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2021年11月20日 (土) 10:00:00

今週の読書は研究費で買った経済書2冊と図書館で借りた新書2冊の計4冊!!!

今週の読書は、新刊の経済書を研究費で購入したほか、新書を2冊読みました。昨年と同じように、学生諸君に「年末年始休みの読書案内」を差し上げるために、せっせと新書を読んでいます。小生つは含まれておらず、以下の通りの計4冊です。それから、いつもお示ししている本年の読書の進行ですが、このブログで取り上げた新刊書だけで、1~3月期に56冊、4~6月も同じく56冊、7~9月で69冊と夏休みの時期があって少しペースアップし、さらに、先週土曜日の恒例の読書感想文で取り上げた4冊と今週日曜日の2冊、さらに、今日の4冊を含めて10~11月分が211冊になりました。なお、どうでもいいことながら、経済週刊誌から今年のベスト経済書の推薦依頼があり、私は9月11日付けの読書感想文で取り上げた野口旭『反緊縮の経済学』(東洋経済)をトップに上げておきました。同僚教員との立ち話の雑談でも、「アレはいい本だ」という賛同を得ていたのですが、なぜか、参考リストに入っていませんでした。謎です。

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まず、原田泰『デフレと闘う』(中央公論新社) です。著者は、私の先輩であり、官庁エコノミストから大和総研に転じた後、日銀政策委員まで上り詰めています。私は適度に離れた年回りや業務が似通っていことなどから、3度も部下を務めて共著論文もあります。ですから、かなり経済学的な志向は似通っているのかもしれませんが、政治的、というか、私は官庁エコノミストの中でも、おそらく、最左派であることは間違いない一方で、本書で著者自身も自分のことをネオリベと認めています。ただし、左派と右派の違いはあっても、一昨日に取り上げた岡三証券のリポートではないですが、アベノミクスが世界標準からすればとても左派リベラルの経済政策であり、まったく分配政策を欠いているがために格差拡大の問題はあるとしても、雇用の増加につながっていた点は同じ認識ではないかという気がします。もちろん、本書は基本的に、日銀政策委員としての回顧録であり、この著者らしく、あまり、ポリティカル・コレクトネスを意識せずに、面白おかしくざっくばらんに書いています。口語体で本を書いている印象です。あとがきにもあるように、批判に反論するという傾向が強く、現在の与党連合のうちの宗教政党を支持している宗教団体が「折伏」という言葉で呼んでいる行為を私は思い起こしてしまいます。金融に関する回顧録ですが、タイトル通りに、デフレ克服が出来ていない点については、この著者らしく、景気はよくなった、雇用も増加した、その上でインフレになっていないんだからもっといいじゃないか、というスタンスのように見受けました。ただ、本書でも強く指摘されているように、金融政策とは期待に働きかける部分が大きく、従って、本書では白かった時代の日銀の金融政策によって、デフレ期待が強く強く国民に浸透してしまった点に加えて、財政政策でアベノミクスが2度に渡って消費税率を引き上げた点をデフレ脱却に至らなかった理由として上げています。それはそうだという気が、私もしますが、でも、黒くなった後の日銀も「日銀が金融政策をしても、あるいは、何をしても物価は上がらない」という好ましくない事実を示してしまったために、このデフレ期待をかえって強めてしまった失策がある点を、見事に見逃しています。岩田教授が副総裁に任命される際の国会審議で、自信満々で2年間での物価目標達成を豪語しながら、加えて、辞任でもって責任を取ると明言しておきながら、結局、8年余りを経過してもサッパリインフレ目標の2%に近づきもしない現状が、白い日銀のころのデフレ期待を、リフレ派の黒い日銀が意図せずして補強してしまっている、という点は明らかです。その意味で、それなりに罪深いものである気がします。

