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2008年04月09日 (水) 21:23:00

国際通貨基金 (IMF) の "Global Financial Stability Report"

今日は、朝からまずまずいいお天気で、昨日に比べて気温も上がりました。でも、風が強かったせいか、花粉が激しく飛んでいた気がします。私は普段は目の方なんですが、今日は鼻にも来ました。

国際通貨基金 (IMF) から "Global Financial Stability Report (GFSR)" が発表されました。15ページほどの日本語のサマリーもアップされています。今夜のエントリーではこのリポートの第1章を中心に紹介したいと思いますが、まず、"Financial Times (FT)" のサイトから関係する記事の2パラだけを引用すると以下の通りです。なお、FT は "IMF releases an Instability Report" と茶化したタイトルを付した関連記事も掲載していたりします。何らご参考まで。

If the International Monetary Fund is right, the credit crisis that began last year could turn out to be the most expensive financial crisis in history, measured in dollar terms.
The Fund estimates that expected losses and writedowns on US assets could total $945bn (€600bn, £480bn), compared with roughly $750bn in losses from the Japanese economic crisis of the 1990s.

IMF: Global Financial Stability Report

引用した FT の記事にもある通り、今回の GFSR で注目されたのは米国のサブプライム・ローン問題に端を発する金融危機の大きさです。上のグラフはその総額や対GDP比を過去の金融危機と対比しています。下のグラフは地域別です。日本を含むアジアが極端に小さいのが読み取れます。具体的な数字については、第1章の "Chapter I. Assessing Risks to Global Financial Stability" で分析を加えており、米国住宅価格の下落とローン返済の焦げつき増加を背景に、住宅ローン市場と関連証券の合計損失は予想されるプライムローンの悪化を含め、直接の損失は5,650億ドル前後に達する可能性があると予測しています。これに、商業用不動産、消費者金融市場、企業に関連して米国で組成されたローンや発行された証券などを加えると、潜在的な累計損失は約9,450億ドルまで増加するとし、この数字が上の引用も含めて報道で取り上げられているようです。ただし、こうした推定値はエクスポージャーや評価に関する不確実な情報に基づいてはいるものの、償却額がさらに膨らみ、銀行の自己資本が圧迫される可能性は排除できませんし、加えて、モノライン保険会社を含む銀行以外の金融機関の損失を考え合わせると、レバレッジ解消が続くのに伴い、銀行システムにはさらに損失画像化するリスクがある、ともリポートは指摘しています。
もちろん、マクロ経済へのフィードバックの及ぼす影響に対する懸念も強まっています。リポートでは、自己資本の余裕が減少し、銀行の損失の規模と配分に関する不透明感が通常の信用サイクルのダイナミズムと重なって、家計の借入や企業の設備投資、資産価格に重くのしかかり、ひいては雇用や生産の伸び、金融機関以外の企業や家計のバランスシートに跳ね返ってくるおそれが強いと指摘し、しかも、金融システムにおける証券化とレバレッジの進展度合いからみて、今回は過去の信用サイクルよりこの動きが激しい公算が高いと分析しています。現在の市場の混乱は単なる流動性の問題ではなく、バランスシートに深く根ざした脆弱性と資本基盤の弱さを反映しており、その影響はより広く深く、また長期化する可能性が高いのではないかと見られています。
IMF はこれらの対策として、最重要課題は金融機関が信認を強化することであるとし、金融システムの中核にある大手金融機関がバランスシートを修復し、多少のコスト高もいとわずに増資を行い、中期的な資金を確保することであると指摘しています。話題になっている Sovereign Wealth Fund (SWF) や公的資金導入の検討についても言及があります。ただし、モラルハザードと潜在的な財政コストの両方を最小限に抑える必要性が指摘されています。もちろん、経済の下振れリスクを阻止するにあたっての最初の対応策はマクロ経済政策であることは言うまでもありません。

昨日今日の日銀の金融政策決定会合は金利据置きで終了しましたが、日本では中央銀行の首脳人事でゴタゴタが続いていて、世界の金融市場が危機にさらされているかもしれない時だけに、政治の不毛を感じているエコノミストも少なくないんではないかと思わないでもありません。なお、明日も IMF のリポートを取り上げるかもしれません。
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