2017年12月31日 (日) 10:02:00
よい年をお迎えください!
いよいよ2017年も押し詰まり、残すところ15時間足らずとなりました。
毎年の恒例で、上の画像は Financial Times のサイトから引用しています。来年2018年の予想として20ほどの項目を立てています。日本に関するものはたったひとつで、以下の通りの問いと答えです。まあ、そうなんでしょうね。
Will the BoJ tighten monetary policy?
No. The Bank of Japan's life will get tougher in 2018 as the US Federal Reserve tightens policy and widens the interest rate gap with Japan. But governor Haruhiko Kuroda is determined to hike rates in response to one thing only: inflation. The BoJ may let the yield curve climb a little if prices start to accelerate, but real interest rates in Japan will end 2018 no higher than at the start of the year.
他に私の興味を引いた予想を2点だけ Financial Times のサイトから引用しておきます。当たりますか、どうでしょうか?
- Will Trump trigger a trade war with China? - Yes.
- Will oil finish 2018 above $70 a barrel? - Yes.
みなさん、
よいお年をお迎えください。
2017年12月30日 (土) 10:12:00
今週の読書はいろいろ読んで計6冊!
まず、アル・ラマダンほか『カテゴリーキング』(集英社) です。著者はコンサルタント会社の3人とジャーナリスト1人の計4人で、私のような単純な考えをもってすれば、コンサル会社の幹部3人がてんでバラバラにしゃべった内容をジャーナリストが上手に文章に取りまとめたんではないかという気がします。コンサル会社の名称が Play Bigger らしく、英語の原題はこの会社名の Play Bigger となっています。出版は2016年です。いろんな表現は自由ながら、経済学に根差した私の解釈によれば、シュンペーター的なイノベーションのうちの新製品のイノベーションをプレイアップし、そこから新たなカテゴリーを生ぜしめ、要するに独占利益を享受せよ、ということになります。イノベーションに関する経営学の指南書は大体そういったものだという気がします。フォードの言葉を借りれば、顧客の声を聞くと「もっと速い馬が欲しい」ということになって、better を追及することになる一方で、different である新たなカテゴリーを生み出すべく自動車を考案するのがイノベーション、ということになります。そして、私が常々不思議に思っているのは、本書で取り上げられているような Facebook や Google や Airbnb といった成功した企業の裏側に、どれくらいの失敗企業が存在するか、ということなんですが、本書では赤裸々に、2000年から2015年まで創業した数千のスタートアップを著者らのコンサル会社は分析した中で、そこから35のカテゴリーキングを見出したということのようです。0.5%とか、そんなもんでしょうか。そして、p.120 にある三角形のプロダクトデザイン、企業デザイン、カテゴリーデザインの3点の重要性を強調しています。私の下種の勘繰りですが、申し分なくこれら3点を重視しながら失敗したスタートアップが大量に存在する気がします。イノベーションを人為的に作り出すことが不可能とは思いませんが、本書のレベルで Facebook や Google や Airbnb といった成功企業がポンポンと飛び出すとは、私にはとても思えません。
次に、宮本太郎[編著]『転げ落ちない社会』(勁草書房) です。編著者は格差や不平等、あるいは、貧困問題などについて発言の多い政治学の研究者です。本書はリベラルな立場から貧困や不平等の問題について論じていますが、論点はいくつかあって、貧困層に対する社会政策としての選別主義を取るか、国民一般に対する社会保障としての普遍主義を取るか、がまずあります。本書でも指摘している通り、最近の傾向としてアングロサクソン的な選別主義よりも北欧的な普遍主義が志向される場合が多いのは確かなんですが、その普遍主義の極みであるベーシック・インカムについては、本書では最後の鼎談で少し話題として出ているだけで、ほぼほぼ無視しているような気がします。人工知能(AI)やロボットの台頭と人間労働への大体がアジェンダに上ってきている段階ですので、ここはもう少し着眼点を考えて欲しかった気がします。また、日本的な社会保障政策については、もっと包括的な見方が必要です。すなわち、我が国では、4人家族の核家族をモデルケースとして考え、父親=夫が一家の大黒柱として正社員勤務で無限定に会社のために働いて一家4人を養う給料を得る一方で、子どもや往々にして別居している老親の介護などがインフォーマルに母親=妻に委ねられる、というかたちで社会保障と労働政策が相互に補完する政策体型を取ってきています。それが、最近時点では高度成長の終焉から続く日本的雇用慣行の崩壊の中で、非正規雇用の拡大が見られることから、父親=夫が一家を養うに足るお給料を得ることが難しくなり、さらに、労働力不足の現状もあって、母親=妻も働きに出たり、あるいは、そのために子供の保育や老親の介護についてはインフォーマルに家庭内で完結するのではなく、社会的に何らかの施設で行う必要が出たりするわけです。ですから、政府においても労働省と厚生省を一体化させて施策を検討したりしているわけで、研究者の側でも包括的な解決策の提示が求められるような気がします。加えて、コトは私のようなエコノミストの考える経済学の範囲でとどまるわけもなく、例えば、我が国の痛税感については徴収した税金を社会保障で普遍的に国民に還元するのではなく、選別主義的に還元したり、あるいは、公共事業で土建国家のように還元したりすることが要因との分析もありますが、こういった社会保障を取り巻く国民文化の問題も同時に解決すべき課題ではなかろうか、という気がします。
次に、木下光生『貧困と自己責任の近世日本史』(人文書院) です。著者は日本近世史の研究者なんですが、本書のあとがきで論文査読者をジャッジと記すなど、大丈夫なのか、と心配になるレベルのような気もします。なお、私は査読論文は1本しかない不勉強なエコノミストですが、査読者は通常はレフェリーといわれるものと理解しています。ということで、おそらく学術書ながらやや不安含みで読み進みましたが、まずまずの貧困史の出来ではないかという気もします。でも、一部に史料の独断的な解釈もあって、私は同意しかねる点もありました。本書の特に冒頭部分は奈良県の片岡彦左衛門家文書を史料とし、かなり綿密に世帯ごとの所得と支出を推計しています。第2章の最後に置かれた作物の出来高を中心とする40ページほどの表は、読み飛ばす読者も多いものと私は想像しますが、しっかりと読むべき部分です。というか、本書の中心をなす部分であると考えるべきです。その結果として、本書の著者は、赤字世帯の原因は租税の重さなどではなく、主食食糧への支出と消費活動を営むための支出であり、それなりの水準の消費活動の必要があった背景を解き明かしています。ただ、本書本来の貧困研究としては、貧困ラインの設定、計測をいとも簡単に諦めたのは、研究者としての姿勢が疑われます。経済学的に、貧困指標は山ほど提唱されており、私も地方大学出向時に紀要論文として取りまとめた経験があります。学際的に経済学と歴史学の文献をキチンとサーベイすべきではないかという気がしました。単に、今までの歴史学研究で格差指標とされてきた石高や持高に対して否定的な見解を述べるにとどまっているのは残念としかいいようがありません。さらに、貧困救済に際して、その後の返済を必要とする貸付やそれなりの対価を要求される安値販売に対して、対価なしの施しについてはかなり厳しい制限が課される、というのは常識的に理解できるとしても、制限を課される救貧行為とそうでないものの線引を明らかにした上で、その差の原因や要因を何らかの方法で探ることも必要かと思います。違いがあれば、もちろん、その違いの存在自体が発見として意義あることは認めるものの、さらに、歴史的に発生とその後の消長を探るだけでなく、社会的なバックグラウンド、そして、その歴史的な意味を明らかにすることが求められる可能性は認識しておくべきです。貧困シ研究は我が国でも、イングランドやドイツなどの他の先進国などでもそれなりの研究の蓄積があることから、単に新発見の史料に基づく定量的な把握だけでなく、もう少し突っ込んだ分析的な視点も必要ではないかと思います。
次に、クリストフ・ガルファール『138億年宇宙の旅』(早川書房) です。著者はフランス人のサイエンス・ライターであり、英国ケンブリッジ大学にてホーキング教授の指導により博士号の学位を取得しています。約100年前の1915年のアインシュタイン博士の相対性理論などから始まって、最新の重力波やマルチユニバース理論などまで、幅広く宇宙に関する物理学を解説しています。まあ、私のような専門外のエコノミストには判る部分と判らない部分があるのは当然としても、文語体ではなく口語体で平易な語り口により解説してもらうと、何とはなしに判ったつもりになるのは不思議なものです。読者がイメージしやすいような語り口というのは、書き手がホントの意味で十全な理解に達していないと難しい気がしますが、それだけ練達のライターなのだろうと思います。私のイメージではフランス人というのは、経済学の分野も典型的にそうなんですが、やたらと哲学的に考えようとするきらいがあり、私は苦手だと思っていたところ、本書ではそんなに、というか、まったく哲学的な志向はなく、よく訳の判った大人が子供の読者に語りかけるような内容で宇宙について論じています。もちろん、シュレディンガーの猫とか、得体の知れないダークマターやダークエネルギーなど、経済学と違って、なんとも解説のしがたいいろんな有象無象が物理学にはありそうな気がするんですが、割合とスンナリ受け入れられそうな論点を中心に、幅広い解説を心がけているような気がします。ガチガチに実利を追求するような錯覚を持たれている経済学に対して、ロマンを感じさせる宇宙物理学の中で、重力と時空の関係を実用的に利用しているのがGPSなんですが、本書でもGPSニツイテハ「チラリと触れている一方で、物理学の中でも特に最先端であるがゆえに理解不能な量子物理学を応用した量子コンピュータなんてのの解説も欲しかった気がします。ついでながら、本書の著者の指導教員であるホーキング教授のブラックホールの蒸発に関する『ネイチャー』の論文へのリンクは以下の通りです。
次に、ティム・スペクター『ダイエットの科学』(白揚社) です。著者は英国の医師・医学研究者であり、双子の研究で有名です。英語の原題は The Diet Myth であり、2015年の出版です。私は今までダイエットらしいダイエットをしたこともなく、来年の還暦を前に何とかBMIで23を少し下回る体重をキープしています。本書では、そもそもダイエットに関する疑問を表明しつつ、科学の立場からダイエットにまつわるいくつかのテーマの真偽を著者なりに明らかにしています。そして、著者の結論は、というと、万人に適用可能なダイエット方法なんてものはありえない、という点に尽きます。すなわち、カロリーの収支すら体重への影響を否定しているに近い印象です。要するに人によって違うということです。でも、いくつか注意すべきポイントはあり、やっぱり、砂糖の取り過ぎはよくないようです。ジャンクフードは肥満や体重過多につながります。このあたりは常識なんですが、「判っちゃいるけど止められない」の世界なんだという気がします。他方、カロリー収支をはじめとして疑問を呈されたり、実証的なエビデンスはないとされたり、あるいは、ハッキリと否定されたりしたものの中で、私の印象に残っているのもいくつかあります。何よりも、朝食を抜くことはそれほど悪いわけではないという著者の主張には少し驚かされました。実は、私は今年に入って、というか、昨年くらいから仕事が忙しくなってしまった際には、昼食を抜くことが少なくなく、週に1回や2回はあります。朝食ではなく昼食だから、まあ、いいんだろうと思いつつ、1日3食をきちんと食べることの重要性も同時に頭をかすめますが、本書の著者は、適当に食事の間隔を開けることは決して悪くない、と主張しています。そして、「朝食は必須という定説もやはり、ダイエットの神話として葬り去るべきだということだ」との意見です。ほかは、まあ、そうだろうな、という常識的な結論だったような気がします。繰り返しになりますが、砂糖の摂取過多、あるいは、ジャンクフードが肥満につながりやすく健康によくないのは常識でしょうし、スーパーフードは「詐欺同然のマーケティング」と切り捨てています。ビタミンのサプリメントも効果は疑問、というか、ビタミンに限らず、チビチビと摂取していたものを、1日の必要量の半分くらいを一気にサプリメントのカプセルや錠剤で飲み込んだところで、体が適切に反応して吸収できるかどうかは、専門外の私でも疑問に思います。ですので、私も貧血でしたので鉄分のサプリメントを取っていた時期があるんですが、今は止めてしまいました。糖質を制限して肉食中心の食事にするパレオ・ダイエットについても、いかにも米国人が好きそうなんですが、怪しげであることは常識的に理解できます。最後に、痩せていて運動しない人と、太っていて定期的に運動する人とでは、後者の方が健康である、と結論しています。私も定期的な運動を心がけたいと思います。
最後に、奥野修司・徳山大樹『怖い中国食品、不気味なアメリカ食品』(講談社文庫) です。著者はジャーナリストであり、週刊「文芸春秋」に2013-14年に掲載された記事を収録しています。特に、隣国の中国と対米従属のもとになっている食糧につき米国、ということで2国に的を絞って、食の安全について問うています。特に、中国については前近代的な衛生管理、食品製造に関する倫理観の欠如、果てしないインチキの系譜、などなど、とてもまともに輸入食品を作れる国ではないと実感しました。本書では明示的には取り上げていませんが、いわゆるサプライ・チェーンが長く複雑になり、我々が口にする食品がどこでどうして作られているのかが、必ずしも明確でなくなっています。実は、私自身はもう還暦を迎えることもあって、食の安全製に関してはかなり無頓着になって来つつあるんですが、本書でも指摘しているように、学校給食で中国由来の食品をコスト安であるという理由だけで用いるのは、とても不安です。私のように老い先短い人間は何を食べても、例えば、30年先にガンになるとしても、ほとんど影響ないんですが、小学生はそういうわけにはいきません。そうでなくても少子化が進む我が国で、子供達の食の安全について深く考えさせられる1冊でした。
2017年12月29日 (金) 10:03:00
年末年始の読書の予定を修正する!
昨日のご用納めの後、今日から年末年始休みに入りますが、何かのついでに、この年末年始は江戸川乱歩の少年探偵団シリーズを読みたいと書いた記憶があります。でも、ポプラ社のサイトから引用した上の画像に見られる通り、何と、26冊もありますので、ボチボチ11月くらいから読み始めていたところ、少し前に読み終わってしまいました。何といっても、面白いです。小学生くらいのころに読んだ記憶がかすかに残っているものもあり、しかも、200~300ページ位の文庫本ながら、まあ、私くらいの読書家なら1時間足らずで読み上げてしまいます。週末の土日に別の読書をしながらも、この少年探偵団のシリーズを4~5冊読んだ時もあり、年末年始休みに入る前に読み切ってしまいました。
なんとも計画的、というか、計画性がない、というか、でした。仕方がないので、この年末年始休みには、京都大学ミス研の綾辻行人や法月綸太郎などと同じカテゴリである新本格派の二階堂黎人作品のうち、二階堂蘭子が活躍する超長編の『人狼城の恐怖』を読むべく、近隣の図書館から手配しました。一部には、ギネス級の世界で最も長い推理小説とみなされている作品です。4部4分冊から成り、それぞれが文庫本ながら500ページを大きく超える超大作で、文庫本ベースで2500ページを大きく超えます。私は、二階堂蘭子シリーズのうち、この『人狼城の恐怖』の前の長編の4冊、すなわち、『地獄の奇術師』、第1回鮎川哲也賞受賞作品『吸血の家』、『聖アウスラ修道院の惨劇』、『悪霊の館』まではすでに読んでいます。たぶん、1日1冊か場合によっては1日2冊のペースで考えていますので、明日か明後日くらいから読み始めたいと予定しています。
どうでもいいことながら、ポプラ文庫の少年探偵団シリーズには懐かしくも挿絵がいっぱい入っているんですが、1巻目から始まって大部分は SHIGERU の署名があります。でも、途中から少し絵の印象が変わってきて、最後の26冊目の『黄金の怪獣』には YOSHIDA の署名が見られたりする上に、少年探偵団団長の小林少年がほぼ青年に見えるようになっている気がします。まあ、これだけシリーズで長く続くと仕方がないのかもしれません。
さらに、もっとどうでもいいことながら、先日、京都土産に河道屋の蕎麦ぼうろを買って帰ったんですが、いまだに「かわみちや~の、そばぼうろ」を節をつけて歌えるのは、年代的地域的に極めて限られた人なんだろうと感じてしまい、他方で、少年探偵団の主題歌の冒頭部分、すなわち「ぼ、ぼ、ぼくらは少年探偵団。勇気りんりん、るりの色」から始まって、通して1番や2番くらいを歌える人は、団塊の世代を中心に、まだまだいそうな気がしますし、Youtubeででも探せばあるんだろうと思います。
2017年12月28日 (木) 20:07:00
増産が続く鉱工業生産指数(IIP)と小売販売額が伸びた商業販売統計!
11月の鉱工業生産、前月比0.6%上昇 基調判断を引き上げ
経済産業省が28日発表した11月の鉱工業生産指数(2010年=100、季節調整済み、速報値)は103.6と、前月に比べ0.6%上昇した。上昇は2カ月連続で、QUICKがまとめた民間予測の中央値(0.5%上昇)も上回った。経産省は生産の基調判断を「持ち直しの動き」から「持ち直している」に引き上げた。「持ち直している」の表現を使うのは1996年1月以来、約22年ぶり。
全15業種のうち10業種で前月を上回った。最も上昇に寄与したのは汎用・生産用・業務用機械工業(3.1%上昇)だった。半導体製造装置やショベル系掘削機械などがけん引した。電子部品・デバイス工業は4.3%上昇した。メモリーやCCDといった半導体集積回路が伸びた。
一方、低下したのは5業種だった。最も低げたのは化学工業で1.7%低下だった。美容液や乳液、合成洗剤などが落ち込んだ。
出荷指数は2.4%上昇の101.3だった。在庫指数は1.0%低下の109.6。在庫率指数は2.9%低下の110.9だった。
メーカーの先行き予測をまとめた製造工業生産予測調査では、12月が3.4%上昇、18年1月は4.5%低下となった。
11月の小売販売額、前年比2.2%増 基調判断は据え置き
経済産業省が28日発表した11月の商業動態統計(速報)によると、小売業販売額は前年同月比2.2%増の11兆9680億円だった。2カ月ぶりに前年実績を上回った。経産省は小売業の基調判断を「持ち直しの動きがみられる」で据え置いた。
業種別でみると、最も増加寄与度が高かったのは燃料小売業で、前年同月に比べ11.4%増えた。原油相場の上昇を受け石油製品が値上がりしたことが影響した。次に寄与度が高かった自動車小売業は4.6%増加した。新車効果が続いているようだ。
大型小売店の販売額は、百貨店とスーパーの合計で1.4%増の1兆6714億円だった。既存店ベースでも1.4%増となった。百貨店は全店ベースで2.2%増加した。訪日外国人(インバウンド)需要が引き続き好調だった。
コンビニエンスストアの販売額は1.8%増の9524億円だった。加熱式タバコなどがけん引した。
いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは以下の通りです。上は2010年=100となる鉱工業生産指数そのものであり、下のパネルは輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷のそれぞれの指数です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた期間は景気後退期を示しています。

まず、鉱工業生産については、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは+0.5%の増産でしたから、ほぼほぼジャストミートしたといえます。他方、製造工業生産予測指数では12月+3.4%の増産の後、2018年1月は▲4.5%の減産と見込まれており、12月については製造工業生産予測指数の上方バイアスを修正して+1.8%±1%と試算されていますので、3か月連続の増産がかなり確度高くなっており、引用した記事にもある通り、統計作成官庁である経済産業省では、基調判断を「持ち直しの動き」から「持ち直している」に半ノッチ引き上げています。これまでは増産と減産が交互に続くジグザグの動きでしたが、11月統計の実績で2か月連続の増産、12月の製造工業生産予測指数を考えると実態として3か月連続の増産ですから、2018年1月が減産に転じるとしても、上のグラフを見るにつけても、生産はかなり堅調だと考えるべきです。しかも、産業別に見ても我が国が比較優位を持つ産業が前月比で大きく伸びています。すなわち、前月比で見て、半導体製造装置などのはん用・生産用・業務用機械工業が+3.1%増、モス型半導体集積回路(メモリ)・モス型半導体集積回路(CCD)などの電子部品・デバイス工業が+4.3%増、外部記憶装置などの情報通信機械工業が+3.8%増などとなっています。また、出荷については鉄鋼業で伸びて、その裏側で鉄鋼業の在庫が低下したりしています。繰り返しになりますが、上のグラフの上のパネルに見られるように、ユニバリエイトな見方ながら、生産は堅調です。しかし、上のグラフのうちの下のパネルに見られる通り、資本財出荷はかなり上向いていますが、耐久消費財はまだ横ばいを続けており、輸出に支えられた好調な企業部門とまだ本格回復といえるかどうか怪しい消費の対比については留意しておくべきだという気がします。特に出荷の数量ベースではそういえます。

続いて、商業販売統計のグラフは以下の通りです。上のパネルは季節調整していない小売販売額の前年同月比増減率を、下は季節調整指数をそのまま、それぞれプロットしています。影を付けた期間は景気後退期です。鉱工業生産指数(IIP)の出荷の数量ベースでは耐久消費財の伸びはまだまだ物足りない段階でしたが、消費全体としてはそれなりの上向きが確認されたと受け止めています。ただし、統計作成官庁の同じ経済産業省の基調判断が、これも引用した記事にある通り、鉱工業生産指数(IIP)では「持ち直しの動き」から「持ち直している」に引き上げられているのに対して、商業販売統計では「持ち直しの動き」に据え置かれています。この基調判断に典型的に示されているように、企業部門は好調ながら、家計部門はまだもう少し物足りなさが残っていることも確かです。外需と内需の差ともいえます。もう少し詳しく見ると、10月統計の速報時には、天候要因と土曜日が少ない曜日要因も含めて、飲食料品小売業が▲1.5%のマイナスを示したことから、小売販売額は季節調整していない原系列の統計で前年同月比▲0.2%減を記録しましたが、直近の1月統計では+2.2%増ですから、決して悪くないといえます。ただ、生産が比較優位産業の増産に支えられている一方で、小売販売額は、自動車小売業の+4.6%増や電機製品などの機械器具小売業の+8.2%増などがけん引した部分もあるとはいえ、国際商品市況における石油価格の上昇に伴う燃料小売業の+11.4%増が主因ですので、やや消費の内容が悪い部分もあると考えるべきです。ただ、11月統計はボーナスの出る12月年末商戦の前触れかもしれないものの、消費についてはもっとボリュームの大きい12月統計に注目したいと思います。
2017年12月27日 (水) 21:57:00
ようやく年賀状を投函する!

