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2019年11月20日 (水) 21:10:00

輸入の大幅減により10月の貿易収支は黒字に転換!

本日、財務省から10月の貿易統計が公表されています。季節調整していない原系列の統計で見て、輸出額は前年同月比▲9.2%減の6兆5774億円、輸入額も▲14.8%減の6兆5601億円、差引き貿易収支は+173億円の黒字を計上しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

10月輸出9.2%減、対中国10.3%減 自動車や鉄鋼低調
財務省が20日発表した10月の貿易統計(速報)によると、輸出額は前年同月比9.2%減の6兆5774億円となった。11カ月連続で減少した。2016年10月の10.3%減以来3年ぶりの落ち込み幅となった。米中貿易戦争の影響が長引いており、中国やアジア向けの自動車や鉄鋼などの輸出が落ち込んだ。
アジア全体への輸出は11.2%減の3兆5361億円だった。このうち、中国向けは10.3%減の1兆3230億円だった。中国への輸出はプラスチック原料となる有機化合物が24.9%減だった。自動車部品は21.1%減、自動車用エンジンを主力とする原動機は24.9%減となった。ハイテク製品だけでなく、製造業全般に関わる幅広い品目で需要が縮小した。
日韓の貿易をめぐる対立もあって、韓国向けは23.1%減の3818億円だった。米国への輸出は11.4%減の1兆2676億円、欧州連合(EU)向けは8.4%減の7436億円だった。
10月の輸入は14.8%減の6兆5601億円だった。台風被害で物流が滞った影響が出たようだ。輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は173億円の黒字(前年同月は4562億円の赤字)と、4カ月ぶりに黒字転換した。


いつもの通り、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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ということで、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスは貿易収支の黒字を+3351億円と見込んでいたんですが、メチャメチャにレンジが広いので何ともいえません。ヘッドラインで書いた統計の繰り返しになりますが、前年同月比で見て輸出額が▲10%近く減少したものの、輸入額がそれを大きく上回る▲15%近い減少ですから、縮小均衡的に輸入の減少が輸出の減少を上回って、差引き貿易黒字は黒字、というわけですので、決して日本経済・世界経済の動向から考えて好ましい姿とは思えません。ただし、我が国の輸出が減少傾向にあるのは、割合と単純に、世界経済の減速という需要面の影響を受けていると考えられるのに対して、輸入の減少については、国内景気の減速という需要要因に加えて、いくつかの別の要因が複雑に絡まっている気がします。すなわち、10月統計ですので消費税率引上げ直後ということもあって、その前の駆込み需要の反動減という要素は考慮すべきです。さらに、今年2019年10月上旬には大型の台風19号の影響も無視できません。東海道新幹線をはじめとして交通が遮断されたことによる物流面での影響は、輸入に対してマイナスに作用したことはいうまでもありません。最後に、どこまでカウントできるかは不明であるものの、昨年2018年9月には台風21号の影響でしばらく関西空港が閉鎖され、直後の2018年10月にはその反動で物流が大幅増となり、今年2019年10月は前年同月である昨年2018年10月の関西空港再開後の輸入増の裏年、ということも出来ます。こういった我が国国内景気の需要動向以外の天候要因なども輸入を下押し、ないし、輸入の伸びを低下させる方向に働いたと考えられますので、輸入減を国内景気とストレートに結びつける必要はないと、私は考えています。もちろん、こういった天候に起因する物流面での影響は輸出入に対して、どこまで対称なのか、あるいは、非対称なのか、私はやや不案内なのですが、少なくとも、消費税率引上げ直後の反動減については輸入により大きなマイナス要因となったことは明らかです。

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輸出をいくつかの角度から見たのが上のグラフです。上のパネルは季節調整していない原系列の輸出額の前年同期比伸び率を数量指数と価格指数で寄与度分解しており、まん中のパネルはその輸出数量指数の前年同期比とOECD先行指数の前年同月比を並べてプロットしていて、一番下のパネルはOECD先行指数のうちの中国の国別指数の前年同月比と我が国から中国への輸出の数量指数の前年同月比を並べています。ただし、まん中と一番下のパネルのOECD先行指数はともに1か月のリードを取っており、また、左右のスケールが異なる点は注意が必要です。ということで、上のグラフのうちの2番め真ん中と一番下のパネルのOECD先行指数を見る限り、先進国も中国もいずれも景気はそろそろ下げ止まりつつあるように見受けられます。ただ、我が国輸出は世界経済や中国の需要要因ほどには回復を見せていません。少なくとも、10月統計については台風19号の物流要因もあることから、今後の輸出の回復に期待したいと思います。
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2019年11月19日 (火) 19:45:00

上場企業の株式持ち合い比率が10年ぶりに上昇したのはどうしてか?

野村証券の「野村資本市場クォータリー」2019秋号の研究リポートで2018年度の「我が国上場企業の株式持ち合い状況」について報告されていて、2018年度は上場企業の株式持ち合いが10年ぶりに上昇している、と指摘しています。リポートから 図表 1 「株式持ち合い比率」の時系列推移 を引用すると下の通りです。

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上場銀行と非金融の事業法人上場会社の株式保有比率を示す青いラインの「持ち合い比率」は2017年度に比べ+0.6%ポイント上昇して10.1%を記録し、また、これに生命保険会社と損害保険会社の株式保有比率を加えた赤いラインの「広義持ち合い比率」も前年度に比べ+0.4ポイント%上昇して14.5%となっています。わずかな上昇幅とはいえ、10年ぶりの上昇です。直感的に上のグラフを読み解けば、長期のトレンドとして株式持ち合い比率は低下を続けている一方で、短期的、というか、循環的には、00年代後半でやや持ち合い比率が上昇しているのは景気拡大により企業利益が、いわゆる「増収増益」で資金的な余裕が出来て、私の目から見て疑問あるものの、賃金で従業員に還元するのではなく、株式持ち合いに走った、ということなのではないか、という見方も成り立つかと考えていました。リーマン証券の破綻などの金融危機からほぼ10年を経て、ふたたび、賃金よりも株式持ち合いか、との疑問を持ちましたが、リポートの解釈は違うようです。すなわち、、有価証券報告書における政策保有株式関連の開示が拡充され、「企業内容等の開示に関する内閣府令」が一部改定された結果、2019年3月期決算に関する有価証券報告書から、純投資と政策投資の区分の基準や考え方や、個別の政策保有株式の保有目的・効果について、提出会社の戦略、事業内容及びセグメントとの関連付け、定量的な効果を含めたより具体的な説明、などが求められたことに加えて、個別開示の対象となる保有銘柄の数が、原則、従来の30銘柄から60銘柄に拡大され、今回の開示拡充により把握できる銘柄数が増加したことが、上場事業法人の株式保有比率の上昇、そして「株式持ち合い比率」の上昇につながった、と結論しています。そして、開示拡充の影響を控除した時の2018年度の持ち合い比率は前年度から▲0.3%ポイント低下して9.2%、広義持ち合い比率も同じく▲0.5%ポイント低下し13.6%となる、との試算結果を明らかにしています。リポートでは、今後とも、コーポレートガバナンスの観点から保有株式圧縮の流れが続く中で、緩やかな持ち合い解消を促す動きが大きく変わるとは考えにくく、今後も、持ち合いの解消は継続すると予想し、他方で、政策保有株式と議決権行使を関連付ける動きに注目、と締めくくっています。
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2019年11月18日 (月) 19:30:00

遅ればせながらインテージ調査による消費税率引上げ前の駆込み需要とその後の反動に関するデータを見る!!!

遅ればせながらの注目なんですが、ほぼ2週間前の11月5日にインテージから消費税増税前後の日用消費財の購買状況が明らかにされています。先々週の段階では、ついつい大物消費の耐久消費財に着目して、そういったリポートを取り上げましたが、ホントは駆込み需要とその後の反動減は日用品に現れるというのは経験則として確立しています。今回のインテージの調査の結果から、軽減税率の適用が駆込み需要とその後の反動減にクッキリと現れています。以下のグラフの通りです。

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日用消費財の購入金額の前年比を、前回消費税率引上げのあった2014年時と今回の2019年10月で比べた6枚のグラフをインテージのサイトから引用し、特に何の芸もなく並べただけです。上から、日用消費財、日用雑貨品、化粧品、ヘルスケア、の4枚は2014年と2019年で大きな差はない一方で、5枚めの食品・飲料については、駆込み需要とその後の反動がかなり小さくなっているのが見て取れます。今回2019年の消費税率引上げにおいて軽減税率が適用されたことに起因しているのではないかと、容易に想像されます。というのも、最後の6枚めのアルコール飲料については、軽減税率の適用がなく、前回2014年と同じような駆込みと反動が見られます。私はそれでも軽減税率については慎重に考えるべきだと思いますが、なかなかに興味深い結果だと受け止めています。
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2019年11月17日 (日) 15:00:00

そろそろ通勤時はコートを着てオフィスではカーディガンを羽織る季節に入ったか?

晩秋から冬の気候に進みつつあるのが実感され、先週あたりからそろそろ寒さが増してきました。ここ数年来いわれていますが、夏が終わると秋ではなく一気に冬が来るような気がしないでもありません。私は京都出身ですので、雪が降るような極端に寒いところは別にして、熱帯のジャカルタでも、あるいは逆に、少々の寒さでも対応可能だと見なされる場合も少なくないんですが、もともとが寒がりな上に還暦を超えて暖かい服装を心がけています。下の画像は、ウェザーニュースのサイトから引用した服装と気温の関係です。私は一昨日の金曜日から通勤時に軽めのコートを着用し始め、その少し前からオフィスでカーディガンを羽織っています。

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2019年11月16日 (土) 11:00:00

今週の読書感想文はマルクス主義の本をはじめとして計7冊!!!

今週の読書は、フランス系のマルクス主義の本をはじめとして、小説や時代小説のアンソロジーの文庫本まで含めて計7冊です。純粋の経済書はないかもしれません。本日もすでに自転車に乗って図書館回りを終えており、来週の読書も数冊に上りそうです。

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まず、エリック・アリエズ & マウリツィオ・ラッツァラート『戦争と資本』(作品社) です。著者は、フランスおよびイタリア出身で、ともに現在はパリを拠点とする哲学ないし社会学の研究者です。フランス語の原題は Guerres et Capital であり、2016年のながら、201415年にかけて行われたパリ第8大学の共同セミナーでの議論が基となっています。著者はおそらく2人ともマルクス主義に基づく哲学者ではないかと私は想像しています。本書のタイトルからはゾンバルトの『戦争と資本主義』が思い起こされますが、広く知られたように、ゾンバルトは戦争がユダヤ的な資本主義経済の育成や成長に寄与した歴史を解き起こしています。まあ、ナチス的な歴史書です。それに対して、というか、何というか、本書はマルクス主義の観点から戦争がいかに資本に奉仕して来たのかを解き起こしています。ですから、本書ではレーニンや毛沢東らはクラウゼビッツの『戦争論』の影響下にあるとしつつ、フーコーやドゥルーズら、特にフーコーを批判的に引きつつ、クラウゼビッツ的に「戦争は政治の延長」という議論ではなく、むしろ逆転させて、金融資本主義がグローバルな内戦を引き起こしているとか、戦争福祉(ウォーフェア)が生活福祉(ウェルフェア)を準備したとか、主張しています。難しいです。その昔の学生のころにマルクス『資本論』全3巻を読み切った私でも理解が追いつきません。特に、本源的蓄積が永遠に続くというのは、レトリカルにおかしい気もします。永遠に続くのは資本蓄積であって、本源的蓄積とは定義が異なる気もします。何よりも、本書では戦争はケインズ的な政策における完全雇用の観点からだけ見ている気がします。というのは、私の考えでは、資本主義的な生産が景気循環、というか、恐慌ないし景気後退につながる最大のポイントは需要不足あるいは過剰生産です。その過剰生産を一気に解消するのが戦争であり、本書で「過剰生産」という用語がまったく出て来ないのには違和感を覚えます。生産手段を私有しつつ剰余価値の生産のために生産を一貫して拡大する資本主義的な生産は、労働力の再生産に必要な部分を超える過剰生産につながり、恐慌でモノが売れなくなり需要が不足します。ケインズ的な解決策の前には、いわゆる帝国主義により植民地を獲得し、典型的には英国とインドの関係であり、植民地を原料の入手元であるとともに生産物の市場として「活用」いたんですが、それでは資本主義的な生産の矛盾を本質的に解消することはできず、ケンズ政策が登場して政府が需要を創出することを始め、緊縮財政を放棄して赤字財政の下で売れ残ったモノを政府が買い支えるという構図になります。しかしながら、その過剰生産がケインズ政策でも手に余る、あるいは、均衡財政に誤って固執するような政府の下で余りに大規模になれば、資本の利益となるような戦争というはなはだ労働者階級には迷惑、というか、まさに文字通り破壊的なイベントにより売れ残りの生産物を一気に解消しようという圧力が生じます。その典型がナチス政権下のドイツで観察されるわけで、そして、そうならないように、緊縮財政を放棄して政府の財政出動による需要の創出が望まれるわけです。そのあたりの資本と戦争の関係が、本書では目が行き届いていない気がして、やや片手落ちのように読んだのは私だけなんでしょうか。

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次に、森田長太郎『経済学はどのように世界を歪めたのか』(ダイヤモンド社) です。著者は証券会社の再建アナリストであり、日本の証券会社だけでなく、欧州系勤務のご経験もあるようです。ということで、かなりムリをしてお話を拡張していますが、基本は、経済学が世界を歪めたのではなく、黒田総裁以降の日銀の金融政策が著者のお仕事を歪めた、という主張を延々としているわけで、私の目から見て、控えめにいっても、時間のムダをした読書だった気がします。私の直感ながら、同じ証券会社にお勤めの株式アナリストであれば、まったく逆の見方が示された可能性も小さくないと思わないでもありません。ただ、ご本人は、本書を上梓するほどですから、こういった批判は先刻ご承知の上で、冒頭に、批判は甘んじて受ける旨を記しておきながら、第4章冒頭では、こういった批判はいわれのないものであると、批判によっては受け入れるものと受け入れないものを選別する姿勢を示しています。ですから、リフレ派の官庁エコノミストなどを戦前の「革新官僚」になぞらえたり、リフレ派エコノミストが主催していたいちごBBSをネトウヨと並べて論じたり、果ては、デフレを錦の御旗に見立てて金融政策運営のひとつの目標にした点を批判しながら、本書ではこういった政策をポピュリズム経済政策と称することもはばからず、私はともかく多くの人から見れば同じように見えかねない戦略を取っていたりします。大昔ながら、リフレ派の官庁エコノミストであり日銀政策委員まで出世された先輩との共著による学術論文ある私にはやや不愉快に見えます。基本的に、著作ですから著者ご自身の思いを表明するわけで、それがエコーチェンバーやフィルターバブルなどに影響された確証バイアスに基づくものである可能性も否定できませんし、こういった著者のポジショントークに類する著書は、それなりの批判的な読み方をする必要もあるような気がします。ただ、金融政策の論点はいくつか肯定できるものもあり、例えば、期待に作用する政策が実績への適合的期待が主である場合には、それほどの効果なく、インフレ・ターゲティングがそれに当たる、とか、リフレ派のマネタリスト的な施策が現時点でそれほど効果を上げていない、というのはそうなんだろうと思います。ただ、インフレ・ターゲティングを採用するとハイパーインフレを招きかねない、というその昔の日銀理論は、さすがに、恥ずかしくなったのか、どこかに、ハイパーインフレになる可能性はほぼないといった旨の記述を忍び込ませていたように思います。まあ、私から見ても、黒田総裁以降の日銀金融政策、かなりの程度にリフレ派の金融政策がデフレ脱却に決して効果が大きかったわけではない、というのは事実のような気がします。ただし、これは陰鬱な科学である経済学のひとつの限界である可能性もあり、それだけにさらなる経済学の進歩を私なんぞは望むわけで、MMT=現代貨幣理論などに注目したりするわけです。リフレ的な金融政策が思ったほどの効果なかったという意味で、ある程度のコンセンサスあるとすれば、あくまで、その仮定の下で、経済学はダメだと主張したりして、まあ、極論すれば、昔の日銀理論に戻って金融機関、特に債券部門を儲かるようにしてくれ、とボヤくのか、それとも、経済学の新たな進化を期待しつつ前に進むのか、その分かれ目が来ているのかもしれません。私は圧倒的に後者の立場です、というか、自分で新たな経済理論を打ち立てる能力には欠けますので、がんばって勉強を進めるわけです。その意味で、エコノミスト的な職業への復帰を来年の大プロジェクトとして、たとえ、どんなに障害が大きくとも取り進めようとしています。風向きが変わって、その昔はタップリ公共事業で甘い汁を吸えたのに、今はサッパリだめだ、と嘆くだけでは何もできそうもない気がします。

