなってきています。インフレの高進と同時に消費の停滞も始まっている可能性が否定できません。引用した記事では、ホームセンターの除雪用品の売上増はご愛嬌としても、インバウンドの増加もあって百貨店などの売上が増加しているようです。最近まで石油価格の上昇に伴って増加を示していた燃料小売業が、11月統計の前年同月比では▲2.6%の減少に転じ、厳冬の12月統計でも+3.2%増にとどまっています。おそらく、数量ベースではさらに停滞感が強まっている可能性があります。ということで、いつもの注意点ですが、2点指摘しておきたいと思います。すなわち、第1に、商業販売統計は名目値で計測されていますので、価格上昇があれば販売数量の増加なしでも販売額の上昇という結果になります。第2に、商業販売統計は物販が主であり、サービスは含まれていません。ですから、足元での物価上昇の影響、さらに、サービス業へのダメージの大きな新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響は、ともに過小評価されている可能性が十分あります。特に、前者のインフレの影響については、12月の消費者物価指数(CPI)上昇率は、ヘッドラインも生鮮食品を除くコアCPIも、ともに前年同月比上昇率で+4.0%に達しており、名目の小売業販売額の+3.8%増はやや物価上昇を下回っています。ですから、この2点を考え合わせると、実質の小売業販売額は過大評価されている可能性には注意すべきです。

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続いて、雇用統計のグラフは上の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。よく知られたように、失業率は景気に対して遅行指標、有効求人倍率は一致指標、新規求人数ないし新規求人倍率は先行指標と見なされています。なお、影を付けた部分はほかのグラフと同じで景気後退期を示しています。そして、失業率に関する日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、前月から横ばいの2.5%と見込まれ、有効求人倍率に関する日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスは、前月から小幅改善の1.36倍と見込まれていました。実績では、失業率は市場の事前コンセンサスにジャストミートし、有効求人倍率は市場予想からやや下振れしました。総合的に見て、「こんなもん」という気がします。いずれにせよ、足元の統計はやや鈍い動きながらも雇用は底堅いと私は評価しています。ただし、休業者が12月統計では前年同月から+42万人増と、やや増え方が大きくなっている気がします。特に、製造業で+8万人となっている点は気がかりです。そういった中で、雇用の先行指標である新規求人を産業別に、パートタイムを含めて新規学卒者を除くベースの前年同月比伸び率で見ると、製造業が▲0.1%減とわずかながら減少に転じています。2022年は11月まで一貫してプラスでしたが、12月になって新規求人数がマイナスに転じたのは先進各国での景気の停滞を反映している可能性が高いと私は受け止めています。逆に、卸売業・小売業、宿泊業・飲食サービス業、など、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のダメージの大きかった産業で新規求人が増加しています。別の観点からすれば、雇用調整金などによりCOVID-19のダメージから労働市場を遮断する政策から、スムーズな労働移動が必要な段階に移った、のかもしれません。そうだとすれば、育休中かどうかは別として、リスキリングが必要になる可能性があると思います。

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以上に加えて、本日、内閣府から1月の消費者態度指数が公表されています。消費者態度指数のグラフは上の通りで、ピンクで示したやや薄い折れ線は訪問調査で実施され、最近時点のより濃い赤の折れ線は郵送調査で実施されています。影を付けた部分は景気後退期となっています。1月統計では、前月から+0.7ポイント上昇し31.0を記録しています。指数を構成する4指標のうち、3指標が上昇しています。すなわち、「雇用環境」が+2.2ポイント上昇し37.2、「収入の増え方」が+0.5ポイント上昇し35.6、「暮らし向き」が+0.4ポイント上昇し27.8となっていますが、ただ、「耐久消費財の買い時判断」だけが▲0.2ポイント低下し23.5を記録しています。たぶん、「耐久消費財の買い時判断」については、いく分なりとも物価上昇の影響が見られると私は考えています。統計作成官庁である内閣府では、消費者マインドの基調判断について、先月12月統計の「弱まっている」から「弱い動きがみられる」と半ノッチ上方修正しています。従来、この消費者態度指数の動きは新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大とおおむね並行しているのではないか、と私は分析していたのですが、さすがに、消費者マインドは物価上昇と一定の連動性を高めつつある、と考え始めています。

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最後の最後に、本日午前、シンガポールにて国際通貨基金(IMF)から「世界経済見通し改定」World Economic Outlook Update が公表されています。10月時点での見通しからやや上方改定となっています。すなわち、今年2023年の世界経済の成長率見通しは+0.2%ポイント上方改定されて+2.9%と見込まれています。また、日を改めて取り上げたいと思います。
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2023年01月30日 (月) 16:00:00

Economist 誌の Big Mac Index に見る為替の均衡レートやいかに?

最新号の The Economist で恒例の Big Mac Index が取り上げられています。タイトルは What inflation means for the Big Mac index であり、まあ、この特集の本来趣旨ではありますが、やや動きが volatile になっている為替レートとの関係を探っています。

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まず、Economist のサイトから Big Mac Index のグラフを引用すると上の通りです。米国では他の先進国と比較してもインフレ率がかなり高くなっているのですが、為替については米ドルは増価しています。すなわち、Big Mac Index の理論的な根拠となっている購買力平価とは逆に動いているわけです。一例として、日米の為替に言及していて、"Two years ago, for example, the Big Mac was 26% cheaper in Japan than America. In principle, this suggests the yen was undervalued and should have risen against the dollar. In fact, the opposite occurred. A Big Mac is now more than 40% cheaper in Japan." 最近2年間で耐日本円で減価すべき米ドルが逆に増価していて、すなわち、円安が進んで価格差が拡大している、と指摘しています。まあ、上のグラフのように、米国では$5超のビッグマックが$3そこそこで食べられるのはオトクなのかもしれません。

最後に、本件とは関係なく、明日、国際通貨基金(IMF)から「世界経済見通し改定」World Economic Outlook Update がシンガポールにて公表されます。また、そのうちに取り上げたいと考えています。
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2023年01月26日 (木) 19:30:00

2022年12月統計に見る企業向けサービス価格指数(SPPI)は早くも上昇幅が縮小し始めたか?

本日、日銀から昨年2022年12月の企業向けサービス価格指数 (SPPI)が公表されています。ヘッドラインSPPIの前年同月比上昇率は+1.5%を記録し、変動の大きな国際運輸を除くコアSPPIも+1.2%の上昇を示しています。サービス物価指数ですので、国際商品市況における石油をはじめとする資源はモノであって含まれていませんが、こういった資源価格の上昇がジワジワと波及している印象です。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

企業向けサービス価格、12月1.5%上昇
日銀が26日発表した2022年12月の企業向けサービス価格指数(2015年平均=100)は107.7と、前年同月比1.5%上昇した。22カ月連続のプラスとなり、2001年3月以来の高水準だった。22年の年間ベースの指数は106.9と2000年(109.2)以来の高水準となった。
値上げの動きがみられたタクシーや、年末に出稿需要が旺盛だったインターネット広告が指数を押し上げた。廃棄物処理では物流費上昇などの価格転嫁が進んだ。
一方、宿泊サービスでは観光振興策「全国旅行支援」が指数上昇を抑えた。日銀は全国旅行支援の影響がなければ、12月の前年比上昇幅は1.8%だったと推計する。
22年の年間ベースの前年比上昇幅は1.7%と、消費増税が影響した14年(2.6%)以来の高水準になった。日銀は「消費税(の影響)を除いたベースで仮にみると、1992年(1.9%)以来の伸びになると思う」とする。ロシアのウクライナ侵攻、新型コロナウイルスからの経済再開、コスト転嫁の動きなどが影響した。
調査対象となる146品目のうち、価格が前年同月比で上昇したのは93品目、下落したのは21品目だった。


コンパクトによく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業向けサービス物価指数(SPPI)のグラフは下の通りです。上のパネルはヘッドラインのサービス物価(SPPI)上昇率及び変動の大きな国際運輸を除くコアSPPI上昇率とともに、企業物価(PPI)の国内物価上昇率もプロットしてあり、下のパネルは日銀の公表資料の1ページ目のグラフをマネして、国内価格のとサービス価格のそれぞれの指数水準をそのままプロットしています。企業物価指数(PPI)とともに、企業向けサービス物価指数(SPPI)が着実に上昇トレンドにあるのが見て取れます。なお、影を付けた部分は、日銀公表資料にはありませんが、景気後退期を示しています。

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上のグラフで見ても明らかな通り、企業向けサービス価格指数(SPPI)の前年同月比上昇率の2022年中の推移は、2022年6月に上昇率のピークである+2.1%をつけ、その後も、7月と9月は+2.0%を記録しましたが、10月+1.8%、11月+1.7%、そして、本日公表された12月統計では+1.5%と、ジワジワと上昇幅を縮小させ始めているように見えます。もちろん、前年同期比プラスは2年近い22か月の連続となっていますし、石油価格の影響の大きい国際運輸を除くコアSPPI上昇率は昨年2022年9~11月に3か月連続で+1.5%まで拡大した後、12月にようやく+1.3%に上昇幅を縮小させたに過ぎません。すなわち、上昇幅が縮小し始めたと判断するのは早計かもしれませんが、他方で、少なくとも上昇率がグングン加速するという段階は脱したといえそうです。しかも、上昇率は日銀の物価目標に届かない+1%台半ばですから、私の見方からすれば高止まりしているとすら表現しかねます。もう何度も指摘されている点ですが、基本的には、石油をはじめとする資源価格の上昇がサービス価格にも波及したコストプッシュが主な要因と考えるべきです。もちろん、ウクライナ危機に起因する資源高の影響に加えて、新興国や途上国での景気回復に伴う資源需要の拡大というディマンドプルの要因も無視できません。
もう少し詳しく、SPPIの大類別に基づく直近2022年12月統計のヘッドライン上昇率+1.5%への寄与度で見ると、機械修理や労働者派遣サービスなどの諸サービスが+0.43%、石油価格の影響が強い外航貨物輸送、国際航空貨物輸送、内航貨物輸送などの運輸・郵便が+0.41%、リース・レンタルが+0.39%、などとなっています。また、寄与度ではなく大類別の系列の前年同月比上昇率で見ても、特に、運輸・郵便が+2.5%の上昇となったのは、エネルギー価格の上昇が主因であると考えるべきです。ただし、この上昇率も11月の+3.1%からはいくぶん縮小しています。もちろん、資源価格のコストプッシュ以外にも、リース・レンタルの+5.2%、広告の+1.7%の上昇などは、それなりに景気に敏感な項目であり、需要の盛り上がりによるディマンドプルの要素も大いに含まれている、と私は受け止めています。ですので、エネルギーなどの資源価格のコストプッシュだけでなく、国内需要面からもサービス価格は上昇基調にあると考えていいように私は受け止めています。また、引用した記事の3パラめで言及されている全国旅行支援の影響を見ると、2022年11月統計では諸サービスの中の宿泊サービスが前年同月比で+8.8%の上昇を記録していますが、12月には一気に+0.9%となっています。引用した記事でもインプリシットに寄与度が▲1%程度あるとの推計結果が指摘されています。
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2023年01月24日 (火) 11:30:00

帝国データバンク「金利上昇による企業への影響アンケート」の調査結果やいかに?

