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2022年10月21日 (金) 18:30:00

31年ぶりに+3%に達した消費者物価指数(CPI)上昇率をどう見るか?

本日、総務省統計局から9月の消費者物価指数 (CPI) が公表されています。生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPI上昇率は、季節調整していない原系列の統計で見て前年同月比で+3.0%を記録しています。報道によれば、1991年8月以来31年ぶりに高い上昇率だそうです。ただし、エネルギー価格の高騰に伴うプラスですので、生鮮食品とエネルギーを除く総合で定義されるコアコアCPI上昇率は+1.8%にとどまっています。なお、ヘッドライン上昇率も+3.0%に達しています。まず、日経新聞のサイトから統計を報じる記事を引用すると以下の通りです。

9月消費者物価3.0%上昇 31年ぶり3%台、円安響く
総務省が21日発表した9月の消費者物価指数(CPI、2020年=100)は変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が102.9となり、前年同月比で3.0%上昇した。消費増税の影響を除くと1991年8月(3.0%)以来、31年1カ月ぶりの上昇率となった。円安や資源高の影響で、食料品やエネルギーといった生活に欠かせない品目の値上がりが続く。
QUICKが事前にまとめた市場予想の中央値(3.0%)と同じだった。上昇は13カ月連続。調査対象の522品目のうち、前年同月に比べて上昇した品目は385、変化なしは46、低下は91だった。上昇品目数は8月の372から増加した。
生鮮食品を含む総合指数は前年同月比3.0%の上昇で、8月と同水準の伸びだった。生鮮食品とエネルギーを除く総合指数は1.8%上がった。
生鮮食品を除く食料は前年同月に比べて4.6%上昇した。食料全体では4.2%上がった。食パンが14.6%、チョコレートが8.6%それぞれ上昇した。ロシアによるウクライナ侵攻以降、輸送ルートを変えたサケは26.8%上がった。円安による輸入コストもかさんでいる。
円安や原材料高といった影響は外食にも波及し、ハンバーガーは11.2%上がった。生鮮魚介の値上がりで、すしも9.4%上昇した。
エネルギー関連は16.9%上がり、8月と同水準の伸びだった。電気代が21.5%、都市ガスが25.5%ともに上昇した。灯油は8月の18.0%を上回る18.4%の上昇率だった。ガソリンも7.0%上昇と、8月の6.9%をわずかに上回った。
家庭用耐久財は11.3%上昇した。8月の6.3%から伸びが加速し、1975年3月(12.8%)以来、47年6カ月ぶりの上昇率だった。メーカーによる製品のリニューアルで、ルームエアコン(14.4%)などが値上がりした。宿泊料は6.6%上昇し、8月(2.9%)の伸びを上回った。
生鮮食品を含む総合指数で比較すると、他の主要国は日本と比べて高い上昇を続けている。米国は9月に前年同月比で8.2%上がった。8月(8.3%)から低下したものの、高水準の上昇が続く。ユーロ圏は9.9%上がり、9.1%だった8月からインフレが加速した。英国は10.1%上昇で、8月(9.9%)を上回った。
日本経済研究センターが11日にまとめた民間エコノミスト36人の予測平均は、消費者物価指数の上昇率が四半期ベースの前年同期比で2022年10~12月期が2.84%と見込む。23年1~3月期は2.47%と2%台の上昇が続き、同4~6月期に1%台の上昇になるとみている。


やたらと長くなりましたが、いつものように、よく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、消費者物価(CPI)上昇率のグラフは下の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIと生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPI、それぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフはコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。寄与度はエネルギーと生鮮食品とサービスとコア財の4分割です。加えて、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1ケタの指数を基に私の方で算出しています。丸めずに有効数字桁数の大きい指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。統計局の公表数値を入手したい向きには、総務省統計局のサイトから引用することをオススメします。