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次に、ベルトラン・ピカール(まえがき) & セドリック・カルル/エリック・デュセール/トマ・オルティーズ(監修)『エネルギーの愉快な発明史』(河出書房新社) です。著者のリストは本書の巻末に収録されていて、上の表紙画像に見える人名は基本的に監修者なんですが、多くの監修者と著者はフランスでご活躍の方々ではないかと想像されます。というのは、参考資料がほぼほぼすべてフランス語文献だからです。フランス語の原題は Rétrofurtur であり、2018年の出版です。本書で取り上げられている発明は、エネルギーに関するものが主ではあるんですが、必ずしもエネルギーに限定されることなく、幅広く収録されています。ですから、共通するのは、「エネルギー」というくくりではなく、むしろ、一部の例外を除いて、「実用化ないし量産化されずに終わった」という点ではないかと思います。そういう観点から邦訳タイトルも選ばれているような気がします。なお、オリジナルの原書にあるエピソードに加えて、邦訳書では日本独自の発明のエピソードを数例加えているようです。屋井先蔵の世界初の乾電池とか、こたつの最盛期、とかです。1780年のラヴォワジエの足温器から始まって、時代を下りつつ、いろんな発明品が紹介されています。その合いの手に、電気飛行機や特許などの特定のエピソードに関するエッセイがはさまれています。いくつかのエネルギーに関する発明品で強調されているのは、部屋やその空気を温めるのではなく、人を温めることによる効率化です。日本の例として付け加えられたこたつなどは典型で、ほかにもいくつか見かけました。これは私も合意できる点ではないかと思います。本書冒頭のラヴォワジエの足温器がそうですし、実用化されたゆえに本書に収録されていない発明品の中にも、使い捨てカイロなどもそうではないかという気がします。1970年代にはいわゆる石油危機が2度に渡って発生し、エネルギーをはじめとする相対価格が大きく変化し、特に、最近では地球温暖化防止との関係で、化石燃料に対する再生エネルギーの優位性が考慮されたりする中で、本書に収録された発明品は経済学的にコスト・ベネフィットがよろしくなかったか、あるいは、工学的に技術が及ばなかったか、のどちらかの要因で実用化・量産化されなかったものが多いのではないかと考えられますが、将来的な相対価格の変化や技術進歩により、あるいは、あくまであるいは、なんですが、本書に収録された技術にブレイクスルーが生じる可能性がないとはいえません。まあ、たぶん、そんなものはないとは思うんですが、エネルギーやエネルギーに限定されずとも、幅広く技術に関する温故知新を求めるのは決して悪いことではないんではないか、という気がします。

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次に、リチャード C. フランシス『家畜化という進化』(白揚社) です。著者は、米国にて生物学の博士号を取得し、研究者の経験もあるサイエンス・ライターです。英語の原題は Domesticated であり、2015年の出版です。家畜やペットとして、ヒトはオオカミをイヌに進化させ、イノシシをブタに進化させたわけですが、ダーウィン的な進化論でも自然選択=natural selectionとともに、人為選択=artificial selectionという用語があるのかどうか知りませんが、本書では頻出します。そして、イヌなどのように動物の方からヒトに近づいて食べ残しをエサとして得て、ペットも含む概念として家畜化するケースもあれば、トナカイやラクダのように狩人が生け捕りした動物をヒトが飼い始めるケースもあるようです。ということで、本書では章別に家畜化された動物を取り上げています。最初の章は、やや日本人には奇異に映るキツネから始まって、最後はヒトそのもので終わっています。家畜化は体形や形状などの見た目や機能よりも、先に従順化という性格的な変化から生じるとされ、その意味で、幼児期に特徴的な性質などが成体になっても維持されるペドモルフォーシスは、私の理解ではネオテニーの一種なんですが、広く見られると本書では指摘します。他方で、本書のスコープの外ではあるものの、ヒトが家畜化に成功せず、結局、絶滅してしまった、もしくは、ヒトが絶滅させた動物も少なくないわけで、家畜化というのは動物がヒトに屈服したわけでも何でもなく、進化のあり得る形として生き残り戦略のひとつとも考えられます。家畜化の要因として、性格的な従順さももちろん重要なんでしょうが、齧歯類のモルモットに見られるように、見た目も重要そうな気がします。私は「長い物には巻かれろ」の方で、絶滅させられるよりは、食肉にされたり使役を提供したりしつつも、種として生き延びるのは重要な観点であると考えます。ただ、本書については、研究者ではなくライターだからなのかもしれませんが、科学的な見地よりも著者の見聞きした範囲のお話が多いような気もします。ネコについては、著者個人の「ネコ大好き」の愛情があふれています。そうでない読者が読んだら、ひょっとしたら嫌悪感を持つかもしれません。また、サンタクロースの乗るそりをトナカイが引くのはなぜか、といった動物、というか、家畜に関する逸話もいくつか収録しています。最後の方の章が人間の進化と社会性について割かれており、私は家畜を飼う立場の人間としての進化と社会性を期待したんですが、逆でした。むしろ、小さい子供が家畜的に育てられ、ネオテニーを呈するという意味で、人間の家畜的な面をあぶりだそうと試みています。エコノミストとして、家畜を用いれば生産性が向上するわけで、例えば、ウシを耕作に使えば農業生産物が多く収穫出来たり、ウマを使って遠くの人間との交易で生活が豊かになったり、あるいは、食肉としてヒトそのものの進化に貢献したり、はたまた、ウマやラクダが化石燃料を用いる移動手段に取って代わられたり、などなどといった家畜を使う便益のような事例の分析を期待していたんですが、少し違和感を覚えてしまいました。

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次に、中島京子『夢見る帝国図書館』(文藝春秋) です。作者は、『小さいおうち』で直木賞を受賞した小説家で、私は誠に不勉強にして、この作者の作品はこの直木賞受賞作しか読んだことがありませんでした。この作品は、作家の主人公と喜和子さんという高齢女性を軸に、今世紀に入ってからの上野を舞台にしながら、明治までさかのぼって帝国図書館の歴史をひも解きつつ、歴史的事実と書物や図書館を軸にした人間模様を描き出しています。戦争の戦費に予算を食われて、一向に図書館整備が進まない歴史的事実をドキュメンタリーとして幕間にはさみつつ、特に、樋口一葉などから始まって女性作家にも目を配りつつ、明治以降の作家を主人公と喜和子さんが、あるいは、喜和子さんの愛人だった博覧強記の元大学教授などが語り合い、ストーリーは進みます。その中で、謎に包まれた喜和子さんの人生が、図書館や本、特に絵本とともに、タマネギの皮をむくように少しずつ明らかにされて行き、登場人物すべての本や図書館に対する愛情あふれる性格がきれいに浮かび上がります。私は10年ほど前に地方に単身赴任して、長崎大学経済学部の教員をしていた経験があり、その際には、レジュメを配布している教員が少なくない中で、私だけは教科書を指定して、教科書であれば定期試験の折りに持込み可能という特典を設けて、積極的に教科書を買うように学生諸君おススメしていました。誠に残念ながら、自分で書いたテキストではなかったんですが、少なくとも現時点くらいの技術動向であれば、大学のテキストは本で買った方がいい、と今でも考えています。あまり機会があるわけではありませんが、大学教員公募に応募して1次の書類審査を突破して2次の面接に進んだ際にも、同じように教科書の効用を申し述べたことがあったりもします。もちろん、この先、だいぶんとまえに百科事典が家庭から消えたように、家の中から本棚が駆逐されて本はタブレットなどで電子書籍を読む、というスタイルになれば、まあ、話は別なんでしょうが、現時点では、私のように定年退職したエコノミストが家庭の本棚に大学のころの教科書や古典書を置いておくというのは、少なくともアリだと考えています。私の大学生のころの教科書なんて、ハードカバーはいうまでもなく、箱があったりしましたし、今ではインテリアとしての役割しか果たしていない気もしますが、それでも、本を読むとはこういうことである本棚でと主張しているようなところがあります。私のような本好き、読書好き、図書館好きには、とても訴えかけて来るものが大きい小説だった気がします。

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次に、山岡淳一郎『生きのびるマンション』(岩波新書) です。著者は、ノンフィクション・ライターであり、必ずしも建築や住宅を専門にしているわけではない、と私は理解しています。本書では、マンションという建物ハードとそこに住む住民の2つの「老い」を理解すべく、また、建築業界の悪しき旧弊を駆逐すべく、いろんなトピックに渡って取材結果が盛り込まれています。特に、マンションは都市部に多く立地していて、ここ10年余りの間に高層の、いわゆるタワーマンションもアチコチに竣工していますから、マンション住民は決して少なくなく、そのまま朽ち果てるマンションや人間もかなりの割合に上りそうな気がします。というのも、昔から「住宅双六」というのがあり、学校を卒業して就職して、まずは独身寮や単身者向けのアパートなどに入ります。もちろん、大学生になる際に親元を離れて、下宿やアパートに入る場合もあり、我が家の2人の倅はこの段階ではなかろうかと考えないでもありません。そして、結婚して世帯向けの社宅や賃貸マンションに入ります。私の場合、公務員で官舎が潤沢に準備されていて、さらに、私自身に海外勤務が少なくなかったこともあり、この段階が長かった気がします。そして、やや狭めの賃貸マンションから、少し広めの分譲マンションに移り、最後に、庭付きの一戸建てで人生を終える、というカンジではないでしょうか。でも、繰り返しになりますが、マンションで人生を終える人も、特に都市部では少なくありません。ただ、本書でも指摘されているように、我が国の不動産といえば上物の家建物は評価されず、土地神話がまだまだ残っているのも確かです。ですから、マンションを修理しながら長く住み続けるという発想が乏しく、デベロッパーは新築マンションを売り抜ける、というビジネス・パターンを取りがちでメンテナンスに力は入りません。そこに、悪質コンサルや施工業者がつけ込んで、リベートを上乗せした高価な工事を発注させたり、談合のような競争なしでの工事受注が広まったりすると、本書では警告しています。そういった悪例に対して、みごとにメンテナンスされ、それゆえに、中古マンションとしても価格を維持しているような優良物件も紹介されています。マンションは住まいであるとともに、個人の資産でもあり、さらに、特に大規模なマンションであれば地域に及ぼす影響力も決して無視できません。さらに、リゾート・マンションのようなマルチハビテーションの一環で、住民の本拠地になっていないマンションもあります。どのようにすれば、住まいとして、資産として、地域に一定の影響力あるプレイヤーとして、マンションをよりよくすることが出来るのか、なかなか示唆に富む新書だった気がします。

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最後に、日本文藝家協会[編]『時代小説 ザ・ベスト 2019』(集英社文庫) です。昨年出版された時代小説のうちの短編11作を収録しています。収録作は、吉川永青「一生の食」、朝井まかて「春天」、安部龍太郎「津軽の信長」、米澤穂信「安寿と厨子王ファーストツアー」、佐藤巖太郎「扇の要」、中島要「夫婦千両」、矢野隆「黄泉路の村」、荒山徹「沃沮の谷」、伊東潤「大忠の男」、川越宗一「海神の子」、諸田玲子「太鼓橋雪景色」となっています。一部の例外はあるものの、かなり極端に、大御所の大ベテランと若手に二分された気がします。私の歴史小説観は、天下泰平の江戸期の武士階級を主人公に、封建制下での主君が資本制下での会社のように倒産することないことから、思う存分にお家騒動に没頭する、というものですが、もちろん、そうでない作品もいっぱい収録されています。特に米澤穂信作品は時代小説としてはとても異色です。私の好みとしては、ここ23年で新しく出現した若手作家の周防柳の作品を収録して欲しかった気がします。私は、『逢坂の六人』、『蘇我の娘の古事記』、『高天原 厩戸皇子の神話』の長編3作しか読んでいませんが、江戸期よりももっと古く、我が国の古典古代といえる飛鳥・奈良期から平安期を舞台にした時代小説に大いに注目しています。
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2019年11月15日 (金) 19:50:00

世界経済減速の影響を受けて年末ボーナスは減ってしまうのか?

先週から今週にかけて、例年のシンクタンク4社から2019年年末ボーナスの予想が出そろいました。いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、ネット上でオープンに公開されているリポートに限って取りまとめると以下のテーブルの通りです。ヘッドラインは私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しましたが、公務員のボーナスは制度的な要因で決まりますので、景気に敏感な民間ボーナスに関するものが中心です。可能な範囲で、消費との関係を中心に取り上げています。より詳細な情報にご興味ある向きは左側の機関名にリンクを張ってあります。リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開いたり、あるいは、ダウンロード出来ると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちに Acrobat Reader がインストールしてあって、別タブでリポートが読めるかもしれません。なお、「公務員」区分について、みずほ総研の公務員ボーナスだけは地方と国家の両方の公務員の、しかも、全職員ベースなのに対して、日本総研と三菱リサーチ&コンサルティングでは国家公務員の組合員ベースの予想、と聞き及んでおり、ベースが違っている可能性があります。注意が必要です。

機関名民間企業
(伸び率)
国家公務員
(伸び率)
ヘッドライン
日本総研38.7万円
(▲0.8%)
68.4万円
(▲3.6%)
賞与支給総額は、同+0.9%の増加となる見込み。一人当たり支給額は減少するものの、支給労働者数の増加が下支え。
第一生命経済研(▲1.5%)n.a.冬のボーナスの悪化が見込まれることは、今後の個人消費にとって痛手だ。10月から始まった消費増税による負担増にボーナス減少という重荷が加わることで、消費への逆風はさらに強まる。消費増税に備えて様々な対策が実行に移されていることから、家計の実質的な増税負担額は14年と比較してかなり小さく、消費増税発の景気失速は避けられるとみられるが、リスクは明らかに下振れである。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング38.8万円
(▲0.4%)
79.0万円
(▲1.3%)
ボーナスの支給総額は16.9兆円(前年比+1.5%)に増加する見通しである。一人当たり支給額は減少に転じるものの、ボーナスが支給される事業所で働く労働者数が大きく増加することが支給総額の増加に寄与しよう。冬のボーナスの支給労働者数は4,344万人(前年比+2.0%)に増加し、支給労働者割合も84.8%(前年差+0.1%ポイント)に上昇すると見込まれる。ボーナスの支給総額の増加は、消費増税後の落ち込みからの回復を期する今後の個人消費にとってプラス材料である。
みずほ総研38.2万円
(▲2.1%)
74.9万円
(▲2.7%)
懸念されるのは、こうした所得の伸び悩みにより、消費増税後の個人消費が下押しされることだ。消費増税後の落ち込みについては、政府の所得支援策などにより、一定程度抑制されるとみられるものの、所得環境は伸び悩みが続いており、消費の基調は力強さに欠ける展開が予想される。今冬のボーナス伸びの大幅鈍化は、ますます消費の基調を弱めることになりかねない。海外経済の減速や企業収益の弱含みが雇用・所得環境を通じて消費に波及していくリスクは継続しており、今後の消費動向は要注意だ。


ということで、こぞって1人当たりボーナス額が減少する一方で、ボーナス支給対象雇用者が増加することから、1人当たり額に支給対象者数を乗じたボーナス支給総額は増加すると予想しています。シンクタンクによっては、1人当たりの減額を受けて消費にマイナスとする見方がある一方で、支給総額がプラスなので消費を下支えするという意見もあります。先行き景気は世界経済の動向に左右される部分が大きいんですが、私自身の見方としては、かなり不透明感がある中で、恒常所得ではないボーナスは消費に回る比率、限界消費性向はそれほど大きくないことから、いずれにせよ、消費に大きな影響をもたらすほどのインパクトはなく、10月からの消費税率引上げによる下押し圧力の方が上回り、消費はさえない展開が続くと予想しています。景気失速ないし景気後退につながるかどうかは、消費よりも世界経済の動向、あるいは、それに起因する我が国の輸出動向に左右される部分が大きいとは思いますが、雇用から消費への波及ももちろん無視できません。景気局面はビミョーな段階に入ったと考えるべきです。
下の画像は、日本総研のリポートから賞与支給総額(前年比)を引用しています。

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2019年11月14日 (木) 23:10:00

駆込み需要を考慮しても内需の底堅さを確認した7-9月期GDP統計1次QE!!!