やや旧聞に属する話題ながら、ちょうど1週間前の1月17日に帝国データバンクから「金利上昇による企業への影響アンケート」の調査結果が明らかにされています。もちろん、pdfの全文リポートもアップされています。まず、帝国データバンクのサイトから調査結果の概要を3点引用すると以下の通りです。

調査結果
  1. 今後金利が上昇した場合、自社の事業に「プラスの影響の方が大きい」と見込む企業は8.5%にとどまった一方、「マイナスの影響の方が大きい」は40.0%で最も高くなった。他方、「どちらとも言えない(プラスとマイナス両方で相殺)」としている企業は31.4%だった
  2. 「大企業」において、「マイナスの影響の方が大きい」とした企業は全体より4.4ポイント高くなった。業界別では『不動産』における「マイナスの影響の方が大きい」割合は54.8%と突出して高く、全体を大幅に上回った
  3. 金利上昇で見込んでいる具体的な影響について、「借入金の支払利息が増える【マイナスの影響】」が56.5%でトップ。次いで、「輸入価格の低下(物価高騰の抑制)【プラスの影響】」が38.3%、「利息が高くなり資金調達しづらくなる【マイナスの影響】」が30.7%で続いた


私自身は、金利上昇は企業にとってはメリットは小さい、というか、デメリットのほうが大きいと考えているのですが、私の想像にマッチした結果が示されていると思います。ということで、リポートからいくつか図表を引用しつつ、簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、上のグラフはリポートから 金利上昇による事業への影響 を問うた結果です。大雑把に、マイナスの影響が40%、プラスの影響が10%、プラス・マイナスで相殺が30%、となっています。当然、金利上昇が金利負担を増加させるので、マイナスの影響はそこから生じます。他方で、相殺というのは、このマイナスの影響を為替の動向が打ち消すからだという回答が多いようです。プラスの影響は為替の円高化による輸入価格の低下や為替安定が上げられていますが、何と、金融政策の正常化を上げる企業もあります。地銀や信金・信組なのではないかという気はします。というのは、利ざやの回復が収益につながる、といった趣旨の信用金庫・同連合会の回答が示されているからです。

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続いて、上のグラフはリポートから 金利上昇による事業へのマイナスの影響 を規模別と主要業界別に問うた結果です。グラフの順は逆になりますが、右側の主要業界別では、借入れの大きな業界が並んでいるのではないかと私は受け止めています。左側のグラフでやや不思議なのは、規模別で大企業ほど金利上昇のマイナスの影響が大きいと回答している点です。金利負担という点から考えれば、規模の小さい企業ほどマイナスの影響が大きいと、私は単純に考えていたのですが、どうも違うようです。私の勝手な解釈ですが、一般的な論調が金利引上げ、というか、我が国でも先進各国にならって金融引締め、という方向に傾いているので、世間一般の議論を受け入れている割合を示している可能性があるかもしれない、と考えないでもありません。まあ、違っているかもしれません。謎です。

伝統的な経済学では、マクロ経済を構成する4主体のそれぞれの貯蓄投資バランスは、政府と海外がバランス、家計が貯蓄超過、企業が投資超過、と考えられてきました。家計の貯蓄を企業が投資するわけです。でも、バブル経済崩壊後の日本では企業までが貯蓄超過になって、その分、政府が大赤字になっています。ですから、ひょとしたら、貯蓄超過の企業において金利受払いはネットで収益をもたらしている可能性がある、のかもしれません。
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2023年01月23日 (月) 15:00:00

ニッセイ基礎研究所「重要なSDGsゴールは何?」を読む

先週金曜日の1月20日に、ニッセイ基礎研究所から「重要なSDGsゴールは何?」と題するリポートが明らかにされています。私は木蓮の「ミレニアム開発目標(MDGs)」のころからフォローしているのですが、確かに、SDGsになってゴールが17、ターゲットが169と発散気味になったと考えないでもありません。ということで、なかなかに、興味深い論点を提供していますので簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、ニッセイ基礎研究所のサイトから 経済主体別、重要視するゴールのランキング を引用すると上の通りです。私は、実は、私のような開発経済学にそれなりの興味を持つエコノミストでなければ、貧困や飢餓については日本国民一般の関心はそう高くないと考えていたもので、個人のレベルで貧困が2番めにランクされているとは考えも及びませんでした。そうなんでしょうか。それとも、リポート執筆者の勘違いかなにかの思い込みがあるのでしょうか。よく判りません。ただ、気候変動=地球温暖化については、それなりに日本国民の意識が高い点は理解していたつもりです。もっとも、地方公共団体ではそれほどではない、という事実は知りませんでした。
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2023年01月20日 (金) 12:00:00

とうとう+4%に達した2022年12月の消費者物価指数(CPI)上昇率をどう見るか?

本日、総務省統計局から昨年2022年12月の消費者物価指数 (CPI) が公表されています。生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPI上昇率は、季節調整していない原系列の統計で見て前年同月比で+4.0%を記録しています。報道によれば、第2次石油危機の影響がまだ残っていた1981年12月の+4.0%以来、41年ぶりの高い上昇率だそうです。ヘッドライン上昇率も+4.0%に達している一方で、エネルギー価格の高騰に伴うプラスですので、生鮮食品とエネルギーを除く総合で定義されるコアコアCPI上昇率は+3.0%にとどまっています。というか、エネルギーと生鮮食品を除いてもインフレ目標の+2%を超えています、というべきかもしれません。まず、日経新聞のサイトから統計を報じる記事を引用すると以下の通りです。

消費者物価、22年12月4.0%上昇 41年ぶり上げ幅
総務省が20日発表した2022年12月の消費者物価指数(CPI、2020年=100)は変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が104.1となり、前年同月比で4.0%上昇した。第2次石油危機の影響で物価が上がっていた1981年12月(4.0%)以来、41年ぶりの上昇率となった。22年通年は生鮮食品を除く総合で102.1となり、前年比2.3%上がった。
上昇は22年12月まで16カ月連続になった。4.0%という伸び率は消費税の導入時や税率引き上げ時を上回り、日銀の物価上昇目標2%の2倍に達した。事前の市場予想におおむね沿う数字だった。
通年での上昇は19年(0.6%)以来3年ぶり。2%を超えるのは、消費税率を上げた14年(2.6%)を除くと1992年(2.2%)以来。消費増税時を除いた比較で、2022年の上昇率2.3%は1991年(2.9%)以来31年ぶりの高い水準になった。
2022年12月は調査対象の522品目のうち、前年同月より上がったのは約8割に相当する417品目。変化なしは47、下がったのが58だった。上昇した品目は11月の412から増加した。
生鮮食品を含む総合指数は4.0%上がった。1991年1月(4.0%)以来、31年11カ月ぶりの上昇率だった。生鮮食品とエネルギーを除いた総合指数は3.0%上がり、消費増税時を超えて91年8月(3.0%)以来31年4カ月ぶりの水準となった。
エネルギーや食料など生活に欠かせない品目で値上がりが続いている。品目別に上昇率を見ると、エネルギー関連が15.2%で全体を押し上げた。11月の13.3%を上回り、15カ月連続で2桁の伸び。都市ガス代は33.3%、電気代は21.3%上がった。
生鮮を除く食料の上昇率は7.4%で、76年8月(7.6%)以来46年4カ月ぶりの水準に達した。食料全体は7.0%だった。鳥インフルエンザ拡大の影響もあって鶏卵が7.8%上昇した。食用油が33.6%、炭酸飲料は15.9%、弁当や冷凍食品といった調理食品は7.3%伸びた。外食も5.8%と高い。
家庭用耐久財は10.8%上がった。原材料や輸送価格の高騰でルームエアコン(13.0%)などが値上がりしている。
日本経済研究センターが16日にまとめた民間エコノミスト36人の予測平均では、2023年は物価上昇の勢いが鈍る。生鮮食品を除く消費者物価上昇率は23年1~3月期に前年同期比で2.71%になり、7~9月期(1.70%)に1%台になるという。
主要国の生鮮食品を含む総合指数は、22年12月の前年同月比の伸び率で日本を上回る。米国は6.5%、ユーロ圏は9.2%、英国は10.5%だった。


なにせ今一番の注目の経済指標ですのでやたらと長くなりましたが、いつものように、よく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、消費者物価(CPI)上昇率のグラフは下の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIと生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPI、それぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフはコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。寄与度はエネルギーと生鮮食品とサービスとコア財の4分割です。加えて、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1ケタの指数を基に私の方で算出しています。丸めずに有効数字桁数の大きい指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。統計局の公表数値を入手したい向きには、総務省統計局のサイトから引用することをオススメします。

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まず、引用した記事にもあるように、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは+4.0%の予想でしたので、ジャストミートしました。もちろん、物価上昇の大きな要因は、基本的に、資源とエネルギー価格の上昇による供給面からの物価上昇と考えるべきですが、もちろん、円安による輸入物価の上昇も一因です。すなわち、コストプッシュによるインフレであり、日銀による緩和的な金融政策による需要面からのディマンドプルによる物価上昇ではありません。CPIに占めるエネルギーのウェイトは1万分の712なのですが、12月統計におけるエネルギーの前年同月比上昇率は+15.2%に達していて、ヘッドラインCPI上昇率に対する寄与度は+1.21%あります。このエネルギーの寄与度+1.21%のうち、電気代が+0.78%と過半を占め、次いで、都市ガス代の+0.33%などとなっています。加えて、生鮮食品を除く食料の上昇率も高くなってきていて、10月統計+5.9%、11月統計+6.8%に続いて、12月統計では+7.4%の上昇を示しており、ウェイトがエネルギーの3倍超の1万分の2230ありますので影響も大きく、+1.67%の寄与となっています。統計からしても、値上がりの主役はエネルギーから食料に移ったと考えるべきです。12月統計の生鮮食品を除く食料の前年同月比上昇率とヘッドライン上昇率に対する寄与度を少し細かく中分類で見ると、+17.9%の上昇を示したハンバーガーをはじめとする外食が+5.8%の上昇率で+0.27%の寄与度、+10.4%の上昇を示したからあげをはじめとする調理食品が+7.3%で+0.26%の寄与度、+14.1%の上昇をを示したあんパンをはじめとする穀類が+9.6%の上昇率で+0.20%の寄与度、などとなっています。私も週に2~3回くらいは近くのスーパーで身近な商品の価格を見て回りますが、ある程度は生活実感にも合っているのではないかと思います。繰り返しになりますが、ヘッドライン上昇率とコアCPI上昇率は12月統計で、どちらも+4%ですから、エネルギーの寄与度が+1.21%、生鮮食品を除く食料による寄与度が+1.67%となっていますから、これだけで+3%近い寄与となります。それ以外の寄与は+1%強なわけです。
ただし、現在のインフレ目標+2%を超える物価上昇率は長続きしません。すなわち、おそらく、今年2023年1月統計で+4%が続く可能性は十分あるとしても、その後、急速にインフレ率は縮小します。引用した記事にもある通り、日本経済研究センター(JCER)によるEPSフォーキャストでは今年2023年1~3月期は+2.71%になり、2023年7~9月期には道銀のインフレ目標を下回って+1.70%まで上昇幅を縮小させると予想されています。他にも、ニッセイ基礎研究所のリポートによれば、「コアCPIは23年夏場以降に1%台後半まで伸びが鈍化すると予想している」と日本経済研究センターのESPフォーキャストと同じ見方をしています。政府による物価高対策の影響が大きいといえます。
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2023年01月19日 (木) 15:30:00

2022年12月統計に見る貿易赤字はそろそろ反転し縮小に転じたか?