年賀状のデザインです。週末にはプリントアウト出来ていたんですが、ここ数年、宛先は手書きで書いていたところ、今週に入って仕事が忙しい上に少し風邪気味で、なかなかはかどらず、ようやく宛先を書いてポストに投函し終えたところです。ここ何年かは七福神とかの図柄だったんですが、久し振りに干支の犬の画像を使いました。そうです。私は戌年生まれで、2018年は還暦を迎えます。1年余りで役所も定年です。
2017年12月26日 (火) 20:02:00
本日公表の雇用統計と消費者物価(CPI)と企業向けサービス物価(SPPI)の動向からもう一段の景気加速には賃上げが必要と痛感!
失業率11月2.7%、24年ぶり低さ 物価3年ぶり上昇幅
雇用改善が一段と進んでいる。総務省が26日発表した11月の完全失業率(季節調整値)は2.7%と、24年ぶりの低さとなった。厚生労働省がまとめた有効求人倍率も約44年ぶりの水準に上がった。雇用の安定が消費を支え物価も緩やかに上昇するが、政府・日銀の2%目標には届いていない。20年来の懸案であるデフレ脱却は2018年の大きな課題になる。
完全失業率は10月から0.1ポイント下がり、5カ月ぶりに改善した。求人があっても勤務地など条件で折り合わずに起きる「ミスマッチ失業率」は3%程度とされる。3%割れは、働く意思がある人なら職に就ける「完全雇用」状態といえる。
11月は求職中の失業者が減った。完全失業者は178万人で1年前から19万人減少。1994年12月以来の少なさだ。
全国のハローワークで仕事を探す人1人に何件の求人があるかを示す有効求人倍率は1.56倍だった。前月を0.01ポイント上回り、高度経済成長期の74年1月以来43年10カ月ぶりの高水準だ。
企業の求人に対して実際に職に就いた人の割合を示す充足率は14.2%で、比較できる02年以降で最低を更新した。ハローワークを通さないインターネットでの求職を含まないが「7人雇おうとしても採用できるのは1人」という計算になる。企業は将来の人手不足を見越して、正社員の採用に力を入れる。11月の正社員の有効求人倍率は1.05倍と最高となった。
賃金水準が高い正社員が増えて家計の心理が改善し、消費も持ち直している。総務省が26日発表した11月の家計調査によると、2人以上世帯の1世帯あたり消費支出は27万7361円だった。物価変動の影響を除いた実質で前年同月を1.7%上回り、3カ月ぶりに増えた。冷蔵庫や洗濯機の買い替え需要で、家庭用耐久財が30%増加。外食も5.6%増と堅調で、すしや焼き肉などのチェーン店が好調だった。
消費が持ち直し、物価の上昇ペースも少しずつ加速している。11月の消費者物価指数(CPI、2015年=100)は値動きの激しい生鮮食品を除く総合で100.7と、前年同月比0.9%上がった。指数の水準は1997年11月以来、20年ぶりの高さだ。消費増税の影響を除いた伸び率も14年10月以来3年1カ月ぶりの大きさだった。
けん引役のガソリンや電気などエネルギーが、0.6%分押し上げた。エネルギーも除いた伸び率は0.3%。訪日外国人客の増加を背景に宿泊料が1.5%伸びた。
政府はデフレ脱却の目安として、経済全体での物価の動きを示す「国内総生産(GDP)デフレーター」など4指標を重視する。2017年7~9月期は4指標がそろってプラスとなり、内閣府は「局面変化」の状態にあると分析する。物価上昇の流れを明確な脱デフレにつなげるには、消費を底上げする賃上げの持続が欠かせない。
11月の企業向けサービス価格、前年比0.8%上昇 ホテル単価上昇で
日銀が26日発表した11月の企業向けサービス価格指数(2010年平均=100)は104.1で2005年3月以来、12年8カ月ぶりの高水準だった。前年同月比では0.8%上昇した。上昇は53カ月連続。前月比でも0.1%上昇した。企業の出張増に伴いビジネスホテルの単価上昇が影響した。
トラック運転手の不足を背景にした宅配便などの価格上昇も一因。「ドライバー不足による価格転嫁が進んでいる」(調査統計局)という。
企業向けサービス価格指数は輸送や通信など企業間で取引するサービスの価格水準を総合的に示す。対象147品目のうち、前年比で価格が上昇したのは84品目、下落は30品目だった。上昇から下落の品目を引いた差は54品目で、10月の確報値から2品目増えた。
ビジネスホテルの価格が上昇する一方、広告関連の価格は低迷した。「インターネット広告では企業が費用対効果を厳密に見るようになっている」(調査統計局)といい、業種ごとの価格動向には濃淡がある。
いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。でも、いくつもの統計を一挙に並べると、とても長くなってしまいました。なお、記事ではこのブログで取り上げていない家計調査にも言及しています。次に、雇用統計のグラフは上の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上から順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。影をつけた期間はいずれも景気後退期です。

まず、雇用統計のグラフは上の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上から順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。影をつけた期間はいずれも景気後退期です。失業率も有効求人倍率も前月からさらに改善を示しており、かなりタイトな労働需給を示しています。加えて、グラフは示しませんが、正社員の有効求人倍率も前月からさらに上昇して1.05倍と高い水準にあります。ただし、繰り返しこのブログで指摘している通り、まだ賃金が上昇する局面には入っておらず、賃金が上がらないという意味で、まだ完全雇用には達していない、と私は考えています。逆から見ても、失業率が、引用した記事に見られる通り、ホントに3%が完全雇用なのだとすれば賃金上昇が生ずるハズですし、有効求人倍率がまだ上昇を続けているのも事実です。要するに、まだ遊休労働力のスラックがあるということで、グラフは示しませんが、性別年齢別に考えると、高齢男性と中年女性が労働供給の中心となっています。もっとも、定量的な評価は困難ながら、そのスラックもそろそろ底をつく時期が迫っているんではないかと思います。特に、採用しやすい大企業に比べて、中小企業では人手不足がいっそう深刻化する可能性もあります。さらに、1人当たりの賃金の上昇が鈍くても、非正規雇用ではなく正規職員が増加することから、マクロの所得としては増加が期待できる雇用水準であり、さらに、雇用面の不安や懸念が大きく軽減されていることから、消費者マインドに寄与しているのではないかと私は考えています。

続いて、いつもの消費者物価上昇率のグラフは上の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く全国のコアCPI上昇率と食料とエネルギーを除く全国コアコアCPIのそれぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフは全国のコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。エネルギーと食料とサービスとコア財の4分割です。加えて、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1位の指数を基に私の方で算出しています。丸めない指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。さらに、酒類の扱いがビミョーに私の試算と総務省統計局で異なっており、私の寄与度試算ではメンドウなので、酒類(全国のウェイト1.2%弱)は通常の食料には入らずコア財に含めています。ということで、単純に見ると、コアCPI上昇率は6月+0.4%から7月+0.5%、8~9月+0.7%、10月+0.8%、11月+0.9%と徐々に上昇幅の拡大を続けており、加えて、全国の先行指標となる東京都区部でもコアCPI上昇率が全国から4か月遅れて今年2017年5月にプラスに転じ+0.1%を記録した後、10~11月の+0.6%、12月の+0.8%まで順調にプラス幅を拡大しています。しかし、先行きの消費者物価(CPI)上昇率を考える場合、要因として2点考慮する必要があり、ひとつは国内要因であり、要するに、いわゆる需給ギャップと賃金動向です。現時点で、これらはともに、物価を上昇させる方向にあると考えるべきです。需給ギャップは文句なしですが、賃金動向はまだ本格的な上昇に至っておらず、デフレ脱却にはさらなる賃上げが必要です。ただし、もうひとつは海外要因であり、国際商品市況における石油価格です。上の消費者物価のグラフにおいて、私の計算に従えば、寄与度分解した積上げ棒グラフの黄色のエネルギーの寄与度は、コアCPI+0.8%のうちの+0.61%に達しています。新興国経済が中国を含めてかなり堅調に回復を示していることから、相場が下げに向かう可能性は小さいと私は受け止めていますが、何分、相場モノですので先行きは不透明です。

続いて、SPPI上昇率のグラフは以下の通りです。サービス物価(SPPI)と国際運輸を除くコアSPPIの上昇率とともに、企業物価(PPI)上昇率もプロットしてあります。SPPIとPPIの上昇率の目盛りが左右に分かれていますので注意が必要です。なお、影をつけた部分は雇用統計と同じで景気後退期を示しています。サービス物価については人件費の占める比重が高く、賃金との連動性もそれだけ大きくなっていると私は考えて来たんですが、今年に入ってから前年同月比で+1%に近い上昇率を示しながらも、それ以上に達していないのは、逆から見て、それだけ賃金上昇が進んでいない、ということなんだろうと受け止めています。景気についてはアベノミクス5年を迎えてかなり回復を示しており、企業業績が絶好調な一方で、個人消費の増加も物価の上昇も賃上げの役割が大きくなっているように感じます。
2017年12月25日 (月) 21:42:00
リクルートジョブズによる派遣スタッフとアルバイト・パートの平均時給調査やいかに?