本日、内閣府から7~9月期のGDP統計1次QEが公表されています。季節調整済みの前期比成長率は+0.1%、年率では+0.2%と潜在成長率を下回ってゼロ近傍ながら、4四半期連続のプラス成長を記録しました。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

実質0.2%成長、GDP7-9月年率 個人消費など堅調
内閣府が14日発表した7~9月期の国内総生産(GDP)速報値は、物価変動の影響を除く実質で前期比0.1%増、年率換算では0.2%増だった。4四半期連続のプラス成長となった。4~6月期は年率換算で1.8%増だった。消費増税前の駆け込み需要でプラス成長は維持したものの、冷夏の影響などが響き、小幅な伸びにとどまった。QUICKが集計した民間予測の中央値は前期比0.2%増で、年率では0.8%増だった。
生活実感に近い名目GDPは前期比0.3%増、年率では1.2%増だった。名目でも4四半期連続のプラスとなった。
実質GDPの内訳は、内需が0.2%分の押し上げ効果、外需の寄与度は0.2%分のマイナスだった。
項目別にみると、個人消費が実質0.4%増と2四半期連続のプラスとなった。消費増税前の駆け込み需要の影響で支出が増え、個人消費を押し上げた。
設備投資は0.9%増と2四半期連続のプラス。省力化投資の積極化などが寄与した。民間在庫の寄与度は0.3%のマイナスだった。
住宅投資は1.4%増と5四半期連続のプラスと、増税前の駆け込み需要がみられた。公共投資は0.8%のプラスだった。
輸出は0.7%減だった。中国向けを中心にアジア向け輸出が弱かったうえ、世界経済減速などで伸び悩んだ。輸入は0.2%増と2四半期連続のプラスだった。
総合的な物価の動きを示すGDPデフレーターは前年同期と比べてプラス0.6%だった。輸入品目の動きを除いた国内需要デフレーターは0.2%のプラスだった。


ということで、いつもの通り、とても適確にいろんなことが取りまとめられた記事なんですが、次に、GDPコンポーネントごとの成長率や寄与度を表示したテーブルは以下の通りです。基本は、雇用者報酬を含めて季節調整済み実質系列の前期比をパーセント表示したものですが、表示の通り、名目GDPは実質ではなく名目ですし、GDPデフレータと内需デフレータだけは季節調整済み系列の前期比ではなく、伝統に従って季節調整していない原系列の前年同期比となっています。また、項目にアスタリスクを付して、数字がカッコに入っている民間在庫と内需寄与度・外需寄与度は前期比成長率に対する寄与度表示となっています。もちろん、計数には正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、データの完全性は無保証です。正確な計数は自己責任で最初にお示しした内閣府のリンク先からお願いします。

需要項目2018/7-92018/10-122019/1-32019/4-62019/7-9
国内総生産GDP▲0.5+0.4+0.5+0.4+0.1
民間消費▲0.1+0.3▲0.0+0.6+0.4
民間住宅+0.4+1.1+1.1+0.5+1.4
民間設備▲3.2+3.2▲0.4+0.7+0.9
民間在庫 *(+0.3)(▲0.0)(+0.1)(▲0.1)(▲0.3)
公的需要▲0.4+0.4+0.3+1.4+0.6
内需寄与度 *(▲0.4)(+0.8)(+0.1)(+0.7)(+0.2)
外需寄与度 *(▲0.1)(▲0.4)(+0.4)(▲0.3)(▲0.2)
輸出▲1.8+1.1▲2.0+0.5▲0.7
輸入▲1.2+3.8▲4.1+2.1+0.2
国内総所得 (GDI)▲0.8+0.3+1.0+0.3+0.1
国民総所得 (GNI)▲0.9+0.4+0.8+0.4+0.1
名目GDP▲0.4+0.4+0.9+0.4+0.3
雇用者報酬 (実質)▲0.4+0.3+0.4+0.6▲0.0
GDPデフレータ▲0.4▲0.3+0.1+0.4+0.6
内需デフレータ+0.6+0.5+0.3+0.4+0.2


上のテーブルに加えて、いつもの需要項目別の寄与度を示したグラフは以下の通りです。青い折れ線でプロットした季節調整済みの前期比成長率に対して積上げ棒グラフが需要項目別の寄与を示しており、左軸の単位はパーセントです。グラフの色分けは凡例の通りとなっていますが、本日発表された4~6月期の最新データでは、前期比成長率がわずかながらもプラスを示し、赤の消費と水色の設備投資がプラスの寄与を示している一方で、灰色の在庫と黒の外需(純輸出)がマイナスの寄与となっているのが見て取れます。

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前回の4~6月期GDP統計1次QEでは、私は「ほぼゼロ成長ながら、マイナス成長」と予想して大きく外したんですが、今回の7~9月期1次QEでは一昨日のQE予想の折りに、「プラスはプラスでも、かなりゼロに近い成長率」と予想していますので、まずまずの結果ではなかったかと自負しています。また、グラフを引用したニッセイ基礎研のリポートでは、前期比成長率+0.1%、前期比年率+0.2%と予想していましたので、まさに、ドンピシャでした。ということで、基本は、消費などで一定の駆込み需要があったものの、その需要増を供給増、というか、生産増で対応したのではなく、在庫の取り崩しで対応した結果であると私は受け止めています。加えて、世界経済の減速に起因する外需の停滞も成長率を下押ししていることは明らかです。ただ、7~9月期GDPでは、設備投資が前期比+0.9%増となっていますが、あくまで私の直感ながら、やや高い気がしなくもありません。法人企業統計を見ないと何ともいえませんが、先行き下方修正される可能性もあると考えています。ただ、全体として、駆込み需要が一定あることは否定できないものの、それを考慮しても内需の底堅さを確認できる統計だったと私は受け止めています。ですから、世界経済の今後の減速の程度にもよるものの、数兆円規模の財政サポートを含む経済対策が15か月予算として策定されるのであれば、10~12月期は消費税率引き上げによるマイナス成長がほぼほぼ確定しているものの、年明け1~3月期はプラス成長に回帰する可能性が高く、2四半期連続でのマイナス成長というテクニカルな景気後退シグナルを避けられるものと私は見込んでいます。唯一の懸念は、経済をけん引する主役の不在です。外需は世界経済の減速でむしろマイナス要因でしかなく、従って、輸出との相関高い設備投資も力強さに欠け、加えて、消費税率の引上げにもかかわらず、所得が年末ボーナスが渋いこともあって伸びず、家計部門でも消費や住宅が景気をけん引する姿とはほど遠いと考えるべきです。ですから、外需も民需も景気のけん引役としては期待できないとなれば、ここは政府の財政によるサポートが必要な場面であろうと私は考えています。

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続いて、上のグラフは、価格の変動を取り除いた実質ベースの雇用者報酬及び非居住者家計の購入額の推移をプロットしています。雇用者報酬の伸び悩みが始まっているように見えます。10~12月期は消費税率引上げにより実質所得はさらに停滞を見せると考えるべきです。加えて、インバウンド消費も韓国との関係悪化などを背景に、伸びが大きく減速しています。また、消費者マインドは改善の兆しすら見えませんが、現在の人手不足は省力化・合理化投資を誘発して設備投資にも増加の方向の影響を及ぼすことが考えられますし、これに加えて、もしも経済対策による財政支出が先行き見通しの向上をもたらして、賃金が上昇して消費者マインドが上向けば、内需主導の成長がサポートされるものと考えますが、いつになったら賃金が増えて消費者マインドが上向くんでしょうか。目先の景気後退は避けられる可能性高いものの、トンネルは長いかもしれません。
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2019年11月13日 (水) 22:50:00

企業物価(PPI)の国内物価上昇率は消費税率引上げでもマイナス!!!

本日、日銀から10月の企業物価 (PPI) が公表されています。PPIのヘッドラインとなる国内物価の前年同月比上昇率は▲0.4%の下落と、6月統計で前年同月比上昇率がマイナスに転じてから、今日発表の10月統計まで5か月連続でマイナスが続いています。何と、消費税率が引き上げられたにもかかわらず、前年同月比でマイナスが続いているわけで、消費税率引上げの影響を除くベースでは▲1.9%の下落と試算されています。9月は▲1.1%の下落でしたから、一段と下落幅を拡大していることになります。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

10月の企業物価指数、前年比0.4%下落 薬価改定などで
日銀が13日発表した10月の企業物価指数(2015年平均=100)は102.0と、前年同月比で0.4%下落した。5カ月連続で下落した。前月比でみると1.1%上昇した。電力料金や薬価の改定などの制度的な価格の引き下げが全体を押し下げた。
円ベースでの輸出物価は前年比で6.3%下落し、6カ月連続のマイナスとなった。前月比では0.3%上昇した。輸入物価は前年比10.5%下落し、6カ月連続のマイナスとなった。前月比では0.7%上昇した。
企業物価指数は企業同士で売買するモノの物価動向を示す。公表している744品目のうち、消費税を含むベースで前年から上昇したのは520品目、下落したのは213品目だった。上昇と下落の品目差は307と、9月の確報値(74品目)から233品目増えた。
企業物価指数は消費税を含んだベースで算出している。10月の消費増税の影響を除いたベースでの企業物価指数は前年同月比で1.9%下落した。5カ月連続で前年を下回った。前月比でも0.4%下落した。2カ月ぶりに下落に転じた。
消費税を除くと上昇が328品目、下落が340品目で、品目差はマイナス12品目だった。下落品目数が上昇品目数を上回るのは2017年3月以来、2年7カ月ぶり。
10月は夏季電力料金の期間が終了したほか、薬価改定で医薬品の価格が引き下げられる影響があった。日銀の調査統計局は10月の企業物価の基調について「制度的な要因が中心で、消費増税の影響はみられない」としている。


いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、企業物価(PPI)上昇率のグラフは下の通りです。上のパネルは国内物価、輸出物価、輸入物価別の前年同月比上昇率を、下は需要段階別の上昇率を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影をつけた部分は景気後退期を示しています。

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季節調整していないながら、国内物価指数の前月比は流石に消費税率引上げの影響もあって+1.1%の上昇を記録しており、寄与度で見て、輸送機械+0.26%、鉄鋼+0.12%、電気機器+0.11%などのプラス寄与が大きくなっています。国内物価指数の前年同月比では、相変わらず、石油・石炭製品が▲14.1%の下落と9月の▲11.9%から下げ幅が拡大しています。私が調べた範囲で、企業物価指数(PPI)のうちの輸入物価の円建て原油価格指数は、昨年2018年のピークが11月の142.5でしたから、このところ、今年2019年6月以降の100~110で11月も落ち着いた動きをするとすれば、次の11月統計でPPI輸入物価に現れる原油価格の前年同月比は底を打つ可能性が高いと考えられます。でも、サウジアラビアの石油施設への武力攻撃など、エコノミストには想像もできないような地政学的な何かが起こる可能性も排除できませんし、何よりも相場モノですので、先行きの価格動向は私の予想の範囲を超えています。また、国内物価指数で前年同月比の下落の大きい化学製品▲4.3%や非鉄金属▲4.5%などは、米中貿易摩擦の一方の当事者であり、ダメージが大きい方といわれている中国の景気動向に連動する部分が大きいと見なされているわけで、国際商品市況における石油価格とともに中国の景気動向にも物価が反応すると考えるべきです。ひょっとしたら、日銀金融政策よりもこういった対外要因の方が影響力大きいかもしれません。企業物価(PPI)の先行きについて考えると、少なくとも11月統計までは石油価格下落の影響が続くことは容易に想像できますし、加えて、中国をはじめとする世界経済の動向や国内景気も含めて、物価が上昇に転ずるタイミングを図るのは難しそうです。
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2019年11月12日 (火) 19:20:00

明後日公表の7-9月期GDP統計1次QEの予想やいかに?

