2023年02月28日 (火) 13:00:00
大きな減産となった鉱工業生産指数(IIP)とインバウンドで堅調な伸び続く商業販売統計をどう見るか?
本日は、月末閣議日ということで、経済産業省から鉱工業生産指数(IIP)と商業販売統計が、それぞれ公表されています。いずれも1月統計です。IIP生産指数は季節調整済みの系列で前月から▲4.6%の減産でした。商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額は、季節調整していない原系列の統計で前年同月比+6.3%増の13兆150億円でした。季節調整済み指数では前月から+1.9%の増加を記録しています。まず、日経新聞のサイトから各統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。
とてつもなく長くなりましたが、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは下の通りです。上のパネルは2015年=100となる鉱工業生産指数そのものであり、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷のそれぞれの指数です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

まず、引用した記事にはありませんが、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、鉱工業生産指数(IIP)は予測中央値で▲2.7%、下限で▲4.2%の減産でしたので、実績の▲4.6%減は加減を下回って、少しサプライズだったかもしれません。統計作成官庁である経済産業省では生産の基調判断を「生産は弱含んでいる」で据え置いています。先月の下方修正を維持した形です。欧米先進国ではインフレ抑制のために急激な金融引締を進めており、海外景気は大きく減速していますので、これも含めて内外の需要要因の方が大きいと私は考えています。例えば、経済産業省の解説サイトでは、昨年後半からの精算動向について、7-8月は「部材供給不足の影響が緩和」して増産、9-10月は増産の「反動」により減産、11-12月は「化学工業(除.無機・有機化学工業)や食料品・たばこ工業などが堅調」であり増産、と要因を解説しています。1月には、「自動車工業や生産用機械工業を始めとして多くの業種」で減産となっています。他方で、製造工業生産予測指数を見ると、足元の2月は+8.0%、3月も+0.7%の増産と、それぞれ予想されています。もっとも、上方バイアスを除去すると、2月の予想は前月比+1.3%となります。産業別に1月統計を少し詳しく見ると、減産寄与が大きいのは自動車工業の前月比▲10.1%減、寄与度▲1.45%、生産用機械工業の前月比▲13.5%減、寄与度▲1.23%減、電子部品・デバイス工業の前月比▲4.2%減、寄与度▲0.25%、などとなっています。逆に、生産増の寄与がもっとも大きかった産業は汎用・業務用機械工業の前月比+5.1%増、寄与度+0.37%、化学工業(除、無機・有機化学工業・医薬品)の前月比+3.9%増、寄与度+0.17%、石油・石炭製品工業の前月比+6.6%増、寄与度+0.06%、などとなります。

続いて、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額のグラフは上の通りです。上のパネルは季節調整していない小売業販売額の前年同月比増減率を、下は季節調整指数をそのままを、それぞれプロットしています。影を付けた部分は景気後退期を示しています。小売業販売額は新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大による行動制限のない状態が続いており、外出する機会にも恵まれて堅調に推移しています。今年のゴールデンウィーク明けにはCOVID-19が感染法上の5類に分類されるようですから、小売業をはじめとする商業販売の上では、インバウンドも含めて追い風といえるかもしれません。季節調整済み指数の後方3か月移動平均でかなり機械的に判断している経済産業省のリポートでは、1月までのトレンドで、この3か月後方移動平均の前月比が+0.6%の上昇となり、引用した記事にもある通り、基調判断を「持ち直している」から「緩やかな上昇傾向」に引き上げています。他方で、消費者物価指数(CPI)との関係では、今年2023年1月統計では前年同月比で+4%超のインフレ率となっており、小売業販売額の1月統計の+6.3%の増加はこれを超えていて、実質でも小売業販売額は前年同月比でプラスになっている可能性があります。通常は、インフレの高進と同時に消費の停滞も生じるのですが、国内需要ではなく海外からのインバウンドにより小売業販売額の伸びが支えられてい可能性があります。ですから、国内消費の実態よりも過大に評価されている可能性が否定できません。他方で、最近まで石油価格の上昇に伴って増加を示していた燃料小売業が、1月統計の前年同月比では+0.7%の増加にまで縮小しています。おそらく、数量ベースではさらに停滞感が強まっている可能性が強いと私は考えています。
1月の鉱工業生産4.6%低下 3カ月ぶりマイナス
経済産業省が28日発表した1月の鉱工業生産指数(2015年=100、季節調整済み)速報値は91.4となり、前月から4.6%下がった。低下は3カ月ぶり。中国・上海市がロックダウン(都市封鎖)されていた22年5月(88.0)以来の低水準となった。半導体不足で自動車工業が落ち込み、半導体産業の設備投資の先送りで生産用機械工業も振るわなかった。
新型コロナウイルス流行前の19年平均(101.1)を下回る水準となった。生産の基調判断は「弱含み」を維持した。
生産は全15業種のうち、12業種で低下した。普通乗用車や駆動伝導部品といった自動車工業は前月比で10.1%のマイナスだった。半導体不足を受け、米国や中国向けの輸出が減少した。大雪の影響で工場生産も滞っていた。
半導体製造装置などの生産用機械工業は13.5%のマイナスだった。国内外で設備投資を延期する動きがあったという。スマートフォンの需要低迷を背景に、メモリ半導体といった電子部品・デバイス工業も4.2%のマイナスとなった。
残る3業種は上昇した。汎用・業務用機械工業はコンベヤーで国内大型案件が成立し、5.1%のプラスだった。無機・有機化学工業・医薬品を除いた化学工業は3.9%上昇した。新製品発売を受け、頭髪用化粧品などが伸びた。
主要企業の生産計画から算出する生産予測指数は2月に前月比8.0%の上昇を見込む。企業の予測は上振れしやすく、例年の傾向をふまえた経産省の補正値は1.3%のプラスとした。部材供給不足の緩和で、生産用機械工業や輸送機械工業が伸びるとみる。3月の予測指数は0.7%上昇となっている。
経産省の担当者は今後の見通しについて「コロナ感染の拡大状況や物価上昇の影響に加え、企業が先送りした投資計画が2~3月に実施されるか注目する必要がある」と話した。
小売販売額6.3%増 1月、11カ月連続でプラス
経済産業省が28日発表した1月の商業動態統計速報によると、小売業販売額は前年同月比6.3%増の13兆150億円だった。11カ月連続で前年同月を上回った。インバウンド(訪日外国人)の復調や飲食料品の価格上昇などが寄与した。
業態別でみると、百貨店は前年同月比14.4%増の4764億円と大きく伸びた。スーパーは3.1%増の1兆2989億円、コンビニエンスストアは4.1%増の9924億円、ドラッグストアは4.9%増の6479億円だった。
一方、家電大型専門店は1.2%減の4184億円、ホームセンターは1.7%減の2462億円とマイナスだった。
小売業販売額の季節調整済みの指数は108.7で、前月から1.9%上昇した。経産省は基調判断を「持ち直している」から「緩やかな上昇傾向にある」に引き上げた。
とてつもなく長くなりましたが、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは下の通りです。上のパネルは2015年=100となる鉱工業生産指数そのものであり、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷のそれぞれの指数です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