ということで、上のグラフを見れば明らかなんですが、アルバイト・パートの平均時給は引き続き2%台で堅調に推移していて、特に11月統計では1,024円と2006年1月の統計開始以来の過去最高水準を記録した一方で、派遣スタッフの平均時給はマイナスを記録する月も見られています。すなわち、昨年2016年9月から今年2017年8月までの12か月のうち10か月で前年同月比マイナスとなっていましたが、直近のデータでは2017年9月は+2.6%、10月も+2.4%、11月も+1.9%とそこそこの伸びを記録しています。地域的には、9~11月の足元で、東海圏の伸び率が高い一方で、関東圏と関西圏は低い伸び率にとどまっています。まあ、従来からそうだといえば、そうなんですが、特に9~11月の足元ではこれが目立っている気がします。職種としてはデザイナー、Web関連、編集・制作・校正などのクリエイティブ系が+2.3%増と特に大きな伸びを示すとともに、医療介護・教育系が▲1.2%減と下げています。ボリュームの大きな職種だけに、全体への影響も小さくありません。給与水準が低い一方で求人ボリュームの大きな医療介護系が、全体としての派遣スタッフ給与の足を引っ張っているとの分析もありましたが、地域別、職種別の特徴、というか、格差が拡大したんではないかという見方も成り立つような気がします。ただし、アルバイト・パートの時給は1月を底として12月に向けて上昇するという季節的な変動を伴いつつも、年をまたいでかなり単調に増加しているように見受けられます。引き続き、非正規雇用の求人は堅調と考えてよさそうです。
2017年12月24日 (日) 18:12:00
松尾明 Ballads を聞く!
松尾明 Ballads を聞きました。まず、アルバムの構成は以下の通りです。
- Lupus Walk/Akira Matsuo
- Estate/Bruno Martino
- I'll Be Seeing You/Sammy Fain
- Moonlight Becomes You/Jimmy Van Heusen
- How Deep Is the Ocean/Irving Berlin
- Do You Know What It Means Miss New Orleans/Eddie DeLange and Louis Alter
- Sway To Fro/Kenji Shimada
- Violet for Your Furs/Matt Dennis
- Just a Mood/George Shearing
- Steaway to the Moon/Yoko Teramura
ということで、このドラムスの松尾明をリーダーとして、ピアノの寺村容子を据え、ベースに嶌田憲二というトリオのアルバムは、かなり前の Besame Mucho を聞いたことがあり、このアルバムは2枚目です。リーダーのドラムスがかなり前面に押し出されているのは当然として、基本的に、寺村容子のアルバムと大差ない気がします。実は前作の Besame Mucho 冒頭に収録されていた Angry Dogs という曲がかなり印象的でいい出来だった記憶があります。寺村容子のピアノは相変わらずキンキンとクリアに聞こえますし、ベースもブンブンとうなっている気がします。ピアノ・トリオとして十分な力量を示しているアルバムです。
なお、どうでもいいことながら、このアルバムは2枚組です。なぜか、同じ音源のリマスター版として、2枚目のCDがボーナスディスクの扱いとなっています。誠に申し訳ないながら、私はリマスターによる音質の違いを聞き分けるほどの感性を私は持っていませんので、ほかの人の評価に譲りたいと思います。
2017年12月23日 (土) 11:56:00
今週の読書は経済書や小説を合わせて計6冊!
まず、斎藤史郎編著『逆説の日本経済論』(PHP研究所) です。著者は日本経済新聞をホームグラウンドとしていたジャーナリストです。本書では、タイトル通りに、通説もしくは俗説に近い経済学上の説について反論を加えているんですが、そこなジャーナリストらしく、学者さんを中心にインタビューした結果を収録しています。取り上げられているテーマは、「人口高齢化で日本は衰退の道を歩まざるを得ない」、「貿易黒字はプラスで貿易赤字はマイナス」、「株主主権は企業理論の基本である」、「超金融緩和は危機脱出の処方箋」、「円安下の株価上昇は企業業績の改善による」などであり、学者さんや経営者と対にして、いくつかテーマを例示的に並べれば、日本電産の永守重信社長は会社の所有者についての株主至上主義に反論し、マクロ経済学者の吉川洋教授は人口減少ペシズムは誤りと指摘し、財政学者の井堀利宏教授は社会保障給付抑制のための年齢階層別選挙区制の導入を主張し、会社法の専門家である上村達男教授は株主主権論を批判し、日銀副総裁だった武藤敏郎氏は中福祉・中負担は幻想であると喝破しています。私の勝手な読み方かもしれませんが、大雑把に真ん中くらいまで、具体的には、武藤氏のインタビューくらいまではそれなりに中身もあって、読み応えあるような気がしますが、後段になるに従って、やや「トンデモ」の色彩を帯び出し、インタビューそのものも短くなっていったような気がします。それぞれに主張があって、当然ながら、書物としては一貫性ないんですが、インタビューの結果を取りまとめただけですので仕方ない気がします。全体を通して読みつつ、それなりの取捨選択をする目は養っておきたいと思います。
次に、水口剛『ESG投資』(日本経済新聞出版社) です。著者は高崎経済大学の研究者であり、本書のタイトルになっているESG投資は同時に責任投資とも称され、環境、社会、ガバナンスのヘッドレターを取っています。本書ではあまり出て来ませんが、国連が2015年に決定した持続可能な開発目標(SDGs)とも連携して、長期に渡る企業活動について、原始的な経済学の減速である利潤極大化を排除するわけではないものの、社会的な存在である企業活動について短期的な利潤極大化以外の活動を評価しようとする試みであり、本書のサブタイトルである「新しい資本主義のかたち」まで大風呂敷を広げるつもりはりませんが、その入り口にたどり着くためのひとつの要素かもしれないと私は考えています。従って、企業行動に対しては、単なる自社の雇用や調達だけでなく、いわゆるサプライ・チェーンの中に反社会的な要素、アジアでの調達における児童労働や奴隷労働、あるいは、アフリカにおける公害問題などなどのような例を抱えているかどうかについても自律的に目を光らせる必要があります。ただし、エコノミストとして2点注意しておきたいのは、ESG投資はおそらく企業だけでなく投資家も利する部分があって、決して企業利益とトレードオフの関係にはないと考えるべきですが、逆に、企業利益に余裕あるために、そして、その余裕はイノベーションなどの結果というよりも、独占や賃金圧縮などの決して好ましくない企業行動の結果として生み出されている可能性がある点は、投資家としても目を光らせておく必要があります。第2に、何らかのまやかし的なエセESG活動が横行して投資家の目を欺く可能性がある点です。ひと昔前にISO認証の取得が取引条件のようになったブームがありましたが、ESG活動についてはISO認証のようなサーティフケーションが不十分な気がします。その点を透明性高くESG活動に適用できるシステムが必要そうな気がします。
次に、及川智早『日本神話はいかに描かれてきたか』(新潮選書) です。著者は古代文学ないし古代史の研究家であり、本書では文学的に文字で古代の神々がどのように表現されて来たか、ではなくむしろ、タイトル通りに、画像的にどのように描かれて来たかについて、雑誌の口絵や挿絵、絵葉書に双六、薬の包み紙などをはじめとする焦点の宣伝文句が記された引札などから絵画的、というか、画像的な描かれ方を研究した成果が収録されています。ですから、そんな紙の史料が残されているのは、せいぜいが明治期以降であり、主として20世紀初頭くらい、あるいは、昭和期以降くらいの画像資料をひも解いています。もちろん、浮世絵などの歴史的な江戸期、あるいはそれ以前の画像もないわけではありません。章別の構成として、イザナキとイザナミにカササギを加えた国作りの神話、ヤマタノヲロチ退治をいかに絵画的に表現するか、因幡の白ウサギの物語に出てくるのはワニかサメか、サルタヒコとアメノウズメによる夫婦和合のめでたい図像、みづらと呼ばれる髪形などを介した神武天皇の画像表現、朝鮮半島に攻め入った神功皇后の描かれ方、などなどです。特に、私が興味深かったのは、因幡の白ウサギに出てくるワニについては、ワニザメであって、日本には古代からワニは生息していなかったハズ、という論考ですが、実際に絵画的にワニの背中をウサギが飛び越える画像も同時に収録されていたりして、とても印象的でした。神話の軍国主義的な利用の話題もなくはないですが、別の面からの神話へのアプローチが中心です。
次に、伊坂幸太郎『ホワイトラビット』(新潮社) です。著者はご存じ売れっ子のミステリ作家です。仙台在住であり、本書の舞台も仙台です。副業で探偵もやっている空き巣の黒澤の登場するシリーズです。時間的な流れが通常の通りに後に向かうだけでなく、前にさかのぼったりもしますし、また、語り手もパートごとに切り替わるとともに、第三者、というか、いわゆる神の声的な視点が入ったりもして、それなりに複雑で私の場合は読みこなすのがタイヘンだったです。それでも面白いですし、黒澤のシリーズらしく、どんでん返し、というのとは少し違う気もしますが、時間をさかのぼりつつ、ストーリーに関する今までの理解がひっくり返される、というか、作者がおそらく意図的に読者に対して目くらましを仕掛けているわけで、それがキチンと読みこなせれば、とても面白いですし、少なくとも私が読んだところでは、ストーリーや論理に破たんは見られず、仙台市北部の高級住宅街で生じたように見える立てこもり事件は、決して不自然な点がないとはいえないにしても、前後の整合性にほころびなく解決します。伊坂作品の大きな魅力であるシュールでおしゃれな会話、特徴ありつつも少しボケも含むキャラの設定、さらに、ばらまかれた前半部分の伏線の見事なまでの回収が、読んでいて快感を覚えます。しかも、星座のオリオン座の小説の『レ・ミゼラブル』に関するうんちくがアチコチにばらまかれ、今までに登場したことのない、というか、私は今野敏作品以外では読んだことのないSITを警察の中心に据えた伊坂ミステリです。私のようなファンであれば、あるいは、そうファンでなくても、必ず読んでおくべき作品だといえます。
次に、久坂部羊『院長選挙』(幻冬舎) です。作者は、メジャーさの点では少しだけ海棠尊と仙川環に後れを取っているものの、医療ミステリ分野の売れっ子作家です。私も何冊か作品を拝読した経験があります。ということで、この作品は医療分野を舞台にしているものの、大きな大学病院の院長選挙をテーマにして、医者の人格についてコミカルに描き出しています。まずまず若い女性のノンフィクション・ライターを主人公にし、日本を代表し、医療レベルでは東大をも上回る、ということですから、慶応大学病院のような気もするんですが、まあ、小説ですので架空の大学病院を舞台に、変死した病院長のポストを巡って4人の副院長が選挙戦を繰り広げる、しかも、かなり誇張された医者の人格の歪みを選挙戦に持ち込んでネガティブ・キャンペーンなどを繰り返す、という作品です。院長候補の4人は、臓器のヒエラルキーをモットーとする心臓至上主義の循環器内科教授、手術の腕は天才的だが極端な内科嫌いで風呂好きの消化器外科教授、白内障患者を盛大に集めては手術し病院の収益の4割を上げる守銭奴の眼科教授、古い体制の改革を訴えいいにくいこともバンバン発言する若き整形外科教授、です。『神様のカルテ』などでも、医者は私のような平凡なサラリーマンなどよりも性格的にアクが強い、というか、悪く表現すれば人格的な歪みがある、かのようにコミカルに描き出されていますが、この作品ではさらに徹底して女好きや守銭奴的な性格をパワーアップして設定しています。看護師や検査師などのコメディカルもいっしょになって医者を手ひどく評価したりするんですが、中には高い評価を下す人もいたりします。とても現実とは思えず、それはそれで小説本来のデフォルメされた現実社会の投影なので、面白おかしく読める医療小説です。一応、ミステリになっているんですが、犯人探しは主眼ではありません。
最後に、神永正博『現代暗号入門』(講談社ブルーバックス) です。著者は、もちろん、暗号の専門家なんですが、本書での表現によれば、日立製作所でのサラリーマン研究者からアカデミックな世界の研究者に転じています。現在の日常生活レベルでも暗号技術というのは重要な役割を果たしており、特に、ネット通販やネットバンキングはいうに及ばず、インターネットを通じた秘匿性ある通信では必要不可欠とすらいえます。その暗号技術について、本書の著者はもちろんディフェンダーのサイドにいるんですが、アタッカーのサイドの情報も含めて、その舞台裏を人名をキーワードにしつつ明らかにしています。本書は5章構成であり、その昔からある共通鍵方式、ハッシュ関数、公開鍵のうちでもRSA方式と楕円曲線方式に分割して解説し、最終章で暗号共通のトピックとしてサイドチャネルアタックについてハードウェアの脆弱性から暗号を解読する技術とその対策を解説しています。経済学部出身の私には、ハッキリいって、、難しかったです。半分も理解できた自信はありませんが、最新の暗号技術について、日々使っているものだけに、それなりの親しみを持つためにも、こういった情報を得ておくのも一案かもしれません。
2017年12月22日 (金) 21:43:00
ダイヤモンド・オンラインによる「業績好調企業ランキング」やいかに?
2017年12月21日 (木) 21:54:00
帝国データバンクによる「2018年の景気見通しに対する企業の意識調査」やいかに?
調査結果
- 2017年の景気動向、「回復」局面だったと判断する企業は21.2%となり、前回調査(2016年11月)から15.5ポイント増加。4年ぶりに2割台へ回復。他方、「踊り場」局面とした企業は49.0%と3年ぶりに5割を下回り、「悪化」局面は9.2%と4年ぶりの1ケタ台に減少
- 2018年の景気見通し、「回復」を見込む企業は20.3%で、2017年見通し(前回調査11.0%)から増加。「踊り場」局面を見込む企業は前回より増加したものの、「悪化」局面を見込む企業(12.3%)は前回より減少した。景気の先行きについて、1年前より上向いていくと見通す企業が増加している
- 2018年景気への懸念材料は「人手不足」(47.9%、前回調査比19.5ポイント増)が最高となり、「原油・素材価格(上昇)」「消費税制」が続いた。特に中東や東アジア情勢などを受けて「地政学リスク」(19.1%)が急増。前回トップだった「米国経済」(14.1%、同27.7ポイント減)は大幅に減少した
- 景気回復のために必要な政策、「個人消費拡大策」「所得の増加」が4割台、「個人向け減税」が3割台で、消費関連がトップ3を占めた。次いで「法人向け減税」「年金問題の解決(将来不安の解消)」が続いた。「出産・子育て支援」や「介護問題の解決」を重要施策と捉える企業も2割前後。また、正社員が「不足」している企業では3社に1社が「雇用対策」を求める
ということで、やや冗長ながら、包括的に取りまとめられている印象です。来年の景気見通しについてはエコノミストとしても興味あるところ、図表を引用しつつ簡単に取り上げておきたいと思います。
まず、上のグラフはリポートから、景気見通しの推移を引用しています。来年の景気見通しはここ2~3年と比較して、景気の「回復局面」との回答の比率が高いのもさることながら、「悪化局面」との回答が極めて少なくなっています。もちろん、地域や業界により差はあるものと思いますが、個別の回答からも、BREXITや日銀総裁の交代、あるいは、人手不足などを懸念材料に上げる意見が見られたものの、大雑把に悪くないと感じている企業が多そうな気がします。
次に、上のグラフはリポートから、2018年の懸念材料を引用しています。もちろん、懸念材料がないわけではなく、上の2点、すなわち、人手不足と原油・資源価格はよく理解できるところです。3番目の消費税制はまだ先のお話かもしれませんが、4番目の地政学リスクも北朝鮮の動向が不透明なだけに不気味な気もします。昨年時点では5.7%に過ぎなかったわけですから、大きくジャンプしています。他方、米国経済はトランプ政権の政策運営はかなり安定してきた気はしますが、米国連邦準備制度理事会(FED)の利上げについては、私はまだ懸念が残ります。
最後に、上のグラフはリポートから、今後の景気回復に必要な政策を引用しています。複数回答で40%超を占めているのは、「個人消費拡大策」と「所得の増加」となっています。企業サイドで何を考えているのか、私にはまったくわけが判らなくなりました。4番目の法人減税くらいであれば、政府の専管事項だという気もしますが、企業で賃上げをためらっている中で、政策的に消費を拡大させ、所得を増加させるとの見方は、社会的な存在としての企業の存在理由を危うくしかねません。主流派の経済学で、企業は利潤最大化を目的とする組織体だとされているのは事実かもしれませんが、国民の所得を増加させて消費を喚起させるために、企業として何が出来るか、もっとしっかり考えていただくよう願いたいものです。
ケネディ米国大統領の発言で、1961年1月の就任演説の名文句を以下に引用しておきたいと思います。
"Ask not what your country can do for you; ask what you can do for your country."
2017年12月20日 (水) 20:32:00
MM総研による「ITデジタル家電購入意向調査」やいかに?
まず、上のグラフは、MM総研のサイトから、09年以降の購買意欲の推移のグラフを引用しています。2009年は忘れもしない9月にリーマン・ショックがあった年なんですが、さすがに、購買意欲は大きく落ち込んでいたようで、その後、景気の回復・拡大とともに徐々に購買意欲は向上し、特に今年2017年の冬はピンクの「昨冬と比べ上がった」との回答が16.1%と今夏回答の12.1%に比べ+4.0%ポイント増加するとともに、水準としても2009年リーマン・ショック以降でもっとも高くなっています。ハードデータとしてもボーナスがしっかり出たようですし、ソフトデータとしても購買意欲はバッチリのようです。
次に、上のグラフは、MM総研のサイトから、去年と今年の冬のボーナスの具体的な使い途に関するグラフを引用しています。見れば明らかですが、大きく増加したのは、ITデジタル家電、自動車・自転車、海外旅行となっていて、特に、ITデジタル家電は昨冬の39.6%から今冬は45.7%と+6.1%ポイント上昇し、詳しく見ると、「薄型テレビ」、「ノートパソコン」、「スマートフォン」、「デジタルカメラ」といった商品の購入意向が昨冬と比較して増えているようです。また、図表は引用しませんが、ITデジタル家電の中でも、トップが「薄型テレビ」、次いで「ノートパソコン」、といつもの顔ぶれながら、3位の「スマートフォン」に続いて「スマートスピーカー/AIスピーカー」が4位に食い込んでいます。ランキング急浮上の要因としては、AIスピーカーが認知されてきて、主要な製品が一通り出そろったタイミングがボーナス支給と重なり、購入意欲が高まっているのではないか、と分析されています。
さて、ボーナス商戦のゆくえやいかに?
2017年12月19日 (火) 20:06:00
プラネット「ホットドリンクに関する意識調査」の結果は我が家に適用可能か?
まず、上の図表はプラネットのサイトから、「秋・冬にホットドリンクを飲みますか」についての回答結果を取りまとめたものを引用しています。明らかに、世間一般でも男性の方が女性よりも統計的にホットドリンクを飲まないという傾向は見られます。男性では「よく飲む」が40.1%であるのに対し、女性では63.3%と、23.2%ポイントも差が見られます。我が家でも、少なくとも家では、私と倅ども2人はホットドリンクは飲みません。秋でも冬でも、もっぱら冷たい飲み物に限られています。ウーロン茶か、ミルクか、何かのジュース類です。
次に、上の図表はプラネットのサイトから、「秋・冬にホットドリンクをなぜ飲みないのですか」についての回答結果を取りまとめたものを引用しています。基本的に、私と倅どもの大きな理由は、上の回答の一番目と同じで、こだわりがないからだと思うんですが、私はともかく、倅どもについてはジャカルタという熱帯で子供時代を過ごしたから、ということも考えられます。ですから、さすがに、20歳前後に育った今はそんなこともないですが、ジャカルタから帰国した直後の幼稚園ないし小学校も低学年のころは、お風呂から上がって脱衣場でパジャマを着ることもなく、裸のままでその辺をうろついていたりしました。今でもホットドリンクは飲みませんし、従って、というか、なんというか、我が家にはタワー型の沸騰機能付きの魔法瓶がありません。ホットドリンクを飲みたい時は、いちいちお湯を沸かす必要がある、というわけです。
最後に、上の図表はプラネットのサイトから、「秋・冬によく飲むホットドリンクを教えてください」についての回答結果を取りまとめたものを引用しています。圧倒的にコーヒーがトップとなっています。私もそうです。というか、私の場合は、上のリストにあるうち、コーヒー以外のホットドリンクを、ここ数年、飲んだことがないような気もします。
2017年12月18日 (月) 23:41:00
アジア向け輸出が好調で貿易統計は6か月連続の黒字を計上!
11月の貿易収支6カ月連続黒字 1134億円、アジア向け輸出最高
財務省が18日発表した11月の貿易統計(速報、通関ベース)によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は1134億円の黒字だった。6カ月連続で貿易黒字となった。世界経済の回復を受けて、アジア向け輸出が過去最高を更新するなど輸出入ともに好調を維持した。ただ原油などの単価上昇で黒字幅は前年同月比2割縮小した。
輸出額は前年同月比16.2%増の6兆9204億円と、12カ月連続でプラスだった。中国向けの液晶デバイス製造装置や米国向けの自動車、タイ向けの鉄鋼などが増加に寄与した。
地域別に見ると、アジア向け輸出は3兆8949億円と20.4%伸び、過去最高を更新した。中国向け(25.1%増)も過去最高だった。米国向けは13.0%増と10カ月連続で前年実績を上回った。自動車や掘削機などが伸びた。欧州連合(EU)向けは13.3%増だった。
一方、輸入額は17.2%増の6兆8071億円だった。11カ月連続で増加した。原粗油や石炭といった資源が値上がりしたほか、中国からスマートフォン(スマホ)の輸入が大幅に増えた。ロシアからのパラジウムも伸びた。為替が前年同月に比べ8%ほど円安方向に進んだことも円建て価格の押し上げにつながった。
対中国では輸入額が21.6%増え、9カ月連続の貿易赤字となった。対米国では黒字幅が13.7%増と5カ月連続でプラスとなった。
いつもの通り、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

引用した記事にもある通り、季節調整していないベースの貿易収支は今年2017年6月から6か月連続で黒字を記録していますが、トレンドを見るための季節調整済みの系列だと2015年11月から25か月、すなわち、2年余り貿易黒字が続いています。この間、我が国の貿易収支をスィングさせてきたのは国際商品市況における石油価格です。短期では石油需要は価格にそう弾力的であるとも思えず、国際商品市況における価格動向とともに為替水準によっても輸入額が変動することになります。現時点では、石油をはじめとする国際商品市況は、新興国、特に中国の景気回復を受けてジワジワと値を戻しており、引用した記事にもある通り、為替も1年前から10%近い円安水準となっています。ですから、為替のいわゆるJカーブ効果も合せて、石油価格と為替から輸入額は短期には上振れして、貿易黒字が縮小する可能性が十分あり、11月統計では貿易黒字が先月よりも縮小していますが、これは主として季節要因によるものであり、季節調整済みの系列ではむしろ先月よりも貿易黒字は拡大しています。ということで、現時点では、世界経済の回復・拡大を受けて我が国からの輸出が好調に推移している、と見るべきです。地域別はグラフにしていませんが、これも引用した記事にもある通り、アジア向けの輸出が大きく伸びています。

