2022年03月09日 (水) 17:00:00
2021年10-12月期GDP統計速報2次QEはなぜ1次QEから下方修正されたのか?
本日、内閣府から昨年2021年10~12月期のGDP統計速報2次QEが公表されています。季節調整済みの前期比成長率は▲0.9%、年率では▲3.6%と、1次QEから上方修正されています。新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大が抑制されていた谷間の時期のGDP統計ですので、成長率がとても高く出ています。現時点では、新たなオミクロン型変異株の感染拡大やロシアによるウクライナ侵攻など、先行きはまだ大きな不透明感が残ります。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
ということで、いつもの通り、とても適確にいろんなことが取りまとめられた記事なんですが、次に、GDPコンポーネントごとの成長率や寄与度を表示したテーブルは以下の通りです。基本は、雇用者報酬を含めて季節調整済み実質系列の前期比をパーセント表示したものですが、表示の通り、名目GDPは実質ではなく名目ですし、GDPデフレータと内需デフレータだけは季節調整済み系列の前期比ではなく、伝統に従って季節調整していない原系列の前年同期比となっています。また、項目にアスタリスクを付して、数字がカッコに入っている民間在庫と内需寄与度・外需寄与度は前期比成長率に対する寄与度表示となっています。もちろん、計数には正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、 です。正確な計数は自己責任で最初にお示しした内閣府のリンク先からお願いします。
上のテーブルに加えて、いつもの需要項目別の寄与度を示したグラフは以下の通りです。青い折れ線でプロットした季節調整済みの前期比成長率に対して積上げ棒グラフが需要項目別の寄与を示しており、左軸の単位はパーセントです。グラフの色分けは凡例の通りとなっていますが、本日発表された昨年2021年10~12月期の最新データでは、前期比成長率がプラス成長を示し、GDPのコンポーネントのうち赤の消費と水色の設備投資のプラス寄与が大きくなっています。

まず、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは前期比年率成長率が+5.5%と、1次QEの+5.4%をわずかながら上回る上方改定と見込まれていましたが、実績は+4.6%でしたので、それなりの大きさのプラス成長ではあるものの、やや意外感を持って私は受け止めました。というのは、先週の法人企業統計に従って改定される設備投資が1次QEの前期比+0.4%増から、2次QEでは+0.3%増に下方改定された点が上げられます。しかし、最大の下振れ要因は消費であり、1次QEの前期比+2.7%増から、2次QEでは+2.4%に修正されています。GDP成長率が前期比で1次QEの+1.3%から、2次QEでは+1.1%へと、▲0.2%ポイント下方修正されたうちの半分の▲0.1%の寄与を消費が及ぼしています。2次QEで消費が下方改定された背景は2点考えることが出来ます。第1に、おそらく、私の見方ながら、1次QEの時点で織り込まれた消費から、12月データなどの遅れて2次QEに組み込まれる消費指標が、オミクロン型変異株の影響などにより、徐々に時間の経過とともに悪化していた可能性です。特に、私のこのブログでは、統計のブレの少なさ、というか、安定性を考慮して、消費の月次の代理変数は総務省統計局の家計調査ではなく、経済産業省の商業販売統計で見ています。いつも繰り返して言及しているように、包括的な消費の指標である家計調査よりも、商業販売統計は物販が中心で新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響がより強く現れるサービス業のウェイトが極めて小さく、COVID-19の影響を過小評価している恐れがあります。第2に、グラフでは取り上げませんが、上のテーブルにも見られるように、雇用者報酬が2021年10~12月期だけでなく、かなりさかのぼって下方改定されています。今まで、雇用に連動して雇用者報酬も堅調な動きと考えてきましたが、そうではない可能性があります。最後に、消費だけでなく国内需要全体については、交易条件の悪化が現れ始めています。すなわち、極めて大雑把ながら、前期比で+1%を超えるGDP成長率と、逆に、+1%に届かない国内総所得(GDI)や国民総所得(GNI)の伸びとの差は交易条件です。昨年10~12月期以降、特に、ロシアのウクライナ侵攻が始まってからの国際商品市況における石油をはじめとする資源価格の高騰により交易条件が悪化し、所得が流出している可能性があります。輸入価格が上昇していますので、輸入を控除項目とするGDPデフレータが低下している一方で、輸入価格が国内物価に波及していることから国内需要デフレータは上昇しています。このあたりは、政策の舵取りが難しい可能性があると私は考えています。