先々週の政府統計の公表などを終えて、ほぼ必要な指標が利用可能となり、今週木曜日11月14日に7~9月期GDP速報1次QEが内閣府より公表される予定です。すでに、シンクタンクなどによる1次QE予想が出そろっています。いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、web 上でオープンに公開されているリポートに限って取りまとめると下の表の通りです。ヘッドラインの欄は私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しています。いつもの通り、可能な範囲で、足元から先行きの景気動向について重視して拾おうとしています。今回は、繰り返しになりますが、消費税率引き上げ直前の実績成長率と直後の見通しということで、先行きについても多くのシンクタンクで言及があり、テーブルの上から順に、日本総研、大和総研、みずほ総研、ニッセイ基礎研、第一生命経済研の5機関は明確に見通しを取り上げ、伊藤忠総研についても「輸出動向がカギ」で締めくくっています。これらの機関はやや長めに、ほかもそれなりに引用しています。ただし、大和総研については、引用した後にも、GDP需要項目別に住宅投資・設備投資・公共投資・輸出と続きがあるんですが、取りあえず、個人消費のパラで打ち止めとしてあります。いずれにせよ、詳細な情報にご興味ある向きは一番左の列の機関名にリンクを張ってありますから、リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開いたり、ダウンロード出来たりすると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちにAcrobat Reader がインストールしてあってリポートが読めるかもしれません。

機関名実質GDP成長率
(前期比年率)
ヘッドライン
日本総研+0.2%
(+0.7%)
10~12月期を展望すると、消費増税に伴う駆け込み需要の反動減に加え、台風19号などの自然災害が消費と生産の重石となり、5四半期ぶりのマイナス成長となる見込み。もっとも、良好な雇用・所得環境や高水準の企業収益を背景とした内需主導の景気回復基調は途切れておらず、マイナス成長は一時的にとどまると予想。
大和総研+0.2%
(+0.9%)
先行きの日本経済は、潜在成長率を若干下回る低空飛行を続ける公算が大きい。
個人消費は、駆け込み需要の反動減が生じた後は、一進一退が続くとみている。個人消費の鍵を握る所得は、増加ペースの鈍化が見込まれるものの、消費増税時に実施されている各種経済対策が消費を下支えすることで、増税後の消費の腰折れは回避されるとみている。ただし、消費増税対策は公共投資の比重が大きく、家計に限れば消費増税に伴う負の所得効果を全て相殺できないことから、消費はいくらか抑制されるだろう。また、先行きの消費のかく乱要因として、キャッシュレス決済時のポイント還元制度の終了(2020年6月末)前後に駆け込み需要・反動減が生じ得ることなどが挙げられる。
みずほ総研+0.3%
(+1.3%)
今後の日本経済は、10~12月期については消費増税の反動減が下押しする投資の調整圧力が高まるほか、その後も弱い伸びに留まる見通しだ。
輸出は、IT関連需要の底打ちがプラス材料となるものの、世界経済の減速が続くことから、伸びは弱いとみている。設備投資は、省力化投資が下支えするものの、機械設備や建設投資における調整圧力の高まりが下押し要因になり、当面横ばい圏で推移するだろう。
個人消費は、力強さを欠く見通しだ。消費増税の反動減が見込まれることに加え、世界経済の先行き不透明感や企業収益の弱含みを背景に、所得が伸び悩むことが影響しよう。
ニッセイ基礎研+0.1%
(+0.2%)
2019年10-12月期は、前回増税時に比べれば規模は小さいものの、駆け込み需要の反動減が発生すること、税率引き上げに伴う物価上昇によって実質所得が低下することから、民間消費が大きく減少し、明確なマイナス成長になることが予想される。
第一生命経済研+0.3%
(+1.0%)
前回増税対比では抑制されたとはいえ、個人消費の駆け込み需要は一定程度生じたとみられる。この部分については 10-12月期に反動が出ることは必至である。加えて、増税による実質購買力の抑制による悪影響も懸念されるところだ。増税に備えて様々な対策が実行に移されたことから、14年と比較すれば悪影響は小さくなるだろうが、それでも一定の下押し圧力は受けざるを得ない。10-12月期の個人消費は大幅な減少が予想され、実質GDP成長率もはっきりとしたマイナスに転じるとみている。
伊藤忠総研+0.0%
(+0.2%)
7~9月期の実質GDP成長率は前期比+0.0%(年率+0.2%)、4四半期連続のプラス成長ながら概ね横ばいを予想。個人消費は消費増税前の駆け込み需要を悪天候の影響が相殺、公共投資や設備投資の増加も輸出の減少によって減殺された模様。潜在成長率を上回る成長を取り戻すかどうかは輸出動向がカギ。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング+0.1%
(+0.4%)
2019年7~9月期の実質GDP成長率は、前期比+0.1%(年率換算+0.4%)と4四半期連続でプラス成長を維持したと予想される。もっとも、消費増税前の駆け込み需要があったことを考慮すると、伸びは弱い。
三菱総研+0.5%
(+1.9%)
2019年7-9月期の実質GDPは、季節調整済前期比+0.5%(年率+1.9%)と、4四半期連続でのプラス成長を予測する。消費税増税前の駆け込み需要による押し上げ効果もあり、内需が堅調に拡大したとみられる。


ということで、+1%弱といわれている潜在成長率近傍を予想するシンクタンクが多いんですが、高いところで三菱総研の年率+1.9%成長、低いところでも伊藤忠総研の年率+0.2%となっていて、少なくともマイナス成長を見込むシンクタンクはありません。日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも、中央値で年率+0.8%成長、レンジでも+0.2~+1.9%となっています。基本的に、10月1日からの消費税率引上げ直前の駆込み需要が下支えしており、サステイナブルではないプラス成長ではありますが、ほぼ、私の実感とも合致しています。ただし、下方リスクは小さくなく、特に、悪い話ではないんですが、消費税率引上げ前の駆込み需要が、前回2014年4月時よりも小さく、しかも、大型消費の耐久消費財で小さかったわけですので、私の実感としては、プラスはプラスでも、かなりゼロに近い成長率に仕上がっている可能性が高いと感じています。ただし、駆込み需要が大きかったとすれば、在庫調整が進んだ可能性もあります。これも悪い話ではありません。いずれにせよ、プラス成長というエコノミスト間のコンセンサスは当然なんですが、潜在成長率をやや下回る、と私は予想しています。
下の画像はコンポーネントの寄与度に分解したGDP成長率の推移のグラフをニッセイ基礎研のサイトから引用しています。

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2019年11月11日 (月) 19:45:00

3か月連続でマイナス続く機械受注と景気ウォッチャーと経常収支を読み解く!!!

本日、内閣府から9月の機械受注と10月の景気ウォッチャーが、また、財務省から9月の経常収支が、それぞれ公表されています。各統計のヘッドラインを見ると、機械受注のうち変動の激しい船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注は、季節調整済みの系列で見て前月比▲2.9%減の8502億円を示しており、景気ウォッチャーでは季節調整済みの系列の現状判断DIが前月から▲10.0ポイント低下の36.7を、先行き判断DIは逆に+6.8ポイント上昇の43.7を、それぞれ記録しています。また、経常収支は季節調整していない原系列の統計で+1兆6129億円の黒字を計上しています。まず、とても長くなりますが、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

9月の機械受注、2.9%減 基調判断は引き下げ
内閣府が11日発表した9月の機械受注統計によると、民間設備投資の先行指標である「船舶・電力を除く民需」の受注額(季節調整済み)は前月比2.9%減の8502億円だった。QUICKがまとめた民間予測の中央値(0.7%増)を下回り、3カ月連続の減少となった。内閣府は基調判断を「持ち直しの動きに足踏みがみられる」へと引き下げた。基調判断を引き下げるのは2018年12月分以来となる。19年4月分から「持ち直しの動き」としていた。
製造業の受注額は前月比5.2%減の3604億円だった。2カ月連続の減少で、17業種のうち7業種で減少した。「非鉄金属」や「石油製品・石炭製品」の分野で落ち込みが顕著だった。
半面、非製造業は2.6%増の4898億円と、3カ月ぶりの増加に転じた。「通信業」や「情報サービス業」などの増加が寄与した。
前年同月比での「船舶・電力を除く民需」の受注額(原数値)は5.1%増だった。受注総額は4.9%減、外需の受注額は7.3%減、官公需の受注は26.3%減だった。
7~9月期では前期比3.5%減と、2期ぶりに減少した。製造業は0.9%減、非製造業は7.3%減だった。10~12月期は前期比3.5%増の見通しで、製造業は2.8%増、非製造業は3.7%増を見込んでいる。
機械受注は機械メーカー280社が受注した生産設備用機械の金額を集計した統計。受注した機械は6カ月ほど後に納入され、設備投資額に計上されるため、設備投資の先行きを示す指標となる。
10月の街角景気、現状判断指数は3カ月ぶり悪化
内閣府が11日発表した10月の景気ウオッチャー調査(街角景気)によると、街角の景気実感を示す現状判断指数(季節調整済み)は36.7で、前の月に比べて10.0ポイント低下(悪化)した。悪化は3カ月ぶり。家計動向、企業動向、雇用が悪化した。
2~3カ月後を占う先行き判断指数は43.7で、6.8ポイント上昇した。上昇は4カ月ぶり。家計動向、企業動向が改善した。
内閣府は基調判断を「このところ回復に弱い動きがみられる」に据え置いた。
経常収支、9月は1兆6129億円の黒字
財務省が11日発表した9月の国際収支状況(速報)によると、海外との総合的な取引状況を示す経常収支は1兆6129億円の黒字だった。黒字は63カ月連続。QUICKがまとめた民間予測の中央値は1兆6846億円の黒字だった。
貿易収支は11億円の黒字、第1次所得収支は1兆8054億円の黒字だった。
同時に発表した4~9月期の経常収支は10兆3382億円の黒字だった。貿易収支は241億円の赤字、第1次所得収支は11兆3079億円の黒字となった。


長くなりましたが、いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、機械受注のグラフは以下の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影をつけた部分は景気後退期を示しています。

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まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、電力と船舶を除くコア機械受注の季節調整済みの系列の前月比は+0.9%増であり、レンジでは▲9.5~+2.1%でしたから、予測の中央値は前月比プラスとはいえ、リスクを考慮したレンジは下方に広かった、と考えるべきで、もともとが単月の振れの激しい指標ですので、予想と符合が違っていたものの、市場には大きなサプライズはなかった、と私は受け止めています。特に、四半期データが利用可能となり、7~9月期の四半期ベースでは前期比▲3.5%減だった一方で、10~12月期は前期比+3.5%増の見通しとなっていますので、先行き見通しのバイアスをどこまで見込むのかにもよりますが、単純に考えると2019年後半の2四半期をならせばコア機械受注は横ばいということですので、米中貿易摩擦に起因して世界経済が大きく減速している中で、「こんなもん」という相場観ではないか、という気もします。加えて、3か月前の6月統計公表時の7~9月期の予想は▲6.1%減でしたから、この予想からすれば上振れ下、ということにもなります。ただ、3か月連続でのコア機械受注の前月比マイナスですので、引用した記事にもある通り、統計作成官庁である内閣府では基調判断を半ノッチ下げて「持ち直しの動きに足踏み」としています。また、コア機械受注の外数ながら官公需を見ると、8月+36.8%増の反動の要素は考慮しても、9月▲45.2%減を記録しており、経済対策によるテコ入れがなされる予定とはいえ、消費税率引き上げ直前の公共事業の執行姿勢に疑問を持たざるを得ません。緊縮財政を転換することが必要です。

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続いて、景気ウォッチャーのグラフは上の通りです。現状判断DIと先行き判断DIをプロットしています。いずれも季節調整済みの系列です。色分けは凡例の通りであり、影をつけた部分は景気後退期です。現状判断DIは家計動向関連、企業動向関連、雇用関連のすべてがマイナスを示し、先行き判断DIはほぼ逆で家計動向関連、企業動向関連ともにプラスながら雇用関連だけがわずかにマイナス、ということになっています。消費税率引上げに起因する動きですので、現状判断DI/先行き判断DIとも家計動向関連のうちの小売り関連が飛び抜けて大きな動きを示しています。まあ、当然です。消費税率引上げ前後の動きとしては、前月の段階で駆込み需要があって現状判断DIが上昇する一方で、先行き判断DIが低下し、消費税率引上げの当月は反動減などから現状判断DIが低下する一方で、先行き判断DIが上昇する、という典型的な動きを示しました。2014年の3~4月とまったく同じでした。統計作成官庁である内閣府による基調判断は、「回復に弱い動き」で据え置かれています。

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最後に、経常収支のグラフは上の通りです。青い折れ線グラフが経常収支の推移を示し、その内訳が積上げ棒グラフとなっています。色分けは凡例の通りです。上のグラフは季節調整済みの系列をプロットしている一方で、引用した記事は季節調整していない原系列の統計に基づいているため、少し印象が異なるかもしれません。いずれにせよ、仕上がりの8月の経常収支は最近ではやや大きな黒字なっており、海外からの第1次所得収支の黒字が大きな部分を占めている点については変わりありません。経常収支の背景について見ると、国際商品市況における石油価格の動向にもかかわらず、貿易収支が赤字化しているのは、我が国の景気局面と我が国貿易相手国の景気局面に差が生じ始めた可能性を示唆していると私hは受け止めています。すなわち、我が国国内経済の減速はかなりの程度に実感されているところですが、輸出入の動向を見ると、世界経済の減速は我が国以上にもっと進んでいる可能性があると、私は受け止めています。その意味で、貿易収支の動向にも注視が必要かもしれません。

最後に、どうでもいいことながら、私は天皇制については退職した国家公務員、というか、日本国民として、かなり少数派に属する考えを持っていることは自覚していて、昨日の祝賀パレードには何の興味もありませんでした。そして、我が家で購読している朝日新聞の本日付け夕刊の「素粒子」で昨日のパレードの国旗についての疑問が呈されていて、誰が費用を負担しているかは詳しく知りませんが、我が家が青山に住んでいたころ、下の倅は東京都心でボーイスカウト活動に参加していたことから、正月一般参賀の折りには皇居に行って、日の丸配布の奉仕活動していた時期があり、当時の財団だか、社団だかの国旗協会から紅白まんじゅうをもらって帰っていました。私は下の倅に「万歳三唱には加わる必要はない」といい置いていた記憶があります。
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2019年11月11日 (月) 07:25:00

今日は24回目の結婚記念日!!!



今年は24回目の結婚記念日です。ということは、誰でも容易に想像できるように、来年は銀婚式となります。実は、私は勝手に来春に大プロジェクトを進めていて、これを乗り切れば銀婚式を迎えられそうです。
いつものくす玉を置いておきます。クリックして割ってやって下さい。
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2019年11月10日 (日) 15:30:00

ユーキャン 新語・流行語大賞 第36回2019年ノミネート語やいかに?

先週11月6日に ユーキャン 新語・流行語大賞 第36回2019年のノミネート語30語が明らかにされています。以下の通りです。

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改元はもちろん、ラグビーのワールドカップなどのスポーツ関係、気候変動に起因する異常気象の関連、あるいは、相変わらず、ドラマや流行歌などからのタイトルや決めのフレーズなども入っています。実は、私が注目しているのが「免許返納」です。私は従来から我が国の社会保障政策が高齢の引退世代に手厚すぎる弊害を指摘しているんですが、「上級国民」と「免許返納」がこのあたりから出て来たように思わないでもありません。加えて、我が家のルーツの京都の本家を継いでいる叔父が、とうとう免許返納したと聞き及び、それなりに身近な話題という気もします。でもまあ、どちらも大賞ではないんだろうと予想しています。経済的なトピックとしては「サブスク」や「軽減税率」は当然として、「〇〇ペイ」は30語に入っても、「キャッシュレス決済」とか「QR決済」は入らないんですかね。やや不思議です。まあ、「MMT」はダメなんだろうとは覚悟しています。気のせいかもしれませんが、経済に基づく流行語が少ないような気がするのは、人手不足による雇用拡大とともに景気局面がそれなりに順調なんだろうと受け止めています。
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2019年11月09日 (土) 09:10:00

今週の読書は話題の現代貨幣理論=MMTのテキストをはじめとして計7冊!!!