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まず、引用した記事にもあるように、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは+3%の予想でしたので、ホンの少しだけ上振れた印象です。もちろん、物価上昇の大きな要因は、基本的に、ロシアによるウクライナ侵攻などによる資源とエネルギー価格の上昇による供給面からの物価上昇と考えるべきですが、もちろん、円安による輸入物価の上昇も一因です。すなわち、コストプッシュによるインフレであり、日銀による緩和的な金融政策による需要面からのディマンドプルによる物価上昇ではありません。CPIに占めるエネルギーのウェイトは1万分の712なのですが、9月統計におけるエネルギーの前年同月比上昇率は8月統計と同じ16.9%に達していて、ヘッドラインCPI上昇率に対する寄与度は+1.28%あります。このエネルギーの寄与度+1.28%のうち、電気代が半分超の+0.75%ともっとも大きく、次いで、都市ガス代の+0.24%、ガソリン代の+0.15%などとなっています。ただし、エネルギー価格の上昇率は3月には20.8%であったものが、4月統計では+19.1%、5月統計では+17.1%、6月統計では+16.5%、7月統計では+16.2%、そして、直近で利用可能な8~9月統計では+16.9%と、高止まりしつつも、ビミョーに落ち着いてきているように見えます。他方で、生鮮食品を除く食料の上昇率も4月統計+2.6%、5月統計+2.7%、6月統計+3.2%、7月統計+3.7%、8月統計+4.1%に続いて、9月も+4.6%の上昇を示しており、+1.03%の寄与となっています。ヘッドライン上昇率とコアCPI上昇率は9月統計で、どちらも+3.0%ですから、ほぼ+2.3%の部分はエネルギーと生鮮食品を除く食料による寄与と考えるべきです。そして、現状ではまだまだエネルギーの寄与度が大きいのですが、毎月の寄与度の差を考えれば、寄与度差という観点ではインフレの主因はエネルギーから食料に移りつつあるように見えます。

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上のグラフは基礎的・選択的支出別と購入頻度別のそれぞれの消費者物価指数上昇率の推移を上下のパネルにプロットしています。現在のエネルギーや食料の値上がりがもたらしたインフレについて、その国民生活への影響を物価指数の観点から少し詳しく見ると、まず、上のパネルから、選択的な財・サービスよりも選択の余地の小さい基礎的・必需的な財・サービスに値上がりの方が大きくなっている点が見て取れます。加えて、下のパネルから、頻度高く購入する財・サービスの価格上昇の方が最近時点では高くなっています。上のパネルから、基礎的・必需的な財・サービスの購入割合の高い家計、往々にして、所得がそう高くない家計が高インフレの実感を持っている可能性が指摘できます。そして、所得とは直接関係ないにしても、購入頻度高い財・サービスの方が値上がりしているわけですから、国民の実感するインフレは平均的な物価上昇率よりも高い可能性があります。

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さらに、上のグラフは家計の所得階級別に、第I分位家計と第V分位家計の物価上昇率の乖離、すなわち、単純に5分位所得のもっとも所得の低い第I分位と、逆に、もっとも所得の高い第V分位の消費構成バスケットに合わせた物価上昇率の乖離です。2019年10月からの消費税率の引上げの際には食料品などの一部品目に軽減税率が適用されましたので、その後、しばらくは低所得家計の物価上昇率のほうが低かったのですが、この反動の時期はとっくに終わっているにもかかわらず、今では、低所得家計の物価上昇率のほうが大きくなっています。すなわち、現在のインフレは高所得家計よりも、低所得家計に厳しくなっている可能性があります。

9月末までと予定されていたガソリン補助金は12月末まで延長され、加えて、電気料金抑制のために電力会社への補助金が検討されていると報じられています。従来から私が主張しているように、化石燃料に補助金を出して消費を促すのは気候変動=地球温暖化に逆行しかねません。ハッキリとSDGsに逆行しています。食料についてはもっとも基礎的な生活必需品と考えるべきですから、低所得家計などに然るべき支援は必要です。ただ、もっともシンプルには、時限的な措置であっても、消費税率を引き下げる政策ではないでしょうか?
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