輸出をいくつかの角度から見たのが上のグラフです。上のパネルは季節調整していない原系列の輸出額の前年同期比伸び率を数量指数と価格指数で寄与度分解しており、まん中のパネルはその輸出数量指数の前年同期比とOECD先行指数の前年同月比を並べてプロットしていて、一番下のパネルはOECD先行指数のうちの中国の国別指数の前年同月比と我が国から中国への輸出の数量指数の前年同月比を並べています。ただし、まん中と一番下のパネルのOECD先行指数はともに1か月のリードを取っており、また、左右のスケールが異なる点は注意が必要です。ということで、繰り返しになりますが、国際商品市況で石油価格が上昇して、我が国の輸入が大きく増加している一方で、世界経済も順調な回復・拡大を見せて、我が国の輸出も大きく増加しています。特に輸出についてはアジア向けが増加しており、数量べースでも、いくつかのシンクタンクの独自推計では、半導体や鉄鋼が輸出数量の増加に大きく寄与しているとリポートしています。ただ、我が国輸出の先行きに関しては、米国の利上げや欧州中銀(ECB)のテーパリングなどの金融政策動向が気がかりです。ラグを伴って世界経済の景気動向に影響を及ぼすとともに、短期的には為替水準へのインパクトが小さくないからです。米国トランプ政権の通商政策については、金融政策に次いで気がかりです。
2017年12月17日 (日) 18:11:00
山中千尋 Monk Studies を聞く!
やや遅ればせながら、山中千尋 Monk Studies を聞きました。容易に想像される通り、セロニアス・モンクの曲をかなり多く取り上げています。アルバムの構成は以下の通りです。なお、最後の10曲目はアルバムのライナーノートには Will Henry Monk の曲とされているんですが、トラディショナル曲なのではないかと思います。
- Heartbreak Hill/Chihiro Yanamaka
- Pannonica/Thelonious Monk
- Nobody Knows - Misterioso/Chihiro Yanamaka - Thelonious Monk
- New Days, New Ways/Chihiro Yanamaka
- In Walked Bud/Thelonious Monk
- Rhythm-a-ning/Thelonious Monk
- Ruby, My Dear/Thelonious Monk
- Criss Cross/Thelonious Monk
- Hackensack/Thelonious Monk
- Abide with Me/Traditional
ということで、ピアノよりもシンセやオルガンやフェンダー・ローズの音色の方が耳に残って印象的だったんですが、山中千尋独自のモンク曲の解釈ではないでしょうか。私はかなりいいセン行っていると思います。少なくとも、ビートルズの曲を演奏していたころよりはずっといいように受け止めています。モンクはピアノ演奏そのものがそうですし、曲についても独特の不協和音的な響きを持っている気がします。マイルスがソロを取っている時はモンクにピアノを弾かないでくれと要求したことは有名でしょう。そういった不協和音的な響きや奇妙な音楽の要素があるのがモンクというピアニスト、あるいは作曲も含めての音楽家なのかもしれません。例えば、大西順子がビレッジ・バンガードでのライブを音源とするアルバムに「ブリリアント・コーナーズ」を収録していますが、まさに、この不協和音的な奇妙なモンクに正面から挑戦していますが、山中千尋は大いに違ったアプローチを取っています。選曲に凝った上に、ピアノではなくかなりエレクトリックな楽器を多用しています。ですから、モンクの音楽も、山中千尋のこのアルバムのモンクの解釈も、いわゆる主流派のモダンジャズではないかもしれませんが、それなりに私には受け入れられるレベルに達しているような気がします。それから、このアルバムは主としてモンクの曲を山中千尋が演奏しているんですが、別のアルバムで、モンクの演奏を山中千尋がコンパイルした、というか、本であれば編集=エディットなんだろうと思いますが、そういったアルバム Retrospection and Introspection も別途出ています。コチラはまだ聞いていませんので、そのうちに取り上げたいと思います。最後にどうでもいいことながら、アルバムのタイトルは Study in Monk ではないんですかね?
2017年12月16日 (土) 11:08:00
今週の読書は学術書に教養書や専門書を合わせて計7冊!
まず、神林龍『正規の世界・非正規の世界』(慶應義塾大学出版会) です。著者は一橋大学の准教授であり、専門はマイクロな労働経済学です。出版社からしても、400ページをかなり超えるボリュームからしても、それなりに高度な計量経済学的な手法を用いた分析であることからしても、本書は完全な学術書と考えるべきであり、とてもキャッチーなタイトルながら、一般のビジネスパーソンにはやや敷居が高いかもしれません。ということを前提に、本書で主張されている正規と非正規に関する結論を、あえて誤解を恐れずに短く表現すると、少なくとも、本書でスコープとしている2007年までのデータに基づく限り、正規から非正規にシフトしているわけではなく、18~54歳に限ったコアな労働力人口に占める正規の割合は45%から50%近くで1980年代から大きな変化ないことを考えると、繰り返しになりますが、マクロの労働力で見て正規から非正規にシフトしたわけではなく、自営業というインフォーマル・セクターから非正規にシフトしたと考えるべきである、ということになります。実は、本書でも指摘している通り、我が国の労働経済学では自営業というインフォーマル・セクターを無視してきたことは確かであり、第3部で分析されているように、日本の自営業が1980年代初頭ですら労働力の25%超を占め、さらに、2015年くらいまで一貫してそのシェアを低下させてきたのは、私もほのかに認識していたとはいうものの、ほとんど初見に近い見方であるといわざるを得ません。2015年時点でほぼほぼ他の先進国と同じ10%くらいのシェアに低下しましたので、今後の動向については先進国と似た動きをする可能性もありますが、少なくとも、個人のパーソナル・ヒストリーというマイクロなレベルではなく、マクロなレベルで正規から非正規にシフトしたのではなく、自営業から非正規にシフトした、というのはデータを見る限り、かなり真実に近いと私は受け止めました。さらに、リーマン・ショック後に注目された派遣労働者についても、せいぜいが100万人から150万人のレンジであって、6000万人を超える我が国の就業者から見れば、決してシェアは高くない、というのも事実であろうと思います。加えて、過去の慣行とまで見なされるようになった日本的雇用慣行、すなわち、長期雇用、年功賃金、企業内組合、についても、第3の労働組合がいまだに企業内組合であるのは、組織率が大きく低下した点を別にすれば、おそらく誰にでも観察される事実であろうとは思いますが、長期雇用や年功賃金も必ずしも崩壊したわけではなく、コアな正規雇用者にはまだまだ残存している可能性も本書は示唆しています(p.147)。そうかもしれません。というか、それだけに、政府でモデル世帯のように見なされている夫婦と子供2人で専業主婦、というか片働きの世帯というのは、大きく社絵を落としながらも、まだ、モデル的な世帯形態としては有効性がいくぶんなりともあるのかもしれません。そして、現在、使用者側から強く主張されている解雇規制の在り方については、本書でも指摘されているように、日本では米国などと比較して、ボーナスのシステムなどがあって賃金の柔軟性が高く、ケインズ経済学で仮定される賃金の下方硬直性が低いことから、解雇をひとつの極端な方法とする量的な調整の必要性が低かったのが一因と考えています。すなわち、現在の労働規制緩和を進めてしまうと、賃金調整の柔軟性が高く、しかもその上、量的な調整の柔軟性も高い、という何でもありのオールマイティーな労働調整の権利を使用者側に与えかねない不安が私にはあります。いかがなもんでしょうか。最後に、とても有益な読書だったんですが、2点だけ指摘しておきたいと思います。第1は、先ほどの正規と非正規のシフトについては、私も慎重に書きましたが、2007年までのデータに基づいた結論ではないかという気がします。リーマン・ショックとその後の Great Recession を経て、この結論がそのまま通じるのかどうか、データの利用可能性とともに再検証が必要かもしれません。第2は、p.164で、2007年データでは有期契約の方が無期契約よりも時間賃金が高い要因として、プロフェッショナルな契約社員が増加している点を上げていますが、違う要素も含まれていると思います。すなわち、景気変動による調整要員であるがゆえに、サブプライム・バブル崩壊直前の好況期には、それなりのプレミアムを上乗せした賃金が必要とされた可能性があると私は考えています。
次に、島澤諭『シルバー民主主義の政治経済学』(日本経済新聞出版社) です。著者はシンクタンクのエコノミストであり、世代間不平等について、いくつか論考も発表しているようです。本書では、計量的な手法により、中位投票者モデルに基づいて、いわゆるシルバー民主主義にはなっていない、すなわち、中位有権者の高齢化の進行が、社会保障支出における高齢者VS現役世代の比率を上昇させているかどうかを検定した結果、実証的には注意年齢の係数が有意にマイナス、逆符号となるとの結果を示しつつ、でも、シルバー優遇は生じている、との結論を取っています。そして、シルバー民主主義が否定される代わりに、というか、何というか、現役世代と引退世代が結託して将来世代からの移転を受けている、要するに、財政赤字が問題である、との結論に飛びついています。計量的に中位投票者モデルに基づいてシルバー民主主義が否定されるのは、私としても、実証分析の結果ですのでそうだろうとは思うんですが、いきなり、財政赤字悪者論に飛躍し、財政赤字は財政的な幼児虐待とする結論は理解できません。しかも、財政赤字に対しては、本書では説得的な対応策が示されているとはいいがたい気もします。私自身は、シルバー民主主義ないしシルバー優遇は、民主主義の生物学的な限界であり、誠に情けない結論ながら、解決策らしきものは見いだせていません。せいぜい、楽観的に高齢者の利他的な動機に訴えるとか、間接民主主義の下で、本書でも注目している「民意」を政治家が歪める、くらいしか考えつかず、何ら説得的な解決策でないのは理解しているつもりです。でも、本書では真っ向から民意を反映するのがいい政治のように評価しているような気もします。しかし、少なくとも、英米における2016年の国民投票の結果、すなわち、BREXITとトランプ大統領の当選については、国民投票で結果が示されてしまえば、もうどうしようもありませんが、間接民主主義では、民意から遮断された政策決定が可能な気もします。もちろん、それはよくないという、何らかの価値判断はあり得ると思います。ということで、かつて、私が読んだ本で田原総一朗『頭のない鯨』というのがあって、その昔は、選挙で当選した代議士の要求であっても、当時の大蔵省の主計局が査定で予算を削ってしまえば政策として実現しない場合もある、として、間接民主主義下での民意と政策の遮断を論じていたような気がしますが、それにしても、現在ではそういった大蔵省=頭がなくなった日本経済という巨大な鯨が漂流している、というイメージかもしれません。ともかく、本書のように最後に財政赤字が悪い、と結論すれば、世代間不平等は財政赤字解消により縮小するかどうかは、基本的に独立事象であって関係ないと考えるべきですので、本書の重要なテーマであるシルバー民主主義や世代間不平等の議論はかなり歪められかねないと危惧しています。それよりも、必ずしも定量的な評価でなくてもいいので、国民=主権者が年齢を重ねる、すなわち、老いる場合に選好関数にどのような変化が現れるか、といったもっと大きなテーマも考えて欲しい気がします。
次に、クレイトン M. クリステンセンほか『ジョブ理論』(ハーパーコリンズ・ジャパン) です。著者はクリステンセン教授以外にも何人かコンサルタント会社の幹部などが名を連ねているんですが割愛します。クリステンセン教授については、破壊的イノベーションに関する理論などで著名なハーバード・ビジネス・スクールの研究者です。本書の英語の原題は Competing against Luck であり、2016年の出版です。邦訳タイトルに「ジョブ」という単語を入れていますが、英語の原タイトルにはありませんし、雇用や労働などとは関係なく、イノベーションの源泉として「ジョブ」という言葉を定義し直しています。ジョブの定義やジョブ理論の概要は本書ではp.58本書でから始まります。簡潔に要約すると、頻出する表現として job to be done というのがあり、要するに、顧客が成し遂げたい必要な作業の本質、ということになろうかという気がします。その意味で、「ジョブを雇用(hire)する」という表現を使っています。なお、本書ではジョブとニーズを違うと強調していますが、私のようなシロートには重なり合うところが好きうなくないような気がします。誰の表現か忘れましたが、顧客はドリルが欲しいんではなく、穴を開けたいのである、といった趣旨かと私は受け止めました。本書の表現に即していえば、イノベーションの成否を分けるのは、地域と人口動態で分類した顧客データ、すなわち、東京在住の30歳台男性の消費の特徴とか、この層はあの層と類似性が高いとか、顧客の68%が商品Bより商品Aを好むなど、や、市場分析、スプレッドシートに表れる数字ではなく、鍵は「顧客の片づけたいジョブ(用事・仕事)」である、ということになります。そうでなければ、英語の原題にあるように、行き当たりばったりで運まかせのイノベーションになってしまう、ということなんだろうと思います。行き当たりばったりのイノベーションのほかにやや批判的な見方をされているものがいくつかあり、例えば、ビッグデータは顧客が誰かは教えてくれても、なぜ買うのかは教えてくれない、とか、同じ文脈で、相関関係ではなく因果関係が重要であり、同時に、数値化できない因果関係にこそ、成功するイノベーションの鍵があるとか、高齢者向けの紙オムツの例を出して、自社製品も他社製品も買っていない無消費の層を取り込む必要性、などに目を向けるべきと強調しています。本書で取り上げられている成功例は、主として、大企業であってニッチを埋めたスタートアップではありません。すなわち、イケア、ゼネラルモーターズ(GM)のオンスター、サザンニューハンプシャー大学の通信講座、プロクター&ギャンブル(P&G)、エアビーアンドビー、アマゾンなどなどです。そして、その意味で、本書の手法はいわゆるエピソード分析であり、データ分析ではありません。本書の最後の方にはその言い訳があり、イノベーションについてのデータ分析の偏りを批判していますが、私には同様の疑問があり、エピソード分析では常に成功例しか表面に現れず、水面下に沈んだ失敗例についても興味あります。キチンと、失敗例の原因も明らかにされていれば、それなりに、エピソード分析も意味ありそうな気もしますが、少なくとも本書には見られません。そこは残念に感じました。
次に、 オーウェン・ジョーンズ『チャヴ 弱者を敵視する社会』(海と月社) です。著者は英国の評論家であり、かなり若い人です。英語の原題は CHAVS です。タイトルは、Councile Housed and Violent の頭文字を取ったもので、直訳すれば「公営住宅に住み、暴力的」ということになります。低所得の労働者階級に対する蔑称です。本書は、一言で表現すれば、サッチャー政権以降の新自由主義的な経済政策の下で、労働者階級 working class がいかに崩壊し、マルクス主義的な用語を用いれば、ルンペン・プロレタリアートに近くなったか、についてジャーナリスト的な筆致を持って跡付けています。このブログでも、『ヒルビリー・エレジー』、『アメリカを動かす「ホワイト・ワーキング・クラス」という人々』、『われらの子ども』などで、米国における同じような労働者階級の現状については取り上げて来ましたが、本書では英国における労働者階級の現状にスポットを当てています。米国における新自由主義的な経済政策運営は1981年のレーガン政権からなんですが、英国では1979年のサッチャー政権からです。標準的なエコノミストの理解とは少しズレがあるかもしれませんが、本書の主張では、いずれも、新自由主義的な経済政策により自国通貨が増価して製造業の空洞化を招くとともに、労働組合などに対する厳しい対決姿勢やあからさまな弾圧により、中流階級が就いていたメインストリームの製造業の decent job が失われ、本書の表現では、コールセンターの電話対応やそれこそスーパーのレジ打ちや清掃作業のような職しか残らなくなったとしています。そして、CHAV がさらに低所得の生活保護受給者をバッシングし、移民を敵視し、社会保障給付が削られていくばかりになり、メディアでは貧しい人々を野生動物のように観察し、さらし者にしている現状、そこに、日本でも一時流行った「自己責任」という言葉で福祉をさらに削減し、低所得者を貶めて弱者を蔑む風潮を助長している社会について考えようとしています。しかし、残念ながら、いかにして包括的な経済政策が必要か、あるいは、そういった経済政策はどういうものか、については十分な議論がありません。というか、そこまで論考が及んでいません。マルクス主義は救いにはならないんでしょうか。かつての労働組合活動のような団結した運動が消滅させられ、社会が分断され、それが差別につながり、底辺への競争や貧困の罠が社会のいろんなところに見られる中、先ほど上げた米国に関する本で要約されているような現実や本書でフォーカスしている英国の現状は、ひょっとしたら、日本の未来かもしれません。私自身は現在のアベノミクスは新自由主義的というよりも、『この経済政策が民主主義を救う』で主張されていた通り、かなりリベラル、あるいは、左翼的といっていい経済政策運営をしているように受け止めていますが、日本の将来を考える上でも重要な1冊だという気がします。
次に、柳田辰雄[編著]『揺らぐ国際システムの中の日本』(東信堂) です。編者の柳田教授は開発経済学も含めて、経済学に軸足を置きつつ学際的な領域の研究を展開している東大教授です。奥付けの著者略歴にあるように、今世紀に入ってからJICA専門家としてインドネシア財務省に派遣されており、国家開発企画庁に派遣されていた私と任期が重なっており、私も何度かジャカルタでお会いした記憶があります。ということで、著者とタイトルにも引かれて読んでみましたが、かなり期待外れでした。本の内容としては、経済学を含めて学際的というよりは、システマティックでもなくバラバラに寄せ集めた内容と考えるべきです。2部構成となっており、第1部で国際システムの理論、第2部で国際システムの制度がタイトルとなっています。でも、特に第2部は通貨制度、貿易制度、などなど、単発で連携なく各分野の解説が並べられています。そのレベルも、偏差値が高い高校ないしは偏差値が低い大学の初学年といったところのような気がします。その昔に私が出向していた大学であれば、副読本くらいの扱いではないかという気がします。入ったばかりの1年生であっても、教員がついて授業で開設するようなレベルではなく、ヒマを見つけては自分で独習する素材ではないかという気がします。ただ、各章が短く記述されてコンパクトであり、エッセンスを手軽に理解する、というか、深い理解を求めるよりも、学際的と称して幅広く、広く浅い基礎知識を得るにはいいのかもしれません。本書の読書に対して、大きな期待は禁物です。今週の読書の中で、というか、最近にない一番のハズレでした。
次に、岩間優希『PANA通信社と戦後日本』(人文書院) です。聞きなれない通信社名ですが、戦後1949年に「アジアの、アジア人による、アジアのための通信社」として宋徳和により香港で設立され、その後、時事通信に吸収され、今では時事通信フォトの社名になっている通信社で、設立資金がタイガーバームの創業家から出たという逸話もあるそうですが、判然とはしません。現在の業務内容からしてもフォトジャーナリズムを中心とする通信社であったことが判るんではないでしょうか。著者はジャーナリズム論を専門とする研究者ですが、学術書というカンジではなく、一般向けの教養書としてスラスラと読むことも出来ます。各章ごとに中心に据えられている人物がいて、第1章ではフォトジャーナリストの岡村昭彦にスポットが当てられています。ベトナム戦争取材による写真が有名で、その後、米国のライフ誌にも寄稿していたりして、それなりの知名度があるように思います。第2章は設立者の宋徳和からPANA通信社を任された元報道カメラマン・近藤幹雄による経営努力、また、第3章はPANA通信社を傘下に収めて「太平洋ニューズ圏」を夢見た当時の時事通信社社長であった長谷川才次の野望にスポットが当てられています。なお、岡村昭彦は経営合理化を進めた近藤社長と袂を分かってPANA通信社を離れています。しかし、読ませどころは日本国憲法制定にも影響を与えたといわれる創業者の宋徳和の生涯を描く第4章、それから、損がポールが日本軍政下で「昭南市」と称されたころに日本語教育を受けた東南アジア総局長・陳加昌を扱った第5章であろうと思います。決して日本人中心のPANA通信社史観ではなく、香港やシンガポールといった華人中心ながらも、それなりに日本を離れたアジアの大都市にフォーカスしたジャーナリズム論が活写されています。また、決して、本格的に取り上げられているわけではありませんが、我が国やアジアのジャーナリズムに大きな影響を及ぼした連合通信の消長なども興味あるところです。日本以外は華人社会中心ながら、アジアとは何か、アジアに根差したジャーナリズムとは何か、もちろん、本書ではオリンピックのメダリストを報じるのではなく、地元選手の活躍や成績を中心に報じる、という意味での地域性もあり得る可能性を示唆しつつ、本書はなかなか興味深いテーマを追っている気がします。私には専門外のテーマですので以下の日経新聞や朝日新聞の書評もご参考です。
最後に、尾形聡彦『乱流のホワイトハウス』(岩波書店) です。著者は朝日新聞のジャーナリストであり、ホワイトハウスのブリーフィングにも出席した経験があるらしいです。ジャーナリストの舘賀から米国も前にオバマ政権と現在のトランプ政権を対比させ、トランプ政権の行く末や日本の対応のあり方なども論じています。やや一方的な印象を持ったのは、現在のトランプ政権のロシア疑惑について、オバマ政権末期に捜査が開始された、というのはまだいいとしても、ニクソン政権期のウォーターゲート事件との類似を指摘して、トランプ米国大統領の弾劾の可能性まで示唆するのは、対立政党の幹部であればまだしも、ジャーナリストとしてはやや行き過ぎた気がしなくもありませんでした。また、第2章のホワイトハウスにおける取材のインナーサークルに関する自慢話は、なかなか面白かったんですが、これだけを読んで、著者がそれなりの高齢に達している印象を持ったところ、奥付けのプロファイルを見てまだ40代だというので少しびっくりしました。ただ、ジャーナリズム論というか、取材の実態をかんがみるに、日本では公式の記者会見場での質疑もさることながら、個人的なコネクションによる裏ブリーフのような場での情報収集も重視されるのに対して、米国、特にホワイトハウスなんだろうと思いますが、公式の記者会見場でのやり取りに緊張感を持って臨み、そこでキチンとした質問をして回答を得る重要性が強調されており、まさか、この著者が裏の情報収集ルートにアクセスを持っていなかったとは思えませんから、日米の表と裏の使い分けの違いはそうなんだろうという気がしました。私自身のオバマ政権とトランプ政権に対する評価としては、本書の著者の見方にかなり近く、オバマ政権の時の国際的にオープンかつリベラルな政策の方を強く支持していますので、その政策的な対比についても本書の見方には共感できるものがありました。ただ、オバマ政権下での安全保障政策でもっとも注目すべきであるのは、私はごく初期のプラハでのスピーチであり、全文をこのブログに引用したほどですが、本書での位置づけはそれほどでもなく、やや、不満に思わないでもありません。でも、それなまだ私の専門外なので許容範囲としても、オープンでリベラルなオバマ政権と現在のトランプ政権で、もっとも大きな対比をなすのは移民政策ではなく通商政策だと私は考えています。その意味で、TPPから脱退、というか、署名前でしたので、TPPに不参加を表明したトランプ政権の政策につき、本書で何らの言及がなかったのには失望しました。
2017年12月15日 (金) 23:41:00
日銀短観に見る企業マインドはまさに満月の欠けたるところもなし!
12月日銀短観、大企業・製造業DIは5期連続改善 06年以来11年ぶり高水準
日銀が15日発表した12月の全国企業短期経済観測調査(短観)は、企業の景況感を示す業況判断指数(DI)が大企業・製造業でプラス25だった。前回9月調査(プラス22)から3ポイント改善し、2006年12月(プラス25)以来11年ぶりの高水準となった。改善は5四半期連続。好調な輸出が続く自動車関連や商品市況の回復による化学や鉄鋼・非鉄金属関連の景況感の改善が指数を押し上げた。
業況判断DIは景況感が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」と答えた企業の割合を引いた値。12月の大企業・製造業DIは、QUICKがまとめた市場予想の中央値であるプラス24を上回った。回答期間は11月14日~12月14日で、回収基準日は11月29日だった。
3カ月先の業況判断DIは大企業・製造業がプラス19と伸び悩む見通し。市場予想の中央値(プラス22)を下回った。海外の政治・経済情勢の不透明感などから先行きの見方は慎重だった。
17年度の事業計画の前提となる想定為替レートは大企業・製造業で1ドル=110円18銭と、実勢レートより円高・ドル安だった。
大企業・非製造業の現状の業況判断DIはプラス23と前回と同じだった。消費は上向きつつあるが、天候不順による対個人サービスの業況感悪化や労働需給逼迫に伴う人件費の上昇などが重荷となり伸び悩んだ。3カ月先のDIは3ポイント悪化のプラス20だった。
中小企業は製造業が5ポイント改善のプラス15、非製造業は1ポイント改善のプラス9だった。先行きはいずれも悪化した。
大企業・全産業の雇用人員判断DIはマイナス19となり、前回(マイナス18)から低下した。DIは人員が「過剰」と答えた企業の割合から「不足」と答えた企業の割合を引いたもので、1992年3月(マイナス24)以来のマイナス幅となった。
17年度の設備投資計画は大企業・全産業が前年度比7.4%増と、市場予想の中央値(7.6%増)を下回った。9月調査(7.7%増)からは増加幅が縮小した。
大企業・製造業の販売価格判断DIはプラス1と、前回(ゼロ)から1ポイント上昇。プラスとなるのは2008年9月(プラス11)以来9年ぶり。販売価格判断DIは販売価格が「上昇」と答えた企業の割合から「下落」と答えた企業の割合を差し引いたもの。
やや長いんですが、いつもながら、適確にいろんなことを取りまとめた記事だという気がします。続いて、規模別・産業別の業況判断DIの推移は以下のグラフの通りです。上のパネルが製造業、下が非製造業で、それぞれ大企業・中堅企業・中小企業をプロットしています。色分けは凡例の通りです。なお、影をつけた部分は景気後退期です。

引用した記事にもある通り、日銀短観のヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIは9月調査からさらに+3ポイント改善して+25に達し、大企業非製造業については9月調査から変化なかったものの、中堅企業・中小企業では製造業・非製造業ともに業況判断DIは改善を示しています。ただ、満月が欠けて行くはじまりであるように、先行きについては産業別に見ても、規模別に見ても、かなり慎重な見方が広がっています。株価などであれば、「高所恐怖症」と呼ばれる場合もあるようです。大企業レベルの製造業と非製造業で業況感の変化方向にビミョーな違いが出た背景としては、為替の円安方向への振れと世界経済の順調な回復・拡大がさらに広がりを見せている点に求められるんではないか、と私は考えています。非製造業については、特に、7~9月期のGDP統計に典型的に現れているように、ならして見れば何ともいえないものの、足元では好調な世界経済に対比させると、我が国の内需に勢いを欠いているのも事実ですし、人手不足が影を落としやすいのも非製造業かもしれません。
先行きについては、やや慎重な見方が広がっているものの、決して悲観する必要はない、と私は受け止めています。先行きのリスクで景況感に影を落としているのは、まず第1に、わけの判らない北朝鮮リスクです。北東アジアの地政学リスクについては、何とも予想できません。第2には米国の先行きリスクです。トランプ政権の政策方向の見極めが困難であることに加え、米国連邦準備制度理事会(FED)が本格的な利上げ局面に入り、さらにイエレン議長が退任しますので、今までにない局面を迎える可能性に懸念する向きもあるかもしれません。第3には、新興国の景気拡大と裏腹な現象ながら、石油をはじめとする資源価格の上昇です。昨日、帝国データバンクが「2018年の景気見通しに対する企業の意識調査」の結果を明らかにしているところ、やはり、先行きのリスクとして、人手不足、原油や資源価格の上昇、地政学リスクなどが上げられています。このリポートについては、来週にでも詳細は日を改めて通り上げる予定です。

続いて、いつもお示ししている設備と雇用のそれぞれの過剰・不足の判断DIのグラフは上の通りです。設備については、後で取り上げる設備投資計画とも併せて見て、設備の過剰感はほぼほぼ払拭されたと考えるべきですし、雇用人員についても人手不足感が広がっています。特に、雇用人員については規模の小さい中堅企業・中小企業の方が大企業より採用の厳しさがうかがわれ、人手不足幅のマイナスが大きくなっています。新卒採用計画の調査項目は省略しましたが、就活は売り手市場が続くようです。