本日、財務省から昨年2022年12月の貿易統計が公表されています。季節調整していない原系列で見て、輸出額が+11.5%増の8兆7872億円に対して、輸入額は+20.6%増の10兆2357億円、差引き貿易収支は▲1兆4484億円の赤字となり、昨年2021年8月から17か月連続で貿易赤字を計上しています。しかも、2022年通年の貿易赤字は▲19兆9713億円に上り、統計として比較可能な1979年以降で最大の年間貿易赤字だそうです。まず、日経新聞のサイトから記事の最後の2パラだけ引用すると以下の通りです。というのは、記事の多くの部分が2022年通年の統計で占められていますので、12月統計に言及している最後の2パラだけを引用します。

貿易赤字最大の19.9兆円 22年、円安と資源高響く
22年12月単月の貿易収支は1兆4484億円の赤字だった。赤字は17カ月連続で、12月としては最大の赤字となった。輸入は前年同月比20.6%増の10兆2357億円、輸出は11.5%増の8兆7872億円だった。石炭や原油などの輸入額が膨らみ、大幅な赤字が続いた。
12月は中国向けの輸出が1兆6178億円と前年同月比6.2%減った。減少は7カ月ぶり。自動車や自動車部品が減った。新型コロナウイルスの感染拡大などが影響したとみられる。


包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、▱兆6800億円あまりの貿易赤字が見込まれていて、予想レンジの貿易赤字の下限は▲2兆円あまりでしたので、実績の▲1.4兆円あまりの貿易赤字は大きなサプライズない印象です。加えて、引用した記事にもあるように、季節調整していない原系列の統計で見て、貿易赤字は昨年2021年8月から今年2022年11月までの17か月連続なんですが、上のグラフに見られるように、季節調整済みの系列で見ると、貿易赤字は昨年2021年4月から始まっていて、従って、21か月連続となります。しかも、直近時点では貿易赤字額がかなり大きいのが見て取れます。季節調整していない原系列の統計で見ても、季節調整済みの系列で見ても、グラフから明らかな通り、輸出額もそこそこ伸びているのですが、輸入が輸出を上回る水準で推移しているのが貿易赤字の原因です。ただし、ここ数ヶ月ではさすがに輸入の伸びは反転した可能性すらあり、貿易赤字がこのまま一本調子で拡大するとは考えにくく、むしろ、昨年2022年後半に毎月▲2兆円超の貿易赤字を記録していたころから赤字幅は着実に縮小しています。円安も一時に比べて落ち着きを取り戻しているのは多くのエコノミストの意見が一致するところです。ですので、私の主張は従来から変わりなく、エネルギーや資源価格の上昇に伴う輸入額の増加に起因する貿易赤字であり、輸入は国内生産や消費などのために必要なだけ輸入すればよく、貿易赤字や経常赤字は何ら悲観する必要はない、と考えています。
11月の貿易統計を品目別に少し詳しく見ると、まず、輸入については、国際商品市況での石油価格の上昇から原油及び粗油や液化天然ガス(LNG)の輸入額が大きく増加しています。しかし、前年同月比の伸び率は大きく縮小しました。すなわち、原油及び粗油は数量ベースで+1.2%増に過ぎないのですが、金額ベースでは+41.4%増と円安を含む価格要因によって大きく水増しされています。でも、昨年2022年10月統計までは原油及び粗油の輸入金額はほぼほぼ倍増でしたので、伸びは大きく鈍化してきている印象です。LNGも同じで数量ベースでは▲13.8%減であるにかかわらず、金額ベースでは+36.8%増となっています。加えて、食料品のうちの穀物類も数量ベースのトン数では+2.3%増に過ぎませんが、金額ベースでは+33.2%増とお支払いがかさんでいます。また、ワクチンを含む医薬品も増加しています。すなわち、前年同月比で見て数量ベースで+26.5%増、金額ベースではこれが膨らんで+50.9%増を記録しています。でも、当然ながら、貿易赤字を抑制するために、ワクチン輸入を制限しようという意見は少数派ではないか、と私は考えています。目を輸出に転じると、輸送用機器の中の自動車は季節調整していない原系列の前年同月比で数量ベースの輸出台数は▲8.2%減ながら、輸出金額では+16.2%増と伸びています。また、一般機械+23.9%増、電気機器+12.4%増と、我が国リーディング・インダストリーはそこそこ高い輸出の伸びを示しています。ですから、繰り返しになりますが、輸出額の伸びを上回る輸入額の伸び、中でも価格要因が貿易赤字の原因であり、私はむしろ、少ない輸出で多くの輸入が出来ているお得感すらあると感じています。
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2023年01月18日 (水) 18:30:00

基調判断が下方修正された2022年11月の機械受注をどう見るか?

本日、内閣府から昨年2022年11月の機械受注が公表されています。民間設備投資の先行指標であり、変動の激しい船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注が、季節調整済みの系列で見て前月比▲8.3%減の8388億円となっています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

機械受注8.3%減 22年11月、2カ月ぶりマイナス
内閣府が18日発表した2022年11月の機械受注統計によると、設備投資の先行指標とされる「船舶・電力除く民需」(季節調整済み)は前月比8.3%減の8388億円だった。マイナスは2カ月ぶり。海外景気が減速するとの観測から、企業が設備投資に慎重になっている可能性がある。
QUICKが事前にまとめた市場予測の中央値(0.9%のマイナス)を大きく下回った。
単月のぶれを除くため算出した22年9~11月の3カ月移動平均は前期比2.6%減だった。内閣府は基調判断を9~10月の「持ち直しの動きに足踏みがみられる」から「足踏みがみられる」に下方修正した。
業種別にみると、製造業からの受注は9.3%減った。半導体製造装置など電気機械関連は32.7%のマイナスだった。業務用機械関連も15.4%減った。世界経済が減速するとの懸念が背景にあるとみられる。
非製造業からの受注は3.0%減った。マイナスは3カ月ぶり。ITやインターネット関連企業といった情報サービス業は27.6%減少した。先月までの大きな伸びの反動もあったとみられる。リース業は7.6%減った。


いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、機械受注のグラフは下の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注で見て前月比▲1%に達しない程度の微減の予想で、予想レンジの下限では▲3.0%減でしたから、実績の▲8.3%減は大きく下振れた印象です。統計作成官庁である内閣府では基調判断を「持ち直しの動きに足踏みがみられる」から「足踏みがみられる」と明確に1ノッチ下方修正しています。上のグラフで見ても、増加のトレンドが反転した可能性が読み取れると思います。ただし、受注水準としても決して低くはない、と私は受け止めています。産業別に少しだけ詳しく見ると、製造業が▲9.3%減の3860億円、船舶と電力を除く非製造業も▲3.0%減の4698億円と、いずれも減少していますが、海外経済の減速の影響を受ける製造業のマイナス幅がより大きい形になっています。ですから、1ドル130円近い円安で価格競争力が増しているとはいえ、世界経済が先進国を中心にインフレ抑制を目指して金融引締めを継続し明らかに停滞色を強めている中で、輸出に依存する割合が高い製造業の減少幅が、新型コロナウィルス(COVID-19)の影響が大きいとはいえ内需に軸足を置く非製造業よりも大きくなっているわけです。
先行き機械受注を考えると、11月統計の非製造業のマイナスは、特に、9~10月に大きく増加した情報サービス業からの受注が11月には反動減で▲27.6%減となった影響が大きく、少なくとも非製造業については先行きの機械受注は底堅いと私は感じています。加えて、全国旅行支援やインバウンドの回復もサービス消費を後押しする可能性が高く、非製造業からの機械受注は緩やかながら増加する可能性が高いと見るべきです。他方、製造業については欧米先進国のインフレと景気にもよりますが、さらに受注が減少する可能性も排除できないと私は考えています。
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2023年01月17日 (火) 14:30:00

ニッセイ基礎研究所「もし日銀が利上げしたら日経平均はいくら下落するか」やいかに?

昨日1月16日にニッセイ基礎研究所から「もし日銀が利上げしたら日経平均はいくら下落するか」と題するリポートが明らかにされています。広く報じられているように、昨年2022 年12月20日に、日銀は0.25%程度であった長期金利の上限を0.5%程度に引き上げ、ここ数日、長期金利はほぼほぼこの上限金利で推移しています。

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まず、リポートから 上昇が止まらない日本の長期金利 のグラフを引用すると上の通りです。今日明日と開催されている日銀金融政策決定会合もにらみつつ、市場での長期金利上昇圧力が強くなっているのが読み取れます。

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金利上昇は、当然に、短期的には為替レートの増価、すなわち、円高に帰結しますので、景気の下押し圧力、そして、株価の下落要因となります。そして、結論としての 長期金利が上昇した場合の理論株価 (試算) をリポートから引用すると上のテーブルの通りです。テーブルの中にあるように、「イールドスプレッドと予想EPSを固定した場合の試算」の結果です。先週末の1月13日の時点で、長期金利は0.50%、PERの逆数である株式の収益利回りは8.18%、この両者の差であるイールドスプレッドは7.68%あります。もし、長期金利が1.00%に上昇した場合、株と国債のイールドスプレッドが変わらないと仮定すると、株式の収益利回りも国債に合わせる形で8.68%に上昇します。EPSで計測される株式のリターンが変わらない仮定の下で、株式の収益利回りが上昇するわけですので、株価水準が低下する必要があります。ですので、1月13日の株価水準に比べて、長期金利が1.00%になると日経平均株価は▲11.4%、▲2,981円下落する、という試算結果が示されています。

実は、このリポートでは、テーブルの数字を読み違えている、というか、テーブルからの転記ミスがあったりするのですが、秀逸なのはイールドカーブが日銀における操作対象となっている10年もの国債の部分でへこんでいて、10年を少し下回る満期の国債金利が0.5%を上回ったりしているグラフが示されたりしている点です。イールドカーブをスムーズにして金融市場での取引を正常化するために、イールドカーブに合わせて10年もの国債金利を上げる、というのは、本末転倒な気がしますが、ひょっとしたら、さらに上限金利が引き上げられる可能性はゼロではないかもしれません。
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2023年01月16日 (月) 22:00:00

とうとう2ケタ上昇となった12月の企業物価指数(PPI)をどう見るか?