今週の読書は、財政のサステイナビリティに関する話題の経済理論である現代貨幣理論(MMT)の第一人者による入門テキストをはじめとして、以下の通りの計7冊です。NHKの朝ドラと「チコチャンに叱られる!」の再放送を見終えて、これから、来週の読書に向けた図書館回りに出かける予定ですが、来週も充実の数冊に上りそうな予感です。

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まず、L. ランダル・レイ『MMT 現代貨幣理論』(東洋経済) です。著者は、米国バード大学のマクロ経済学研究者です。米国ワシントン大学ミンスキー教授の指導の下で博士号を取得しているそうです。英語の原題は Modern Money Theory であり、2015年の出版、第2版です。話題のMMT=現代貨幣理論の第1人者による入門教科書です。私は今回は図書館で借りましたが、来年になれば研究費で買えるのではないかと期待していますので、ザッと目を通しただけ、というところです。MMTに関しては大きな誤解があり、主流派のエコノミストは、おそらく、ちゃんと理解しないままに、MMTとは無制限に国債を発行して財政、もしくは、財政赤字を膨らませる理論である、と受け止めているんではないかと思います。でも、本書を読めば、MMTもそれなりに美しく主流派経済学と同じようなモデルに立脚したマクロ経済学理論であると理解できることと私は考えます。まず、冒頭で、貨幣=moneyとは一般的、代表的な計算単位であり、通貨=currencyとは中央銀行を含む統合政府が発行するコインや紙幣、とそれぞれ定義し、通貨が貨幣になる裏付け、通貨が生み出されるプロセス、財政政策の方向、の3点を理解することが重要と私は考えます。まず、第1に、通貨が貨幣という一般的な交換手段となる裏付けについては、市場で交換価値がある、すなわち、みんなが受け取るから、という主流派経済学の貨幣論を説明にならないと強く批判し、そうではなく、すなわち、交換で何か貨幣と同じ価値あるモノを受け取れるからではなく、政府が納税の際に受け取るからである、と指摘します。これはとても建設的な意見でクリアなのではないでしょうか。第2に、通貨創造についても、銀行が帳簿に書き込むからであって、それに対する預金の裏付けはない、と指摘します。キーストロークによる貨幣創造です。ですから、私なんぞも以前は誤解していたんですが、「国債発行が国内の民間貯蓄額を越えればアブナイ」という議論を否定します。政府が国債を発行して民間経済主体の銀行口座に預金が発生するわけです。当たり前なんですが、誰かの負債はほかの誰かの資産となります。そして、第3に、自国通貨を発行する権限のある中央銀行を含む政府は支出する能力はほぼ無限にある一方で、支出する能力が無限だからといって支出を無条件に増やすべきということにはならず、インフレや、同じことながら、通貨への市場の信認などに配慮しつつ、経済政策の目標を達成するための手段と考えるべきと指摘しています。逆から見て、プライマリーバランスや公債残高のGDP比などの財政健全性に関する指標を機械的に達成しようとするのは不適切である、ということになります。ということで、さすがに、定評あるテキストらしく、背後にあるモデルが明快であり、とても説得的な内容となっています。しかしながら、最後に、間接的な関連も含めて、3点疑問を呈しておくと、第1に、国債消化についてであり、負債は逆から見て資産とはいえ、国債が札割れを起こすこともあり、その昔の幸田真音の小説のような共謀は生じないとしても、負債が必ずしも資産に転ずるわけではない可能性をどう考えるか、そうなれば、主流派的な「みんなが受け取るから国債が資産になる」という考えが復活するのか、すなわち、我が国の財政法では国債の日銀引き受けは否定されているわけで、何らかの民間金融機関、プライマリーディーラーが国債を引き受けてくれる必要があるんですが、それが実現されないほどの大量の国債発行がなされる場合をどう考えるかに不安が残ります。第2に、私はリフレ派のように中央銀行が本書で政府の役割を果たすのも経済理論的には同じだと考えていて、例えば、「日銀はトマトケチャップを買ってでも通貨供給を増やすべき」と発言したとされるバーナンキ教授も同じではないかと思っていて、そうすればリフレ派とMMT派の違いはかなり小さく、MMT派が市場を無視する形で主権国家が財政を用いて強権的に購買力を行使するのと、中央銀行が市場の合理性を前提に通貨の購買力を行使して貨幣を供給するのと、は大きな違いではなく、実質的には差はなくなるような気がしないでもありません。最後の第3点目で、本書とは直接の関係ないながら、特に現在の日本で財政赤字がここまでサステイナブルなのは、動学的効率性が失われているからではないか、と私は考えています。動学的効率性の議論はかなり難しくて、長崎大学に出向した際に紀要論文で取りまとめた「財政の持続可能性に関する考察」においてすら回避したくらいで、このブログで論ずるにはあまりにもムリがありますが、MMT的な財政のサステイナビリティと動学的効率性が失われている時の財政のサステイナビリティが、どこまで違って、どこまで同じ概念なのか、理論的にはかなり気にかかります。ということで、ついつい長くなり、私には私なりの疑問はあるものの、実践的には、このテキストがどこまで中央銀行を含む政府の中で信任を得られるか、ということなのかもしれません。ケインズ政策が米国のニューディール政策に取り入れられるのに大きなタイムラグはありませんでしたが、政府を定年退職した我が身としてはとても気がかりです。なお、最後になりましたが、ひとびとの経済政策研究会のサイトに、とても参考になる解説メモが関西学院大学の朴教授によりアップされています。以下の通りです。ご参考まで。ただ、このメモを取りまとめた時点では、朴教授はMMT論者ではないと明記しています。お忘れなく。


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次に、ヤニス・ヴァルファキス『わたしたちを救う経済学』(ele-king books) です。著者は、ギリシアの債務問題が発覚した後の急伸左派連合(シリザ)のツィプラス政権下で財務大臣を務めたギリシア出身のエコノミストであり、反緊縮など、かなりの程度に私と考えを同じくしています。立命館大学の松尾教授が巻末に解説を記しています。なお、バルファキスなのか、ヴァルファキスなのか、は、私はギリシア語を理解しませんが、このブログでも今年2019年月日に『黒い匣』の、また、同じく月日に『父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』の、それぞれの読書感想文を取り上げています。ということで、本書は基本的には、『黒い匣』と同じテーマ、すなわち、ギリシアの財政破綻とその後処理に焦点を当てています。『黒い匣』では、もちろん、対外的な交渉はあるものの、基本的に、当時のギリシア国内や政権内部にスポットを当てていたのに対し、本書では歴史的にかなり前にさかのぼるとともに地理的にも欧州延滞を視野に入れ、ユーロ圏の通貨同盟が成立する歴史をひも解いています。その上で、『黒い匣』と同じように、ギリシア国民の医療費や年金よりも、公務員給与よりも、欧州各国の銀行への債務返済に対してもっとも高い優先順位を付与するブラッセルのEU官僚やドイツ政府高官などを批判しています。特に、歴史的に通貨連合の設計段階までさかのぼっています、というか、第2次大戦末期のブレトン・ウッズ体制までさかのぼっていますので、何が問題であって、結局のところ、「強い者はやりたい放題、弱い者は耐えるのみ」という結果を招いたのかを解明しようと試みています。一言でいえば、ユーロによる通貨統合は民主的な制御を持たない金本位制の復活であったと私は考えています。トリフィンのトリレンマから、国際金融上では固定為替相場と自由な資本移動と独立した金融政策の3つは同時には成立できません。金本位制下では独立の金融政策を放棄して、また、戦後のブレトン・ウッズ体制下の固定為替相場制では独立の金融政策もしくは自由な資本移動を犠牲にして、それぞれ国際金融市場を機能させてきたわけですが、欧州を除く日米では現在は固定為替相場を放棄しています。しかし、欧州のユーロ圏では独立した金融政策を放棄して固定為替相場、というか、通貨連合を運営しているわけで、そのリンクのもっとも弱い環であるギリシアが切れた、と著者も私も考えています。ギリシアに続くのはPIGSと総称されたアイルランドやスペイン・イタリアなどですが、なぜか、ギリシアに過重な負担を生ぜしめたのはEU官僚とドイツ政府高官が、いわば、後続の破綻可能性ある国への見せしめとする意図を持っていたというのは、私は否定しようもないと受け止めています。本書で著者は、欧州統合や通貨連合に反対しているのではなく、そういった経済政策が国民それぞれの民主主義に従って運営されることを主張しているわけです。その点は間違えないようにしないといけません。ケインズの「平和の経済的帰結」が何度か言及されていますが、ギリシアのツィプラス政権がトロイカの軍門に下った後、ギリシアのナチ政党である「黄金の夜明け」が議席を伸ばしたとまで書いています。正しく国民生活に資する経済政策が実行されない限り、民主主義が何らかの危険にさらされる可能性があることは、国民ひとりひとりが十分に自覚すべきです。

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次に、野村総合研究所・松下東子・林裕之・日戸浩之『日本の消費者は何を考えているのか?』(東洋経済) です。著者は野村総研のコンサルであり、3年おきに野村総研が実施している「生活者1万人アンケート」からわかる日本人の価値観、人間関係、就労スタイルなどを基に、世代別の消費行動などをひも解こうと試みています。今回の基礎となる調査は2018年に全国15歳以上80歳未満を対象に実施されており、2018年11月8日付けでニュースリリースが明らかにされています。本書では、世代的には、かの有名な独特のパターンを形成している団塊世代(1946~50年生まれ)から始まって、私なんぞが含まれるポスト団塊世代(1951~59年生まれ)、大学を卒業したころにバブルを経験するバブル世代(1960~70年生まれ)、団塊世代の子供達から成る団塊ジュニア世代(1971~75年生まれ)、さらにその後に生まれたポスト団塊ジュニア世代(1976~82年生まれ)、バブルを知らないさとり世代(1983~94年生まれ)、我が家の子供達が属するデジタルネイティブ世代(1995~2003年生まれ)に分割しています。第1章では、スマートフォンの普及などにより家族が「個」化していき、家族団欒が消失して消費が文字通りの「個人消費」となって行きつつある我が国の消費や文化を見据えて、第2章では世代別に価値観などを分析し、団塊世代や私のようなポスト団塊世代では日本に伝統的・支配的だった価値観が変容しつつあり、また、我が家の子供たちのデジタルネイティブ世代では競争よりも協調を重視し、全国展開しているブランドへの信頼感高い、などとの結論が示されており、さすがに、私の実感とも一致していたりします。また、最後の第3章では「二極化」と総称していますが、要するに、一見して相反する消費の現状を4つの局面から把握しようと試みています。すなわち、利便性消費 vs. プレミアム消費、デジタル情報志向 vs. 従来型マス情報志向、ネット通販 vs. リアル店舗、つながり志向 vs. ひとり志向、となっています。それぞれに興味深いところなんですが、3番目と4番めについては、時系列的に、ネット通販⇒リアル店舗、また、つながり志向⇒ひとり志向、という流れで私は理解しており、特に、ネット通販で大手筆頭を占めるアマゾンがリアルの店舗を、しかも、レジなどのない先進的なリアル店舗を始めたというニュースは多くの人が接しているんではないでしょうか。また、つながり志向にくたびれ果てて、結局ひとりに回帰するというのも判る気がします。ボリューム的にも200ページ余りで図表もあって、2~3時間で読み切れるもので、内容的にも「ある、ある」的なものであるのは確かなんですが、世間一般で言い古されたことばかりが目立ち、特に、何か新しい発見があるのかとなれば、とても疑問です。学問的には世間一般の実感をデータで裏付けるのは、それなりに意味あるんですが、本書については、消費の最前線でマーケティングなどに携わっているビジネスパーソンには、誠に残念ながら、目新しさはほとんどなさそうな気もします。

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次に、三浦しをん『のっけから失礼します』(集英社) です。著者は押しも押されもせぬ中堅の直木賞作家の三浦しをんであり、雑誌「BAILA」での連載に、それぞれの章末と最後の巻末の書き下ろし5本を加えた「構想5年!」(著者談)の超大作(?)エッセイ集に仕上がっています。ということで、相変わらず、著者ご本人も「アホエッセイ」と呼ぶおバカな内容で抱腹絶倒の1冊なんですが、自分自身の興味に引き付けて野球のトピックを、また、著者の追っかけの趣向に呼応して芸能ネタを取り上げたいと思います。まず、多数に上るエッセイの中で野球をテーマにしているのはそう多くありませんが、笑ったのは、著者の体脂肪率が首位打者並み、というので、軽く3割をクリアしているんだろうと想像できます。私自身は2割もないので、守備のいい内野手、ショートやセカンドあたりか、キャッチャーでもなければレギュラーが取れそうもありません。それにしても、阪神の鳥谷選手がどうなるのか、とても気になります。アラフォーの女性編集者が、楽天ファンでありながら、横浜に入団するプロ野球選手になる自分を完璧にシミュレーションしているというのは、驚きを越えていました。私は長らく阪神ファンですが、こういった自分のパーソナル・ヒストリーを改ざんすることはしたことがありません。もうひとつは、追っかけ関係で、BUCK-TICKのコンサートに強い情熱をもっていたのは、以前のエッセイなどから明らかだったんですが、私が読み逃していたのが原因ながら、宝塚への傾倒も並大抵のものではないと知りました。知り合いから『本屋さんで待ちあわせ』でも宝塚や明日海りおの話題があったハズ、と聞き及びました。すっかり忘れていました。それはともかく、明日海りお主演の「ポーの一族」観劇を取り上げたエッセイはもっとも印象的だったうちの1本といえます。ほかにも、EXILEファミリーへの熱い思いなどもありましたが、ソチラは私にも理解できる気がするんですが、三浦しをんだけでなく、一部の女性の宝塚への情熱は私には到底計り知れない域に達している気がします。まあ、逆に、それほどではないとしても、一部男性がひいきにするプロ野球チームへの思い入れが女性に理解できない場合があるのと同じかもしれません。同じ年ごろの女性ライター、というか、早稲田大学出身の三浦しをんに対して、立教大学出身の酒井順子のエッセイは、よく下調べが行き届いたリポートみたいなんですが、まったく違うテイストながら、私はどちらのエッセイも大好きです。

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次に、瀬尾まいこ『そして、バトンは渡された』(文藝春秋) です。今年2019年本屋大賞受賞作です。先週取り上げた『ベルリンは晴れているか』が3位で、2位以下が200点台の得点に終わった中で、この作品だけは400点を越えてダントツでした。それだけに、図書館の予約の順番もなかなか回って来ませんでした。主人公は女子高校生で、この作品の中で幼稚園前からの人生を振り返りつつ、短大を卒業して20代半ばで結婚するまでのパーソナル・ヒストリーが語られます。その人生は、穏やかなものながら起伏に富んでおり、水戸優子として生まれ、その後、田中優子となり、泉ヶ原優子を経て、現在は森宮優子を名乗っています。でも、「父親が3人、母親が2人いる。 家族の形態は、17年間で7回も変わった。 でも、全然不幸ではないのだ。」とうそぶき、家族関係をそれとなく心配する高校の担任教師に対して、ご本人はひょうひょうと軽やかに、愛ある継親とともに、そして、友人に囲まれながら人生を過ごします。まあ、現実にはありそうもないストーリですので、小説になるんだろうと私は考えています。ということで、本書の隠し味になっているピアノについて、この感想文で語りたいと思います。主人公の母親が死んだあと、実の父親が再婚しながら海外勤務のために離婚し継母との日本での生活を選択した主人公なんですが、この2人目の母親がキーポイントとなり、何と、主人公にピアノを習わせるためにお金持ちの不動産会社社長と再婚し、さらに離婚の後、東大での一流会社勤務のエリートが親として最適と判断して再婚して主人公の人生を託します。主人公も期待に応えてピアノを習い、そのピアノが縁となって結婚相手と結ばれ、その結婚式でこの作品を締めくくります。まあ、ここまで出来た継母に恵まれることは極めて稀なわけで、その継母がピアノに愛着を持って調律すら自分でするようなお金持ちと再婚し、最後に、継子を託すに足るエリートと再婚するなんて、あり得ないんですが、この最後の継父が主人公の結婚相手をなかなか認めてくれないというのも、とてもひねったラストだという気がします。もちろん、とてもひねりにひねったストーリー、というか、プロットをを構成し、それをサラリと記述する表現力は認めるものの、ここまで不自然なプロットが進行していく必然性が大きく欠けている気がします。時系列的にそうなった、という流れのバックグラウンドにあるきっかけでもいいですし、何かの必然性、特に、継母の考えや心理状態なんかはもっと深く掘り下げられていいんではないかと思います。私の独特の考えなのかもしれないものの、我々通常の一般ピープルの普通の生活に比べたノーマルよりも、良からぬ方向やアブノーマルなものについては、殺人事件が起こるミステリが典型ですが、それほど詳細な叙述を必要としない一方で、ノーマルよりもさらにきれいで美しく、とても良い方向が示される場合は、なぜ7日を詳細に裏付ける必要があります。残念ながら、作者にはそのプロット構成力ないのか、それとも、私に読解力ないのか、その流れを読み取れませんでした。ですから、私は感情移入することが難しく、「アっ、そう。そうなんだね。」としか感じられず、別のストーリーもあり得るという意味で、実に、小説の舞台を離れた客席から観客としてしか小説を読めませんでした。ハラハラ、ドキドキ感がまったくないわけです。でも、そういった読み方がいいという向きも少なくないんだろうという気もします。小説の好きずきかもしれません。

