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2020年05月16日 (土) 11:00:00

新刊読書はないものの読み逃していた本の読書感想文!!!

定例の土曜日の読書感想文ながら、今週については新刊書はありません。ただ、住まいは特別警戒地域でまだ非常事態宣言は解除されておらず、関西圏内でも屈指の蔵書を誇る京都市立図書館は閉館していますが、大学の図書館は利用可能になりましたので、何冊か新刊書も借りてみました。昨日からユヴァル・ノア・ハラリ最新刊『21 Lessons』を読んでいます。来週の読書感想文では、他の何冊かとともに取り上げることができると思います。なお、現役の大学生ででもなければ、大学の図書館を利用する人はそれほど多くないと思いますが、実は、大学の図書館はかなり幅広い図書を収集しています。当然です。私は10年前まで長崎大学の在籍していましたが、そのころ、少し遅れて直木賞受賞作の山本兼一『利休にたずねよ』を読んだ記憶があります。つまらない思い出話しでした。

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まず、W.H. マクニール『疫病と世界史』(新潮社) です。私が読んだのは上の表紙に見られる1980年代半ばに新潮社から出版された邦訳なんですが、今では上下に分けて中公文庫から出版されています。著者はカナダ出身で、長らくシカゴ大学において歴史学の研究者をしていました。20世紀後半を代表する米国の歴史家の1人です。英語の原題は Plagues and Peoples であり、1976年の出版です。本書は、翻訳家の山形浩生さんなどによれば、ダイヤモンド教授の『銃・病原菌・鉄』のネタ本のひとつといわれていたりします。他方、王朝の一代記を中心とする歴史学から疫病などの世界的なリンケージを重視した現代的な歴史学、いまのグローバル・ヒストリーへの系譜を作ったのはウランすのアナール学派であって、その代表者は『地中海』のブローデルなどですが、米国の歴史学でもマクニールなどは本書で新たな視点を切り開いていたりしているわけです。ただ、本書の場合、疫病が世界史で果たした役割は、あくまで、人口増加の抑制や人口減少にとどまっており、本書原題の後半の人々の数的な把握にとどまっています。すなわち、生産や生活様式とかの質的な部分には踏み込み不足となっている恨みはあります。私のような経済誌を学んだエコノミストから見て、典型的には、産業革命との関わりについては物足りない気がします。もっとも、逆に、というか、何というか、アナール学派で大きく批判された質的な面の「集合心性」といったわけのわからない概念を作り出すようなマネはしていないのはいい点かもしれません。世界を揺るがす新型コロナウィルス感染症(COVID-19)について考えるに当たっても、ジェニファー・ライト『世界史を変えた13の病』(原書房)ダイヤモンド教授の『銃・病原菌・鉄』上下(草思社文庫) などとともに読み返すにもいいような気がします。

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そのまま一気に最後で、ナオミ・クライン『ショック・ドクトリン』上下(岩波書店) です。著者は、おそらく、多くの読者から北米でももっとも左派・リベラル派と見なされているであろうジャーナリストです。英語の原題は The Shock Doctrine となっていて、邦訳はそのまんまです。副題も英語の原題の The Rise of Disaster Capitalism が『惨事便乗型資本主義の正体を暴く』と訳されています。本書では、ハリケーン「カトリーナ」の被害によるニュー・オーリンズの低所得者向け住宅や公立学校の一掃に関する取材から始まって、自然災害や政変など、経済学的には不連続と見なされる微分不可能点で政策が一変され、副題にあるように、惨事に便乗して市場原理主義的な政策に変更される手法について論じています。特に、シカゴ学派のフリードマン教授が槍玉に上がっていて、私が3年余りを過ごしたチリのアジェンデ大統領に対するクーデタにより政権を掌握したピノチェト独裁制に対する批判にもつながっています。もちろん、現在のCOVID-19の拡大による経済的なマイナスの影響ついても、考えようによっては、ものすごい惨事ですので、便乗した何らかの悪巧みめいた政策が展開される恐れがあるかもしれず警戒すべきです。そして、私は、このCOVID-19という惨事に便乗して政策変更する際に、注意すべきは2つの方向かと考えていました。すなわち、第1に、生産や国民生活などを国家的な統制下に置くというファシズム的な方向です。マスクが足りないから企業に生産を命じたり、要請したり、今も続いているように、国民生活にかなり直接の規制や統制を加える方向です。そして、もうひとつ、第2に、幅広く免疫ができるのを待つなどを口実にして逆に放置するに任せて、富裕層と貧困層の格差をさらに拡大することを許容する政策です。今のところ、日本は第1の方向に近いんですが、第2に方向の要素もあります。しかし、少なくとも、国民の支持は得ているように見えます。他方で、「自粛警察」と称されるような行き過ぎた方向も容認されているようにも見えます。COVID-19終息後の企業活動や国民生活のあり方も見据えて、いま現時点で、何を必要とするのか、何を警戒すべきなのか、本書を読んでじっくりと考えたいと思います。
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