最後に、足元の景気から考えて、1~3月期はかなりマイナス成長の可能性が高いと私は見込んでいます。また、COVID-19オミクロン型変異株の新規感染はピークアウトしつつある一方で、ロシアのウクライナ侵攻のゆくえについては、私はまったく何の見通しも持ち合わせません。まあ、COVID-19の感染の先行きも判らないのですが、いずれにせよ、COVID-19とロシア/ウクライナ情勢が経済外要因として日本経済の先行きの不透明さを増していることは明らかです。
GDP年率4.6%増に下方修正、21年10-12月期改定値
内閣府が9日発表した2021年10~12月期の国内総生産(GDP)改定値は物価変動の影響を除いた実質で前期比1.1%増、年率4.6%増だった。2月に公表した速報値(前期比1.3%増、年率5.4%増)から下方修正した。個人消費や企業の設備投資などが下振れした。
QUICKが事前にまとめた民間エコノミスト予測の中心値(年率5.5%増)を下回った。GDPの半分以上を占める個人消費が前期比2.4%増と速報値(2.7%増)から下向きに見直した。速報段階以降に公表された統計で12月の個人消費が想定より少なかった。
自動車販売の減少で耐久財は8.9%増と速報値(9.7%増)から落ち込んだ。外食や鉄道輸送などが減ったサービス消費も3.1%増と速報値(3.5%増)から下方修正した。
財務省が2日発表した10~12月期の法人企業統計などを設備投資に反映した。設備投資は前期比0.3%増で、速報値(0.4%増)から下方修正した。速報段階より後に公表された統計でソフトウエア投資が想定よりも少なかったのを加味した。
公共投資は3.8%減で速報値(3.3%減)から下振れした。速報値の公表後に明らかになった12月分の実績を反映した。
10~12月期の実質GDPは実額で540兆円となり、速報値(541兆円)から減った。コロナ前の19年10~12月期(542兆円)の水準から遠のいた。
21年通年は1.6%増で、速報段階の1.7%増から減速した。10~12月期の下振れが押し下げ要因となった。
ということで、いつもの通り、とても適確にいろんなことが取りまとめられた記事なんですが、次に、GDPコンポーネントごとの成長率や寄与度を表示したテーブルは以下の通りです。基本は、雇用者報酬を含めて季節調整済み実質系列の前期比をパーセント表示したものですが、表示の通り、名目GDPは実質ではなく名目ですし、GDPデフレータと内需デフレータだけは季節調整済み系列の前期比ではなく、伝統に従って季節調整していない原系列の前年同期比となっています。また、項目にアスタリスクを付して、数字がカッコに入っている民間在庫と内需寄与度・外需寄与度は前期比成長率に対する寄与度表示となっています。もちろん、計数には正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、 です。正確な計数は自己責任で最初にお示しした内閣府のリンク先からお願いします。
需要項目 | 2020/10-12 | 2021/1-3 | 2021/4-6 | 2021/7-9 | 2021/10-12 | |
1次QE | 2次QE | |||||
国内総生産 (GDP) | +1.9 | ▲0.5 | +0.6 | ▲0.7 | +1.3 | +1.1 |
民間消費 | +1.6 | ▲0.8 | +0.7 | ▲1.0 | +2.7 | +2.4 |
民間住宅 | ▲0.1 | +0.9 | +1.0 | ▲1.6 | ▲0.9 | ▲1.0 |
民間設備 | +1.2 | +0.4 | +2.0 | ▲2.4 | +0.4 | +0.3 |
民間在庫 * | (▲0.2) | (+0.1) | (+0.0) | (+0.1) | (▲0.1) | (▲0.1) |
公的需要 | +0.9 | ▲0.8 | ▲1.0 | +0.2 | ▲0.9 | ▲1.0 |
内需寄与度 * | (+1.1) | (▲0.4) | (+0.7) | (▲0.8) | (+1.1) | (+0.9) |
外需寄与度 * | (+0.7) | (▲0.1) | (▲0.1) | (+0.1) | (+0.2) | (+0.2) |
輸出 | +10.7 | +2.2 | +3.1 | ▲0.3 | +1.0 | +0.9 |
