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2014年10月31日 (金) 19:33:00

雇用統計と消費者物価が経済の停滞を反映し日銀が追加緩和を決定!

本日、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が、また、総務省統計局から消費者物価指数(CPI)が、それぞれ公表されています。各統計のヘッドラインを見ると、失業率は前月から0.1%ポイント上昇して3.6%になり、同様に有効求人倍率も▲0.1ポイント悪化して1.09を記録しました。消費者物価も消費税込みで+3.0%の上昇を示し、消費税の影響を除いてもプラスが続いているものの、上昇幅は徐々に縮小しています。まず、日経新聞のサイトから家計調査も含めて統計のヘッドラインとともに最近の経済情勢を報じる記事を引用すると以下の通りです。

もたつく増税後景気 消費前年割れ、求人倍率も低下
景気のもたつきが続いている。9月の消費支出は夏場の天候不順も響き、物価の動きを除いた実質で6カ月続けて前年を下回った。有効求人倍率は3年4カ月ぶりに前月を下回り、人手不足などを背景に底堅い雇用環境の改善も一服している。9月の景気は生産や小売業販売が上向いたものの、全体では一進一退の動きにある。
総務省が31日発表した9月の家計調査によると、2人以上世帯の消費支出は27万5226円と、物価の動きを除いた実質で前年同月に比べて5.6%減った。内訳では食料が前年比実質で2.9%減。今年の9月は昨年より日曜日が1日少なく、外食などへの支出が減っている。光熱・水道費も8.5%減。9月の調査には8月の支払いが反映される。夏場の天候が悪かったため、電気代の支出が減った。
被服・履物は前年比2.7%減、教養娯楽費は2.8%減と他の品目よりは落ち込みが小さい。駆け込み消費の反動で落ち込んだ支出は回復してきた。季節要因をならした9月の実質消費支出は前月に比べて1.5%上がり、3カ月ぶりに上昇に転じた。
勤労者世帯の実収入は実質で前年比6.0%減。消費増税と物価の上昇で収入が目減りし、消費の向かい風になっている。
雇用統計では厚生労働省が同日発表した有効求人倍率が1.09倍と前月より0.01ポイント下がった。9月は有効求人数が前年比5.1%増と4年5カ月ぶりの低い伸び率にとどまった。9月の新規求人数は前年同月より6.3%増えた。
総務省が公表した9月の完全失業率は3.6%と、前月より0.1ポイント上がった。完全失業者数が2カ月ぶりに増えた。一方で就業者数は6402万人と前年同月から43万人増え、このうち女性は2757万人と過去最高だ。総務省は職探しをする人が就業できていると見て、雇用情勢は「引き続き持ち直しの動きが続いている」との判断を維持した。
9月の全国消費者物価3.0%上昇
総務省が31日発表した9月の全国消費者物価指数(CPI、2010年=100)は値動きの激しい生鮮食品を除く指数が103.5と、前年同月比3.0%上昇した。食品やテレビが値上がりした。ガソリンなどエネルギー価格も上昇したが、原油安で前月比で下落したのを受け、物価全体の前年比の伸び率は8月から0.1ポイント縮小した。
前年を上回るのは13年6月以来、16カ月連続。伸び率は3.4%となった5月以降は縮小傾向が続いている。消費増税による物価押し上げ効果2.0ポイントの影響を除くと物価上昇率は1.0%になる。「当面1%台前半で推移する」という日銀の見通しの範囲内で推移している。
CPIの上昇に影響が大きかった品目をみると、生鮮食品を除く食料が4.2%、テレビが9.9%、宿泊料が8.4%それぞれ上がった。電気やガソリンなどエネルギーも5.2%上昇したが、8月の6.8%から伸び率は1.6ポイント縮んだ。
東京都区部の10月中旬速報値は生鮮食品を除く指数が102.2と前年同月比2.5%上昇した。9月に比べると伸び率は0.1ポイント縮小した。


