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2011年04月20日 (水) 20:27:00

震災の貿易に及ぼす帰結やいかに?

本日、財務省から3月の貿易統計が発表されました。ヘッドラインとなる貿易黒字は前年同月比▲78.9%減の1965億円となりました。輸出金額が数量の減少から前年同月比で16カ月ぶりのマイナスを記録しています。まず、いつもの日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

輸出が震災で失速、16カ月ぶり減少 3月貿易統計
財務省が20日発表した3月の貿易統計速報(通関ベース)によると、輸出額は前年同月に比べて2.2%減の5兆8660億円となった。16カ月ぶりのマイナス。東日本大震災や計画停電の影響で自動車や半導体を中心に生産が停滞し、輸出が落ち込んだ。輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は1965億円の黒字で、前年比78.9%の大幅減。生産停滞や資源高の影響で4月の貿易収支は赤字になる可能性もある。
3月の輸入額は原油高などの影響で、前年同月比11.9%増の5兆6695億円となった。財務省は「原油価格の上昇に加え、福島第1原子力発電所の事故で液化天然ガス(LNG)などの需要が高まる」とし、当面は輸入増が続くとの見通しを示した。
輸出は2月までは持ち直し傾向にあったが、大震災の影響で急ブレーキがかかった。3月の輸出額は10日までは前年同期比で14.8%増だったが、大震災が発生した11日から月末までは9.7%減と大きく落ち込んだ。
品目別にみると、自動車の輸出額が27.8%の大幅な減少となった。部品などのサプライチェーン(供給体制)の寸断で生産が減少したことが響いたとみられ、部品類の輸出も4.9%減った。トヨタ自動車など大手は国内工場での生産を再開しているが、生産台数は大震災前の半分程度にとどまっている。
アジア向けを中心に半導体など電子部品も影響を受け、前年同月に比べ6.9%減少した。パソコンなど電算機類やその部品も15%以上落ち込んだ。
地域別では、高成長が続くアジア向けが前年比0.01%減少し、わずかながら17カ月ぶりにマイナスに転じた。一般機械は3.9%増えたものの、自動車や電気機器が押し下げ要因になった。米国向けも3.4%減少し、15カ月ぶりのマイナスとなった。特に自動車が27.2%と大きく落ち込んだ。欧州連合(EU)向けはプラスを維持し、4.3%増だった。
財務省が同時に発表した2010年度の貿易統計は、輸出が前年度に比べて14.9%増の67兆7964億円、輸入が15.9%増の62兆4047億円だった。差し引きの貿易収支は5兆3917億円の黒字となり、黒字額は3.9%増えた。


次に、いつもの貿易統計のグラフは以下の通りです。一番上のパネルが季節調整する前の原系列の輸出入とその差額たる貿易収支、真ん中のパネルが木背う調整済みの輸出入と貿易収支、それぞれの単位は兆円です。一番下のグラフは季節調整していない原系列の輸出金額指数の前年同月比伸び率を数量指数と価格指数で寄与度分解したものです。色分けはそれぞれの凡例に示されている通りです。

貿易統計の推移

今年の1-3月期の貿易は、昨年来の輸出の伸びが鈍化していた時期から、2月の春節効果による一時的な停滞を経て、そろそろ輸出が本格回復に復帰しつつある時期と位置付けていたんですが、3月11日の震災で方向が大きく変化しました。震災の経済的な帰結は日本学術会議経済学委員会の緊急提言にある通り、国内経済に対してはスタグフレーション圧力、すなわち、労働市場にはデフレ圧力、財市場にはインフレ圧力を及ぼします。もっとも、財市場のインフレ圧力については、供給サイドのボトルネックにより潜在産出水準が、マインド悪化により需要水準が、ともに下振れする中で、前者の用が相対的に大きく需給ギャップがプラス方向に振れるのが原因です。
他方、震災が貿易に及ぼすインパクトはもっと単純です。供給サイドのボトルネックが輸出の減少と輸入の増加にダイレクトに作用し、需要サイドのマインド悪化に伴う輸入減を大きく上回りますから、貿易収支は急激に赤字化する方向に振れます。通関統計は月単位だけでなく上旬・中旬・下旬で取れますから、震災後の中下旬で輸出が大きく減じていることが裏付けられています。需給要因に震災のもうひとつの経済的インパクトである円高圧力が加わりますから、日本でも貿易収支は来月から赤字に転じる可能性すら十分あります。例えば、商社の業界団体である日本貿易会の槍田会長(三井物産会長)が「4月の輸出はもっと減少する」といった旨の発言を今日の定例記者会見で行ったと日経新聞のサイトで報じられています。年央くらいまでは輸出の減少により、また、それ以降は復興需要に基づく輸入の増加により、本年度は貿易赤字が続く可能性があります。
なお、季節調整前の原系列の統計で見て、3月統計は2か月連続で貿易黒字を記録しましたが、今年10-12月期以降の年度後半には復興需要が出始める可能性も高く、今年、あるいは、今年度いっぱいは貿易収支は赤字傾向で推移する可能性があります。すなわち、今年または今年度は通年で貿易赤字を記録する可能性も排除できません。ただし、リーマン・ショックのあった2008年度後半の10月から翌3月までの6か月のうち5か月で貿易赤字を記録しましたが、このときとは要因が異なります。すなわち、リーマン・ショック後は海外需要の落ち込みが我が国の輸出を抑制しましたが、もちろん、復興需要にけん引された輸入増も無視できないながら、今年度の貿易赤字は国内供給サイドのボトルネックが主たる要因と考えるべきです。ですから、いつもの海外需要項目と我が国の輸出を並べたグラフは余り意味がないので今夜は割愛します。

震災による足元の貿易へのインパクトは供給制約に端を発する輸出の減少です。そして、この輸出の減少は2つの経済的帰結をもたらします。第1に1-3月期の外需寄与度はマイナスになる可能性が高いと考えるべきです。第2に3月の鉱工業生産は前月比で2ケタマイナスになる可能性も忘れるべきではありません。もともと、エコカーやエコポイントの政策効果がすでに剥落した局面で輸出まで失われたわけですから、復興需要が本格化するまで厳しい景気局面が続くことを覚悟すべきです。
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