最後に、設備投資計画のグラフは上の通りです。今年度2017年度の全規模全産業の設備投資計画は3月調査で異例の▲1.3%減という高い水準で始まったんですが、6月調査で+2.9%増、9月調査で+4.6%、12月調査で+6.3%と順調に上積みされています。上のグラフに見る通りです。日銀短観の設備投資計画は、統計のクセとして、3月調査はほぼほぼ必ず前年度比マイナスで始まり、12月調査でピークを迎え、結局、6月調査ないし9月調査の結果あたりで着地する、という実績になるような気がするんですが、人手不足や企業業績を考え合わせると、今年度の設備投資は期待してよさそうです。
2017年12月14日 (木) 22:27:00
絶好調の企業マインドを示唆する日銀短観予想の取りまとめ!
機関名 | 大企業製造業 大企業非製造業 <設備投資計画> | ヘッドライン |
9月調査 (最近) | +22 +23 <+4.6%> | n.a. |
日本総研 | +23 +24 <+5.1%> | 先行き、企業収益が堅調を維持するもとで、設備投資は持ち直しの動きが続く見通し。もっとも、人口減少下で国内の成長見通しが高まりにくいなか、生産能力を積極的に増強する動きは限定的。海外情勢にも不透明感が残るなか、機械投資を中心とした製造業の設備投資の力強い回復は期待しにくく、持ち直しペースは緩慢にとどまる見通し。 |
大和総研 | +22 +24 <+5.4%> | 2017年度の設備投資計画(全規模全産業、含む土地、ソフトウェアと研究開発投資額は含まない)は前年度比+5.4%と、前回の9月短観(同+4.6%)から上方修正されると予想した。12月日銀短観の設備投資計画には、中小企業を中心に上方修正されるという「統計上のクセ」がある。今回は、高水準の企業収益が設備投資に対してプラスの影響を及ぼす一方で、設備稼働率が伸び悩んでいることなどを踏まえ、例年の修正パターン並みの結果になると想定した。総じてみると、短観で見る日本企業の設備投資計画は底堅い内容だと評価している。 |
みずほ総研 | +23 +23 <+5.7%> | 2017年度設備投資計画(全規模・全産業)は前年比+5.7%増と、9月調査(同+4.6%)から上方修正を見込む。 製造業については、海外経済の回復やITサイクルの改善を背景に、主に半導体関連の設備投資が押し上げに寄与し、9月調査から前年比プラス幅が拡大すると予想している。ただし、設備メーカーの生産能力が需要の伸びに追いつかないことから、上方修正は小幅なものに留まるとみている。非製造業についても、オリンピックやインバウンド対応投資の継続がプラスとなるだろう。 |
ニッセイ基礎研 | +23 +24 <+5.9%> | 2017年度の設備投資計画(全規模全産業)は、前年比5.9%増と前回調査時点の4.6%増から上方修正されると予想。例年12月調査では、中小企業を中心に計画が固まってくることで上方修正される傾向が強い。また、企業収益が好調な水準を維持していることから投資余力は十分であること、人手不足を受けて一部で省力化投資が活発化していることなどから、実勢としても堅調と言える計画になりそうだ。 ただし、事業環境の先行き不透明感が強いことや、企業の期待成長率が低迷していることが投資の抑制に働くだろう。設備投資計画は底固いものの、収益改善の割にはやや物足りない水準との評価に留まりそうだ。 |
第一生命経済研 | +23 +23 <大企業製造業+11.7%> <大企業非製造業+4.7%> | マクロの経済動向では、景気拡大が成熟化して、設備投資の拡大へと展開している。リーマンショック以前に比べると設備投資の勢いは弱いという印象を拭えないが、短観ベースでは着実に投資は増えている。特に、中小企業では12月調査でさらに改善ペースを強める可能性がある。大企業・製造業は、すでに2桁の伸びをつけており、季節的な修正でプラス幅が小さくなってもなお2桁は維持されるだろう。経済データの中で設備投資の伸びには上振れの期待があるので、短観がそうした期待に応えられるであろうか。 また、設備判断DIでも、ここにきて不足感が強まっていれば、潜在的な投資ニーズが強まっている証拠になる。人手不足に連動して設備ニーズ、省力化ニーズが増えるという見方もある。 |
三菱UFJリサーチ&コンサルティング | +24 +24 <大企業全産業+7.0%> | 足元までの設備投資は持ち直し基調にある。今後も国内外の需要が持ち直していることに加え、企業の手元資金が潤沢であることや、人手不足感が強まる中で機械への投資の重要度が増すことが、国内の設備投資を押し上げるだろう。もっとも、将来に向けて国内需要の急速な拡大は見込めず、生産拠点を新興国などの消費地に近づける動きは変わらない。為替円安が定着しても、生産を国内に移管する動きは少ないだろう。 |
三菱総研 | +24 +24 <n.a.> | 業況判断DI(大企業・全産業)は、+24%ポイント(9月調査から1%ポイント上昇)と、5期連続での業況改善を予想する。海外需要の持ち直しを背景に、製造業を中心とする改善を見込む。 |
富士通総研 | +23 +24 <+4.8%> | 2017年度の設備投資計画(全規模・全産業)は前年度比4.8%と、9月調査から上方修正されると見込まれる。好調な企業収益が投資を支えており、設備投資の先行指標である機械受注、一致指標である資本財総供給とも、緩やかな増加基調を維持している。人手不足の深刻化により、省力化投資に対する企業の意欲はより一層高まっている。これに関連して、物流効率化のための投資も活発化している。さらに、IoT関連の投資需要の高まりも顕著になっている。大企業を中心に、設備投資計画は過去の平均を上回って推移しており、12月調査もその傾向が続くと予想される。中小企業も例年並みに上方修正されると見込まれる。 |
見れば分かると思いますが、大企業の製造業・非製造業の業況判断DI、さらに、全規模全産業の2017年度設備投資計画の前年度比です。設備投資計画は土地を含みソフトウェアを除くベースです。9月調査の短観と比較して、景況感に関しては、ほぼ横ばい圏内の動きが予想されているように見受けられますが、景況感が低下するという見方はないようです。少し前まで、というか、今年半ばくらいまで、北朝鮮を含む海外要因の不透明さに対する見方次第で、景況感の下振れの可能性もなくはなかったんですが、引き続き、北朝鮮の核やミサイルの問題は解決されていないものの、フランス大統領選挙の結果のマクロン大統領の誕生やドイツ総選挙でメルケル現首相の与党勝利で、昨年のようなBREXITやトランプ大統領勝利などの想定外の結果に対する懸念はかなり払拭されたんではないか、と私は受け止めています。繰り返しになりますが、あとは北朝鮮情勢が大きな比重を占める、ということではないかという気がします。いずれにせよ、北朝鮮情勢だけはエコノミストには予測不能です。その意味で、設備投資も同様の懸念あるものの、少なくとも国内経済要因だけは投資増の方向かという気がします。すなわち、好調な企業業績による資金的な余裕と人手不足による省力化や合理化投資の必要性が設備投資を下支えすることは確実です。
最後に、下のグラフはニッセイ基礎研のリポートから全規模全産業の設備投資計画を引用しています。
2017年12月13日 (水) 21:58:00
前月から伸びを示した機械受注をどう見るか?
機械受注5.0%増 10月、2カ月ぶりプラス
内閣府が13日発表した10月の機械受注統計によると、民間企業の設備投資の先行指標となる「船舶・電力を除く民需」の受注額(季節調整済み)は前月比5.0%増の8509億円となった。2カ月ぶりに増加し、製造業を中心に人手不足を補う省力化投資が活発なことを示した。
QUICKが算出する市場関係者による事前予測の中心値(3.0%増)を上回った。内閣府は「持ち直しの動きがみられる」との基調判断を前月から据え置いた。
製造業は前月比7.4%増と2カ月ぶりに増えた。17業種中12業種でプラスだった。発注者別では電気機械(20.2%増)やはん用・生産用機械(9.9%増)などの増加が目立つ。世界経済の回復を背景に、スマートフォン向けの半導体製造装置のほか、産業用ロボットへの投資が好調に推移している。外需は前月比4.9%増だった。
非製造業も前月比1.1%増と2カ月ぶりにプラス。運輸業・郵便業が26.2%増と大きく伸びた。大型の道路車両の受注があったという。卸売業・小売業からの受注も堅調だった。
いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、機械受注のグラフは以下の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影をつけた部分は景気後退期を示しています。

引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注で前月比+3.0%でしたので、これを上回って、まずまず堅調な伸びを示したと受け止めています。ただし、記事には人手不足大作のような表現がありますが、製造業で堅調な一方で、非製造業ではそうでもないわけですので、やや疑問が残ります。少し詳しく業種別に10月の統計を見ると、製造業については、化学工業で前月比+82.1%増、あるいは、石油製品・石炭製品でも+88.9%増といった資源関連の素材業種のほか、情報通信機械の+53.9%増とか電気機械の+20.2%増などの加工業種まで、幅広い業種で増加を示している一方で、船舶と電力を除く非製造業では、引用した記事にもある通り、大型発注のあった運輸業・郵便業の+26.2%増のほかは、卸売業・小売業の+10.0%増くらいで、しかも、製造業が9月前月比▲5.1%減を上回る10月+7.4%増なのに対して、非製造業は9月▲11.1%減に及ばない10月+1.1%増ですので、明らかに製造業中心の受注増と考えるべきです。月次で変動の激しい統計ですので、もっとならしてみるべきかもしれませんが、少なくとも10月統計に関しては、国内要因の人手不足に起因した省力化・合理化投資よりも、新興国を始めとする世界経済の回復・拡大に基づく我が国からの輸出の増加に対応した投資増が中心であった、と考えるべきであろうと私は受け止めています。今後については、世界経済の先行きリスクが米国の利上げで不透明であると考えるべきでしょうし、国内の人で不足に対応する投資が、もしも10月統計に示されたように不活発と仮定すれば、あくまで総仮定すれば、ということですが、先行きの機械受注や設備投資は横ばいないし増加であるとしても緩やかな増加になる可能性が高い、と私は予想しています。ただし、繰り返しになりますが、変動の激しい統計ですので、単月での評価には限界があり、もう少しならして見る必要はあります。
2017年12月12日 (火) 19:58:00
11月の企業物価(PPI)上昇率はさらにプラス幅を拡大!
11月の企業物価指数、前年比3.5%上昇、9年ぶり伸び率
日銀が12日に発表した11月の企業物価指数(2015年=100)は99.8で前年同月比3.5%上昇した。上昇は11カ月連続。上昇率は市場予想の中央値である3.3%を上回った。消費増税の影響を除くと08年10月(4.5%)以来、約9年ぶりの大きさとなった。
前月比では0.4%上昇した。品目別では、ガソリンや軽油といった石油・石炭製品が指数の上昇にもっとも寄与した。世界的な景気拡大や産油国による減産を背景にした国際原油相場の上昇が押し上げた。
農林水産物も上昇した。黒潮が大きく南に離れる「大蛇行」の発生による不漁で、シラス干しの価格が大幅に上昇。鍋用需要の高まりで牛肉や鶏卵も値上がりした。原油相場の強含みで化学製品も上昇した。
円ベースの輸出物価は前月比で0.2%上昇、前年同月比では6.8%上昇したが、上昇率は10月(それぞれ1.7%、9.7%)を下回った。中国の景気改善などを背景にした国際相場の上昇を受け、鉄くずや銅地金など金属・同製品が上昇した。普通乗用車など輸送用機器は下落した。
企業物価指数は企業間で売買するモノの価格動向を示す。公表している744品目のうち、前年同月比で上昇したのは387品目、下落は248品目となった。下落品目と上昇品目の差は139品目で、10月(確報値)の125品目から拡大した。
いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、企業物価(PPI)上昇率のグラフは以下の通りです。上のパネルから順に、上のパネルは国内物価、輸出物価、輸入物価別の前年同月比上昇率、下は需要段階別の上昇率を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影をつけた部分は景気後退期を示しています。

ということで、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは+3.3%の上昇が予想されており、実績値の+3.5%の上昇はレンジの上限となりますので、国際商品市況における石油価格次第とはいえ、かなり高めの上昇率だった気がします。国内企業物価(PPI)の前年同月比上昇率をもう少し詳しく見ると、中国をはじめとする新興国の景気拡大に伴うとみられるエネルギーなどの上昇率が高い印象で、例えば、石油・石炭製品が+19.0%の上昇、非鉄金属が+17.2%の上昇、電力・都市ガス・水道が+10.2%の上昇、さらに、ウェイトは小さいながら、スクラップ類は+34.4%の上昇などを記録しています。ただ、輸入物価の中の原油について最近時点での前年同月比上昇率を見ると、9月+24.8%、10月+36.7%、直近の11月+19.8%などとなっており、もちろん、国際商品市況の動向次第ながら、あるいは、為替相場と合わせ技で考えた円建ての原油価格はそろそろピークアウトする可能性もあります。ただ、需要段階別の下のパネルのグラフでは、見た目は判然としないんですが、素原材料と中間財については前年同月比の上昇率が10月をピークに11月にはわずかにプラス幅を縮小している一方で、最終財については11月も依然としてまだ上昇幅が拡大しており、川上の石油価格がピークアウトした後でも川下の最終財に向けた価格上昇の波及は進むのかもしれません。
2017年12月11日 (月) 23:42:00
法人企業景気予測調査に見る企業マインドはさらに改善を示す!
大企業景況感2期連続プラス 10-12月
財務省と内閣府が11日発表した10~12月期の法人企業景気予測調査によると、大企業の景況感を示す景況判断指数(BSI)はプラス6.2だった。国内外における景気回復を背景に、2四半期続けてプラスとなった。財務省は企業の景況感について「緩やかな回復基調が続いている」とし、前回調査から判断を据え置いた。
指数は自社の景況が前期に比べ「上昇」したとの回答割合から「下降」の割合を引いた値。調査基準日は11月15日で、資本金1千万円以上の企業1万2948社から回答を得た。
製造業はプラス9.7だった。原材料高を理由に国内向け商品の販売価格を引き上げた食料品製造業の景況感が改善した。新型車が好調な自動車・同付属品、車やスマートフォン向けの半導体部品の需要増が続く情報通信機械器具も堅調だった。
非製造業はプラス4.5だった。原油価格の上昇を受け販売価格が上昇した商社などの景況感が改善した。
中堅企業はプラス5.3、中小企業はマイナス2.3で、ともに前回調査よりも指数は上昇した。中小企業の製造業はプラス2.0と、消費税率引き上げ前の駆け込み需要があった2014年1~3月期以来の高水準だった。
大企業による景況感の18年1~3月期の見通しは5.2、18年4~6月期は0.5とプラスを維持するものの、慎重に見る向きが多い。一方で19年3月期の設備投資見通しについて、増加すると答えた企業の割合は21.4%と、12年10~12月期に調査を開始して以来過去最高となった。
いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、法人企業景気予測調査のうち大企業の景況判断BSIのグラフは以下の通りです。重なって少し見にくいかもしれませんが、赤と水色の折れ線の色分けは凡例の通り、濃い赤のラインが実績で、水色のラインが先行き予測です。影をつけた部分は景気後退期を示しています。

