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2016年07月02日 (土) 14:06:00

今週の読書は『Who Get's What』ほか経済書と小説など計5冊!

今週の読書はノーベル経済学賞受賞のロス教授の『Who Get's What』ほか、経済書と小説など計5冊です。

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まず、アルビン E. ロス『Who Get's What』(日本経済新聞出版社) です。著者は2012年ノーベル経済学賞受賞のエコノミストであり、専門はメカニズム・デザインです。本書では価格をシグナルとして効率的な資源配分が実現される市場ではない場合、ソロモン王のジレンマのような金銭の授受を避ける取引、すなわち、臓器移植のマッチング、就職活動や学校選択などのマッチング、あるいは、恋人や結婚のマッチングなどなどについて、マッチ・メイキングのアルゴリズムと市場デザインの入門的・基礎的な考え方を取り扱っています。だいたい、真ん中あたりの8章からがコアになるパートなんでしょうが、とても判りやすい一方で、メカニズム・デザインの本質までは明らかに理解できない気がして、少し物足りないと感じる読者も入るかもしれません。

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次に、岩村充『中央銀行が終わる日』(新潮選書) です。著者は日銀OBのエコノミストであり、本書ではビットコインなどの新しい形態の仮想通貨を取り上げて、経済成長とともに設立された中央銀行がその独占的な通貨発行権という使命を必要としなくなる段階、すなわち、中央銀行が歴史的な役割を終えるまでを展望しています。ということで、本書の前半はブロック・チェーンなどのビットコインの仕組みをかなり大雑把に解説し、後半ではいわゆる legal tender 法定通貨を独占的に発行する中央銀行の役割について、その歴史的使命を終えんとする段階までを考察しています。直観的には、通貨と景気循環の関係を捨象すれば、流通通貨の独占的な発行権に基づく中央銀行は歴史的使命を終える可能性があるかもしれませんが、景気循環やその影響を受ける国民生活を考えるとそう簡単ではない気もします。

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次に、本城雅人『ミッドナイト・ジャーナル』(講談社) です。決して大手ではないものの、全国紙社会部の事件記者を主人公とし、警察の内部の動きにも迫った小説です。7年前に、「被害者女児死亡」という世紀の大誤報を打ち、地方に飛ばされたり、記者を辞めて整理部への異動に甘んじた3人の記者が、東京都北部から埼玉県や千葉県にまたがるエリアでの児童連続誘拐事件を追って、7年前の事件ともリンクして、真実にたどり着く過程を描き出しています。その中で、新聞社内部での出世競争、警察に対する取材、被害者やその家族との接し方など、わたしのような犯罪とは縁遠い生活を送っている一般人には計り知れないものの、それなりに興味深い社会はエンタメに仕上がっています。

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次に、森博嗣『χの悲劇』(講談社ノベルス) です。売れっ子ミステリ作家によるGシリーズの最新刊です。真賀田四季の真賀田研究所でプログラマとして働いていた島田文子が主人公です。香港を拠点として人工知能の開発を進めす研究所に勤務する島田が、トラム内で起こった殺人事件に巻き込まれ、あるサイトにおかれているファイルの解読を依頼されたり、西之園萌絵の両親の搭乗した飛行機の爆破自己に関する質問を受けた時点から展開が速くなり、香港や日本のインテリジェンス当局との協力の形で主人公が仕事を進めていきます。そして、ミステリですから、それなりの結論にたどり着きます。宣伝ではGシリーズの転換点にして、後期3部作の始まりと銘打たれています。なお、ネタバレに近いんですが、この作者の各シリーズの作品については、どの時代順で並んでいるのかを把握しておくことが必要です。その意味で、私の場合は本作品の最終パラを先に読んでおくことで本作品を鑑賞する際に有益であったと考えています。そうでない人もいるかもしれませんが、ご参考まで。

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最後に、橘木俊詔『新しい幸福論』(岩波新書) です。労働経済学や格差に関する研究で著名なエコノミストによる幸福論らしいんですが、ハッキリいって雑です。哲学的な幸福論、すなわち、3大幸福論と称される、ヒルティ、アラン、ラッセルの流れの中の幸福論であればともかく、格差も含む経済学に根差した最近の幸福論におけるポラック教授、フレイ教授、ディーナー教授などの貢献は無視されていますし、豊かさと幸福感におけるイースタリンのパラドックスもご理解になっていないような気がします。しかも、経済全体はゼロ成長で人口減少とともに1人当たり所得が増加する経済がいいんであって、マイナス成長もプラス成長も否定するなんて、この著者クラスのエコノミストになれば「オレはそう考える」で押し切っているような雰囲気すらあります。あまり科学的な態度とはいえない気がします。橘木先生の立論が従来から自分の好みにあっている人にはオススメしますが、幸福論について勉強したい向きには別の本を探した方がいいような気がします。
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