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次に、日本文藝家協会[編]『ベスト・エッセイ 2019』(光村図書出版) です。収録作品は、50音順に、彬子女王「俵のネズミ」、朝井まかて「何を喜び,何を悲しんでいるのか」、浅田次郎「わが勲の無きがごと」、東浩紀「ソクラテスとポピュリズム」、足立倫行「大海原のオアシス」、荒井裕樹「『わかりやすさ』への苛立ち」、五木寛之「『先生』から『センセー』まで」、伊藤亜紗「トカゲとキツツキ」、井上章一「国境をこえなかった招福の狸」、宇多喜代子「金子兜太さんを悼む」、内田樹「歳月について」、内田洋子「本に連れられて」、王谷晶「ここがどん底」、岡本啓「モーニング」、長田暁二「ホームソング優しく新しく」、小山内恵美子「湯たんぽ,ふたつ」、落合恵子「伸びたTシャツ」、小野正嗣「書店という文芸共和国」、角田光代「律儀な桜」、華雪「民―字と眼差し」、桂歌蔵「師匠,最期の一言『ハゲだっつうの,あいつ』」、角野栄子「アンデルセンさん」、金澤誠「高畑勲監督を悼む」、岸政彦「猫は人生」、岸本佐知子「お婆さんのパン」、北大路公子「裏の街」、くぼたのぞみ「電車のなかの七面相」、黒井千次「七時までに」、「共働きだった両親の料理」鴻上尚史、小暮夕紀子「K子さんには言えない夏の庭」、齋藤孝「孤独を楽しみ孤立を避ける50歳からの社交術」、酒井順子「郵便」、さだまさし「飛梅・詩島・伊能忠敬」、佐藤究「ニューヨークのボートの下」、佐藤賢一「上野の守り神」、沢木耕太郎「ゴールはどこ?」、ジェーン・スー「呪文の使いどき」、砂連尾理「ノムラの鍵ハモ」、朱川湊人「サバイバル正月」、周防柳「山椒魚の味」、杉江松恋「『好き』が世界との勝負だった頃」、瀬戸内寂聴「創造と老年」、高木正勝「音楽が生まれる」、高橋源一郎「寝る前に読む本,目覚めるために読む本」、高山羽根子「ウインター・ハズ・カム」、滝沢秀一「憧れのSという街」、千早茜「夏の夜の講談」、ドリアン助川「私たちの心包んだ人の世の華」、鳥居「過去は変えられる」、鳥飼玖美子「職業と肩書き」、永田紅「『ごちゃごちゃ』にこそ」、橋本幸士「無限の可能性」、林真理子「西郷どんの親戚」、原摩利彦「フィールドレコーディング」、広瀬浩二郎「手は口ほどに物を言う」、深緑野分「猫の鳴き声」、藤井光「翻訳の楽しみ 満ちる教室」、藤沢周「五月雨」、藤代泉「継ぐということ」、星野概念「静かな分岐点」、細見和之「ジョン・レノンとプルードン」、穂村弘「禁断のラーメン」、マーサ・ナカムラ「校舎内の異界について」、万城目学「さよなら立て看」、町田康「捨てられた魂に花を」、三浦しをん「『夢中』ということ」、村田沙耶香「日本語の外の世界」、群ようこ「方向音痴ばば」、森下典子「無駄なく,シンプルに。『日日是好日』の心」、山極寿一「AI社会 新たな世界観を」、行定勲「人間の奥深さ 演じた凄み」、吉田篤弘「身の程」、吉田憲司「仮面の来訪者」、若竹千佐子「玄冬小説の書き手を目指す」、若松英輔「本当の幸せ」、綿矢りさ「まっさーじ放浪記」となっています。収録順はこれと異なりますので、念のため。ということで、もちろん、作家やエッセイスト、あるいは、研究者などの書くことを主たるビジネス、あるいは、ビジネスのひとつにしている人が多いんですが、皇族方から、俳優さんなどの芸能人を含めて幅広い執筆陣となっています。昨年を中心に、いろんな世相や世の中の動きを把握することが出来そうです。掲載媒体を見ていて感じたんですが、京都出身だからかもしれないものの、全国紙の朝日新聞や日経新聞と張り合って、京都新聞掲載のエッセイの収録がとても多い気がします。毎日新聞や読売新聞よりも京都新聞の方がよっぽど収録数が多い気がします。何か、理由があるのでしょうか?

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最後に、日本文藝家協会[編]『短篇ベストコレクション 2019』(徳間文庫) です。文庫本で大きな活字ながら、700ページに達するボリュームです。私にして読了するには丸1日近くかかります。ということで、収録作品は作者の50音順に配されており、青崎有吾「時計にまつわるいくつかの嘘」、朝井リョウ「どうしても生きてる 七分二十四秒めへ」、朝倉かすみ「たんす、おべんと、クリスマス」、朝倉宏景「代打、あたし。」、小川哲「魔術師」、呉勝浩「素敵な圧迫」、小池真理子「喪中の客」、小島環「ヨイコのリズム」、佐藤究「スマイルヘッズ」、嶋津輝「一等賞」、清水杜氏彦「エリアD」、高橋文樹「pとqには気をつけて」、長岡弘樹「傷跡の行方」、帚木蓬生「胎を堕ろす」、平山夢明「円周率と狂帽子」、藤田宜永「銀輪の秋」、皆川博子「牧神の午後あるいは陥穽と振り子」、米澤穂信「守株」となっています。作者に関しては、大ベテランといえば聞こえはいいものの、要するにお年寄りから若手まで、バラエティに富んでいれば、作品もミステリや大衆的な落ちのある作品から、純文学、ファンタジー、ホラーにSF、さらにドキュメンタリータッチと幅広く収録しています。平成最後の昨年の傑作そろいを収録したアンソロジーに仕上がっています。
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2019年11月08日 (金) 22:50:00

「悪化」の基調判断が続く景気動向指数ながら、経済対策による財政出動に期待!

本日、内閣府から9月の景気動向指数が公表されています。CI先行指数は前月から+0.3ポイント上昇して92.2を、CI一致指数も+2.0ポイント上昇して101.0を、それぞれ記録し、前月に続いて「悪化」に据え置かれています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

9月の景気一致指数、2.0ポイント上昇 基調判断は「悪化」据え置き
内閣府が8日発表した9月の景気動向指数(CI、2015年=100)速報値は、景気の現状を示す一致指数が前月比2.0ポイント上昇の101.0と2カ月ぶりに上昇した。内閣府は一致指数の動きから機械的に求める景気の基調判断を「悪化」で据え置いた。
一致指数を構成する9系列中、速報段階で算出対象となる7系列のうち5系列が指数のプラスに寄与した。自動車や医薬品などに消費増税前の駆け込み需要が膨らみ「商業販売額(小売業)」や「商業販売額(卸売業)」などが伸びた。
数カ月後の景気を示す先行指数は前月比0.3ポイント上昇の92.2となった。景気の現状に数カ月遅れて動く遅行指数は前月比1.8ポイント低下の102.9だった。
CIは指数を構成する経済指標の動きを統合して算出する。月ごとの景気動向の大きさやテンポを表し、景気の現状を暫定的に示す。


いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、下のグラフは景気動向指数です。上のパネルはCI一致指数と先行指数を、下のパネルはDI一致指数をそれぞれプロットしています。影をつけた期間は景気後退期を示しています。

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先行指数、一致指数とも2か月ぶりに前月差でプラスとなっています。一致指数の系列ごとに寄与度をみると、商業販売額(小売業)(前年同月比) +0.83、投資財出荷指数(除輸送機械) +0.75、商業販売額(卸売業)(前年同月比) +0.65、 などとなっており、前月差の+2.0ポイントはかなり大きいように見えるんですが、実は、商業販売統計に現れた消費税率引き上げ直前の駆け込み需要に起因する上振れが大きいと考えるべきです。9月当月の前月差がプラスであるにもかかわらず、基調判断が「悪化」に据え置かれているのは、後方7か月移動平均がマイナスを続けているためであり、来月のCI一致指数がもしも駆け込み需要に対する反動減の影響でマイナスを示せば、3か月連続での「悪化」ということになる可能性もあります。私自身は日経新聞のサイトを見ましたが、今朝の閣議で安倍総理大臣から3年振りの経済対策策定の指示が出されたと報じられています。「財政支出は5兆円規模」という報道もありますが、too little too late と評価されないような対策が必要です。2012年暮れに安倍内閣が発足して以来、当初の2012~13年度を別にすれば、経済運営は日銀の金融政策の比重が高く、財政政策は緊縮気味に運営されてきただけに、私は反緊縮の機運はかなり盛り上がっているように感じています。

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最後に、例の統計不正から長らく取り上げるのを差し控えていた厚生労働省の毎月勤労統計の9月速報が公表されています。統計のヘッドラインとなる名目賃金は季節調整していない原数値の前年同月比で+1.8%増の56万7151円となっています。グラフは上のパネルから順に、景気に敏感な所定外労働時間指数の季節調整済みの系列、真ん中のパネルが季節調整していない原系列の現金給与指数と決まって支給する給与、一番下が季節調整済みの系列の現金給与指数と決まって支給する給与となっています。影をつけた期間はいずれも景気後退期を示しています。下2枚の賃金のグラフで、昨年2018年12月から今年2019年1月にかけて大きな段差が生じているのは、例の統計不正によるものですが、久し振りに書いてみると、どうしようもなく所定外労働時間のグラフがヘンに見えるのは私だけでしょうか。
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2019年11月07日 (木) 19:50:00

三菱UFJリサーチ&コンサルティングのリポートによる消費税率引き上げ前後の個人消費の動向やいかに?

一昨日11月5日に、三菱UFJリサーチ&コンサルティングから「消費税率引き上げ前後の個人消費の動向」と題するリポートが明らかにされており、前回214年の税率引き上げ時よりも駆け込み需要とその後の反動減が小幅にとどまったと報告しています。もちろん、pfdの全文リポートもアップされています。いくつかの論点があるとは思いますが、リポートからいくつかグラフを引用しつつ簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、リポートでは経済産業省の「商業販売統計」のデータを基に、消費税率引き上げ直前の駆け込み需要について分析しており、上のグラフはリポートから 図表2.スーパー販売額の推移 を引用しています。単純に、増税前最終月とそれまでの直近1年間の販売額の平均値との差を駆け込み需要の規模と見なすと、2014年の増税時は1280億円程度だったのに対し、2019年は935億円程度と約27%、345億円程度小さくなっており、同様に、百貨店でも約10%小さくなっています。スーパーでは百貨店よりも、駆け込み需要に一定の割合を占めるトイレットペーパーや洗剤などの日用品の購入が多いと思うんですが、むしろ、軽減材率の適用される食料品の効果が上回り、駆け込み需要の大きさはスーパーの方が百貨店よりも大きく縮小したのではないかと分析されています。また、自動車については9月の売り上げ増が大きかったんですが、増税直前まで駆け込み需要はほとんどみられず、このため、増税直前に需要が集中し、単月での大きな伸びにつながっただけであり、駆け込みの期間が短かった分、トータルで見れば今回の駆け込み需要は前回よりも小さかったと指摘しています。この駆け込み需要の期間が短かったという指摘は、一昨日11月5日に取り上げた日本総研のリポートと同じ結論と私は受け止めています。

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次に、増税後の反動減について見るため、リポートから 図表8. クレジットカード情報に基づく消費動向 (JCB消費NOW) を引用すると上のグラフの通りです。リポートでは、個人の消費支出額は9月上旬に前年比+4.6%、下旬に+11.9%と伸びを高めた後、10月上旬には▲6.7%と減少しているんですが、落ち込み幅は駆け込みの規模と比べても相応の水準であり、駆け込み以上に落ち込んでいる様子は見て取れないと結論しています。

他方、第一生命経済研のリポートのように、自動車と百貨店について分析した結果として、「基調が見極め難く、評価は持ち越し」と評価している例もあります。私が大学出向時などに研究者として統計的計量的な分析をしたのと違って、シンクタンクのリポートは速報性を重視して厳密な数量分析までは手が伸びていないわけで、まあ、速報性と正確性のトレードオフを考えれば、こんなもんか、という気もします。
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2019年11月06日 (水) 19:20:00

リーマン・ショック時以来の2019年7-9月期の倒産増加率をどう見るか?

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上のグラフの引用元である東京商工リサーチによれば、今年2019年7~9月期のの倒産件数は2,182件で、前年同期比+8.1%増に上り、+13.4%増を記録したリーマン・ショック直後の2009年1~3月期以来の高い倒産増加率だったようです。
こういった倒産件数の増加の兆しは、東京商工リサーチが指摘している通り、すでに日銀「金融システムレポート」でも信用コストの増加として取り上げられており、その背景として、「金融システムレポート」(2019年10月)概要の p.22 から2点引用すると、①金融機関との取引履歴が比較的長い、一部の業況不芳先における経営再建の遅れ、②近年、金融機関が貸出増加に取り組んできたもとでの一部審査・管理の引き緩み、を上げています。
なお、現在では、景気動向指数に採用されていませんが、倒産件数は逆サイクルで景気先行指標と考えられています。その昔の1960年代には、当時の経済企画庁の景気動向指数のうちの先行指数に採用されていましたし、私の知る限りでやや記憶は不確かなんですが、兵庫県統計課が作成・提供している兵庫県域の景気動向指数の先行系列にも逆サイクルで倒産件数が採用されているんではないかと思います。ですから、もしも、あくまで、もしも、ですが、倒産がジワジワと増加を示しているのであれば、あるいは、あくまで、あるいは、なんですが、景気後退局面がジワジワと近づいているのかもしれません。

まったくどうでもいいことながら、日銀「金融システムレポート」を少しばかり読んでいて、長らくエコノミストの仕事をして来ていながら、定年退職したとはいえ、また、金融分野はそれほど詳しくないとはいえ、「業況不芳先」とか、「引き緩み」という用語は不勉強にして初めて見ました。もちろん、「引き締め」というのは使ったこともあるんですが、その逆が「引き緩み」とは知りませんでした。この先、エコノミスト的な職に復帰する際には、もっと本格的な勉強が必要かもしれません。
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2019年11月05日 (火) 21:20:00

日本総研リポート「消費増税前の耐久財消費の動向」で分析された駆け込み需要やいかに?