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次に、倉坂秀史『持続可能性の経済理論』(東洋経済) です。著者は、環境庁ご出身で現在は千葉大学の研究者です。環境経済学という分野があって、本書では、それとほぼほぼ同義の持続可能性に関する経済学、というのをタイトルにしているわけです。その昔の環境経済学については、公害などが典型的なのですが、私的コストと社会的コストの差がある外部経済、あるいは、経済の外部性、すなわち、市場の失敗として処理していたように思うのですが、本書を読んだ私の感想として、環境経済学の対象が自然である点が大きく強調されているように感じました。すなわち、自然から環境サービスというものを供給されて、個々の消費者、というか人類といってもいいのですが、我々はそれを需要、ないし、消費しているわけです。パッと考えつくのは森林浴などですが、それほど直接的でなくても、極地の氷河やアフリカの動物多様性などといった環境サービスも消費しているわけです。ただし、これらの環境サービスは人間が生産したものではありません。私は講義でよく経済学的な生産とは、資本ストックと労働を組み合わせて付加価値を得ることである、と学生諸君に教えています。ですが、環境サービスはこういった旧来の経済学で考えている生産から生み出されるものではありません。自然が供給してくれるわけです。ですから、極地の氷河やアフリカの生物多様性をはじめとして、人工的に再生産が不可能なものが多く、また、ある一定の限界を超えると永遠に失われるものも少なくありません。というか、ほぼほぼすべてそうです。加えて、自然が供給しているにしても、100年どころか、数億年に渡って生産される環境サービスもありますし、時間的なスパンが人間の生存世代を遥かに超えていたりします。ですから、市場における価格メカニズムでは最適な資源配分ができなくなっています。まあ、最後は市場の失敗に行き着くわけですが、私的なコストと社会的なコストのカイリよりは壮大な理論に仕上がっているわけです。本書ではそういった理論的な展開を、人工的な経済財の「私」-「フロー」-「名目」と自然が供給する環境財の「公」-「ストック」-「実質」などに組み直して、かなり判りやすく解説を加えています。そもそも、スミスなどの初期の古典派経済学ではサービスという概念も希薄で、財貨=モノを中心とする分析でしたから、環境経済学的な概念も成立しませんでしたが、現状では、先日のCOP26でも議論されているように、気候変動や温暖化防止まで幅広く含めた経済学の再構築が必要になっています。私はいかんせん不勉強な教師なのですが、専門外の理論とはいえ、このあたりの基礎は身につけておきたいと思います。

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次に、橘木俊詔『日本の構造』(講談社現代新書) です。著者は、ご存じ京都大学を退官したエコノミストです。先週取り上げた『日本経済図説 第5版』(岩波新書)に続いて、グラフやテーブルで豊富なデータも収録した図版集です。著者の専門分野に応じて、経済を中心に、労働・賃金、生活、社会保障や財政、などを収録していますが、教育や格差にまつわるいろんな話題、すなわち、地域蚊kさや所得格差なども幅広く取り上げています。先週の『日本経済図説 第5版』(岩波新書)と違うところは、事実を事実として明らかにするだけでなく、やや偏りある著者の見方ながら、そういった事実の背景にある原因や要因について著者なりの仮説を提示しているところです。もちろん、新書という限られた紙幅ですので、その仮設の検証はしていませんし、仮説を出しっぱなしになっているのですが、怪しげな説が散見されるものの、それはそれなりに、決して荒唐無稽なトンデモ論を展開しているわけではありません。その意味で説得力ある仮説といえるものが少なくありません。特に、成長と分配で総選挙に臨んだ岸田総理、当初の分配重視から成長に押されて腰砕けになっただけに、改めて、格差を直視し、項目としても多く取り上げて、分配の重要性を主張する点は意味あると私は考えています。特に、第5章の老後と社会保障、第6章の富裕層と貧困層について論じている部分では、高齢層に我が国の社会保障が偏っていて、家族や子供への支出が少ない点、あるいは、格差が親から子供に継承される割合が高まっている点など、ついつい、保守的なエコノミストが故意に隠そうとしている点を明らかにしているのは好感が持てます。

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最後に、岩田弘三『アルバイトの誕生』(平凡社新書) です。著者は、武蔵野大学の研究者であり、専門は教育社会学です。ですから、大学生、というか、高等教育機関に属する学生雅楽業の傍らにする労働についての歴史をひも解いています。その中心に東京帝国大学ないし東京大学を置いていますから、かなり偏っているんではないかと私は読む前から感じていたのですが、そんなことはありませんでした。そもそも、明治期に開始された近代的な学校制度における高等教育機関の学生は、かなりの程度の富裕層の子弟であり、学業の傍らに働く必要なんてなかったのではないか、と私は想像していましたが、決してそんなことはなく、学費にも事欠く学生が一定の割合でいたことは少し驚きでした。さらに、終戦直後の混乱期とはいえ、東大生がふすま張りをやったり、大工仕事を請け負ったりと、驚きの歴史が展開されます。もちろん、学生アルバイトに対する偏見は根強く、アルバイト経験ある学生は採用しないといい出す大企業があったり、といった歴史も明らかにされます。就学の必要から切羽詰まった学生アルバイトから、今では「小遣い稼ぎ」という言葉もありますが、遊興費のためのアルバイトなど、働く側の学生にとっても幅広い対応がなされるとともに、雇用する側の企業にとっても、ほぼほぼ正社員ばかりだった高度成長期には、人手不足で正社員採用ができない人員を補充するために消極的な採用を行う学生アルバイトから、今では正社員を代替する戦力としての積極的なフリーターやアルバイトの活用まで、大きく労使ともに姿勢が変わってきてしまいました。私は大学教員として目の当たりにしていますが、現在のコロナ禍で学生アルバイトもまた大きな変化を迫られています。こういった学生生活に不可欠な要素となったアルバイトを考える上で、なかなかの参考文献といえます。
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