企業活動については、ハードデータの売上げや利益といった企業収益の部分が昨年年央から後半くらいに底を打ち、マインドのソフトデータについても昨年2016年10~12月期くらいから改善を示して来ていると受け止めています。そして、足元の今年2017年10~12月期について少し詳しく景況判断指数(BSI)を見ると、かなり広範な企業にマインド改善の動きが広がっているように見受けられます。すなわち、製造業・非製造業の極めて粗いながらも業種別と、大企業・中堅企業・中小企業の規模別の2☓3の6つのセルで考えて、非製造業中堅企業でわずかに7☓9月期から悪化を示したほかは、すべて改善を示しています。その非製造業中堅企業についても10~12月期のBSIの水準は+3.0とプラス圏内ですし、先ほどのセルの中でまだ水面下のマイナスは非製造業中小企業の▲3.2だけとなっています。景況感以外のBSIについては、引き続き、雇用に関する従業員数判断BSIで人手不足が明らかとなっています。すなわち、今年2017年12月末時点で、大企業が過剰に対する不足超19.5、同じく、中堅企業32.6、中小企業29.5となっていて、採用しやすい大企業よりも中堅・中小企業で人手不足感が広がっているように見受けられます。最後に、私が注目している設備投資計画は、2017年度で前年度比+3.4%増と、前回調査の+3.9%増から下方修正されましたが、引用した記事にもある通り、少なくとも大企業レベルでは来年度2018年度の設備投資を増加させると回答した企業は21.4%ととても高い比率に上っています。人手不足にも対応して、設備投資も増加する方向にあるようです。
今週金曜日の12月15日には企業マインドに関する重要な指標である日銀短観12月調査の結果が明らかにされます。ほとんどのシンクタンクから日銀短観予想が明らかにされています。現在取りまとめ中で、極めて大雑把に、景況感はわずかながらも改善を示し、設備投資計画は12月調査においては統計のクセとして、というか、その範囲くらいで上方修正される結果が多くなっているような印象です。また、日を改めて取り上げたいと思います。
2017年12月10日 (日) 23:41:00
母校の恩師を偲ぶ会で京都に行く!
写真は上から順に、まず、京大のシンボルたる時計台です。やっぱり、上の倅の大学の時計台より立派な気がします。偲ぶ会の壇上に飾られた恩師の写真です。とてもにこやかです。最後は、みんなで三校ボート部の歌である「琵琶湖周航の歌」を6番まで熱唱しました。場所を京大キャンパスから先生宅に移動して、蔵書の一部です。歴史の先生ですので、こういった本が1万7千冊あるらしいです。蔵書の形見分けとして私がちょうだいした3冊、『藤沢周平未刊行初期短篇』(文藝春秋)、ポオ『黒猫・黄金蟲』(新潮文庫)、『河上肇評論集』(岩波文庫)です。河上教授は京都大学経済学部の学部祭に河上祭として名を留めている大先生です。『貧乏物語』が有名なんですが、目についた本書をちょうだいしました。最後に、京大前にあった自転車ナビラインだそうです。東京都下の自転車ナビマークとは名称もマークのデザインも違っています。県警ごとに違っていたりするんでしょうか。
2017年12月10日 (日) 13:14:00
先週の読書はまずまず充実の経済書など計6冊!
まず、井伊雅子ほか[編]『現代経済学の潮流 2017』(東洋経済) です。最近時点における日本経済学会の春季及び秋季の年次総会における会長講演や特別報告、さらに、パネル討論を収録した学会公式刊行物です。もう20年も発行されていて、私は今まで読もうとしなかったんですが、なぜ、急に読む気になったかというと、来年春季大会のパネル討論に参加することになりそうだからです。なかなかに光栄なことだという気もしますが、どうして今まで読もうとしなかったかというと、ハッキリいって余りに高度であるからというのが第1の理由です。判りにくい例ながら、私は少し前までフツーにゴルフをプレーしますが、トップクラスの男子ゴルファーのプレーを見ても、何の参考にもなりません。それと似たようなもんです。第2に、データや分析が細かくなり過ぎた印象もあります。STAP細胞ではありませんが、科学的な見地からはブラックボックスではなく再現可能性という見方も重要です。個票を用いた実証分析は、私もミンサー型の賃金関数を推計したりした経験もありますが、もちろん、インチキの可能性を主張するつもりはないものの、外部の人の再現可能性が極めて限られるような気がします。第3に、本書の最終章で展開されているようなエビデンス・ベースの政策立案はとても重要なことであり、政策効果を出来る限り定量的に「見える化」することは必要なんですが、その定量的に「見える化」した結果を評価する評価関数のようなもの、それがどのようなものかは私にはまだ実感ないものの、そういった評価関数のようなものの開発が立ち遅れているような気がします。まあ、定量的な「見える化」が先行するのは理解できます。そうでなければ、評価関数も出来ませんから、そこは理解するんですが、まったく評価関数の理論的な展開ないままに進んでいる現状には、少し疑問に思わないでもありません。こういった理由から、今まで最新の経済理論に触れることなくダラダラと過ごしてきたんですが、やっぱり、定年退職を前に急に思い立って勉強を始めてもダメだという気がしてきました。短時間でしょうから、パネル討論を乗り切ることを第一義に考えたいと思います。
次に、高島正憲『経済成長の日本史』(名古屋大学出版会) です。著者は東大社研のポスドク研究者であり、出版社からも理解できる通り、かなり純粋な学術書と考えるべきです。といいつつも、実は、私は京都大学経済学部の学生のころは西洋経済史のゼミに所属していましたので、私にとってはそれなりに馴染みのある分野です。しかし、本書では著者はアンガス・マディソン教授の向こうを張って、超長期の日本経済のGDPを推計しています。古代といえる730年からの推計です。というのも、マディソン推計は、さすがに、そこまで訴求しておらず、しかも、日本の場合はベンチマークがかなり粗くなっていて、本書のような研究も存在価値あるといえます。本書は3部構成を取っており、第1部では農業生産を推計し、第2部では人口の推移を推計し、最後の第3部では農業以外の生産を推計するとともに、GDPとして体系的に推計を進めています。人口データも推計していますので、1人当りのGDPが求められる結果となっています。いずれにせよ、マディソン推計でも、中世以前については、いわゆる生存最低ラインといわれる1人当りGDPで年間400ドル、これは米ドルではなく1990年価格のゲアリー・ケイミス国際ドル単位なんですが、その年間400ドルの生存最低限を少し上回る水準で、かなり恣意的な推計になっている恐れも感じられます。本書によす推計では、マディソン推計をやや上回る1人当りGDPげ推計されている一方で、ポメランツ教授のいう大分岐については、日英間で1人当りGDPを見る限り、かなり早い時期から分岐が生じていた可能性が示唆されています。ただ、本書では延々と根拠とし得る古文書の計数を紐解きつつ、数量的な積み上げによる推計を、方法論とともに詳細に展開しているわけで、私の求めるものは本書の方法論では完全にスコープの外になってしまうんですが、その推計されたGDPの背景となる経済社会の動向についてはまったく無視されています。すなわち、飢饉でGDPが大きく減少したとか、農地の開墾が進んで農業生産が伸びたとか、もちろん、経済史上の大きな論点であるイングランドにおいて産業革命が始まった謎も解明されません。でも、それはそれで、こういった数量的な把握に基づく経済史の研究も重要であろうということは理解すべきです。
次に、中島真志『アフター・ビットコイン』(新潮社) です。著者は、日銀から大学の研究者に転じていて、要するにそれくらいの年齢だということかと思います。本書の内容を簡単に取りまとめると、ビットコインはもう終わった過去のことだが、ビットコインの記録方式であるブッロク・チェーン=分散型台帳技術は金融にとどまらず、いろいろな分野で大きな変化をもたらす、ということかと思います。ビットコインについては、私もそろそろブームが終了し、終焉の時期を迎えている気はしますが、なくなりはしないと思います。何らかの新機軸が現れた場合、何らかの合法的あるいは非合法的な「お得感」により普及の基礎が与えられる場合があります。家庭用ビデオの場合はポルノでしたし、Airbnbのような民泊の場合は税逃れだった気がします。ビットコインについてはシルクロードのようなご禁制品の売買とか、もっと大がかりにはマネー・ロンダリングだったわけで、現在、ビデオでポルノ以外も見るように、ビットコインでの支払い方法は何らかの形で残ることとは思いますが、現行の現金による支払方法に取って代わることはなかろうと私も思います。他方、ブロック・チェーンは確かにうまく使えばさらに応用可能な気もします。他方で、私は技術的な内容について詳しくないながら、経済社会的な検討が本書では不十分な気もします。要するに、やや楽観的に明るいブロック・チェーンの未来を提示するだけで、その陰の部分に対しては目を閉じさせる内容化という気がします。すなわち、現在の銀行をはじめとする金融仲介機能を基にしたビジネス・モデルが、大げさにいえば、一気に崩壊する可能性を無視している気がします。ブロック・チェーンを用いれば海外送金の手数料などが安くできる、ということは、金融仲介機関の生産性がやたらと上がる、逆から見て、現在の規模の経営体は不要になる可能性が高い、と覚悟すべきです。おそらく、暗黙の裡に著者はブロック・チェーンを用いた金融仲介は現状の銀行などの機関が行うことを想定しているように見受けられますが、それによって銀行は生き残るかもしれませんが、企業規模は大きく縮小する可能性があることは忘れるべきではありません。ドラマの『陸王』などの池井戸作品に登場する一部の日本の銀行マンは、融資などで目利きではないような描かれ方をしていますが、そういったビジネス・モデルが一気に崩壊する可能性もあるわけです。
次に、鯨岡仁『日銀と政治』(朝日新聞出版) です。作者はいわゆる新聞記者で、日経新聞や朝日新聞、また、分野も政治部や経済部など幅広いご活躍のようです。本書では、1990年代日本経済のバブル経済の崩壊やデフレに入ったあたりから最近時点までをスコープに、特に1998年の日銀法改正からの時期を重視して、経済統計ではなくジャーナリストらしく取材を基にした日銀と政治との関係をあぶり出そうと試みています。日銀の記者クラブ在籍経験があるようですから、いくぶんなりとも、日銀理論に親しみを覚える、というか、極端な場合は洗脳まがいの影響を受けているのではないかと恐れながら読み進んだんですが、さすがにそんなことはなく、もうそんなジャーナリストやエコノミストは一握りなんだろうと思います。ということで、私のように金融政策の部外者ながら、決して、無関係ではない官庁エコノミストからすれば、それなりに興味深い内幕者だという気がします。金融政策、というか、中央銀行の独立という考え方については、先進国ではほぼほぼ確立したと受け止められていますが、物価に責任を持つ中央銀行の金融政策は、当然にして、国民生活と深い関わりを持つわけですので、国民の選好からは逃れることは出来ないと考えるべきです。すなわち、中央銀行の独立というのは、独裁政権におけるものではなく、民主主義下の独立であり、選挙によって表明された国民の選好に無関係ではあり得ません。その意味で、中央銀行の独立を支えるのはその正しい政策決定・遂行であり、白川総裁のころまでの旧来の日銀理論に凝り固まって、国民生活を無視して政策の裁量性だけを尊重させ続けた日銀は独立するに値しない存在だったと私は考えています。そして、2012年12月の総選挙の争点であったように、物価目標を明らかに国民が選んだのですから、政策目標はそれで決まりなわけです。しかし、苦しいところは、現在の副総裁の岩田教授がその昔に主張していた批判は、それはそれで正しかったと私は考えていますが、他方、岩田副総裁も含む執行部で実行している金融政策によっても、サッパリ、物価は上がらず、まったくインフレ目標が達成されない点です。白い日銀理論ではなく、黒い日銀理論でもなく、第3の政策が必要なんでしょうか。私はリフレ派として現在の黒い日銀の政策が正しいと考え続けているだけに、やや当惑しているというのが正直なところです。このままでは日銀が国債をすべて買い切っても物価が上がらないのではないかと大きく心配しています。最後に、300ページの少し前あたりから、現在の黒田総裁以下の日銀執行部を選任する際の候補者が個人名で上げられていて、その個々人について、何がどうだから適任とか、ダメ、とかが余りにもあからさまに記述されています。私は少しびっくりしてしまいました。綿密な取材に基づくものでしょうから、その真実性について疑問を差し挟むことは控えますが、現任の日銀執行部人事であり、もう少し時間を置くとかの配慮はできなかったものでしょうか?
次に、ジャック・アタリ『2030年ジャック・アタリの未来予測』(プレジデント社) です。著者はフランスの生んだ鬼才であり、トランプ米国大統領の誕生を予言し、マクロン仏大統領を政界に押し上げた、ともいわれています。本書のフランス語の原題は Vivement après-demain であり、訳者あとがきのよれば、「明後日を生き生きと」という意味だそうです。2016年の出版です。ということで、タイトル通りに2030年の予想です。書かれた時点から考えると、約15年後の予想なわけで、著者が1943年生まれだそうですから、80代も後半に達していて、著者ご本人の2030年時点での生死は何ともいえないところかという気がします。それはともかく、国家の運営から個人の生き方まで、かなり破天荒な中身、つまり、ご高齢者の放談に属する内容も含めて、かなり面白かったと受け止めています。まあ、要するに、15年後には何でもアリということなんだろうと思います。2030年ですから、カーツワイルの予言する2045年のシンギュラリティのかなり前なんですが、私が感じた大きな本書の特徴のひとつは、AIやロボットによる労働の代替を含めて、かなり大きなイノベーションを予言している点だという気がします。しかし、その上で、人口動態=高齢化、地球環境問題や特に水資源不足、経済の停滞、経済的不平等の進行、金融システムの脆弱性問題、果ては、民主主義の後退からカルトと原理主義の台頭、さらに、怒りや激怒をモチーフ新たな世界規模の戦争までを可能性として予言しています。これだけ悲観的な予想をいっぱい並べたら、ひょっとしたら、どれかが当たるかもしれない、と現実主義者で正直な人なら感じてしまうかもしれません。ただし、最後の第4章では生死観まで取り上げて、一気に宗教家のような言説を展開し、私のような単純な読者を煙に巻こうかということなんだろうか、とよからぬ想像すら働かせてしまいます。たしかに、いろいろと悲観的な予言を並べる一方で、それを最終章ではひっくり返して見せ、アタリ一流の「未来は変えられる」みたいな、特に根拠ない楽観論を展開し、悲観論と楽観論のバランスを取る、というよりは、最初に書いた通りに、何でもアリな未来をご高齢者の放談めいて書き連ねているような気もします。おそらく、読者によって、そのポジションによって受け取り方が違う気がします。どうとでも読める未来の予言です。
最後に、木村泰司『西洋美術史』(ダイヤモンド社) です。著者は、美術評論家なのか、西洋美術史家なのか、私にはよく判りません。米国カリフォルニア大学バークレー校で美術史学士号を取得の後、ロンドンにてサザビーズの美術教養講座にて WORKS OF ART を修了したとされていますが、専門外にてよく判りません。本書は4部構成となっており、第1部では古典古代のギリシア・ローマ時代から始まって、宗教の発生や神がいかにして生まれたかについて美術との関係を探り、どうして裸体が彫刻に残されたのかについてなどを開設しています。第2部ではキリスト教の影響の下で、欧州における絵画の発展を跡付けています。ルネッサンスからの文芸復興、そして、カラバッジオが登場し絵画の世界に革命を興します。第3部では絶対王政期からナポレオン期のフランスに着目し、イタリアからフランスに美術の中心がどうして移ったのかを考察しています。そして、第4部では産業革命により文化的な後進国であったイングランドないし英国において美術的な反撃がどのようになされたか、印象派が受け入れられなかった理由、米国マネーが美術界発展に寄与した波形、などなどにつき論を進めています。常識的に知っている内容も少なくないんですが、系統的に取りまとめてくれているのは有り難い限りです。芸術分野としては、ランガーなどの説に従えば、絵画や彫刻などの本書の守備範囲である美術のほか、ノーベル賞の対象にもなっている文学、いうまでもなく音楽、そして、舞踏の4分野が想定されています。どうしても鑑賞に時間がかかる音楽や文学と違って、美術は考えようによっては一瞬で鑑賞が終わりますから、それだけ延々と蘊蓄を傾ける時間があるともいえます。本書で一貫して主張している、感性で見るのではなく、理性で読む美術を身につけるのも国際はビジネスマンの嗜みかもしれません。
2017年12月09日 (土) 07:38:00
米国雇用統計は堅調な雇用の伸びを示し来週の利上げは確定か?
Beating expectations, U.S employers add 228,000 jobs; unemployment rate stays 4.1%
In the latest indication that the U.S. economy remains on solid footing, employers in the U.S. added a robust 228,000 new jobs last month and the nation's unemployment rate held steady at a 17-year low of 4.1%.
The Labor Department's report Friday cements expectations that the Federal Reserve will nudge up interest rates next week, and could set the stage for a quickening of rate hikes next year, especially if the Republican tax cuts take effect and add fuel to short-term economic activity.
Average wage gains picked up slightly in November from the prior month, but nonetheless remained at a mediocre 2.5% annual rate of increase seen in recent years — despite hopes that the tightening labor market would generate faster pay increases.
Job growth in November exceeded forecasts from many analysts who were looking for an increase averaging about 195,000. Manufacturing had another strong month of hiring, as did business and professional services. The construction industry and healthcare services also had a good month. Retailers added a middling amount of jobs.
Last month's payroll gains followed an increase of 244,000 jobs in October. Both months' numbers were likely inflated somewhat, making up for job growth that had plunged in September because of the hurricanes in Texas and Florida.
With the November statistics, monthly job growth has averaged 170,000 the last three months and 174,000 for all of this year. That is down from the 187,000 average gains per month in 2016, but still a healthy rate of growth that, if it continues, will likely pull more people into the labor force and push down the jobless rate.
長くなりましたが、金融政策動向も含めて、包括的によく取りまとめられている印象です。続いて、いつもの米国雇用統計のグラフは下の通りです。上のパネルは非農業部門雇用者数の前月差増減の推移とそのうちの民間部門、下のパネルは失業率です。いずれも季節調整済みの系列であり、影をつけた部分は景気後退期です。全体の雇用者増減とそのうちの民間部門は、2010年のセンサスの際にかなり乖離したものの、その後は大きな差は生じていません。

米国の非農業部門雇用者数は、9月のハリケーンの影響で少し撹乱されましたが、先月の統計でジャンプし、今月の統計ではほぼほぼ正常化したんではないかと見られています。繰り返しになりますが、市場の事前コンセンサスでは+195千人増くらいを予想していたようなんですが、これを上回った雇用の堅調さが示されています。従って、来週12~13日に開催される米国連邦準備制度理事会(FED)の公開市場委員会(FOMC)では利上げが実施されることがほぼ確実となりました。9月のFOMCでは2018年中も3回の利上げが示唆されていましたが、引用した記事にもある通り、議会で共和党が進めている法人減税がさらなる景気拡大効果を発揮するようであれば、利上げのペースが速まる可能性もあります。ただ、来年2月に退任するイエレン議長の後任のパウエル新議長は、物価動向次第では利上げペースを緩やかにすることも視野に入れているといわれており、いろいろな条件次第で米国の利上げペースは左右されそうです。

最後に、時間当たり賃金の前年同月比上昇率は上のグラフの通りです。ならして見て、底ばい状態を脱して少し上向きに転じつつも、もう一段の加速が見られないと考えられてきて、引用した記事でも "mediocre" と表現されているところですが、それでも、11月は前年同月比で+2.5%の上昇を見せています。日本だけでなく、米国でも賃金がなかなか伸びない構造になってしまったといわれつつも、物価上昇を上回る賃金上昇が続いているわけですから、生産性の向上で賃金上昇を吸収して物価にそのまま波及させるには至っていないとはいえ、金融政策の発動が必要とされる場面なのかもしれません。
2017年12月08日 (金) 20:39:00
堅調な成長を示す2次QEとついでながらの景気ウォッチャーと毎月勤労統計と経常収支!
GDP年率2.5%増に上方修正 7-9月改定値、設備投資・在庫が寄与
内閣府が8日発表した2017年7~9月期の国内総生産(GDP)改定値の伸び率は物価変動を除いた実質で前期比0.6%増、年率換算では2.5%増と、速報値(前期比0.3%増、年率1.4%増)から上方修正した。設備投資の上振れや原材料在庫の増加が寄与した。QUICKが4日時点でまとめた民間予測の中央値(前期比0.4%増、年率1.5%増)を上回った。
実質成長率は7四半期連続の増加。内閣府は「景気の緩やかな拡張が続いている」(経済社会総合研究所)と指摘した。
設備投資は前期比1.1%増と、速報値の0.2%増を大幅に上回った。1日発表の法人企業統計で、宿泊などサービス業に加え金融機関などで投資が伸び、改定値の上方修正に貢献した。民間在庫の寄与度は0.4%と、速報値(0.2%)を上回った。石油化学関連の原材料や鋼材といった資材在庫の積み増しが目立ったようだ。
このほかの内需項目は、個人消費が速報値と同じ前期比0.5%減、住宅投資が1.0%減(同0.9%減)、公共投資が2.4%減(同2.5%減)だった。
輸出は前期比1.5%増と速報値と同じで、輸出から輸入を差し引いた外需の実質GDP改定値への寄与度もプラス0.5ポイントと速報値から変わらなかった。
生活実感に近い名目GDPは前期比0.8%増(速報値は0.6%増)、年率で3.2%増(2.5%増)となった。総合的な物価の動きを示すGDPデフレーターは速報値と同じ前年同期比プラス0.1だった。
ということで、いつもの通り、とても適確にいろんなことが取りまとめられた記事なんですが、次に、GDPコンポーネントごとの成長率や寄与度を表示したテーブルは以下の通りです。基本は、雇用者報酬を含めて季節調整済み実質系列の前期比をパーセント表示したものですが、表示の通り、名目GDPは実質ではなく名目ですし、GDPデフレータと内需デフレータだけは季節調整済み系列の前期比ではなく、伝統に従って季節調整していない原系列の前年同期比となっています。また、項目にアスタリスクを付して、数字がカッコに入っている民間在庫と内需寄与度・外需寄与度は前期比成長率に対する寄与度表示となっています。もちろん、計数には正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、 です。正確な計数は自己責任で最初にお示しした内閣府のリンク先からお願いします。
需要項目 | 2016/7-9 | 2016/10-12 | 2017/1-3 | 2017/4-6 | 2017/7-9 | |
1次QE | 2次QE | |||||
国内総生産 (GDP) | +0.2 | +0.3 | +0.4 | +0.7 | +0.3 | +0.6 |
民間消費 | +0.4 | +0.1 | +0.4 | +0.9 | ▲0.5 | ▲0.5 |
民間住宅 | +3.0 | +0.2 | +0.9 | +1.3 | ▲0.9 | ▲1.0 |
民間設備 | ▲0.2 | +1.5 | +0.2 | +1.2 | +0.2 | +1.1 |
民間在庫 * | (▲0.5) | (▲0.1) | (▲0.1) | (▲0.0) | (+0.2) | (+0.4) |
公的需要 | +0.4 | ▲0.7 | +0.2 | +1.1 | ▲0.6 | ▲0.5 |
内需寄与度 * | (▲0.1) | (+0.0) | (+0.3) | (+1.0) | (▲0.2) | (+0.1) |
外需寄与度 * | (+0.3) | (+0.3) | (+0.1) | (▲0.2) | (+0.5) | (+0.5) |
輸出 | +2.1 | +3.0 | +1.9 | ▲0.1 | +1.5 | +1.5 |
輸入 | +0.1 | +1.3 | +1.3 | +1.5 | ▲1.6 | ▲1.6 |
国内総所得 (GDI) | +0.5 | +0.0 | +0.2 | ▲0.1 | +0.4 | +0.7 |
国民総所得 (GNI) | ▲0.1 | +0.1 | +0.2 | +0.9 | +0.6 | +0.8 |
名目GDP | ▲0.1 | +0.5 | +0.1 | +0.8 | +0.6 | +0.8 |
雇用者報酬 | +1.1 | ▲0.3 | +0.2 | +1.0 | +0.5 | +0.7 |
GDPデフレータ | ▲0.1 | ▲0.1 | ▲0.9 | ▲0.4 | +0.1 | +0.1 |
内需デフレータ | ▲0.8 | ▲0.4 | ▲0.0 | +0.3 | +0.5 | +0.5 |
上のテーブルに加えて、いつもの需要項目別の寄与度を示したグラフは以下の通りです。青い折れ線でプロットした季節調整済みの前期比成長率に対して積上げ棒グラフが需要項目別の寄与を示しており、左軸の単位はパーセントです。グラフの色分けは凡例の通りとなっていますが、本日発表された7~9月期の最新データでは、前期比成長率が7四半期連続でプラスを示し、黒い外需(純輸出)と灰色の在庫が大きなプラスの寄与を、赤い消費がマイナスを、それぞれ示しているのが見て取れます。