本日、日銀から11月の企業物価 (PPI) が公表されています。ヘッドラインとなる国内物価の前年同月比上昇率は+10.2%まで上昇幅が拡大しました。まず、日経新聞のサイトから統計を報じる記事を引用すると以下の通りです。

企業物価指数、22年12月10.2%上昇 年間では過去最高
日銀が16日発表した2022年12月の企業物価指数(速報値、2020年平均=100)は119.5と前年同月比では10.2%上昇し、9月の10.3%以来の高水準になった。指数は9カ月連続で過去最高。22カ月連続で前年の水準を上回った。エネルギー価格の高騰を転嫁する動きが長期化し、電力や都市ガスが全体を押し上げる状況が続いている。22年の年間ベースの上昇幅は9.7%と1981年以降過去最高だった。
企業物価指数は企業間で取引するモノの価格動向を示す。12月の上昇率は民間予測の中心値である9.5%を0.7ポイント上回った。10月の上昇率は9.6%と0.2ポイント、11月は9.7%と0.4ポイントそれぞれ上方に改定された。輸入物価の上昇率はドルなどの契約通貨ベースで8.1%だが、円ベースでは22.8%だった。
品目別では電力・都市ガス・水道が52.3%と、全体をけん引する姿が続く。電力や都市ガスは7~9月の燃料費を参照しており、原油価格などの高騰を背景にした価格改定の影響が足元でも残る。
公表している515品目のうち上昇したのは454品目と全体の88%に上り、高水準での推移が続いている。鉄鋼(20.9%)、飲食料品(7.7%)、農林水産物(6.9%)などの上昇が目立ち、サプライチェーン(供給網)の川中や川下でも価格転嫁が進む。
年間ベースでは指数は114.7と比較可能な1980年以降で最高、上昇率は9.7%と比較可能な81年以降で最高を更新した。資源価格の上昇により川上の上昇が目立った2021年と比べ、22年は川中・川下で上昇がみられた。
原油や天然ガスの高騰が時間差を伴って電力・都市ガス・水道や石油・石炭製品、化学製品を押し上げた。鉄鋼でも21年の鉄鉱石の価格上昇を反映する動きがみられ、自動車向けなどで価格転嫁が進んだ。鉄鉱石は日本に届くまでに時間がかかるため、足元の海外市況との差が生じやすい。原材料などのコスト上昇を背景に飲食料品も全体の押し上げに影響した。


注目の指標のひとつであり、やたらと長くなりましたが、包括的に取りまとめられています。続いて、企業物価(PPI)上昇率のグラフは下の通りです。国内物価、輸出物価、輸入物価別の前年同月比上昇率をプロットしています。また、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、企業物価指数(PPI)のヘッドラインとなる国内企業物価の前年同月比上昇率は+9.5%と見込まれていましたので、実績の+10.2%はかなり上振れしレンジの上限+10.0%を超えて、ややサプライズとなりました。PPI上昇の要因は主として2点あり、とりあえずの現象面では、コストプッシュが大きな要因となっています。すなわち、第1に、国際商品市況の石油価格をはじめとする資源価格やエネルギー価格の上昇とその波及を受けたの上昇です。ただ、この要因は、グラフからも明らかな通り、輸入物価上昇率が低下し始めている一方で国内物価がわずかながらも上昇幅を拡大していますので、国内への波及の方が主役となりつつあると私は考えています。さらに、第2に、ディマンドプルの要因も含みつつ、前年同月に比べて為替レートが減価している円安要因です。ただし、これも広く報じられている通り、日銀に金融政策スタンスの微妙な変更により、円安は一定修正され始めています。
品目別には、引用した記事にもあるように、前年同月比で見て、電力・都市ガス・水道+52.3%、鉱産物+33.9%のほか、鉄鋼+20.9%、パルプ・紙・同製品+13.3%、金属製品+12.8%、窯業・土石製品+11.0%が2ケタ上昇となっています。しかし、ウッド・ショックとまでいわれた木材・木製品はとうとう▲4.7のマイナスに転じましたし、石油・石炭製品も+8.0%まで上昇幅を縮小させています。もちろん、上昇率は鈍化しても、価格としては高止まりしているわけですが、そろそろ、エネルギー価格についてはすでにピークアウトした可能性があるように見えなくもありません。例えば、上のグラフでは資源価格に牽引された輸入物価上昇率が最近時点で大きく上昇率を鈍化させているのが見て取れます。ただし、飲食料品については+7.7%とまだ高い上昇率ですし、インフレが輸入資源価格から国内に波及し、特に、飲食料品の値上げや高価格に主役を交代させているように見えます。
最後に、そうはいいつつも、エネルギー価格についてはシンクタンクなどのリポートを見ておきたいと思います。すなわち、日本総研の「原油市場展望」では「原油価格は振れを伴いながらも80ドル前後を中心に推移する見通し」と分析されており、また、みずほ証券「マーケット・フォーカス(商品:原油)」では「足元の原油価格は底堅い展開。世界景気減速による需要の冷え込みに加え、中国のコロナ感染拡大から一時年初来マイナス圏に沈んだ。一方、OPECプラスによる減産継続のほか、中国のゼロコロナ政策緩和等が支えに。」と指摘しています。ご参考まで。石油などの商品市況の先行きは私には判りませんし、為替相場の予想はもっと理解不能です。悪しからず。
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2023年01月13日 (金) 14:00:00

世界経済フォーラム Global Risk Report における Top 10 Risks やいかに?

一昨日の1月11日、世界経済フォーラムから Grobal Risks Report 2023 が明らかにされています。もちろん、pdfの全文リポートもアップロードされています。まず、世界経済フォーラムのサイトから今後2年間と10年間のそれぞれの Top 10 Risks のテーブルを引用すると下の通りです。

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今後2年間のトップリスクは Cost of living crisis、そして、10年間では Falure to mitigate climate change、そして、10年間の2番めも同じように気候変動問題から、Falure of climate-change adaption となっています。気候変動問題はもう少し先かと思っていましたが、もう10年間のタイムスパンに入ってくるということなのでしょう。2年間でも10年間でも、ともに8番めにリストアップされているのは Widespread cybercrime and cyber insecurity となっています。そうかもしれません。エコノミストとして、興味深く見ていたのは、リスクのカテゴリーです。色分けの凡例として5カテゴリーがアルファベット順に示されていますが、Economy の水色のカテゴリーに入ると考えられるリスクはトップ10には見受けられません。もう、リーマン証券破綻二段を発した金融危機なんかは、それほど大きなリスクとは考えられなくなったのかもしれません。また、リポートにすべて目を通したわけではありませんから、上のトップ10のリストだけを見た感想ながら、感染症=Infection も見かけません。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)もリスクとしては後景に退いたという見立てなのかもしれません。

ついでながら、お正月1月3日でしたのでスルーしたのですが、Eurasia Group からも Top Risks 2023 が明らかにされています。コチラもpdfの全文リポートはもちろん、日本語訳まで提供されています。リストアップされた項目だけ、以下の通り、引用しておきます。

  1. Rogue Russia ならず者国家ロシア
  2. Maximum Xi 「絶対的権力者」習近平
  3. Weapons of mass disruption 「大混乱生成兵器」
  4. Inflation shockwaves インフレショック
  5. Iran in a corner 追い詰められるイラン
  6. Energy crunch エネルギー危機
  7. Arrested global development 世界的発展の急停止
  8. Divided States of America 分断国家アメリカ
  9. Tik Tok boom TikTokなZ世代
  10. Water stress 逼迫する水問題
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2023年01月12日 (木) 22:30:00

2か月連続で悪化した景気ウォッチャーと黒字幅が拡大した経常収支をどう見るか?

本日、内閣府から昨年2022年12月の景気ウォッチャーが、また、財務省から2022年11月の経常収支が、それぞれ、公表されています。各統計のヘッドラインを見ると、景気ウォッチャーでは、季節調整済みの系列の現状判断DIが前月から▲0.2ポイント低下の47.9となった一方で、先行き判断DIは+1.9ポイント上昇の47.0を記録しています。また、経常収支は、季節調整していない原系列の統計で+1兆8036億円の黒字を計上しています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

22年12月の街角景気、2カ月連続悪化 原材料高などで
内閣府が12日発表した2022年12月の景気ウオッチャー調査(街角景気)によると、3カ月前と比べた現状判断指数(DI、季節調整値)は47.9と、前月から0.2ポイント低下した。マイナスは2カ月連続。物価高や原材料価格の高騰で、景況感が悪化した。
調査期間は12月25~31日。好不況の分かれ目となる50は6カ月連続で下回った。経済社会活動が新型コロナウイルス禍から正常化しつつあるとの声もあり、内閣府は現状の景気の判断を「持ち直しの動きがみられる」で据え置いた。4カ月連続で同じ表現となった。
項目別の判断指数をみると、企業動向関連は1.5ポイント下がり、45.8だった。製造業を中心に低下した。「中小企業では材料費や電気代・ガソリン価格の値上がりが激しく対応できていない」(南関東の経営コンサルタント)との声があった。
家計動向関連は0.3ポイントと小幅に改善し、48.6となった。旅行やイベント参加が増えてきたことから「外出用の婦人服の売り上げも回復基調にある」(近畿の百貨店)といった感触があるという。一方で「物価上昇による客の節約意識は根強い」(中国のスーパー)との懸念も聞かれた。
2~3カ月後の先行き判断指数は1.9ポイント上昇し、47.0だった。4カ月ぶりのプラスとなった。「観光や外出を積極的に楽しむムードが加速していく」(北海道の観光名所)との予測がある。「灯油や電気代といった冬の光熱費の上昇に伴い、特に食品の節約が顕著になる」(東北のスーパー)との見方もあった。
経常収支11月1.8兆円の黒字 海外からの配当が押し上げ
財務省が12日発表した2022年11月の国際収支統計(速報)によると、貿易や投資などの海外との取引状況を表す経常収支は1兆8036億円の黒字だった。黒字額は前年同月から16.4%増え、11月として過去最大となった。前年同月を上回るのは8カ月ぶり。海外子会社からの配当金の増加や訪日外国人の急回復による黒字が貿易収支の赤字を上回った。
経常収支は輸出から輸入を差し引いた貿易収支や、外国との投資のやり取りを示す第1次所得収支、旅行収支を含むサービス収支などで構成する。22年10月は円安や資源高を受けた貿易赤字により、経常収支は9カ月ぶりの赤字となっていた。
11月の貿易収支は1兆5378億円の赤字で、11月としては過去最大だった。
輸出額は前年同月比20.7%増の9兆81億円だった。自動車や建設用・鉱山用機械などがけん引し、21カ月連続で前年同月を上回った。輸入額は33.8%増の10兆5460億円だった。エネルギー価格の高騰などで22カ月連続で増えた。
原油の輸入価格は1バレルあたり100ドル38セント、円建てで1キロリットルあたり9万2344円だった。前年同月比で2~5割高の水準ながら10月に比べ低下した。11月は対ドルの円相場も円高方向に動いたことで貿易赤字も10月に比べると縮小した。
第1次所得収支は3兆7245億円の黒字で、前年同月から53.9%増えた。黒字額は11月としては過去最大で、他の月を含めても過去3番目の水準となった。
内訳をみると海外子会社からの配当金などの直接投資収益が自動車関連や商社などで増えた。資源価格の高騰で海運やエネルギー関連の海外子会社の業績が好調だったほか、円安で円建ての評価額が膨らんだ。債券や株式投資の証券投資収益も、輸送関連で大口の配当金があった。
サービス収支は1664億円の赤字だった。赤字幅は前年同月比で300億円超、前月比で5000億円超縮小した。訪日外国人の消費額から日本人が海外で使った金額を引いた旅行収支の黒字が950億円と、前年同月比で6倍になったことが寄与した。政府が22年10月に水際対策を大幅に緩和したことで、訪日外国人は急回復してきた。


やたらと長くなりましたが、いつもながら、よく取りまとめられている印象です。続いて、景気ウォッチャーのグラフは下の通りです。現状判断DIと先行き判断DIをプロットしており、色分けは凡例の通りです。影をつけた期間は景気後退期を示しています。