先週金曜日11月1日に日本総研から「消費増税前の耐久財消費の動向」と題するリポートが明らかにされており、今回10月1日からの消費税率引き上げに伴う駆け込み需要は前回2014年4月増税時の半分との試算結果を示しています。

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上のグラフは、pdfのリポートから 耐久財の駆け込み消費額(試算値) を引用しています。前回の耐久消費財の駆け込み需要が1兆1900億円あったのに対して、今回は6200億円と、ほぼ半分にとどまったと推計しています。前回増税時と比べ、家電は6割程度、自動車は4割弱と、国内家計最終消費支出の0.2%程度と小さく、当然、この先の反動減による落ち込みも軽微にとどまるとリポートでは指摘しています。加えて、リポートでは、主要耐久財の買い替えサイクルの観点からも、消費低迷の長期化は避けられるとの判断を示しています。すなわち、自動車では2012年のエコカー補助金や前回増税前の駆け込み購入分が近く平均使用期間を超えるほか、白物家電やテレビなどの家電製品でも、10年前の家電エコポイント制度による購入分が買い替え時期を迎えつつあり、これらの買い替え需要が今後数年間かけて発生することから、消費下支えがなされる見込みとの分析です。

私は各種統計から、9月単月の駆け込み需要はかなりの大きさに上った気がして、少しびっくりしたんですが、この日本総研のリポートによれば、確かに9月の駆け込み需要はそれなりの規模があった一方で、今回は駆け込み需要が短期間で終わったと指摘しています。そうなのかもしれません。
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2019年11月04日 (月) 19:50:00

近畿地方で木枯らし1号が吹き冬近し!!!

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ニュースなどでもチラリと取り上げていましたが、今日の昼過ぎに近畿地方で木枯らし1号が吹いたと、大阪管区気象台が発表しました。昨年より18日早いそうです。なお、上の画像は、ウェザーニュースのサイトから引用しています。木枯らし1号は、晩秋から初冬にかけて、その年初めて吹く強い北風のことで、東京地方と近畿地方の限定ながら、気象庁や気象台から公表されます。ただ、東京と近畿では定義が若干違っており、同じサイトから引用すると以下の通りです。

東京地方
 
時期
10月半ば~11月30日
気圧配置
西高東低の冬型
風向
北から西北西の間
風速
最大風速が8m/s以上
近畿地方
 
時期
二十四節気の霜降~冬至
気圧配置
西高東低の冬型
風向
北北東から西北西の間
風速
最大風速が8m/s以上


我が生まれ故郷であり、父祖の地である関西では、そろそろを迎えるのかもしれません。
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2019年11月03日 (日) 14:30:00

先週の読書は経済書から文庫本の小説まで大量に読んで計8冊!!!

先週は、昨日に米国雇用統計が割り込んで、読書日が1日多かったことに加えて、割とボリューム的に軽めの本が多く、結局、8冊の読書になりました。先々週や先週からの反動増という側面もあります。逆に、今週の読書は3連休でありながら、かなり水準の高い経済学の教科書『MMT現代貨幣理論』を借りたこともあって、冊数的には少しペースダウンするかもしれません。

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まず、嶋中雄二ほか[編著]『2050年の経済覇権』(日本経済新聞出版社) です。著者は、三和総研からUFJ総研、さらに、現在は三菱UFJモルガンスタンレー証券の景気循環研究所の所長であり、私の所属学会のひとつである景気循環学会の副会長でもあります。本書においても、景気循環研究所のメンバーが分担執筆しているようです。ということで、副題の「コンドラチェフ・サイクルで読み解く大国の興亡」に見られるように、バンドパス・フィルターを駆使してunivariate に設備投資のGDP比などから長期波動であるコンドラチェフ・サイクルを抽出し、2050年くらいまでの経済的な循環をひも解いています。最初の第1章と第2章でコンドラチェフ・サイクルの解説などがあり、その後、実際に、第3章では軍事と科学技術から、第4章では人口動態から、第5章では国際収支から、第6章では相対価格から、第7書の大トリでは各種指標のGDPから、それぞれ、おおむね、産業革命以後2050年くらいまでの長期波動の抽出が試みられています。もちろん、過去の同様の研究成果であるロストウの結論を再検討しているように、本書の結論も新たなデータが付加されるに従って、それなりの修正が施される可能性は大いにありますが、超長期の経済サイクル、というか、経済だけでなく、その昔の総合国力的なサイクルの抽出が示されているのは、極めて興味深いと私は受け止めています。私が知る限りで、2050年までを見通した経済予測は、本書でも取り上げられている通り、アジア開発銀行(ADB)の Asia 2050: Realizing the Asian Century と経済協力開発機構(OECD)の Looking to 2060: Long-term global growth prospects があり、特に後者はこのブログの2012年11月13日付けで取り上げていたりします。もちろん、ほかにも投資銀行などの金融機関やシンクタンク、あるいは、個人の研究者などが長期見通しを明らかにしています。そういった中で、本書の特徴は、生産関数などに特段の前提を置かずに、バンドパス・フィルターを用いて univariate にそれぞれの指標を引き延ばしている点であり、逆に、それが弱点と見なす向きもあるかもしれませんが、超長期見通しに取り組むんですから、これくらいのモデルの特定化は私は受け入れるべきだと考えています。ですから、抽出されたサイクルに、表現は悪いかもしれませんが、後付けで理由が添えられていたりします。2050年の世界経済、あるいは、経済覇権なんて、蓋然性に対する評価は私のは出来ようはずもなく、今年3月に60歳の定年退職を迎え、すでに61歳の誕生日も過ぎている身としては、2050年には90歳を超えるわけですから、我と我が身で2050年の世界経済を見届けることはムリそうな気もします。それでも、こういった大胆な超長期見通しの有用性や有益性は、決して、小さいわけではないと考えています。

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次に、大海渡桂子『日本の東南アジア援助政策』(慶應義塾大学出版会) です。著者は、世銀やその昔の海外経済協力基金(OECF、今は経済協力機構=JICAに統合)などで開発金融の実務の経験ある方のようで、すでにリタイアしているのではないかと思います。私はジャカルタにてJICA長期専門家として経済モデル分析の技術協力に携わって来ましたし、それなりの実務経験もありますので、専門分野にも近く興味を持って読みました。ただ、出版社から想像されるような専門書や、ましてや学術書ではありません。残念ながら、その域には達していないといわざるを得ません。ただ、日本の経済協力の歴史を概観するものとして、大学生くらいを対象にする読み物としてはいいんではないか、という気もします。ということで、日本の海外経済協力=ODAの4つの特徴、すなわち、アジア、インフラ、タイド、円借款が、歴史的にいかにして形成されて来たかについてひも解いています。米軍占領下で外交主権を持たず、また、その後のサンフランスシコ平和条約締結後も東西対立の冷戦という世界情勢の下、対米従属下で援助をはじめとする外交政策の策定や遂行を行ってきた我が国としては、ほかに選択の余地もなかった、ということなのかもしれません。特に、「国際収支の天井」と称されたブレトン・ウッズ体制下の外貨制約の下で、希少なドルを外国に支払うことを回避して資本財や役務での賠償支払いに持って行った外交努力は特筆すべきものがあります。その流れでタイドの円借款になったのは経路依存的なODAでは、ある意味で、必然だったかもしれません。地域的な特色として、米国やカナダの北米が中南米に、欧州がアフリカに、そして、我が国がアジアに援助の対象を広げるというのも、とても自然であることはいうまでもありません。大陸にける中華人民共和国という共産主義国家の建国と朝鮮戦争における参戦を経て、中国という資源供給元かつ製品輸出先を失い、東南アジアにその代替的な役割を求めたのも自然な流れといえます。ただ、日本の援助政策はあまりにも経済に偏っており、米国的な人権外交のような民主主義的改革の徹底という面を欠き、東南アジア各国が開発独裁に陥った責任は本書では分析することを回避しており、少しその面で物足りない気がします。また、著者の上げる日本の援助政策の4つの特徴は、我が国経済政策の基となる家族観である長期雇用下での年功賃金を受け取る男親方働き+専業主婦+子供2人、という、いわゆる「モデル家計」のように、今では、決して、アジア、インフラ、タイド、円借款の4点セットを反映する代表的な援助は多くはない一方で、日本の援助政策を考える上では基本となると私は考えており、少数派になったからといって軽視すべきではないと考えます。

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次に、室脇慶彦『IT負債』(日経BP社) です。著者は、野村総研のコンサルタントであり、本書でも明らかにしているように、従来は基幹系システムについてモノリスなウォーターフォール型のシステム開発を推奨していたようなんですが、本書では、2025年のレガシー・システム問題に米国流のマイクロサービスによる基幹系システム再構築で対応すべき、との議論を展開しています。これですべてを理解した人は、おそらく、本書を読む必要すらないような気がしますが、一応、本書の概要と私の感想を記しておきたいと思います。ということで、IT分野では何によらず我が国産業界の遅れが目立つんですが、本書は、DX=デジタルトランスフォーメーション、すなわち、企業がIT技術を駆使して、企業活動のスコープや業績を画期的に改善ないし変化させる、というDXについての概要解説書であり、特に日本企業の遅れを鋭く指摘しています。私には技術的な解説や方向性については、おそらく半分も理解できなかった気がしますが、その昔のように、給与計算とか一定のデータベース管理にとどまるのではなく、企業経営に通信とデータ解析を大いに盛り込むことは必要であることはいうまでもありません。直感的な感覚で勝負していたスポーツ分野、例えば、野球でもサイバー・メトリクスが活用されたマネー・ボールになりつつありますし、米国で盛んなバスケットボールやアメリカン・フットボールなどはデータも豊富に提供されています。ただ、我が国企業経営の場合、とかくハードウェアに目が行きがちで、その昔は立派なメインフレーム・コンピュータを購入して据え付ければOK,というカンジで、いまでも、従業員の席上にPCを1人1台並べればOK、という気もします。従業員は、例えば、ネット・ショッピングに興じていたりしても外観上は判りはしません。ですから、むしろ、データやソフトウェアの活用が重要となるんですが、外観上の明確な変化がない上に、日本的に年齢のいった経営者に理解されにくいのも事実です。本書では、ウォーターフォール型でモノリス的な一枚岩の技術利用から、クラウド型のマイクロサービスへの切り替えを提唱していますが、国家の発展段階と同じで、企業の発展段階においてもリープ・フロッグ型の成長が成り立つような気がします。すなわち、本書のタイトルである「IT負債」はそれなりの歴史ある企業に蓄積されていて、スタートアップ企業には夫妻がない分、いきなりマイクロサービスを導入することが出来そうな気もします。ですから、システム利用技術の面だけでなく、企業文化の若返りの面からも技術利用が進む必要あるんではないか、と詳しくない私なんぞは思ってしまいます。ハッキリいって、本書を読んで目覚めた技術者は、本書を読まなくても理解が進んでいるんでしょうから、アタマの堅い上司の説得に本書は利用されるんではないか、という気もします。

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次に、パブロ・セルヴィーニュ & ラファエル・スティーヴンス『崩壊学』(草思社) です。著者2人はフランス人ということで、崩壊学や移行過程に関する専門家、また、環境分野に詳しい印象ですが、私にはよく判りません。フランス語の原題は Comment tout peut s'effondrer であり、2015年の出版です。ということで、基本はエネルギー問題におけるローマ・クラブ的なメドウズらによる『成長の限界』のラインに乗りつつ、それをさらに進めて、現在の経済はもはやサステイナブルな軌道を外れており、後は崩壊が待ち受けるのみ、という極めて悲観的な結論を提示しています。本書は3部構成となっており、第1部では崩壊のきざしを論じており、ロック・イン現象が働いて軌道修正が困難となった現状を詳細に展開しています。異常気象はいうまでもなく、ピークオイルからエネルギーの枯渇というローマ・クラブの伝統に根ざす議論、まだまだ現役のマルサス的な人口問題、生物多様性の喪失、さらに、経済分野では金融危機の多発まで、これでもかというくらいの崩壊への兆しが列挙され、私のような楽観バイアスの塊の人間ですら不安を覚えます。ただ、第2部に入って、その崩壊がいつぬかるのか、というトピックに移ると、未来学の難しさなるテーマが冒頭に来て、議論が極めてあいまいになり、一気に崩壊に向かう歴史的確実性に対する信頼性が落ちてしまいます。第3部では本書の基礎をなしている「崩壊学」が取り上げられています。私が読んだ限りですし、私が読み切れなかった部分もあるかもしれないんですが、本書の結論は、繰り返しになりますが、もはやサステイナブルな軌道に戻るすべはなく、ハッキリとは書かれていないものの、「何をしてもムダ」であり、人類文明の崩壊を避けることはできない、ということのような気がします。ただ、それはいつのことなのかは判らない、ということです。ですから、この核戦争バージョンが『渚にて』なわけで、いろいろな人生模様が盛り込まれていましたが、まあ、人生最後の日が近づく中で、もう助からないとすれば自分の好きなことをしたり、最悪、自暴自棄になる人もいれば、逆に、今までと同じ人生の日々を送ろうとする人もいるわけで、やっかいなのは、これも繰り返しになりますが、その人生最後の日がいつになるかが判らない点です。地球最後の日が数年以内であればともかく、数百年後で人類の寿命というタイムスパンで考えれば、まだまだ先、ということであれば、大きな差があります。私はそれなりにまじめに読んだつもりですが、地球は崩壊する、必ず崩壊するが、それがいつになるかは判らない、といわれれば、それは地球は崩壊しない、といわれているのと同じと受け止める人は少なくないような気がします。

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次に、ヤシャ・モンク『民主主義を救え!』(岩波書店) です。著者は、ポーランド人の両親を持ちドイツで生まれ育ち,英国で学位を取得し、現在は米国ジョンズ・ホプキンス大学の研究者です。現在の先進国の政治経済状況について、リベラルと非リベラル、そして、民主主義と非民主主義のそれぞれの二分法の観点から分析し、米国と欧州各国におけるポピュリズムの台頭などのポスト・トゥルースの現状について議論を展開しています。著者は、基本的に、私と同じでリベラルかつ民主主義的な方向を支持しているわけですが、欧州各国やトランプ大統領当選後の米国ではそうなっていないわけで、政治状況とともに経済についても分析を加えようと試みています。ただし、後者の経済分析についてはかなりお粗末といわざるを得ません。3部構成を取っており、第1部ではリベラル・デモクラシーの危機を論じ、第2部でその危機の起源を探り、最後の第3部で対処方針を考察します。第1部の危機に関する現状認識は私もかなりの程度に共有します。ただ、第2部のその起源に関しては、確かに、インターネット上にて無料で提供されるソーシャルメディアなども重要で、いわゆるエコーチェンバーやフィルターバブルを否定するものではありませんが、もっと大きなコンテクストで世界的な冷戦終了に伴い、資本のサイドで何はばかることなく露骨な利益追求がまかり通るようになった点は忘れるべきではありません。ソ連や東欧については、マルクス主義本来の社会主義ではなく、私も少し馬鹿げた社会実験だと思わないでもなかったんですが、今にして考えれば、それなりに資本のサイドへのプレッシャーになっていた可能性は否定すべくもありません。従って、なりふり構わない資本から労働サイドへの露骨な利潤追求のために賃金は上がらず、失業はヤル気や能力の欠如による「自己責任」とされ、生活水準は上がらず経済が停滞する結果をもたらしました。その経済の停滞を移民などの対外要因に責任転嫁し、ナショナリスティックな排外主義に転じたプロパガンダに絡め取られたわけです。本書ではまったむ取り上げられていませんが、自由貿易協定に反対して雇用を守ろうとする労働組合が米国大統領選でトランプ支持に回ったのが典型だと私は考えています。従って、解決策を探る第3部で冒頭に課税が上げられているのは、私も極めて同感なんですが、現実性を問われることになりかねません。そして、著者の説では、生産性を高めて、カギカッコ付きの「現代的」な福祉国家の方向を模索するのは、ほぼほぼ資本のサイドの攻勢に流され切った対処方針といわざるを得ません。せめて、右派と左派で合意可能なユニバーサルなベーシックインカムくらいの知恵がひねり出せないものかと、少し情けなく思えるくらいです。緊縮財政に戻ることなく国民サイドの見方に立った財政政策の実現など、現状でも取りえる政策の選択肢にはまだまだ広がりあるにもかかわらず、やや視野狭窄に陥っているのではないか、とすら思えてしまいます。