輸入 | +5.6 | +3.0 | +3.8 | ▲1.0 | ▲0.3 | ▲0.4 |
国内総所得 (GDI) | +1.9 | ▲1.1 | +0.1 | ▲1.5 | +0.7 | +0.5 |
国民総所得 (GNI) | +2.1 | ▲1.0 | +0.2 | ▲1.6 | +0.8 | +0.6 |
名目GDP | +1.3 | ▲0.5 | +0.2 | ▲1.1 | +0.5 | +0.3 |
雇用者報酬 | +1.7 | +1.3 | +0.2 | ▲0.3 | +0.3 | +0.2 |
GDPデフレータ | +0.2 | ▲0.1 | ▲1.1 | ▲1.2 | ▲1.2 | ▲1.3 |
内需デフレータ | ▲0.7 | ▲0.5 | +0.3 | +0.5 | +1.1 | +1.1 |
上のテーブルに加えて、いつもの需要項目別の寄与度を示したグラフは以下の通りです。青い折れ線でプロットした季節調整済みの前期比成長率に対して積上げ棒グラフが需要項目別の寄与を示しており、左軸の単位はパーセントです。グラフの色分けは凡例の通りとなっていますが、本日発表された昨年2021年10~12月期の最新データでは、前期比成長率がプラス成長を示し、GDPのコンポーネントのうち赤の消費と水色の設備投資のプラス寄与が大きくなっています。

まず、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは前期比年率成長率が+5.5%と、1次QEの+5.4%をわずかながら上回る上方改定と見込まれていましたが、実績は+4.6%でしたので、それなりの大きさのプラス成長ではあるものの、やや意外感を持って私は受け止めました。というのは、先週の法人企業統計に従って改定される設備投資が1次QEの前期比+0.4%増から、2次QEでは+0.3%増に下方改定された点が上げられます。しかし、最大の下振れ要因は消費であり、1次QEの前期比+2.7%増から、2次QEでは+2.4%に修正されています。GDP成長率が前期比で1次QEの+1.3%から、2次QEでは+1.1%へと、▲0.2%ポイント下方修正されたうちの半分の▲0.1%の寄与を消費が及ぼしています。2次QEで消費が下方改定された背景は2点考えることが出来ます。第1に、おそらく、私の見方ながら、1次QEの時点で織り込まれた消費から、12月データなどの遅れて2次QEに組み込まれる消費指標が、オミクロン型変異株の影響などにより、徐々に時間の経過とともに悪化していた可能性です。特に、私のこのブログでは、統計のブレの少なさ、というか、安定性を考慮して、消費の月次の代理変数は総務省統計局の家計調査ではなく、経済産業省の商業販売統計で見ています。いつも繰り返して言及しているように、包括的な消費の指標である家計調査よりも、商業販売統計は物販が中心で新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響がより強く現れるサービス業のウェイトが極めて小さく、COVID-19の影響を過小評価している恐れがあります。第2に、グラフでは取り上げませんが、上のテーブルにも見られるように、雇用者報酬が2021年10~12月期だけでなく、かなりさかのぼって下方改定されています。今まで、雇用に連動して雇用者報酬も堅調な動きと考えてきましたが、そうではない可能性があります。最後に、消費だけでなく国内需要全体については、交易条件の悪化が現れ始めています。すなわち、極めて大雑把ながら、前期比で+1%を超えるGDP成長率と、逆に、+1%に届かない国内総所得(GDI)や国民総所得(GNI)の伸びとの差は交易条件です。昨年10~12月期以降、特に、ロシアのウクライナ侵攻が始まってからの国際商品市況における石油をはじめとする資源価格の高騰により交易条件が悪化し、所得が流出している可能性があります。輸入価格が上昇していますので、輸入を控除項目とするGDPデフレータが低下している一方で、輸入価格が国内物価に波及していることから国内需要デフレータは上昇しています。このあたりは、政策の舵取りが難しい可能性があると私は考えています。
最後に、足元の景気から考えて、1~3月期はかなりマイナス成長の可能性が高いと私は見込んでいます。また、COVID-19オミクロン型変異株の新規感染はピークアウトしつつある一方で、ロシアのウクライナ侵攻のゆくえについては、私はまったく何の見通しも持ち合わせません。まあ、COVID-19の感染の先行きも判らないのですが、いずれにせよ、COVID-19とロシア/ウクライナ情勢が経済外要因として日本経済の先行きの不透明さを増していることは明らかです。
| BLOG TOP |