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現状判断DIは、ここ半年ほどを見れば、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大にほぼ従う形で、やや荒っぽい動きを示しています。上のグラフの通りです。すなわち、3月21日でまん延防止等重点措置の行動制限が終了した後、4月50.4、5月54.0、6月52.9と50超の水準が続いたものの、COVID-19の感染拡大により7月は43.8へ大きく悪化した後、8月45.5、9月48.4、10月49.9と、緩やかに改善してきていたものの、11月48.1、12月47.9と僅かながら低下しています。足元では、新型コロナウイルスの感染者数も、死者数もかなり大きくなっていて、加えて、食品やエネルギーを中心に物価上昇が続いていることから、現状判断指数もやや低下気味です。ただ、全国旅行支援や入国制限の緩和が後押しとなってホテルや飲食店などから来客数が増加しているという見方も出始めていて、先行き判断DIは12月統計で上昇しています。従って、統計作成官庁である内閣府では、引用した記事にもある通り、基調判断を「持ち直しの動きがみられる」に据え置いています。12月統計の現状判断DIを前月差で少し詳しく見ると、家計動向関連が+0.3ポイントの改善となった一方で、企業動向関連は▲1.5ポイント悪化していて、差引きで▲0.2ポイントの悪化という結果になっています。しかし、12月統計の先行き判断DIを見ると、小売関連が前月から+3.0ポイント、飲食関連が+2.9ポイント、サービス関連が+2.3ポイント、それぞれ改善しており、物価上昇の先行きは不透明な一方で、繰り返しになりますが、全国旅行支援やインバウンドに対する期待が現れている可能性があります。

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続いて、経常収支のグラフは上の通りです。青い折れ線グラフが経常収支の推移を示し、その内訳が積上げ棒グラフとなっています。季節調整をしていない原系列の統計で見て、最近の統計で、季節調整していない原系列、季節調整済みの系列ともに、ほぼほぼ経常黒字を記録しています。2015年以降で経常赤字を記録したのは、原系列の統計の昨年2022年10月統計▲6093億円だけです。ただし、この経常黒字の水準は大きく縮小しています。グラフから見て取れる通りです。その要因は貿易収支の赤字です。もっとも、注意しておくべき点があります。すなわち、広く報じられているのでついつい信じ込みやすくなるのですが、昨年2022年2月末に始まったロシアのウクライナ侵攻による資源高、あるいはこれに対応した欧米での金融引締めに起因する円安が原因で貿易赤字になっているわけではない点は理解しておくべきです。正確には、季節調整済みの系列で見て、貿易赤字は一昨年2021年8月から1年あまり16か月に渡って、ほぼほぼ継続しています。この期間に例外的に貿易収支が黒字を記録したのは2021年10月だけです。サービス収支も合わせた貿易サービス収支ではさらに1か月さかのぼって2021年7月から17か月連続の赤字が続いています。この期間で貿易サービス収支に黒字を記録した例外月はありません。季節調整していない原系列の貿易収支で見ても、昨年2021年11月から11か月連続の貿易赤字となっています。ですから、貿易赤字はウクライナ危機による資源高や円安の半年ほど前から始まっている点は見逃すべきではありません。もちろん、国際商品市況で石油をはじめとする資源価格が値上がりしているのは事実であり、資源に乏しい日本では輸入額が増加するのは当然です。消費や生産のために必要な輸入をためらう必要はまったくなく、経常赤字や貿易赤字は何の問題もない、と私は考えていますので、付け加えておきます。
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2023年01月11日 (水) 18:30:00

基調判断が「改善」で据え置かれた2022年11月統計の景気動向指数をどう見るか?

本日、内閣府から11月の景気動向指数公表されています。統計のヘッドラインを見ると、CI先行指数が前月から▲0.5ポイント下降の99.1を示した一方で、CI一致指数は▲1.0ポイント下降の97.6を記録しています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

22年11月の景気一致指数、0.5ポイント低下 基調判断は据え置き
内閣府が11日発表した2022年11月の景気動向指数(CI、2015年=100)速報値は、景気の現状を示す一致指数が前月比0.5ポイント低下の99.1となった。QUICKがまとめた市場予想の中央値は0.5ポイント低下だった。数カ月後の景気を示す先行指数は1.0ポイント低下の97.6だった。
内閣府は、一致指数の動きから機械的に求める景気の基調判断を「改善を示している」に据え置いた。
CIは指数を構成する経済指標の動きを統合して算出する。月ごとの景気変動の大きさやテンポを示す。


いつもながら、コンパクトによく取りまとめられた記事だという気がします。次に、景気動向指数のグラフは下の通りです。上のパネルはCI一致指数と先行指数を、下のパネルはDI一致指数をそれぞれプロットしています。影をつけた期間は景気後退期を示しています。

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11月統計のCI一致指数については、3か月連続の下降ながら、7か月後方移動平均はまだ上昇を続けています。したがって、統計作成官庁である内閣府では基調判断を「改善」で据え置いています。ただし、3か月後方移動平均は10月統計から下降に転じています。また、CI一致指数を構成する系列を詳しく見ると、マイナスの寄与が大きい順に、生産指数(鉱工業)▲0.42ポイント、投資財出荷指数(除輸送機械)▲0.30ポイント、商業販売額(卸売業)(前年同月比)と輸出数量指数がともに▲0.21ポイントなどとなっています。他方、プラス寄与は、大きなものでは耐久消費財出荷指数+0.41ポイントが上げられます。
景気の先行きについては、国内のインフレや円安の景気への影響については中立的に私は見ています。ただし、CI先行指数の3か月後方移動平均も7か月連続後方移動平均も、ともに、2022年9月統計から3か月連続でマイナスに転じています。加えて、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大は明らかに増加に転じた可能性が高く、第8波に入っていると考えるべきです。国内要因は中立的としても、海外要因については、欧米をはじめとする各国ではインフレ対応のために金融政策が引締めに転じていて、米国をはじめとして先進国では景気後退に向かっている可能性が十分あります。ですから、全体としては、先行きリスクは中立というよりも下方に厚い可能性があると考えるべきです。
例えば、第一生命経済研究所のリポートでは、「12月分で基調判断が『足踏み』に下方修正される可能性」があると指摘するとともに、「海外経済の減速から輸出が落ち込む展開となれば、基調判断は『足踏み』にとどまらず、『下方への局面変化』、『悪化』へと進んでいく可能性がある」と結論しています。私もいくぶんなりとも合意します。
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2023年01月10日 (火) 13:30:00

人工知能AIはヒトの労働を補完するのか代替するのか?

先週1月6日に、労働政策研究・研修機構(JILPT)から「製造業におけるAI技術の活用が職場に与える影響」と題する資料シリーズNo.262が明らかにされています。経済開発協力機構(OECD)との共同研究の成果であり、昨年2022年3月の「金融業におけるAI技術の活用が職場に与える影響」(資料シリーズNo.253)の続編となるものです。どちらもpdfの全文リポートが以下の通りアップロードされています。


AIの導入に関しては、英国オックスフォード大学のFrey and Osborne (2013) "The Future of Employment: How susceptible are jobs to computerisation"で分析されているように、かなりの職種がAI+ロボットに代替される可能性が指摘されています。しかし、この2本の調査結果では、いずれも「AI技術が仕事を代替した事実はみられなかった。実態は、AI技術による仕事の補完であった。」(製造業編、p.118)、「AI技術による人の代替については、現時点においては生じておらず、AI技術は人の仕事を補完する役割を果たしていた。」(金融業編、p.104)と結論されています。製造業編では、ごていねいにも、「加えて、仕事の代替として、正規従業員の仕事を非正規従業員の仕事へと代替する事実についてもみられなかった。」(製造業編、p.118)とまで言い切っています。

この調査はあくまで基礎調査であり、OECDの共同研究の一貫なわけですので、日本だけでなく世界の先進各国から調査結果が寄せられて、OECDでそれなりに分析されることと思います。より詳細で深い議論を私は期待しています。
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2023年01月06日 (金) 23:30:00

米国雇用統計は堅調だが賃金と物価の上昇は一段落か?

日本時間の今夜、米国労働省から昨年2022年12月の米国雇用統計が公表されています。非農業部門雇用者数の前月差は昨年2021年から着実にプラスを記録していましたが、直近の12月統計では+223千人増となり、失業率は前月からさらに低下し3.5%を記録しています。まず、USA Today のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を6パラ引用すると以下の通りです。

Live updates: Jobs report is out today. Economy added 223,000 jobs in December.
Hiring slowed modestly in December as employers added 223,000 jobs to close out an otherwise booming year, possibly foreshadowing the deeper pullback and recession that many economists expect in 2023.
The unemployment rate fell from 3.7% to 3.5%, the Labor Department said Friday.
Economists surveyed by Bloomberg had estimated that 200,000 jobs were added last month.
For all of 2022, the U.S. added 4.5 million jobs, second most behind the 6.7 million gained the previous year, as the nation continued to heal from record job losses in the early days of the COVID-19 pandemic.
What the Fed really wants:Putting the brakes on runaway wage growth could help avoid a recession in 2023, but it won't be easy.
Job gains for October and November were revised down by a total 28,000. October's was revised from 284,000 to 263,0000 and November's, from 263,000 to 256,000, painting a slightly weaker portrait of job growth in the fall.


よく取りまとめられている印象です。続いて、いつもの米国雇用統計のグラフは下の通りです。上のパネルでは非農業部門雇用者数の前月差増減の推移とそのうちの民間部門を、さらに、下は失業率をプロットしています。いずれも季節調整済みの系列であり、影をつけた部分は景気後退期です。NBERでは2020年2月を米国景気の山、2020年4月を谷、とそれぞれ認定しています。ともかく、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックが広がった2020年4月からの雇用統計は、やたらと大きな変動があって縦軸のスケールを変更したため、わけの判らないグラフになって、その前の動向が見えにくくなっています。少し見やすくしたんですが、それでもまだ判りにくさが残っています。

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ということで、米国の雇用は非農業部門雇用者の増加がまだ+200千人をかなり超えているわけですし、失業率もさらに低下して3%台半ばのここ50年来の水準を続けているわけですので、労働市場の過熱感は継続していると考えるべきです。もちろん、インフレ高進に対応して連邦準備制度理事会(FED)が極めて急速な利上げを実行していますので、ひとまず、景気には急ブレーキがかかりつつあり、このままリセッションまで突き進むことを危惧する見方も少なくないようです。ただし、引用した記事の3パラ目にあるように、Bloomberg による市場の事前コンセンサスでは+200千人程度の雇用増との見通しだったので、実績はやや上振れた印象です。加えて、失業率も金融政策が決定される米国連邦公開市場委員会(FOMC)のメンバーが長期的な均衡水準と考える+4%を下回った状態が続いています。

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続いて、上のグラフは、米国における時間あたり賃金上昇率と消費者物価上昇率の推移です。連邦準備制度理事会(FED)による強力な金融引き締めに従って、賃金上昇率も、消費者物価上昇率も、ともにピークを超えた印象ですが、消費者物価指数の伸びで計測したインフレ率は、FEDが目標とする+2%をと比較して高い水準にあり、金融引締めが終了する段階に達したとは見受けられません。私がいつも大学の授業で強調しているように、市場経済では価格をシグナルとする資源配分が効率的であるわけですから、インフレで価格シグナルに撹乱が生じるのは効率性を大きく阻害します。ですから、インフレを抑制すべく、極端にいえば、景気を犠牲にして景気後退を招くことをいとわず物価の安定を目指すべき、という経済政策運営上のコンセンサスがあります。ですから、私は、コトここに至っては、米国や英国をはじめとする他の先進諸国のうち、インフレ抑制=物価安定のために景気後退を覚悟の上で金融引締めを継続する国は決して少なくないと考えています。
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2023年01月03日 (火) 13:00:00

昨年9月に書いた紀要論文が公刊される

昨年9月に書いた紀要論文 "Identifying Trough of Recent COVID-19 Recession in Japan: An Application of Dynamic Factor Model" が昨年末に公刊され、今日、紀要のサイトを見てみるとちゃんとアップロードされていました。一応、昨年末の段階で抜刷は50部受け取っていたのですが、pdfに変換されてアップロードされているのを確認しました。めでたいことです。

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Yoshioka, Shinji (2022) "Identifying Trough of Recent COVID-19 Recession in Japan: An Application of Dynamic Factor Model," Ritsumeikan Evonomic Review 71(2-3), Sep. 2022, pp.107-25

論文の引用情報は上の通りです。
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2022年12月28日 (水) 17:30:00

3か月連続の減産で基調判断が下方修正された11月の鉱工業生産指数(IIP)をどう見るか?