ということで、引用した記事にもありますし、一昨日の1次QE予想でも取り上げましたが、7~9月期2次QEでは1次QEから小幅上昇改定が予想されていたところ、統計が公表されてみると、かなり大幅な上方改定となりました。季節調整済みの前期比で見て、設備投資が1次QEの+0.2%増から2次QEでは+1.1%増に大きく上方改定されましたので、設備投資の寄与だけで+0.2%の成長率押し上げがなされたことになります。加えて、在庫の寄与がやはり1次QEから2次QEに向けて+0.2%の上方改定でしたので、国内需要の寄与度が1次QEの▲0.2%から2次QEでは+0.1%に+0.3%ポイントのスイングを見せました。他方、外需項目の輸出と輸入は伸び率も寄与度も1次QEから2次QEへの変更はほとんどありませんでした。基本的には、1次QEから景気判断として変更すべきポイントはないと私は受け止めており、引き続き、少し目先の先行きも含めて、日本経済は緩やかな回復ないし拡大を続けているものと考えるべきです。ただ、上方修正の大きな需要項目である設備投資と在庫をもう少し詳しく見ると、形態別固定資本形成のうち、特に季節調整済みの系列の前期比で見て伸びが大きかったのは、建物・構築物と輸送機械を除くその他の機械設備等が+1.1%、さらに、知的財産生産物が+0.8%となっています。新たに設備投資に加えられるようになったR&D やソフトウェアなど知的財産生産物への投資が増加しているのが見て取れます。さらに、在庫がプラスに上振れしたのは、評価の難しいところかもしれません。単純には、前向きの営業姿勢であり、売上げの増加に対応した在庫増だと見なすことも出来ますが、意図せざる在庫増の可能性も否定できません。ただ、GDPへの寄与度+0.4%を示した在庫変動を詳細に見ると、原材料在庫が+0.2%、仕掛品在庫が+0.0%、製品在庫と流通品在庫がともに+0.1%となっていて、消費の減退に対応した売れ残りではなさそうな気もします。
なお、1次QE公表の際にも同じことを書いたように記憶していますが、現在のアベノミクスを批判しようという意図があれば、4~6月期の消費をはじめとする内需主導成長が7~9月期には続かずに外需主導になった、と批判すればいいわけですし、逆に、アベノミクスを擁護しようとすれば、4~6月期と7~9月期をならして見れば順調な成長経路に乗っている、ということになるんではないかという気がします。ですから、何とでも評価できそうです。しかし、特にボリュームの観点から注目すべき消費についてもう少し詳しく見ると、1人当たりの統計で見て賃金上昇が見られないものの、正規雇用をはじめとして量的な雇用の増加があることから、マイクロな個人単位の賃上げなくてもマクロな雇用者所得の増加は観察されており、決して消費者マインドは悪くないことも考え合わせると、天候要因ほかの特殊要因がなくなれば消費は回復するものと考えています。何度か繰り返しましたが、消費が停滞しているのは所得が伸びていないのが原因であり、年金制度などの将来不安ではないと私は考えています。ただし、消費を財別にさらに詳細に見ると、耐久財消費が7~9月期には前期比でマイナスに転じていて、消費増税やエコカー減税、家電エコポイントなどで攪乱された耐久消費財の買い替えサイクルの復活が早くも終了した可能性を示唆する見方も出ています。今後の動向が気がかりです。

最後に、GDP統計以外の政府経済指標に目を転ずると、内閣府から11月の景気ウォッチャーが、また、厚生労働省から10月の毎月勤労統計が、さらに、財務省から10月の経常収支が、本日、それぞれ公表されています。いつものグラフは上の通りであり、上のパネルから順に、景気ウォッチャーの現状判断DIと先行き判断DI、毎月勤労統計の賃金のうち季節調整していない原系列の前年同月比上昇率と季節調整済みの系列、最後は経常収支の棒グラフとその内訳の積上げ棒グラフです。各統計のヘッドラインだけ簡単に取りまとめると、景気ウォッチャーの11月の現状判断DIは、季節調整済みの系列で見て前月差+2.9ポイント上昇の55.1とさらに上昇を続けています。毎月勤労統計の実質賃金指数のうち現金給与総額は、季節調整していない原系列で見て前年同月比で+0.2%の増加を示しています。経常収支は季節調整していない原系列の統計で2兆1764億円の黒字を計上し、黒字は40か月連続を記録しています。
2017年12月07日 (木) 21:44:00
景気動向指数に見る現在の景気拡大はいざなぎ景気を越えて戦後最長に迫るか?
景気一致指数0.3ポイント改善 10月も「改善」
内閣府が7日発表した10月の景気動向指数(2010年=100、CI)によると、景気の現状を示す一致指数は前月より0.3ポイント上がり、116.5となった。2カ月ぶりに上昇した。内閣府は一致指数からみた基調判断は「改善を示している」として据え置いた。
CIは指数を構成する経済指標の動きを統合して算出し、月ごとの景気変動の大きさやテンポを示す。
一致指数を構成する指標で、前月と比較できる7つの指標のうち、4つが改善した。有効求人倍率の改善が全体を大きく押し上げたほか、卸売業の商業販売額も堅調だった。生産は自動車部品や半導体が増えた。
数カ月先の情勢を示す先行指数は0.4ポイント低下の106.1となった。低下は2カ月連続。最終需要財在庫率指数など企業の在庫を示す指標が悪化した。台風の影響で客足が悪く、消費者態度指数も悪化した。
いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、下のグラフは景気動向指数です。上のパネルはCI一致指数と先行指数を、下のパネルはDI一致指数をそれぞれプロットしています。影をつけた期間は景気後退期を示しています。

CI一致指数に対する寄与度で大きかった項目をあげると、プラス寄与では有効求人倍率(除学卒)、投資財出荷指数(除輸送機械)、商業販売額(卸売業)(前年同月比)、生産指数(鉱工業)が上げられており、逆にマイナス寄与では商業販売額(小売業)(前年同月比)、鉱工業用生産財出荷指数、耐久消費財出荷指数となっています。CI先行指数のマイナス寄与では鉱工業用生産財在庫率指数と最終需要財在庫率指数の絶対とが大きくなっています。CI先行指数こそ下降しましたが、3か月後方移動平均は5か月連続の上昇を示していますし、CI一致地数・先行指数とも7か月後方移動平均は、何と、ともに15か月連続で上昇しています。少なくとも、10月より前に景気の山があったとは考えられませんから、現在の景気拡大は59か月に及ぶことになり、高度成長期のいざなぎ景気を超えたことは明らかであろうと私は受け止めています。なお、いざなぎ景気は1965年11月から1970年7月まで57か月間続いています。また、戦後最長の景気拡大期間は米国のサブプライム・バブルに対応した期間であり、2002年1月を景気の底とし、2002年2月から2008年2月の山まで73か月間続いており、単純に計算すれば、さ来年2019年1月まで現在の景気拡大が続けば74か月に達するので、これを抜くこととなります。「来年の話をすると、鬼が笑う」とはよくいったもので、やや気の早いお話かもしれません。
2017年12月06日 (水) 19:55:00
明後日公表予定の7-9月期GDP統計2次QEの予想やいかに?
機関名 | 実質GDP成長率 (前期比年率) | ヘッドライン |
内閣府1次QE | +0.3% (+1.4%) | n.a. |
日本総研 | +0.4% (+1.5%) | 7~9月期の実質GDP(2次QE)は、公共投資、設備投資は大きく変わらないものの、在庫変動が小幅上方修正となる見込み。その結果、成長率は前期比年率+1.5%(前期比+0.4%)と1次QE(前期比年率+1.4%、前期比+0.3%)から小幅上方修正される見込み。 |
大和総研 | +0.4% (+1.6%) | 7-9月期GDP二次速報(12月8日公表予定)では、実質GDP成長率が前期比年+1.6%(一次速報: 同+1.4%)と、一次速報から上方修正されると予想する。 |
みずほ総研 | +0.5% (+1.9%) | 10~12月期以降を展望すると、海外経済の回復を背景に輸出の増勢が続くとともに、内需も再び増加基調に復することで、日本経済は緩やかな回復基調を維持するとみている。項目別にみると、輸出は、データセンター向け半導体需要の堅調さに加えて、新型iPhone向けの部品供給が押し上げ要因となるだろう。また、米国のハリケーン被害からの復興需要が、自動車輸出などの上振れにつながる可能性もある。設備投資は、五輪関係や都市再開発関連の案件が進捗すること、人手不足の深刻化を背景に省力化・効率化投資の積み増しが見込まれることから、回復基調に復するだろう。個人消費については、株高などを背景に消費者マインドが改善していること、生鮮食品の価格が10月に入ってから落ち着いてきたことなどがプラスに働くだろう。天候要因による振れを伴いつつも、個人消費は緩やかに増加するとみられる。 海外のリスク要因に目を向けると、中国では、金融市場・住宅市場引締め策の影響などを巡って依然不確実性が高く、景気の下振れリスクとして引き続き注意が必要だ。また、北朝鮮を巡る地政学リスクは長期化が見込まれるため、今後の米朝間の動きには目を配る必要があろう。 |
ニッセイ基礎研 | +0.4% (+1.5%) | 12/8公表予定の17年7-9月期GDP2次速報では、実質GDPが前期比0.4%(前期比年率1.5%)となり、1次速報の前期比0.3%(前期比年率1.4%)から若干上方修正されると予測する。 |
第一生命経済研 | +0.4% (+1.5%) | 一応上方修正ではあるが、修正幅は僅かなものにとどまるとみられ、1次速報から景気認識の修正を迫るような内容にはならないだろう。個人消費が落ち込む一方、外需が成長率を押し上げて潜在成長率を上回る成長を確保という構図にも変化はない。基本的には、4-6月期の「個人消費が大きく増加、輸出が足踏み」という動きの反動が出たものと思われ、4-6月期と7-9月期は均してみた方が良い。基調としてみれば景気は着実な回復傾向にあると判断できる。 先行きについても、世界経済の回復を背景に輸出の増加傾向が続くことに加え、企業収益の増加を受けて設備投資も増加が期待できる。景気を取り巻く環境は良好であり、景気は今後も着実な改善を続ける可能性が高い。 |
三菱UFJリサーチ&コンサルティング | +0.3% (+1.3%) | 12月8日に内閣府から公表される2017年7~9月期の実質GDP成長率(2次速報値)は、前期比+0.3%(年率換算+1.3%)と1次速報値の同+0.3%(同+1.4%)からわずかに下方修正される見込みである。 |
三菱総研 | +0.3% (+1.1%) | 2017年7-9月期の実質GDP成長率は、季調済前期比+0.3%(年率+1.1%)と、1次速報値(同+0.3%(年率+1.4%))から小幅下方修正を予測する。 |
ということで、三菱系のシンクタンク2社を例外として、取り上げたすべての機関が2次QEでは1次QEから上方修正されると予想しています。ただ、下方修正の三菱系シンクタンク2社も含めて、2次QEですので修正幅は極めて小幅です。大雑把に+1%台半ばから後半の成長率であり、前期比年率で見て、取り上げた機関のレンジでは最低でも三菱総研の+1.1%であり、+2%近い成長率予想を示す機関もあります。ですから、少なくとも、我が国の潜在成長率は超えたまずまずの高成長と私は受け止めています。しかも、サンプルは少ないものの、足元の10~12月期以降も順調な我が国経済の回復・拡大を見込んでいます。世界経済の回復・拡大とともに輸出が増加を続けるでしょうし、耐久消費財買い替えサイクルの正常化から消費も緩やかに増加する気配を見せ始めていますし、さすがにそろそろ人手不足や企業収益を背景に設備投資も増加の勢いを増すんではないかと期待していますから、我が国の景気を取り巻く環境は引き続き改善を示していると考えるべきです。
最後に、下のグラフはみずほ総研のリポートから引用しています。
2017年12月05日 (火) 21:42:00
SMBCコンサルティングによる今年2017年ヒット商品番付やいかに?
上の番付画像は、SMBCコンサルティングのサイトから引用しています。
東西の横綱はSNSからのヒット商品であり、大関もゲーム機とスマホですから、まあ、それなりにハイテク製品といえます。小結もそうです。でも、さすがに前頭に入るとローテク製品も少なくなく、我が職場で一時的に流行ったハンドスピナーなどもそうかもしれません。青色食品の中に、スペインから輸入されている青ワインgikも含まれるような気がするんですが、なぜかスペイン語なのに「ジク」と読ませています。スペイン語であれば「ヒク」ではないかと思いますが、いずれにせよ、私はそれほどお酒はたしなまないですし、かなりお高いワインなので手が出ずにいます。私が飲むのは主として外交官として滞在したチリのワインです。私が駐在していたころから日本への輸出が始まったと記憶しています。そのころは高級品も試飲させていただきましたが、今飲むのはボトル1本で数百円ほどのワインが中心です。
2017年12月04日 (月) 23:24:00
消費者態度指数に見る消費者マインドは11月統計でさらに改善を示す!
11月の消費者心理、0.4ポイント改善 内閣府調査
内閣府が4日発表した11月の消費動向調査によると、消費者の心理を示す一般世帯の消費者態度指数(季節調整値)は44.9となり、前月を0.4ポイント上回った。3カ月連続で改善しており、東京五輪開催が決まった2013年9月以来、4年2カ月ぶりの高さだ。株高による資産増や雇用環境の改善を好感した消費者が多く、心理の改善につながった。
消費者態度指数は「暮らし向き」「収入の増え方」「雇用環境」「耐久消費財の買い時判断」の4項目について、今後半年間に良くなるかどうかを聞いて算出する。調査基準日は11月15日だった。内閣府は基調判断を「持ち直している」として、前月から据え置いた。
11月は指数を構成する4項目全てが上昇した。目立ったのは雇用と収入に関する項目で「収入の増え方」が0.5ポイント上昇して43.0だったほか、「雇用環境」が0.6ポイント上昇し49.3だった。意識調査と同時に調べている「資産価値」は46.8と前月から1.4ポイント上昇した。
いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、消費者態度指数のグラフは上の通りです。ピンクで示したやや薄い折れ線は訪問調査で実施され、最近時点のより濃い赤の折れ線は郵送調査で実施されています。また、影をつけた部分は景気後退期を示しています。