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次に、深緑野分『ベルリンは晴れているか』(筑摩書房) です。私はこの作者については前作の『戦場のコックたち』しか読んでいませんが、両作品とも直木賞候補に上げられており、それなりの水準の小説だということは十分理解しているつもりです。『戦場のコックたち』はドイツ占領下のフランスに侵攻した連合国部隊の特技兵、すなわち、タイトル通りのコックを主人公とし、本書でも第2次大戦直後のベルリンの米軍レストランで働くドイツ人少女を主人公に据えています。この少女の一家はナチではなかったため戦争中は恵まれない生活を送っていたんですが、戦後に価値観が一気に反転した上に英語ができる少女は勤め先があり、米軍からの物資も入手可能となっています。そして、恵まれなかった戦争中に恩になった音楽家が米国製の歯磨きチューブに入った青酸カリで毒殺されるという不可解な殺人事件が発生し、ソ連情報部の将校から命じられ、被害者の甥を探して思わぬ仲間とともにベルリン均衡を旅します。時はまさにポツダムで連合国のビッグスリーが会談を持ち、日本に対する降伏勧告のポツダム宣言を議論しようとしており、地理的にはまさにそのあたりです。米英仏ソの4か国が共同統治しながらも、すでに冷戦が始まっているベルリンにおいて、ゲットーから帰還したユダヤ人も入り混じって、もちろん、圧倒的な連合国の権力と物資不足と闘いながら、少女は最後に殺人事件の被害者である音楽家の甥にたどり着きます。もっとも、距離的にもベルリン均衡出隅、かつ、時間的にもわずかに2~3日のストーリーですが、本編とは別建ての「幕間」によって、主人公の幼いころにさかのぼった事実関係が解き明かされ、最後に、驚愕の殺人事件の真相が明らかにされます。繰り返しになりますが、私はこの作者の作品は『戦場のコックたち』と本書しか読んでいませんが、人物造形、というか、キャラの設定が非常に素晴らしく、また、終戦直後という異常な社会的背景、例えば、善と悪、真実と虚偽、の単純な二分法では計り知れないグレーな部分の描き方も、こういった実体験ない世代の私なんぞにも実に理解しやすくなっています。フィクションの小説であることはもちろんですが、戦時下で、とても非合理的な体験が、日本だけでなく、ドイツという敗戦国にもあったのだと実感できます。ミステリとしての謎解きは、前作の『戦場のコックたち』に及ばない気がしますが、作品としての広がりは本作の方が上かもしれません。まあ、連作短編と長編の違いも感じられます。本書は今年の本屋大賞で3位に入りましたが、1位の大賞に輝いた『そして、バトンは渡された』はすでに借りてありますので、これはこれで楽しみです。

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次に、門井慶喜『定価のない本』(東京創元社) です。著者は50歳を前に脂の乗り切ったエンタメ作家の境地に入った、と私は考えています。もっとも、私自身は不勉強にして。この作者の作品は、直木賞受賞作の『銀河鉄道の父』すら未読で、『家康、江戸を建てる』しか読んでいませんので、この作品が2作目だったりします。ということで、舞台は東京の古書街である神田神保町、時代は終戦からちょうど1年目の1946年8月15日の殺人事件から始まります。というか、主人公の弟分のような古書店主が古書の山に押し潰されて圧死し、さらに、その妻が首吊り自殺をしたように見せかけて殺されてしまいます。基本は、これらの殺人事件をGHQの指令下で主人公が解決に当たる、ということになります。死んだ2人の夫婦の謎解きについては、まあ、何といいましょうかで、本格ミステリとはほど遠いんですが、逆に、GHQとの関係、特に、「ダスト・クリーナー作戦」という「大きな物語」には、思わず、天を仰ぎました。できの悪いネトウヨの世迷い言のようなお粗末な大作戦です。確かに、ホームズのシリーズでも「ブルースパーティントン設計書」のような天下国家の大きな物語もありますし、ミステリに、というか、できの悪いミステリに天下国家を持ち込むこと自体については、決して悪いとはいいませんが、それにしても出来が悪いです。結末についても、極めてお粗末にGHQが完敗するというナショナリスティックな傾向を示しています。タイトルの「定価のない本」とは、定価が帯や表紙などに示された新刊本ならざる古本のことなんですが、その中でも、古典の典籍に歴史を見るというのもやや視野狭窄な気がします。古本ですから、徳富蘇峰や太宰治をチョイ役で登場させるのも悪くはないんですが、古書店主のキャラ設定が少しあいまいで、見分けがつきにくいというのがありますし、まあ、何につけ出来の悪い小説を選んでしまったと悔やんでいます。この作者の作品は数も多いだけに、もっとしっかりした下調べ、というか、世間の評価をちゃんと確認した上でチョイスしないといけない、すなわち、やや出来の良し悪しがハッキリするおそれがあると考えざるを得ません。本書の前に取り上げた『ベルリンは晴れているか』は、若いころに住んでいた経験があるのでそれなりに馴染みあるながら、今の住まいからはかなり遠い図書館まで自転車を飛ばして借りに行ったんですが、その甲斐はありました。でも、本書は駅前にあるすぐ近くの図書館で借りたものの、やや読み応えに欠けるものでした。とっても残念です。

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最後に、ロバート・ポビ『マンハッタンの狙撃手』(ハヤカワ文庫NV) です。著者は、それなりの年齢に見えますが、本書は初の邦訳小説であり、テイストとしてはジェフリー・ディーヴァーのようなミステリ、すなわち、本格的な謎解きというよりも、サスペンスフルでアクションたっぷりのいかにも米国的な暴力満点の事件を特殊技能持つ主人公が解決する、という小説です。英語の原題は City of Windows であり、今年2019年の出版です。ということで、米国ニューヨークはマンハッタンで、まあ、日本人しか判らないかもしれませんが、ゴルゴ13並みの凄腕の狙撃犯が大口径ライフルで連続殺人事件を起こし、主人公である元FBI捜査官のコロンビア大学教授ルーカスが事件解決に当たる、というストーリーで、この主人公のルーカスが信じられないような空間把握能力を持っており、例えば、走るトラムに乗車中の人物が狙撃された最初の事件で、狙撃地点を正確に特定したりします。ちょっと、東野圭吾の『ラプラスの魔女』を思わせる特殊能力だったりします。繰り返しになりますが、舞台はニューヨークのマンハッタンであり、クリスマス直前の12月中下旬に時間が発生します。私は同じ時期のワシントンDCを訪れた経験がありますが、12月の米国東海岸の寒さは東京の比ではありません。もちろん、雪が積もることもありますし、そうなると路面は凍結します。私は米国連邦準備制度理事会(FED)のリサーチアシスタントをしていたころ、ワシントン市内からジョージタウン北方のダンバートン・オークス公園や米国副大統領公邸のある米国海軍観測所の近くから通っていたんですが、北に向かって緩やかな上り坂になっているウィスコンシン・アベニューを、凍結した路面をまったく制御できなくなった大型のアメ車がスピンしながら滑り落ちていくのを何度か目撃しました。その極寒の気象条件でサイ撃ちのような大型ライフルを使い、1キロを超える距離でフットボールくらいの大きさの人間の頭部に正確にヒットさせるんですから、これはフィクションでしかあり得ません。しかも、そこにFBIの捜査活動で隻眼隻腕隻足となったコロンビア大学の宇宙物理学教授が、これまた、信じられないような空間把握能力をもって狙撃地点を特定し、事件解決に乗り出すんですから、荒唐無稽であり得ないフィクションそのものとはいえ、エンタメ小説らしく手に汗握るハラハラドキドキで楽しめる運びになっています。映画化されたりするのかもしれませんが、私は実はジェフリー・ディーヴァー原作の映画は見たことがなく、まあ、映画化されたリンカーン・ライムのシリーズは「ボーン・コレクター」くらいしか知らないので、おそらく、この作品を原作とする映画も見ないような気がします。
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2019年11月02日 (土) 08:20:00

米国雇用統計や金融政策動向に見るGMストの影響やいかに?

日本時間の昨夜、米国労働省から10月の米国雇用統計が公表されています。非農業雇用者数は前月統計から+128千人増とまずまずの伸びを示した一方で、失業率は先月から0.1%ポイント上昇して3.6%という低い水準にあります。いずれも季節調整済みの系列です。まず、USA Today のサイトから記事を最初の6パラを引用すると以下の通りです。

Economy added solid 128,000 jobs in October despite GM strike and loss of census workers
U.S. hiring was surprisingly solid last month as employers added 128,000 jobs despite a General Motors strike that held down overall payrolls and the loss of 20,000 temporary census workers. The showing highlights a healthy economy that eases recession concerns.
Economists surveyed by Bloomberg expected 85,000 job gains.
The unemployment rate, which is calculated from a different survey, rose from a 50-year low of 3.5% to 3.6%, the Labor Department said Friday. That's because a strong increase in employment was offset by an even bigger rise in the labor force, which includes Americans working and looking for jobs.
Even more encouraging: Job gains for August and September were revised up by 95,000. August’s additions were bumped from 168,000 to 219,000 and September’s from 136,000 180,000.
The six-week GM strike reduced employment by 42,000, Labor said. That’s a blip that’s likely to boost November payrolls since striking workers will be back on the job, Morgan Stanley said before the report was released.
And the number of workers preparing for the 2020 census fell by 20,000.


やや長く引用してしまいましたが、いつもながら、包括的によく取りまとめられている印象です。続いて、いつもの米国雇用統計のグラフは上の通りです。上のパネルから順に、非農業部門雇用者数の前月差増減の推移とそのうちの民間部門と失業率をプロットしています。いずれも季節調整済みの系列であり、影をつけた部分は景気後退期です。全体の雇用者増減とそのうちの民間部門は、2010年のセンサスの際にかなり乖離したものの、その後は大きな差は生じていません。

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今月の雇用統計のひとつのマイナス要因に、GMのストライキが上げられます。10月下旬に終息したと報じられたものの、米国労働省の CES Strike Report によれば、9月16日から▲46千人の雇用者減とカウントされているようです。もちろん、GM本体だけでなく、自動車産業はすそ野の広いのがひとつの特徴ですから、ある程度の乗数的なプロセスを持ってレイオフなどが発生している可能性もあり、▲50千人を超える雇用減になっていた可能性も十分あります。加えて、引用した記事にもある通り、市場の事前コンセンサスで+85千人の予想だった非農業部門雇用者数の増加幅が+128千人と、まずまず堅調な伸びを示したことから、貿易戦争の逆風下でも雇用は底堅さを保っており、米国連邦準備理事会(FED)の利下げ停止をサポートしそうな統計であると私は受け止めています。

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ただ、景気動向とともに物価の番人としてデュアル・マンデートを背負ったFEDでは物価上昇圧力の背景となっている時間当たり賃金の動向も注視せねばならず、その前年同月比上昇率は上のグラフの通りです。米国雇用がやや減速を示し、賃金上昇率も労働市場の動向に合わせるように鈍化し、10月は前年同月比で+2.9%の上昇と、昨年2018年8月に+3%の上昇率に達して以来、久し振りに+3%を割り込みました。でも、日本や欧州と違って米国では物価も賃金上昇も+2%の物価目標を上回る経済状態が続いている一方で、雇用に現れた景気動向から利下げが模索されるのも、左派エコノミストを自称する私から見れば、ハト派的な金融政策は大いに結構と考えています。
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2019年11月01日 (金) 19:40:00

本日公表の雇用統計から景気悪化の兆しはどこまで読み取れるか?

本日、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が公表されています。いずれも9月の統計です。失業率は前月から0.2%ポイント上昇して2.4%、有効求人倍率も前月から▲0.02ポイント低下して1.57倍と、いずれもタイトな雇用環境がうかがえるものの、指標は雇用の悪化を示し始めているように見受けられます。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインをコンパクトに報じている記事を引用すると以下の通りです。

求人倍率1.57倍、失業率2.4% 9月の雇用指標が悪化
厚生労働省が1日に発表した9月の有効求人倍率(季節調整値)は前月比0.02ポイント低下し、1.57倍だった。全体では堅調な雇用情勢が続くものの、米中貿易戦争の影響を受けた製造業などで陰りが出ている。総務省が同日発表した9月の完全失業率(同)は前月比0.2ポイント上昇し2.4%となった。新たに職探しをする人が増え4カ月ぶりに悪化した。
有効求人倍率は全国のハローワークで仕事を探す人に対し、企業から何件の求人があるかを示す。正社員の有効求人倍率は0.01ポイント低下の1.13倍、雇用の先行指標となる新規求人倍率は0.17ポイント低下の2.28倍で、前月より悪化した。
新規求人数は前年同月比1.5%減の91万7174人だった。産業別でみると製造業が前年同月比11%減と、8カ月連続で減少した。サービス業や卸売・小売業なども減少が続いた。
完全失業者数は同6万人増の168万人だった。新規の求職者が5万人増えた。就業者数は53万人増の6768万人。ただ、正社員が9万人減の3481万人と2カ月連続で減少した。インターネット直販の浸透などで卸売・小売業の販売が落ち込んでおり、正社員が27万人減った影響が大きい。


いつものように、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、いつもの雇用統計のグラフは上の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上から順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。景気局面との関係においては、失業率は遅行指標、有効求人倍率は一致指標、新規求人数は先行指標と、エコノミストの間では考えられています。また、影を付けた期間は景気後退期を示しています。

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失業率は2%台前半まで低下し、有効求人倍率も1.5倍超の高い水準を続けています。加えて、グラフはありませんが、正社員の有効求人倍率も1倍超を記録し、一昨年2017年6月に1倍に達してから、このところ2年余りに渡って1倍以上の水準で推移しています。厚生労働省の雇用統計は大きく信頼性を損ねたとはいえ、少なくとも総務省統計局の失業率も低い水準にあることから、雇用はかなり完全雇用に近いタイトな状態にあると私は受け止めています。ただ、問題はモメンタム、すなわち、方向性であって、失業率も有効求人倍率も雇用悪化の方向にあることは確かです。もっとも、雇用は生産の派生需要であり、生産が鉱工業生産指数(IIP)で代理されるとすれば、基調判断は「弱含み」であり、先行き、現在の景気回復・拡大が賃金上昇に直結するかどうかはビミョーなところであり、賃金が本格的に上昇する前に景気局面が転換してしまう可能性も排除できません。
また、マインド指標についても、昨日10月31日に取り上げた消費者態度指数の4つのコンポーネントのうち、「雇用環境」だけが前月差でマイナスでしたし、企業マインドでは、中小企業の代表的な景況感である日本政策金融公庫の中小企業景況調査についても、一昨日10月29日公表の「中小企業景況調査 (2019年10月調査)」の結果にも見られる通り、今年2019年に入ってから従業員判断DIが急速な勢いで低下し、中小企業で人手不足感が大きく縮小し始めています。まだDIそのものはプラスで人手不足感の方が大きいんですが、1990年代前半のバブル経済崩壊後はいうに及ばず、サブプライム・バブル崩壊後の景気後退局面でも、雇用が急速に悪化したのを忘れるべきではありません。
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