本日、経済産業省から11月の鉱工業生産指数(IIP)が公表されています。ヘッドラインとなる生産指数は季節調整済みの系列で前月から▲0.1%の減産でした。9~10月統計に続いて、3か月連続の減産です。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

11月の鉱工業生産0.1%低下 基調判断「弱含み」に下げ
経済産業省が28日発表した11月の鉱工業生産指数(2015年=100、季節調整済み)速報値は95.2となり、前月から0.1%下がった。低下は3カ月連続。国内外での需要減少を受け、半導体製造装置やスマートフォン向けのディスプレー製造装置などが落ち込んだ。
生産の基調判断は「緩やかに持ち直しているものの、一部に弱さがみられる」から「生産は弱含み」に引き下げた。下方修正は2カ月連続となる。
生産は全15業種のうち、8業種で低下した。半導体製造装置やフラットパネル・ディスプレー製造装置といった生産用機械工業は前月比5.7%のマイナスだった。国内外での半導体やスマホの需要減を映し出した。
汎用・業務用機械工業は7.9%減だった。コンベヤや運搬用クレーンで10月に大型案件があった反動減となった。合成ゴムやポリエチレンなどの無機・有機化学工業は3.9%のマイナスだった。
残る7業種は上昇した。無機・有機化学工業・医薬品を除いた化学工業は5.7%のプラスだった。新型コロナウイルスの感染拡大の谷間で外出する人が増え、乳液や化粧水類が増えた。プラスチック製品工業は2.5%、電気・情報通信機械工業は1.1%それぞれ上昇した。
主要企業の生産計画から算出する生産予測指数は12月に前月比で2.8%の上昇を見込む。ただ、企業の予測値は上振れしやすく、例年の傾向をふまえた経産省の補正値は1.3%のマイナスとなった。23年1月の予測指数は0.6%の低下となっている。
経産省の担当者は今後の見通しについて「変異タイプのコロナ感染拡大や部材供給不足、物価上昇の影響を注視する必要がある」と説明した。


いつもながら、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは下の通りです。上のパネルは2015年=100となる鉱工業生産指数そのものであり、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷のそれぞれの指数です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、引用した記事にはありませんが、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、鉱工業生産指数(IIP)は▲0.3%の減産という予想でしたので、実績の▲0.1%減にはサプライズはありませんでした。ただし、引用した記事にもある通り、3か月連続の減産ですので、統計作成官庁である経済産業省では生産の基調判断を「緩やかに持ち直しているものの、一部に弱さがみられる」から「生産は弱含んでいる」と、明確に1ノッチ下方修正しています。2月連続の下方修正です。中国の上海における6月からのロックダウン解除をはじめとする海外要因から、7~9月期は季節調整済みの系列の前期比で見て+5.8%の増産でしたので、9~11月の減産は反動の面もあるともいえます。もっとも、欧米先進国ではインフレ対応のために急激な金融引締を進めており、海外景気は大きく減速していますので、これも含めて内外の需要要因の方が大きいと私は考えています。例えば、経済産業省の解説サイトでは「11月は、国内・海外需要の減少等を受けて、汎用・業務用機械工業や生産用機械工業などが低下したことから、3か月連続で低下」と減産の要因を解説しています。他方で、製造工業生産予測指数を見ると、足元の12月は+2.8%の増産、来年2023年1月は▲0.6%の減産と、それぞれ予想されています。もっとも、上方バイアスを除去すると、12月の予想は前月比▲1.3%減となります。
産業別に11月統計を少し詳しく見ると、減産寄与が大きいのは汎用・業務用機械工業の前月比▲7.9%減、寄与度▲0.68%、生産用機械工業の前月比▲5.7%減、寄与度▲0.56%、無機・有機化学工業の前月比▲3.9%減、寄与度▲0.17%、などとなっています。逆に、生産増の寄与がもっとも大きかった産業は化学工業(除、無機・有機化学工業・医薬品)の前月比+5.7%増、寄与度+0.23%、プラスチック製品工業+2.5%増、寄与度+0.11%、電気・情報通信機械工業の前月比+1.1%増、寄与度+0.10%となります。
鉱工業生産の先行きに関しては、米国の連邦準備制度理事会(FED)をはじめとして、欧米先進国ではインフレ抑制のためにいっせいに金融引締めを強化しており、景気後退まで突き進む可能性が十分あると私は見ています。すなわち、外需の動向が懸念されます。新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大も冬を迎えて第8波に入ったとする向きもあり、生産の先行きは不透明といわざるを得ません。
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2022年12月27日 (火) 23:30:00

伸びが鈍化した11月の商業販売統計と堅調な伸びが続く雇用統計

本日、経済産業省から商業販売統計が、また、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が、それぞれ公表されています。いずれも11月統計です。商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額は、季節調整していない原系列の統計で前年同月比+2.6%増の13兆1430億円でした。季節調整済み指数では前月から▲1.1%減を記録しています。また、雇用統計では、失業率は前月から小幅に低下して2.5%を記録し、有効求人倍率は前月から横ばいの1.35倍となっています。まず、日経新聞のサイトから各統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

小売販売額2.6%増 11月、9カ月連続プラス
経済産業省が27日発表した11月の商業動態統計速報によると、小売業販売額は前年同月比2.6%増の13兆1430億円だった。9カ月連続で前年同月を上回った。気温が高く外出の機会が増えたことなどが寄与したとみられる。
業態別でみると、コンビニエンスストアは前年同月比7.9%増の1兆324億円だった。プラスは12カ月連続。行楽需要が伸びたほか、観光地を中心にインバウンド(訪日外国人客)消費の回復も進んだようだ。地域振興クーポンの販売も好調だった。
ドラッグストアは7.9%増の6377億円。百貨店はインバウンド効果もあって4.1%増の5177億円だった。スーパーは2.6%増の1兆2416億円、家電大型専門店は0.3%増の3589億円だった。ホームセンターは1.3%減の2673億円だった。
小売業販売額の季節調整済みの指数は105.7で、前月から1.1%低下した。経産省は基調判断を「持ち直している」で据え置いた。
求人倍率横ばい1.35倍、11月 失業率は2.5%に低下
雇用の持ち直しが続いている。厚生労働省が27日発表した11月の有効求人倍率は季節調整値で1.35倍と前月から横ばいだった。新規求人倍率は2.42倍と0.09ポイント上昇し、新型コロナウイルス禍前の2019年8月以来の高水準になった。訪日外国人消費の回復などで宿泊・飲食サービスを中心に求人が増えた。総務省が同日発表した11月の完全失業率は2.5%と0.1ポイント下がった。
有効求人倍率は全国のハローワークで仕事を探す人1人あたり何件の求人があるかを示す。倍率が高いほど企業の人手が足りず、職を得やすい状況ということになる。コロナ前のピークの18年9月には1.64倍まで高まった。感染拡大後は20年9月の1.04倍で底を打ち、徐々に回復してきた。
今回11月は景気の先行指標とされる新規求人数が86万5294人と前年同月比8.7%増えた。業種別では宿泊・飲食サービス(21.2%増)の伸びが大きかった。水際対策の緩和でインバウンド(訪日客)需要が拡大し、ドラッグストアなどの卸・小売り(13.0%増)も堅調だった。
就業者数は6724万人と前年同月比で28万人増え、4カ月連続で増加した。完全失業者数は前月比で5万人減って173万人となった。


やや長くなったものの、よく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額のグラフは下の通りです。上のパネルは季節調整していない小売業販売額の前年同月比増減率を、下は季節調整指数をそのままを、それぞれプロットしています。影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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ということで、小売業販売額は新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大による行動制限のない状態が続いており、外出する機会にも恵まれて堅調に推移していたのですが、11月統計では少しブレーキがかかったように見えます。上のグラフを見ても明らかな通り、一時的なものかもしれませんが、季節調整していない原系列の前年同月比で見た増加率も、季節調整済み系列の前月比も、どちらも伸びが低下しています。ただし、季節調整済み指数の後方3か月移動平均でかなり機械的に判断している経済産業省のリポートでは、10月までのトレンドで、この3か月後方移動平均の前月比が+0.2%の上昇となり、ギリギリでプラスを維持していますので基調判断を「持ち直している」で据え置いています。他方で、8~10月統計では前年同月比で+4%を超える増加率となっており、消費者物価指数(CPI)の上昇率を上回ゆの日を示していたのですが、本日公表の11月統計では雲行きが怪しくなってきています。インフレの高進と同時に消費の停滞も始まっているかのようです。引用した記事では、インバウンドの増加もあって百貨店などの売上が増加しているように報じていますが、百貨店もスーパーも季節調整済みの系列で見た11月統計では前月比で減少しています。加えて、先月の10月統計まで増加を示していた燃料小売業が11月統計の前年同月比では▲2.6%の減少に転じています。値上げ幅が縮小するとともに、おそらく、数量ベースではかなりの減少という結果なのだろうと私は考えています。ということで、いつもの注意点ですが、2点指摘しておきたいと思います。すなわち、第1に、商業販売統計は名目値で計測されていますので、価格上昇があれば販売数量の増加なしでも販売額の上昇という結果になります。第2に、商業販売統計は物販が主であり、サービスは含まれていません。ですから、足元での物価上昇の影響、さらに、サービス業へのダメージの大きな新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響は、ともに過小評価されている可能性が十分あります。特に、前者のインフレの影響については、11月の消費者物価指数(CPI)のヘッドライン前年同月比上昇率は+3.8%に達しており、名目の小売業販売額の+2.6%増は物価上昇を下回っています。ですから、この2点を考え合わせると、実質の小売業販売額は過大評価されている可能性は十分あると考えるべきです。

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続いて、雇用統計のグラフは上の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。よく知られたように、失業率は景気に対して遅行指標、有効求人倍率は一致指標、新規求人数ないし新規求人倍率は先行指標と見なされています。なお、影を付けた部分は商業販売統計のグラフと同じで景気後退期を示しています。そして、失業率に関する日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、前月からやや低下して2.5%と見込まれ、有効求人倍率に関する日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスは、前月からやや改善の1.36倍と見込まれていました。実績では、失業率は市場の事前コンセンサスにジャストミートし、有効求人倍率は市場予想からやや下振れしました。総合的に見て、「こんなもん」という気がします。いずれにせよ、足元の統計はやや鈍い動きながらも雇用は底堅いと私は評価しています。ですので、休業者も11月統計では前年同月から+20万人増と、増加したものの微増にとどまりました。季節調整していない原系列の統計ながら、実数として7~8月ともに250万人を超えていた休業者が、9~11月には各月とも200万人を下回っていることも事実です。そういった中で、雇用の先行指標である新規求人を産業別に、パートタイムを含めて新規学卒者を除くベースの前年同月比伸び率で見ると、宿泊業、飲食サービス業(+21.2%増)、卸売業、小売業(+13.0%増)、学術研究、専門・技術サービス業(+10.6%増)が2ケタ増と伸びが大きくなっています。最後の学術研究、専門・技術サービス業は別でしょうが、宿泊業、飲食サービス業及び卸売業、小売業については、明らかに、インバウンドの回復とともに、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のダメージの大きかった産業で新規求人が増加しているのが確認できます。
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2022年12月26日 (月) 18:30:00

21か月連続の上昇が続く11月の企業向けサービス価格指数(SPPI)をどう見るか?

