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2010年07月15日 (木) 19:57:00

IMF 2010 Article IV Consultation の結果をどう読むか?

昨日、国際通貨基金 (IMF) から 2010 Article IV Consultation の対日審査結果が公表されました。このブログではすでに審査終了時の5月24日付けで取り上げているんですが、IMF の理事会で承認された最終的な審査結果のようです。pdf ファイルにより以下の2つのリポートが明らかにされています。今夜のブログでは上の方の Staff Report を中心に見ておきたいと思います。



日本で注目されたのは、2011年度から少なくとも10年間、消費税の引上げに着手すべきとの提言部分で、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

消費税、11年度から段階上げを 日本にIMF提言
国際通貨基金(IMF)は14日、日本の経済・財政状況に対する年次審査報告を公表した。先進国で最悪の財政状況を踏まえ、2011年度からの段階的な消費税率引き上げなどの具体策を提言。消費税率が「15%になれば国内総生産(GDO)比で4-5%の歳入増になる」と例示した。参院選の民主党敗北で国内では消費税論議が後退しているが、海外では増税を軸とする財政再建の圧力は衰えていないことを表している。
報告書は、欧州の信用不安により日本の公的債務への懸念が強まっていると指摘。景気回復への影響に配慮しつつ、財政再建を進める必要があるとした。IMFは5月の対日声明で日本に消費税増税を求めたが、今回は複数のケースを想定し、財政再建の手法などを示した。
IMFの改革シナリオでは向こう10年の名目成長率を2%程度とし、11年度から17年まで4回に分けて消費税率を計10%引き上げる。社会保障費圧縮なども実施。15年から政府債務のGDP比率を徐々に引き下げる。
IMFは消費税上げを14年とする先送りシナリオも示したが、この場合、財政収支の改善が遅れ政府債務の水準が長く高止まりする。増税などを実施しないケースでは政府純債務のGDP比率は10年の121%から30年には250%に膨らむとしている。
増税などの財政改革の景気への影響についても試算。当初、3-5年間は成長率を年0.3ポイント程度押し下げるが、その後は公的債務減少による信認向上が投資や消費の増加につながると指摘。経済成長が加速するとの見方を示した。
日本政府は6月、20年度までに国・地方の基礎的財政収支を黒字化し21年度以降は債務残高を低下させる目標を打ち出した。IMFは報告書の分析のなかで「重要な一歩」としつつ、黒字化までの期間が長いとの認識を示した。増税などの具体策まで明確化しなければ、公的債務への監視を強めている市場の信認を得にくいと判断しているとみられる。


以下、繰返しになりますが、Staff Report を主として見ると、まず、日本の財政支出の現状について p.11 に以下のグラフを示し、今世紀に入ってから社会保障給付が大幅に伸びていることを明らかにしています。私の従来からの主張である高齢者優遇策の一つの表れであるといえますが、報道ではあまり触れられていません。

Japan: General Government Nominal Expenditure


その上で、広く報道に取り上げられたように、p.12 第14パラで "Fiscal adjustment should begin in FY2011 to capitalize on the cyclical recovery and be sustained for at least a decade." と強調しています。来年度2011年度からというのは、早ければ早いほどいいという意思表示でしょうし、少なくとも10年間は継続する必要があるというのは、それほど日本の財政は重症であるということです。その点に関し、Appendix の p.32 には2030年までの日本財政の持続可能性について、3つのシナリオに沿って以下のグラフのような推計を示しています。

Japan: Net Public Debt


もちろん、消費税増税は短期的には成長率にマイナスの影響を及ぼしますが、長期的にはむしろプラスであると主張し、p.13 Box 2. Estimating the Growth Impact of Fiscal Adjustment で以下のように、2020年までの実質成長率の推計結果をグラフで示しています。

Real GDP Growth


そして、5月24日付けのエントリーと同じなんですが、結論として、p.14 Potential Options for Gradual Fiscal Adjustment Over Next 10 Years と題する以下の表で消費税率15パーセントを推奨しています。

Potential Options for Gradual Fiscal Adjustment Over Next 10 Years


最後に、ほとんど報道では取り上げられていませんが、財政政策に関する Mapping A Credible Fiscal Reform Strategy に続いて、金融政策では Monetary Policy Options to Combat Deflation と題して、以下のグラフを掲げて、ゼロ・インフレ期待、デフレ期待が広がっていることを懸念し、"While deflation pressures are easing, a slow recovery carries risk that deflation could become more entrenched." あるいは、"Additional easing measures could address deflation risks and support the recovery."としていますが、日銀の成長金融を追認する内容になっています。IMF と OECD ではかなり日銀の金融政策に対するスタンスが異なるようです。

Share of Respondents with Deflationary Five-Year Inflation Expectations


何となく、5月24日付けのエントリーと同じような内容なんですが、国際機関のリポートを取り上げるのはこのブログの特徴ですし、ここ2-3日の国債に関する記事の延長でもあるので、簡単に見ておきました。
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