最新月11月の動向を前月差でみると、「雇用環境」が+0.6ポイント上昇し49.3、「収入の増え方」が+0.5ポイント上昇し43.0、「耐久消費財の買い時判断」が+0.4ポイント上昇し44.0、「暮らし向き」が+0.2ポイント上昇し43.2となっています。雇用と収入が平均以上に改善した一方で、ここは理解に苦しむところなんですが、暮らし向きが平均より改善幅が小さくなっています。ひとつのあり得る解釈としては、仕事や収入はよくなっているものの、物価が上昇して暮しは厳しい、というものですが、現状の消費者物価では、特に生鮮食品を含めたヘッドライン物価の上昇率はそれほど高くなく、統計と実感の差がどこからか出ているようで、やや不思議な気がします。
基調判断は「持ち直し」で据え置かれていますが、私自身は、現状の堅調な消費者マインドは半分くらいは株高で支えられていると考えています。ですから、株価が不安定、というか、もしもサステイナブルでなければ、ひょっとしたら、いくぶんなりとも消費者マインドも影響を受ける可能性があるものと覚悟しておく必要あるかもしれません。でも、このマインドをもって、年末ボーナスがそれなりに出れば、年末商戦はそれなりの売行きになるものと期待しています。
2017年12月03日 (日) 18:39:00
今年の新語・流行語大賞は「インスタ映え」と「忖度」!
さる12月1日に今年の新語・流行語大賞の発表があり、「インスタ映え」と「忖度」に大賞が授賞されました。まあ、大方の予想通りではないでしょうか。私は「ポストトゥルース」がいいと思ったんですが、「ポスト真実」ではなく、「フェイクニュース」の方がトップテンに入っています。また、今年、私の職場では、ハンドスピナーがちょっとした人気だったんですが、トップテン入りは逃しました。やっぱり、ハンドスピナーはおもちゃであって、新語・流行語ではなさそうな気がします。
2017年12月02日 (土) 11:51:00
今週の読書は一部に読み飛ばした本もあって計8冊!
まず、ライアン・エイヴェント『デジタルエコノミーはいかにして道を誤るか』(東洋経済) です。著者は米国生まれながら英国「エコノミスト誌」の編集者であるジャーナリストです。英語の原題は Wealth of Humans であり、アダム・スミスの『国富論』のもじりのつもりかもしれません。2016年の出版です。邦訳タイトルで気になったのは、著者は決してデジタルエコノミーが道を誤る、とは主張していない点です。ただ、かなり希少性を低下せて来た高等教育などの教育投資ではなく、振舞い方の総体としてのソーシャル・キャピタルのソフトな役割を重視し、また、デジタルエコミーの必然的な帰結かどうかは別の議論としても、格差や不平等の拡大がもたらされる、とは主張しているような気がします。スキル偏向型の技術進歩の結果として、ITを活用するごく一部のエリートは豊かになるが、ITで代替される圧倒的多数の労働者は豊かにならない、どころか、職を失う可能性まであるわけです。そのための一方策として、ベーシックインカムにチラリと言及されています。ジャーナリストらしく、取材の結果も含めて現状分析から要因を分解し、各種の懸念材料を並べた後で、最後に、将来展望という4部構成を取っています。特に印象的なのは、高等教育はもちろん、職業訓練なども含めて、いわゆる人的資本をフォーマルに形成する「教育」の役割については、かなり著者が懐疑的な点です。従来から、マシンとの競争に際しては人的資本の蓄積が提唱される場合が多かったんですが、まあ、コトここに来てはムダということなのかもしれません。そうではなく、マナーに近い印象を受けたソーシャルキャピタルを振舞い型の総体として定義し直し、そういった生産現場に必ずしも直結しない人間らしい社会的な振舞いの方を重視します。格差や不平等についても、ベーシックインカムを除けば、政府による分配の役割が必ずしも明確ではなく、なんだか、いろんな意味において、「気持ちの持ちよう」といわれて、私は肩透かしを食ったような気になってしまいました。
次に、リチャード・サスカインド/ダニエル・サスカインド『プロフェッショナルの未来』(朝日新聞出版) です。著者は2人とも英国の研究者であり、専門分野は社会科学のようで、経済学というよりは社会学の方が近そうな気がします。同じ苗字なんですが、父と倅だそうです。英語の原題は The Future of the Professions であり、邦訳タイトルはほぼ直訳です。2015年の出版です。Professions は本文中では「専門家」あるいは「専門職」と訳されており、前者は個人を指す場合、後者はその集合体という形で使い分けられています。具体的な職業としては、多くの場合に資格の必要な士職業、すなわち、医師、弁護士、会計士・税理士、あるいはこういった資格を持つコンサルタント、さらに、宗教指導者や建築家も時により包含されています。要するに、外科医がメスを振るうといった例外はあるものの、専門的知識の中から何らかのソリューションを与えてくれる職業なんですが、決して相対で済ませる必要性はなく、往々にしてオンラインの向こう側にいる人工知能で代替できそうな職業、といえるかもしれません。そして、いわゆるIT化の進行、人工知能やロボット技術の実用化、ビッグデータの活用やIoTの進行などの技術的な進展の中で、こういった専門家の職業がどういう方向に進むのか、あるいは、進むべきか、といった分析を加えています。第1部で事実関係の観察結果を取りまとめ、第2部ではその理論的な背景を探り、第3部では将来展望について土地上げています。ただし、これらの専門家の職業分野では、経済学でいうところの「スーパースター経済学」が成立しそうな分野であり、先の図書の感想文でも取り上げた通り、格差や不平等の激化が避けられないように感じるんですが、本書ではそういった格差や不平等の視点はありません。実に、淡々と実際の専門家の仕事、というか、業務遂行のあり方について思考を巡らせ、その成果の受取りたる所得の格差などは視野に入っていないようです。専門家の仕事の実用性に重きを置いた分析といえます。結論としては、伝統的な専門職は解体され、多くの専門家がより高いパフォーマンスを発揮する人工知能などのマシンやシステムに置き換えられる未来は回避出来ない、と示唆されています。でも、それが悲観すべき事態であるかどうかは別の問題、とも解釈できるような気がします。
次に、 トッド E. ファインバーグ/ジョン M. マラット『意識の進化的起源』(勁草書房) です。著者は米国の研究者であり、精神医学と解剖学が専門分野です。英語の原題は The Ancient Origin of Consciousness であり、含意は p.282 の訳者あとがきに記されています。2016年の出版です。ということで、童話やアニメなどで昆虫や動物が擬人化されて、人類と同じような意識をもって、しかも、おしゃべりや何やでコミュニケーションを取る、というのがありましたが、逆に、キリスト教的な世界などでは人類と動物は魂のあり方を主たる要因として峻別されていて、ダーウィン的な進化論ですらNGという原理主義的なキリスト教の世界観もあるらしいので、何とも、本書のテーマは私には興味深いところです。そして、結論としては、意識はおろか、感覚、例えば痛覚については、かなり進化した脊椎動物である魚類すら持っていない可能性が高い一方で、人類の発生以前の段階の生物ですら、進化の過程で意識を持つに至った可能性も同時に明らかにされています。邦訳の副題にもなっているカンブリア爆発による生物の多様化から、それまでの濾過食に加えて、捕食者と被食者が別れるようになり、特に後者の被食者が何らかの感覚を研ぎ澄まして捕食されないように進化を遂げる必要が大きくなったわけで、レンズ眼の獲得による視覚から、あるいは、聴覚や嗅覚などから危険を察知するようになり、ひいては意識の形成につながった、というか、意識を持てるような進化を遂げた、ということになります。それが、いつであるのか、どの種からなのか、については化石を見ても明らかではないような気がしますが、私のようなシロートでは理解できないような研究方法があるんだろうという気がします。私はキリスト教徒ではありませんが、意識というのはヒトしか持っていないと長らく直観的に理解して来たんですが、生物、というか、動物については意識の観点ではかなり平等性が高く、我々ヒトから見てかなり下等な動物でも意識を持ちうる可能性が、シロートながらほのかに理解できた気がします。でも、最初の方に提示された通り、意識の存在については「われ思う、ゆえに、われあり」といった哲学的なアプローチも可能だと思います。
次に、レベッカ・ソルニット『ウォークス』(左右社) です。著者は米国西海岸在住で環境、政治、芸術など幅広く著述活動をしているライターです。取材記者の経験はないのかもしれませんが、ジャーナリストに近い活動と私は受け止めています。英語の原題は Wanderlust であり、歩くことに限ったわけでもなく、旅行一般に関する渇望感のような受け止めなんですが、確かに内容的には邦訳タイトルの方がいいように感じました。2000年の出版です。20年近くを経過しても内容的に陳腐化していないのかもしれませんが、付加すべきポイントはありそうな気もします。ノンフィクションというよりは、何らかの著者の思い入れも含めたエッセイではなかろうかと思います。本書は500ページを超えますし、この前に取り上げた専門外の『意識の進化的起源』とともに、かなり速読、というか、読み飛ばした本だった気がします。ということで、要するに、歩くことに関するエッセイです。英語の原題のように、移動を含めた旅行などではなく、「歩く」ということですので、旅行のような距離を必要とする移動を伴うものばかりではなく、幅広い観点から考察を加えています。まず、第一歩の第1部は思索がテーマだったりします。私の知り合いでも、考え事をする時は狭い範囲ながらも歩き回って思索を巡らす友人がいたりしますが、まあ、ハッキリいってオフィス勤務には向きませんし、思索のケースでも歩くこととは必ずしも連動しない人の方が多数派という気もします。さらに、第2部では庭園や原野といった場所を特定し、第3部では明示的に章のタイトルになっているのはパリだけですが、都市を歩くことに主眼を置き、最後の第4部ではこのエッセイ全体をコンクルードしています。エッセイですので、冒頭はルソー、さらにワーズワースとか、歩くことにまつわる文芸者の話題も豊富に取り上げられています。もちろん、著者の生まれ育った米国サンフランシスコをはじめとし、章タイトルにもなっているパリ、ベルリン、さらにいくつかのラテンアメリカの都市、最後にラスベガス、などなど各地の歩く人々にも焦点が当てられています。ただ、そういった歩く人々のバックグラウンドについては、かなり著者の恣意的な思い入れを込めて想像を膨らませている気がします。出版社のサイトには、書評を掲載したメディアの一覧があります。それなりの注目書なのかもしれません。
次に、周防柳『蘇我の娘の古事記』(角川春樹事務所) です。作者は売り出し中の小説家です。この作品はこの作者の2作目の時代小説なんですが、1作目は「古今和歌集」の成立をテーマに、六歌仙を題材にした『逢坂の六人』であり、最近、文庫化されています。私もこの作者の作品の中では唯一読んでいたりします。ということで、本作品がこの作者の2作目の時代小説であり、中大兄皇子と中臣鎌足が蘇我蝦夷・入鹿親子を亡ぼした乙巳の変から天武天皇が大海人皇子のころに大友皇子を追放した壬申の乱までを描く古代史を題材にした時代小説です。だけでは何のことか判らないでしょうが、タイトルになっている我が国で初めて編纂された国史のひとつである『古事記』を口述した稗田阿礼の謎を追っています。小説として、主人公は渡来人の一族である船氏の長の船恵尺・山鳥の親子なんですが、その恵尺の子であり、山鳥の妹である盲目のコダマが稗田阿礼に同定されています。しかし、このコダマの生まれは決して明かしてはならない秘密であり、そのために最後の方で船山鳥は壬申の乱で命を落とします。う#xFF5E;ん、このコダマの出自だけは、小説の醍醐味を左右するネタバレになってしまうので書けないんですが、何とも、作者の素晴らしい発想の賜物だろうという気がします。蘇我入鹿の亡霊がコダマの命を助けるシーンもありますが、決して、ファンタジーではなく徹頭徹尾リアルな現実政治の中で『古事記』の伝承を位置づけています。各章の終わりの数ページだけ軽くグレーに色付けされた用紙に『古事記』に収録されている神話が語られる場面が挿入されています。これも印象的な作りになっています。私は時代小説はかなり好きで、主として江戸時代の侍を主人公に、封建時代の世襲の主の揺るぎない地位を背景に、家老などの執政官が思う存分にお家騒動を繰り広げる、というパターンがお決まりのものと考えてきましたが、この作者のように中世を飛び越えて古代に題材を取った時代小説もアリなのか、という気になっています。とてもオススメの時代小説です。
次に、大竹文雄『競争社会の歩き方』(中公新書) です。著者は大阪大学をホームグラウンドとする経済学者であり、専門分野は労働経済学などのマイクロな分野です。その意味では、京都大学を退官した橘木先生と同じ分野といえるんですが、橘木先生がかなりリベラルというか、ゼロ成長まで含めて、現政権に批判的な論陣を張っているのに対して、大竹先生は現状肯定的な論を唱えている気がします。ということで、著者のあとがきにもある通り、過去2作の中公新書でも標準的な経済学に関するエッセイを取りまとめていて、それなりにためにもなれば、売れてもいるんですが、本書でも、必ずしもタイトル通りに競争に関するエッセイばかりではなく、幅広く経済学の現時点における到達点を踏まえて、できる範囲で難しくならず、しかも定量的な観測結果を中心に最新の経済学の研究成果を取りまとめています。私のように定年間際ですっかり不勉強になっているエコノミストには、こういったサーベイ論文のような平易な新書は有り難い限りといえます。ただ1点だけ注意を喚起しておくと、中身ではそれほど触れられてもいないんですが、タイトルにもなっている競争について、あるいは、最初のトピックにもなっているチケット転売問題について、私なりにコメントしておきたいと思います。すなわち、本書では、独占については芥川賞受賞の『火花』に関して、チラリと触れられているだけですが、競争の反対側は程度の差はあれ、独占だという点は忘れるべきではありません。身近なニュースで接するところでは学生の就職戦線がそうであり、昨今は人手不足で学生の売り手市場といわれますが、学生サイドで独占が発生していて、企業サイドで学生獲得の競争をしているわけです。チケット転売問題でも、高い価格で転売されるということは、超過需要が生じているのだから、チケット価格を引き上げて需要曲線に沿った需要量の低下により需給のマッチングが可能、ということで、それはそれで経済学の観点からは正しく、チケット価格を引き上げるということは、実は独占の超過利潤を取りに行く合理的な経済行動なわけですが、逆に、限界費用に基づく価格付けを行うのも経済厚生の観点からは合理性あると考えるべきです。そして、前者の独占による超過利潤を実現する高価格付けが、実に、新自由主義的な右派の経済学であり、後者の限界費用に基づく低価格付がリベラルな左派の経済学に近い、と考えるべきです。そして、本書の著者は前者の立場の経済学者であり、私は後者の左派のエコノミストなんだろうと思っています。
最後に、文庫本2冊で、恩田陸ほか『2030年の旅』(中公文庫) 及び湊かなえほか『猫が見ていた』(文春文庫) です。タイトルから明らかな通り、『2030年の旅』は10年余り後の世界を展望した短編集であり、『猫が見ていた』は猫にまつわる短編集です。どちらも執筆陣が豪華、というか、私好みなんですが、収録作品を一応上げておくと、『2030年の旅』については、恩田陸「逍遙」、瀬名秀明「144C」、小路幸也「里帰りはUFOで」、支倉凍砂「AI情表現」、山内マリコ「五十歳」、宗田理「神さまがやってきた」、喜多喜久「革命のメソッド - 2030年のMr.キュリー」、坂口恭平「エッセイ 自殺者ゼロの国」の8編、すなわち、小説7本とエッセイ1本となっています。次に、『猫が見ていた』については、湊かなえ「マロンの話」、有栖川有栖「エア・キャット」、柚月裕子「泣く猫」、北村薫「『100万回生きたねこ』は絶望の書か」、井上荒野「凶暴な気分」、東山彰良「黒い白猫」、加納朋子「3べんまわってニャンと鳴く」の7本の短編で、解説代わりに「猫と本を巡る旅 オールタイム猫小説傑作選」が最後に置かれていますが、これはかなり内容的に怪しいと私は受け止めています。特に印象的な1篇ずつを選ぶと、『2030年の旅』では、過疎化が深刻な町をスリーフィンガーという企業が開発して、日本で一番インフラ整備された町へと変貌を遂げるという「里帰りはUFOで」が面白かったですが、先進IT企業とは、Googleの自動運転車のように、何でもやるんだろうというのがよく実感できましたし、失礼ながら、現時点での技術の先をそのまま一直線に伸ばしたような想像しやすいテクノロジーでしたので、難しさは感じませんでした。『猫が見ていた』では、作家アリスのシリーズの「エア・キャット」で、ル・ポールの財布の予言マジックのように、火村が被害者宅の本棚の漱石の『三四郎』を手に取ったら事件直前の時刻のレシートが出て来て、書店からの帰り道にある監視カメラの映像から犯人がすぐに捕まった、というストーリーなんですが、どうして『三四郎』なんだろうかという小さな謎に挑みます。なかなかの短編ミステリです。
2017年12月01日 (金) 23:41:00
高い収益力示す法人企業統計と人手不足強まる雇用統計とプラス幅を拡大する消費者物価(CPI)上昇率!
7-9月設備投資4.2%増、宿泊など非製造業で伸び
財務省が1日発表した2017年7~9月期の法人企業統計によると、全産業(資本金1千万円以上、金融機関を除く)の設備投資は前年同期比で4.2%増となった。4四半期連続で前年を上回った。非製造業でサービス業などの投資が増えたほか、製造業でも生産能力を引き上げる動きが相次いだ。売上高や経常利益も前年同期をそれぞれ上回った。
設備投資は非製造業で5.9%増となった。訪日客の需要を見込み、宿泊業でホテルや娯楽施設への投資が増えた。製造業も1.4%増。スマートフォン関連などで生産能力を引き上げる動きが出て電気機械の投資が増え、2四半期ぶりに増加に転じた。
経常利益は5.5%増の17兆8928億円だった。製造業が44%増と大きく伸びた。自動車など輸送用機械が押し上げた。非製造業は9.5%の減少と、5四半期ぶりに前年を下回った。サービス業で、受取利息などが大幅に増えた前年の反動が出た。
売上高は4.8%増の338兆6999億円。製造業は3.9%増、非製造業は5.2%増とともに上向きだった。企業の増産投資を背景に、製造業では生産用機械が好調だった。非製造業では卸売業・小売業が上昇に寄与した。
今回の法人企業統計の結果を反映し、内閣府は8日に7~9月期の国内総生産(GDP)の改定値を公表する。
11月15日公表の速報段階では、季節調整済みの実質GDPが前期比年率換算で1.4%増だった。ニッセイ基礎研究所の斎藤太郎経済調査室長は「法人企業統計の設備投資が予想よりも強い結果で、GDPは上方修正される可能性が出てきた」と予測する。
求人43年9カ月ぶり高水準、10月1.55倍
人手不足が一段と強まっている。厚生労働省が1日発表した10月の有効求人倍率(季節調整値)は1.55倍で、9月より0.03ポイント上がった。高度経済成長期の1974年1月以来、43年9カ月ぶりの水準となった。景気回復に人口減少が重なり、働く意思があれば職に就ける完全雇用の状態だ。消費の回復ペースは緩やかで、消費者物価指数は前年同月比0.8%上昇だった。
有効求人倍率は、全国のハローワークで仕事を探す人1人に何件の求人があるかを示す。正社員の有効求人倍率は1.03倍だった。前月より0.01ポイント上昇し、統計をとり始めた2004年以降の最高を更新した。
新規求人数は前年同月比7.1%増。業種別にみると、スマートフォン(スマホ)関連が好調な製造業が最も増え、12.8%増だった。慢性的な働き手不足に直面する医療・福祉(7.9%)や情報通信業(9.3%)も伸びが大きかった。
企業の求人に対して実際に職に就いた人の割合を示す充足率(季節調整値)は14.7%だった。インターネットで企業の採用サイトに直接求職するといった場合を含まないが、「7人雇おうとしても採用できるのは1人」という計算になる。
総務省が同日発表した10月の完全失業率は、9月と同じ2.8%。求人があっても職種や勤務地など条件で折り合わずに起きる「ミスマッチ失業率」は3%程度とされる。3%割れは「完全雇用」状態にあるといえる。
失業のリスクは低くなっているものの、消費の回復力は弱い。総務省が同日発表した10月の家計調査によると、2人以上世帯の1世帯当たり消費支出は28万2872円だった。物価変動の影響を除いた実質で前年同月と同じだった。
教育費や携帯電話の通信料は増えたが、台風の影響で国内外のパック旅行費など教養娯楽が7%落ち込んだ。所得は緩やかに改善しているが、将来不安などによる節約志向も根強く残っている。
物価上昇も勢いを欠いている。10月の消費者物価指数(CPI)は値動きの激しい生鮮食品を除く総合で、前年同月比0.8%上昇したが、主因のエネルギーを除くと、伸び率は0.2%にとどまった。
10月の全国消費者物価、0.8%上昇 エネルギー関連が押し上げ
総務省が1日発表した10月の全国消費者物価指数(CPI、2015年=100)は、値動きの大きな生鮮食品を除く総合指数が100.6と、前年同月比0.8%上昇した。プラスは10カ月連続。QUICKがまとめた市場予想の中央値は0.8%上昇だった。9月は0.7%上昇だった。電気代やガス代、石油製品などエネルギー関連が指数を押し上げた。
生鮮食品を除く総合では全体の56.2%にあたる294品目が上昇し、171品目が下落した。横ばいは58品目だった。
生鮮食品とエネルギーを除く総合では101.0と前月比0.2%上昇した。安売り規制の影響でビールなど酒類が上昇した。医療費の自己負担額引き上げで、診療代も上昇した。
生鮮食品を含む総合は100.6と0.2%上昇した。9月(0.7%上昇)に比べて伸び率が縮小した。レタスなど一部の生鮮野菜が昨年に急騰した反動で下落したことが響いた。
併せて発表した東京都区部の11月のCPI(中旬速報値、15年=100)は生鮮食品を除く総合が100.3と前年同月比0.6%上昇した。上昇は5カ月連続。電気代などエネルギー関連が押し上げた。生鮮食品を含む総合は100.6と0.3%上昇した。
いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。でも、いくつもの統計を一挙に並べると、とても長くなってしまいました。次に、法人企業統計のヘッドラインに当たる売上げと経常利益と設備投資をプロットしたのが下のグラフです。色分けは凡例の通りです。ただし、グラフは季節調整済みの系列をプロットしています。季節調整していない原系列で記述された引用記事と少し印象が異なるかもしれません。影をつけた部分は景気後退期を示しています。

上のグラフのうちの上のパネルに示されたように、売上高についてはサブプライム・バブル崩壊前はいうに及ばず、いわゆる「失われた10年」の期間である1990年代のピークすら超えられていませんが、経常利益についてはすでにリーマン・ショック前の水準を軽くクリアしており、我が国企業の収益力は史上最強のレベルに達しています。季節調整していない原系列の統計ながら、7~9月期の売上高経常利益率は製造業が7.0%、非製造業が3.6%を記録しています。国内経済も着実に回復・拡大を示しているものの、円安に加えて世界経済が国内経済を上回る拡大を見せていることから、製造業が非製造業よりも高い収益力を示しています。従来からのこのブログでお示ししている私の主張ですが、我が国の企業活動については昨年2016年年央くらいを底に、昨年2016年後半から明らかに上向きに転じ、今年2017年4~6月期から7~9月期の年央くらいもこの流れが継続していることが確認できたと思います。ただ、設備投資については、まだ伸びが本格化していない印象です。季節調整済みの系列で見て、全産業ベースの設備投資は7~9月期に前期比で+1.0%増でしたが、製造業で+0.5%増、非製造業で+1.3%増を示しており、利益率が高い製造業の方で投資の伸び率が低いのは、人手不足の影響が非製造業においてより大きい点に加え、海外へ投資が漏出している可能性が示唆されていると私は受け止めています。

続いて、上のグラフは私の方で擬似的に試算した労働分配率及び設備投資とキャッシュフローの比率、さらに、利益剰余金をプロットしています。労働分配率は分子が人件費、分母は経常利益と人件費と減価償却費の和です。特別損益は無視しています。また、キャッシュフローは法人に対する実効税率を50%と仮置きして経常利益の半分と減価償却費の和でキャッシュフローを算出した上で、このキャッシュフローを分母に、分子はいうまでもなく設備投資そのものです。この2つについては、季節変動をならすために後方4四半期の移動平均を合わせて示しています。利益剰余金は統計からそのまま取っています。ということで、上の2つのパネルでは、太線の移動平均のトレンドで見て、労働分配率はグラフにある1980年代半ば以降で歴史的に経験したことのない水準まで低下しましたし、キャッシュフローとの比率で見た設備投資は50%台後半で停滞が続いており、これまた、法人企業統計のデータが利用可能な期間ではほぼ最低の水準です。他方、いわゆる内部留保に当たる利益剰余金だけはグングンと増加を示しています。これらのグラフに示された財務状況から考えれば、まだまだ雇用の質的な改善のひとつである賃上げ、もちろん、設備投資も大いに可能な企業の財務内容ではないか、と私は期待しています。また、経済政策の観点から見て、企業活動がここまで回復ないし拡大している中で、さらなる法人税引き下げなどによる企業活動活性化がどこまで必要なのかは疑問ですし、企業が国内での設備投資や賃上げに慎重姿勢を示しているのであれば、企業の余剰キャッシュを雇用者や広く国民に還元する政策が要請される段階に達しつつある可能性を指摘しておきたいと思います。

続いて、雇用統計のグラフは上の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上から順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。影をつけた期間はいずれも景気後退期です。失業率も有効求人倍率も前月と同じながら、かなりタイトな労働需給を示しています。加えて、グラフは示しませんが、正社員の有効求人倍率も前月からさらに上昇して1.03倍と高い水準にあります。ただし、繰り返しこのブログで指摘している通り、まだ賃金が上昇する局面には入っておらず、賃金が上がらないという意味で、まだ完全雇用には達していない、と私は考えています。要するに、まだ遊休労働力のスラックがあるということで、グラフは示しませんが、性別年齢別に考えると、高齢男性と中年女性が労働供給の中心となっています。もっとも、定量的な評価は困難ながら、そのスラックもそろそろ底をつく時期が迫っているんではないかと思います。特に、採用しやすい大企業に比べて、中小企業では人手不足がいっそう深刻化する可能性もあります。さらに、1人当たりの賃金の上昇が鈍くても、非正規雇用ではなく正規職員が増加することから、マクロの所得としては増加が期待できる雇用水準ではないかと私は考えています。

続いて、いつもの消費者物価上昇率のグラフは上の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く全国のコアCPI上昇率と食料とエネルギーを除く全国コアコアCPIのそれぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフは全国のコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。エネルギーと食料とサービスとコア財の4分割です。加えて、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1位の指数を基に私の方で算出しています。丸めない指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。さらに、酒類の扱いがビミョーに私の試算と総務省統計局で異なっており、私の寄与度試算ではメンドウなので、酒類(全国のウェイト1.2%弱)は通常の食料には入らずコア財に含めています。ということで、単純に見ると、コアCPI上昇率は6月+0.4%から7月+0.5%、8~9月+0.7%、10月+0.8%と徐々に上昇幅の拡大を続けており、加えて、全国の先行指標となる東京都区部でもコアCPI上昇率が全国から4か月遅れて今年2017年5月にプラスに転じ+0.1%を記録した後、10~11月の+0.6%まで順調にプラス幅を拡大しています。しかし、先行きの消費者物価(CPI)上昇率を考える場合、要因として2点考慮する必要があり、ひとつは国内の需給ギャップと賃金動向です。現時点で、これらはともに、物価を上昇させる方向にあると考えるべきです。文句なしです。ただし、もうひとつは国際商品市況における石油価格です。これは、新興国経済が中国を含めてかなり堅調に回復を示している一方で、相場が下げに向かうとの見方もまだ根強く残っています。上の消費者物価のグラフにおいて、私の計算に従えば、寄与度分解した積上げ棒グラフの黄色のエネルギーの寄与度は、コアCPI+0.8%のうちの+0.62%に達しています。この部分が縮小に向かえば、コアCPI上昇率のプラス幅も風前の灯と化す可能性もあります。相場だけに私には何とも先行きは判りかねますが、今後の動向が注目されます。
最後に、法人企業統計に戻ると、引用した記事にもある通り、この統計公表をもって、来週12月8日に内閣府から7~9月期のGDP統計2次QEが公表される予定となっています。シンクタンクなどの2次QE予想は日を改めて取りまとめる予定ですが、直観的には設備投資が上方修正される分、2次QEでは成長率が上振れするんだろうという気はします。