本日、日銀から11月の企業向けサービス価格指数 (SPPI)が公表されています。ヘッドラインSPPIの前年同月比上昇率は+1.7%を記録し、変動の大きな国際運輸を除くコアSPPIも+1.3%の上昇を示しています。サービス物価指数ですので、国際商品市況における石油をはじめとする資源はモノであって含まれていませんが、こういった資源価格の上昇がジワジワと波及している印象です。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

企業向けサービス価格、21カ月連続上昇 11月1.7%
日銀が26日発表した11月の企業向けサービス価格指数(2015年平均=100)は107.6と、前年同月比1.7%上昇した。21カ月連続のプラス。指数は2001年3月以来の高水準が続くが、上昇幅は前月から0.1ポイント縮小した。宿泊サービスや損害保険が押し下げた。タクシーなどの道路旅客輸送やリースは上昇した。
損害保険は鉄鉱石などの価格下落が影響した。宿泊サービスのマイナスは、10月に始まった政府の観光促進策「全国旅行支援」による割引が背景にある。
調査対象となる146品目のうち、価格が前年同月比で上昇したのは95品目、下落したのは19品目だった。


コンパクトによく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業向けサービス物価指数(SPPI)のグラフは下の通りです。上のパネルはヘッドラインのサービス物価(SPPI)上昇率及び変動の大きな国際運輸を除くコアSPPI上昇率とともに、企業物価(PPI)の国内物価上昇率もプロットしてあり、下のパネルは日銀の公表資料の1枚目のグラフをマネして、国内価格のとサービス価格のそれぞれの指数水準をそのままプロットしています。企業物価指数(PPI)とともに、企業向けサービス物価指数(SPPI)が着実に上昇トレンドにあるのが見て取れます。なお、影を付けた部分は、日銀公表資料にはありませんが、景気後退期を示しています。

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上のグラフで見ても明らかな通り、企業向けサービス価格指数(SPPI)の前年同月比上昇率の最近の推移は、昨年2021年3月にはその前年2020年の新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響の反動もあって、+0.7%の上昇となった後、2021年4月には+1.1%に上昇率が高まり、本日公表された今年2022年9月統計まで、21か月連続の前年同期比プラスを続けています。しかし、9月統計で+2.0%を記録した後、10月統計では+1.8%、そして、本日公表の11月統計では+1.7%と、ジワジワと上昇幅を縮小させています。すなわち、上昇率がグングン加速するというわけではありませんが、高止まりしている印象です。基本的には、石油をはじめとする資源価格の上昇がサービス価格にも波及したコストプッシュが主な要因と私は考えています。ですから、上のグラフでも、SPPIのうちヘッドラインの指数と国際運輸を除くコアSPPIの指数が、最近時点で少し乖離しているのが見て取れます。もちろん、ウクライナ危機の影響に加えて、新興国や途上国での景気回復に伴う資源需要の拡大というディマンドプルの要因も無視できません。
もう少し詳しく、SPPIの大類別に基づく11月統計のヘッドライン上昇率+1.7%への寄与度で見ると、土木建築サービス、機械修理、労働者派遣サービスなどの諸サービスが+0.51%、石油価格の影響が強い外航貨物輸送、国際航空貨物輸送、内航貨物輸送などの運輸・郵便が+0.50%、リース・レンタルが+0.41%、テレビ広告、インターネット広告、その他の広告など景気に敏感な広告が+0.13%、損害保険や金融手数料などの金融・保険が+0.11%、などとなっています。また、寄与度ではなく大類別の系列の前年同月比上昇率で見ても、特に、運輸・郵便が+3.1%の上昇となったのは、エネルギー価格の上昇が主因であると考えるべきです。もちろん、資源価格のコストプッシュ以外にも、リース・レンタルの+5.4%、広告の+2.6%の上昇などは、それなりに景気に敏感な項目であり、需要の盛り上がりによるディマンドプルの要素も大いに含まれている、と私は受け止めています。ですので、エネルギーなどの資源価格のコストプッシュだけでなく、国内需要面からもサービス価格は上昇基調にあると考えていいのかもしれません。
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2022年12月23日 (金) 18:00:00

+4%近くに達した11月の消費者物価指数(CPI)上昇率をどう見るか?

本日、総務省統計局から11月の消費者物価指数 (CPI) が公表されています。生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPI上昇率は、季節調整していない原系列の統計で見て前年同月比で+3.7%を記録しています。報道によれば、第2次石油危機の影響がまだ残っていた1981年12月の+4.0%以来、40年11か月ぶりの高い上昇率だそうです。ヘッドライン上昇率も+3.8%に達している一方で、エネルギー価格の高騰に伴うプラスですので、生鮮食品とエネルギーを除く総合で定義されるコアコアCPI上昇率は+2.8%にとどまっています。というか、エネルギーと生鮮食品を除いてもインフレ目標の+2%を超えて、+2.8%に達しています、というべきかもしれません。まず、日経新聞のサイトから統計を報じる記事を引用すると以下の通りです。

日本の消費者物価、11月3.7%上昇 40年11カ月ぶり水準
総務省が23日発表した11月の消費者物価指数(CPI、2020年=100)は変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が103.8となり、前年同月比で3.7%上昇した。第2次石油危機の影響で物価高が続いていた1981年12月の4.0%以来、40年11カ月ぶりの伸び率となった。円安や資源高の影響で、食料品やエネルギーといった生活に欠かせない品目が値上がりしている。
15カ月連続で上昇した。政府・日銀が定める2%の物価目標を上回る物価高が続く。QUICKが事前にまとめた市場予想の中央値(3.7%)と同じだった。消費税の導入時や増税時も上回っている。
調査対象の522品目のうち、前年同月より上がったのは412、変化なしは42、下がったのは68だった。上昇した品目は10月の406から増加した。
生鮮食品を含む総合指数は3.8%上がった。91年1月(4.0%)以来、31年10カ月ぶりの上昇率だった。生鮮食品とエネルギーを除いた総合指数は2.8%上がり、消費増税の影響を除くと92年4月(2.8%)以来、30年7カ月ぶりの水準となった。
品目別に上昇率を見ると、生鮮を除く食料は6.8%、食料全体は6.9%だった。食品メーカーが相次ぎ値上げを表明した食用油は35.0%、牛乳は9.5%、弁当や冷凍品といった調理食品は6.8%伸びた。外食も5.3%と高い伸び率だった。
エネルギー関連は13.3%だった。10月の15.2%を下回ったものの、14カ月連続で2桁の伸びとなった。都市ガス代は28.9%、電気代は20.1%上がった。ガソリンは価格抑制の補助金効果もあって1.0%のマイナスと1年9カ月ぶりに下落した。
家庭用耐久財は10.7%上がった。原材料や輸送価格の高騰でルームエアコン(12.7%)などが値上がりしている。
日本経済研究センターが15日にまとめた民間エコノミスト36人の予測平均は、生鮮食品を除く消費者物価上昇率が2022年10~12月期に前年同期比で3.61%となっている。23年1~3月期は2.57%になり、1%台になるのは同7~9月期(1.63%)と予想する。
主要国の生鮮食品を含む総合指数は、11月の前年同月比の伸び率で日本より高い。米国は7.1%、ユーロ圏は10.1%、英国は10.7%となっている。


やたらと長くなりましたが、いつものように、よく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、消費者物価(CPI)上昇率のグラフは下の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIと生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPI、それぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフはコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。寄与度はエネルギーと生鮮食品とサービスとコア財の4分割です。加えて、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1ケタの指数を基に私の方で算出しています。丸めずに有効数字桁数の大きい指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。統計局の公表数値を入手したい向きには、総務省統計局のサイトから引用することをオススメします。

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まず、引用した記事にもあるように、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは+3.7%の予想でしたので、ジャストミートしました。もちろん、物価上昇の大きな要因は、基本的に、ロシアによるウクライナ侵攻などによる資源とエネルギー価格の上昇による供給面からの物価上昇と考えるべきですが、もちろん、円安による輸入物価の上昇も一因です。すなわち、コストプッシュによるインフレであり、日銀による緩和的な金融政策による需要面からのディマンドプルによる物価上昇ではありません。CPIに占めるエネルギーのウェイトは1万分の712なのですが、11月統計におけるエネルギーの前年同月比上昇率は10月統計の+15.2%から少しだけ縮小して、それでも、2ケタの+13.3%に達していて、ヘッドラインCPI上昇率に対する寄与度は+1.06%あります。このエネルギーの寄与度+1.06%のうち、電気代が+0.72%と大半を占め、次いで、都市ガス代の+0.25%などとなっています。ただし、エネルギー価格の上昇率は3月には20.8%であったものが、ジワジワと上昇率が縮小し続けていて、10月統計では+15.2%、そして、直近で利用可能な11月統計では+13.3%と、高止まりしつつも、ビミョーに落ち着いてきているようにも見えます。他方で、生鮮食品を除く食料の上昇率は拡大を続けていて、4月統計+2.6%から一貫して上昇幅を拡大し、9月統計+4.6%、10月統計+5.9%に続いて、11月統計では+6.8%の上昇を示しており、+1.54%の寄与となっています。統計からしても、値上がりの主役はエネルギーから食料に移ったと考えるべきです。11月統計の生鮮食品を除く食料の前年同月比上昇率とヘッドライン上昇率に対する寄与度を細かく品目別に見ると、引用した記事にもある通り、食用油が+35.0%の上昇率で+0.05%の寄与度、牛乳が+9.5%の上昇率で+0.04%の寄与度、+11.6%の上昇を示したからあげをはじめとする調理食品が+6.8%で+0.24%の寄与度、+17.9%の上昇を示したハンバーガーをはじめとする外食が+5.3%の上昇率で+0.25%の寄与度、などとなっています。私も週に2~3回くらいは近くのスーパーで身近な商品の価格を見て回りますが、ある程度は生活実感にも合っているのではないかと思います。繰り返しになりますが、ヘッドライン上昇率とコアCPI上昇率は11月統計で、どちらも+3%台後半ですから、エネルギーの寄与度が+1.06%、生鮮食品を除く食料による寄与度が+1.54%となっています。
ただし、現在のインフレ目標+2%を超える物価上昇率は長続きしません。すなわち、おそらく、12月統計か、あるいは、来年2023年1月統計で+4%をつける可能性は十分あるとしても、その後、急速にインフレ率は縮小します。引用した記事にもある通り、日本経済研究センター(JCER)によるEPSフォーキャストでは来年2023年1~3月期は+2.57%になり、2023年7~9月期には+1.63%まで上昇幅を縮小させると予想されています。政府による物価高対策の影響が大きいといえます。例えば、ニッセイ基礎研究所のリポートによれば、「物価高対策に伴うエネルギー価格の抑制によるコアCPI上昇率の押し下げ効果は足もとの▲0.6%程度から、23年2月以降は▲1.5%程度まで拡大する」と指摘しています。私が見た限りでも、大和総研のリポート第一生命経済研究所のリポートでも同じ論調です。従って、繰り返しになりますが、来年2023年4~6月期から7~7月期あたりには、インフレ目標の+2%を下回る可能性が十分にあると考えるべきです。政府が中央銀行の物価目標の達成を邪魔しているわけで、決して、経済政策のあるべき姿とは私には考えられませんが、国民の意見がそうなっているのかもしれません。
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2022年12月22日 (木) 11:00:00

