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2020年10月16日 (金) 16:00:00

ニッセイ基礎研「中期経済見通し (2020-2030年度)」に見る日本経済の先行きやいかに?

今週火曜日の10月13日にニッセイ基礎研から「中期経済見通し (2020-2030年度)」と題するリポートが明らかにされています。私自身は、役所のころのお仕事で短期見通しを作成したこともありますが、本来は中長期の経済の行方により大きな関心を持っています。よくいわれることですが、政府の官庁エコノミストと日銀などの中央銀行のエコノミストと銀行や証券会社などの市場エコノミストのタイムスパンの違いというものがあります。すなわち、中央銀行エコノミストは大雑把に景気循環の1期間、3~5年くらいを念頭に置くのに対して、官庁エコノミストはもっと長い期間を考えます。経済ではありませんが、教育なんかで用いられる用語で、まさに「国家100年の大計」を頭に置いてお仕事するわけです。年金をはじめとする社会保障なんかもそうだと思います。もちろん、銀行や証券会社の市場エコノミストやアナリストはより短期でfrequencyの高い経済、為替や株価の動きを見ているんではないかと、私は考えています。ということで、前置きが長くなりましたが、ニッセイ基礎研のリポートをいくつかのグラフを引用しつつ取り上げる前に、ひとつだけ注意点は、このリポートは日本経済だけの中期見通しではないことに留意すべきです。私は自分の勝手な興味に基づいて、このブログでは日本経済だけに着目しますが、米国や欧州といった先進国はもちろん、中国やインドやASEANなどのアジア諸国も含めた幅広い世界経済をカバーした中期見通しとなっています。もっとも、とはいっても、アフリカや中南米が入っているわけではありませんので、念のため。

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まず、上はニッセイ基礎研のリポートから見通しのヘッドラインとなる 実質GDP成長率の推移 のグラフを冒頭のページから引用しています。当然ながら、今年2020年は新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響により成長率が翁マイナスに落ち込んだ後、来年2021年は東京オリンピック・パラリンピックもあって成長率がリバウンドします。その後、成長率は鈍化するものの+1%強のレベルに落ち着きます。まあ、こんなもんだろうという気はします。リポートp.4には、世界のGDP構成比の推移や1人当りGDPの推移が、予測期間である2030年まで示されています。予測最終年の2030年には中国のGDPがほぼほぼ米国にキャッチアップするという見通しが示されています。また、我が日本の1人あたりGDPは近くEUに抜かれる、というグラフもあります。

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次に、上はニッセイ基礎研のリポートからアベノミクスの振り返りとして 過去の大型景気との比較 (実質GDP) のグラフを引用しています。高度成長末期のいざなぎ景気はいうまでもなく、1980年代後半のバブル景気と比較してもアベノミクス景気は力強さの点で見劣りするわけですが、米国サブプライム・バブルを背景とする21世紀に入ってからの景気拡大期に比べても下振れています。ただ、私から強く主張しておきたい点は、アベノミクスの序盤1年くらいはサブプライム・バブル景気を上回っている事実です。何をきっかけに下回り始めたかというと、2014年4月からの消費税率の引上げであることは一目瞭然です。アベノミクスで喧伝された3本の矢のうち、2番めであった消費税率引上げによって財政政策が早々に緊縮財政に転換したためアベノミクスが力強さに欠けた、と考えるべきです。

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次に、上はニッセイ基礎研のリポートから 潜在成長率の寄与度分解 のグラフを引用しています。今年度2020年度に潜在成長率がマイナスに突っ込むのは、COVID-19の影響によるロックダウンに近い措置により、労働供給が大きく低下したためです。ですから、リポートでも指摘されているように、このマイナスの潜在成長率が日本の成長力の実態を示しているわけではありません。来年度2021年度から緩やかに回復した後、人口減少に起因する労働投入の減少に従って2030年度にかけて緩やかに低下すると見込まれています。GDPギャップも2020年度に大きなマイナスに落ちた後、数年をかけてマイナス幅を縮小し、このGDPギャップに従った形でCPI上昇率も拡大しますが、予測期間後半の2027年度にコアCPI上昇率が+1.8(に達した後、上昇率が緩やかに縮小し、2030年度までに日銀の物価目標である+2%に達することはない、と結論されています。また、経常収支も予測期間終盤に小幅ながら赤字化すると見込まれています。

最後に、このリポートは、いつものように、極めて私の実感とよく一致するシナリオを提示してくれているとともに、楽観と悲観の代替シナリオまで含めて30ページに達しており、それなりのボリュームを持って読み応えある内容となっています。
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