いずれも網羅的によく取りまとめられた記事だという気がします。しかし、雇用統計と消費者物価を並べるとそれなりのボリュームになります。続いて、下のグラフは雇用統計です。上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をそれぞれプロットしています。いずれも季節調整済みの系列であり、シャドーを付けた部分は景気後退期です。

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雇用統計については、失業率も有効求人倍率もともに9月の統計は8月から、ヘッドラインだけ見ればやや悪化していますが、内容はそれほど悪くないと受け止めています。一例として、米国流の見方ではありませんが、雇用者数は前月から+20万人と大幅に増加して増加傾向が続いていますし、自営業主・家族従業者などを含めた就業者数を見ても、前月から+4万人増加し2か月連続の増加を記録しています。雇用の改善に伴って、職探しを新規に始めた、あるいは、再開したために失業者にカウントされた人が失業率を押し上げたと考えるべきです。また、有効求人倍率にしても、前月から▲0.01ポイント悪化しましたが、新規求人倍率は8月の1.62倍から9月には1.67倍へと改善を示しています。逆から見れば、新規でない従来からの求人が埋まって行って有効求人倍率が低下しているわけですから、大いにポジティブに捉えるべきです。今後は、量的な雇用環境の改善から質的な改善へ、すなわち、非正規雇用でなく正規雇用が増加したり、賃金が上昇したり、といった動きが雇用の安定性を増し、いわゆる恒常所得の増加につながることから、消費の安定的な増加に資することが期待されます。

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上のグラフは、消費者物価上昇率の推移です。折れ線グラフが全国の生鮮食品を除くコアCPI上昇率と食料とエネルギーを除く全国コアコアCPIと東京都区部のコアCPIのそれぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフは全国のコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。東京都区部の統計だけが10月中旬値です。いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1位の指数を基に私の方で算出しています。丸めない指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とは微妙に異なっている可能性があります。ということで、生鮮食品を除くコア消費者物価はここ2-3か月で上昇幅をかなり縮小させました。基本的には、消費増税のショックによる需給ギャップの悪化が原因ですが、それだけではなく、国際商品市況の動向に起因する原油価格の低下や円安効果の剥落によるエネルギー価格の影響を忘れるべきではありません。すなわち、上のグラフでも、コアCPI上昇率を示す青い折れ線グラフがここ2-3か月で大きく右下がりになっているのに対して、エネルギーと食料を除くコアコアCPI上昇率がそれほど下がっていません。この差は黄色い積上げ棒グラフのエネルギーの寄与度に起因します。ですから、グラフは示しませんが、東京都区部のコアコアCPI上昇率は+2%前後にあり、消費増税後もほとんど変化ありません。需給ギャップは消費増税ショックにより確かに悪化しましたが、それと同様に、国際商品市況の原油価格や為替の影響も無視すべきではありません。このコンテクストから物価を理解すると、本日、日銀が決定した追加金融緩和がどこまで必要だったのかは、私には少し疑問に感じられなくもありません。

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ということで、日銀は追加金融緩和を決めました。なお、上の画像は「展望リポート」の p.10 から引用した政策委員の大勢見通しです。7月時点の見通しから、2014年度、2015年度ともにやや下方修正されており、2015年度の消費税の影響を除く消費者物価上昇率はインフレ目標の+2%からさらに開きが出来ました。これに対して追加緩和の内容は、年60-70兆円のペースで増やすとしていたマネタリーベースを80兆円まで拡大するとともに、中長期国債の買入れペースを拡大して平均残存年限も従来の7年程度から最大10年程度に延長することなどを決めています。今回の金融政策決定会合では追加緩和はないだろうと多くのエコノミストが予想していましたので、タイミングは極めて大きなサプライズでした。従って、為替も株価も大きく反応しています。もっとも、規模はそれほどでもなく限定的ではないかと私は受け止めています。さらに、日銀の発表文書である「『量的・質的金融緩和』の拡大」を見ると、マネタリーベース増加額の拡大も平均残存年限の長期化もいずれも5-4のきわどい表決の結果のようです。私のように追加緩和に疑問を呈するエコノミストも少なくないのかもしれません。
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