賃金と生産性とスキルについての雑感

先日、2022年度下期の直木三十五賞の候補作が5点公表されています。以下の通りです。
  • 一穂ミチ『光のとこにいてね』(文藝春秋)
  • 小川哲『地図と拳』(集英社)
  • 雫井脩介『クロコダイル・ティアーズ』(文藝春秋)
  • 千早茜『しろがねの葉』(新潮社)
  • 凪良ゆう『汝、星のごとく』(講談社)


もちろん、直木賞候補作品ですから、それなりに名の知れた有名作家ばかりです。昨日、私は大学の生協に 千早茜『しろがねの葉』(新潮社) を注文に行きました。文学部のOGで、今年上半期の芥川賞を受賞した 高瀬隼子『おいしいごはんが食べられますように』(講談社) と同じパターンで、生協の書店では売り切れることが確実と考えました。
生協の書店で注文すると、いきなり、「『しろがねのは』って、どんな漢字ですか」と質問され、挙げ句に、「売切れで版元にもなくて、人気なんですかね」と言われてしまいました。版元に電話までしながら、「重版も近々出るのですが、すべて予約でいっぱい」と言い放たれてしまいます。私は少しびっくりしました。そうすると、奥から別の書店員さんが出て来て言うに、「明日の12月23日に重版が出来上がって、1冊だけ予約して確保してあります」とのことでしたので、私の方に取り置きをお願いしておきました。まあ、GDP統計や消費者物価指数などの経済指標のニュースに無関心な経済学部の学生さんが少なくないように私は感じていますので、たとえOG作家さんであっても、有名文学賞のニュースに無関心な書店員さんもいるのだろうとは思います。他方で、世の中には、「本屋大賞」とかあって、書店員さんが選ぶ賞もあります。それなりに「本の目利き」のような書店員さんはいっぱいいるんだろうとも想像しています。例えば、「目利き」ほど大げさではないとしても、10年以上も昔ながら、長崎大学の生協の書店での実体験として、「村上春樹の『1Q84 BOOK3』を予約できるのですが、先生はお好きだったようなので取っておきますか」と聞かれたことがあります。当時は、というか、今でも村上作品は好きですので取り置きをお願いしました。他方で、「先生が買わなくても人気の本ですし、売れ残ることはないでしょうから、予約はしておきます」ということでした。まあ、順当な経営判断だという気がした記憶があります。
極めて限定されたサンプルしか見ていませんし、ここ10年で書店員さんのスキルが大きく落ちたとは私は決して思いません。でも、通常、経済界のおエラい社長さんなんかが言うように「スキルアップして生産性を上げないと賃上げができない」という関係は、もちろん、一定正しいとはいえ、同時に、逆の因果関係で、賃上げがなされないがために、その低い賃金に適合したスキルしか身につけられず、従って、生産性も上がらず、低賃金と低スキルと低生産性のトラップに陥っている、という関係も無視できないような気がします。ひょっとしたら、非正規雇用の書店員さんはそういった可能性が高いのかも知れません。私の想像ですから、間違っているかもしれません。

最後に、2022年度下期の直木賞にお話しを戻すと、勤務大学のOGの作品ながら、『しろがねの葉』の受賞はどこまで期待できるかどうか不透明です。直木賞候補ですので、ほかにも人気作家が並んでいますし、『しろがねの葉』は戦国時代末期の石見銀山を舞台にしていて、やや地味な時代小説、とも聞き及んでいます。まあ、間もなく入手できるでしょうから実際に読んでみたいと思います。
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2022年12月21日 (水) 11:00:00

週刊『ダイヤモンド』のベスト経済書やいかに?

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週刊『ダイヤモンド』12/24・31合併号が送られていました。「ベスト経済書」の記事が組まれています。私は今年2022年はオリヴィエ・ブランシャール&ダニ・ロドリック『格差と闘え』(慶應義塾大学出版会)で決まりだと思っていたのですが、何と、5位までのランキングは以下の通りでした。

1
渡辺努『物価とは何か』(講談社メチエ)
2
植杉威一郎『中小企業金融の経済学』(日本経済新聞出版)
3
猪木武徳『経済社会の学び方』(中公新書)
3
加藤雅俊『スタートアップの経済学』(有斐閣)
5
翁邦雄『人の心に働きかける経済政策』(岩波新書)


私の推したマリアナ・マッツカート『ミッション・エコノミー』(NewsPicksパブリッシング)は19位で、まさにこれくらいのラインを狙っていたのでOKなのですが、何と、トップだと予想していた『格差と闘え』は21位に沈みました。トップテンのうちの半分くらいしか読んでいないのは、それはそれでOKなのですが、トップ経済書の予想の点に関しては、少しショックでした。まだまだ、読書家としても、エコノミストとしても、力不足を感じさせられました。来年からはさらに精進します。
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2022年12月20日 (火) 13:00:00

インテージによる「年末・年始の旅行や帰省」の調査結果やいかに?

本日、ネット調査大手のインテージから「年末・年始の旅行や帰省」に関する予定の調査結果が明らかにされています。年末・年始の帰省や国内旅行にかけるお金は平均35,400円と、昨年の1.2倍に上ると予想されています。まず、インテージのサイトから [ポイント] を4点引用すると以下の通りです。

[ポイント]
  • 帰省や国内旅行の予算は平均35,400円で昨年の1.2倍。男性は32,602円(昨年比+1,692円)、女性は38,048円(同+10,022円)となり、女性は大幅な予算増を予定
  • 年末・年始、帰省や旅行の予定者は4人に1人。予定としては「自分の実家への帰省(13%)」が最も多く、「夫・妻の実家への帰省(6%)」「1~2泊の国内旅行(6%)」が続く。海外旅行予定者は少なかった。
  • 移動手段は「自家用車」が6割を占めた。
  • コロナを警戒した予定変更の検討については「検討していない」が7割を占めた。


まず、年末年始の帰省や旅行の予定については、ほぼ4人に1人、すなわち、25.6%の回答者が「予定あり」を答えています。逆に、「予定なし」は62.7%となっています。我が家は後者の「予定なし」だったりします。そして、メインの帰省については、「自分の実家への帰省」が12.5%、「夫・妻の実家への帰省」が6.2%です。エコノミストとして気にかかるご予算については下のグラフの通りで、年末年始の帰省や旅行などの予算は平均34,000円、昨年2021年よりも+6,000円近いアップと予定されているようです。

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最後に、移動手段については「自家用車」が57.4%を占めています。自動車を持ちつけない我が家にとっては羨ましい限りなのですが、海外旅行がまだ低水準にとどまっている点を考え合わせると、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染防止の観点も含まれているような気がします。
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2022年12月19日 (月) 22:30:00

今年2022年の Best books of 2022 in Economics やいかに?

私がよく閲覧する海外ニュースのサイトで、クリスマス休暇前に相次いで今年2022年の図書 Best Book 2022 の紹介がなされています。以下の通りです。


このどちらにも取り上げられているのが、J. Bradford DeLong Slouching Towards Utopia: An Economic History of the Twentieth Century, Basic Books, $35/£30 です。Economist 誌によれば、"this book places the successes and disasters of the 20th century in their economic context" だそうです。来年になれば邦訳が出版されることと思います。邦訳を待って、読みたいと考えています。
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2022年12月16日 (金) 18:00:00

インテージ「コロナ禍で過ごすクリスマス」調査結果やいかに?

やや旧聞に属するトピックながら、今週火曜日の12月13日、ネット調査大手のインテージから「コロナ禍で過ごすクリスマス」と題するリポートが明らかにされています。昨年に比べて、まあ、値上がりした結果というのも含めてかもしれませんが、クリスマスの支出は増えそうです。まず、インテージのサイトからポイントを4点引用すると以下の通りです。

[ポイント]
  • クリスマス関連の予定支出額は2万円。前年比109%。
  • プレゼントの購入(31%)と自宅でのパーティ(27%)が2大イベント。一番お金をかけるものは「自宅での パーティ」。プレゼントの贈り先は子どもや夫婦間。自分へのご褒美プレゼントも定着。
  • 一番高いプレゼント、子どもには「ゲーム」、夫・妻へは「服飾品(洋服・靴・マフラーなど)」が一番人気
  • 一方で、「家族や恋人と少人数で会食」といった形で「安心・安全」に楽しむといった警戒心は強い


とても興味あるところですが、取りあえず、マクロエコノミストの観点ということで、クリスマスの平均支出に着目したいと思います。インテージのサイトから クリスマス関連の平均支出金額 を引用すると以下の通りです。

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クリスマスにプレゼントや食事、旅行といったイベントにどのくらいの支出をするかの質問に対して、回答された平均金額は20,009円と前年2021年から+1,720円、+9%増とのことです。男性は21,077円、前年比+11%増、女性は19,152円、+8%増となっており、男女ともに昨年より増加しそうです。インテージでは、この調査結果と15~79歳の推定人口を基に試算を行い、2022年のクリスマス関連市場規模は1兆9,526億円、前年比+9.4%増と予想しています。
マクロの支出以外で注目すれば、具体的なクリスマスの予定については「プレゼントの購入(自分用を含む)(31%)」と「自宅でのパーティ(27%)」の2項目が他を大きく引き離して2大イベントとなっています。ただし、いずれも男性より女性の方が予定者が多くなっています。また、今年のクリスマスの過ごし方に関する考えや行動についての質問に対しては、「家族や恋人など少人数で会食程度に留めたい」が3割弱を占め、同時に、「少人数でも会食などはしない(10%)」や「繁華街など人の多い場所には近づかない(21%)」といった新型コロナウィルス感染症(COVID-19)感染への警戒心からの行動抑制も垣間見えます。背景としては、「感染不安もあるので浮かれるべきではない(25%)」という警戒心がまだ強い一方で、先行きの不安などから、「あまりお金をかけずに過ごしたい」も3割弱に上り、「それなりにお金を使って楽しみたい(11%)」を大きく上回る結果となっています。軍事費の大幅増や増税がこれだけ話題になると、クリスマス関連支出は予定よりもしぼんでしまう可能性もありそうです。
Entry No.7729  |  経済評論の日記  |  コメント(0)  |  トラックバック(0)  |  to page top ↑
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