まず、引用した記事にはありませんが、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、鉱工業生産指数(IIP)は予測中央値で▲2.7%、下限で▲4.2%の減産でしたので、実績の▲4.6%減は加減を下回って、少しサプライズだったかもしれません。統計作成官庁である経済産業省では生産の基調判断を「生産は弱含んでいる」で据え置いています。先月の下方修正を維持した形です。欧米先進国ではインフレ抑制のために急激な金融引締を進めており、海外景気は大きく減速していますので、これも含めて内外の需要要因の方が大きいと私は考えています。例えば、経済産業省の解説サイトでは、昨年後半からの精算動向について、7-8月は「部材供給不足の影響が緩和」して増産、9-10月は増産の「反動」により減産、11-12月は「化学工業(除.無機・有機化学工業)や食料品・たばこ工業などが堅調」であり増産、と要因を解説しています。1月には、「自動車工業や生産用機械工業を始めとして多くの業種」で減産となっています。他方で、製造工業生産予測指数を見ると、足元の2月は+8.0%、3月も+0.7%の増産と、それぞれ予想されています。もっとも、上方バイアスを除去すると、2月の予想は前月比+1.3%となります。産業別に1月統計を少し詳しく見ると、減産寄与が大きいのは自動車工業の前月比▲10.1%減、寄与度▲1.45%、生産用機械工業の前月比▲13.5%減、寄与度▲1.23%減、電子部品・デバイス工業の前月比▲4.2%減、寄与度▲0.25%、などとなっています。逆に、生産増の寄与がもっとも大きかった産業は汎用・業務用機械工業の前月比+5.1%増、寄与度+0.37%、化学工業(除、無機・有機化学工業・医薬品)の前月比+3.9%増、寄与度+0.17%、石油・石炭製品工業の前月比+6.6%増、寄与度+0.06%、などとなります。

続いて、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額のグラフは上の通りです。上のパネルは季節調整していない小売業販売額の前年同月比増減率を、下は季節調整指数をそのままを、それぞれプロットしています。影を付けた部分は景気後退期を示しています。小売業販売額は新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大による行動制限のない状態が続いており、外出する機会にも恵まれて堅調に推移しています。今年のゴールデンウィーク明けにはCOVID-19が感染法上の5類に分類されるようですから、小売業をはじめとする商業販売の上では、インバウンドも含めて追い風といえるかもしれません。季節調整済み指数の後方3か月移動平均でかなり機械的に判断している経済産業省のリポートでは、1月までのトレンドで、この3か月後方移動平均の前月比が+0.6%の上昇となり、引用した記事にもある通り、基調判断を「持ち直している」から「緩やかな上昇傾向」に引き上げています。他方で、消費者物価指数(CPI)との関係では、今年2023年1月統計では前年同月比で+4%超のインフレ率となっており、小売業販売額の1月統計の+6.3%の増加はこれを超えていて、実質でも小売業販売額は前年同月比でプラスになっている可能性があります。通常は、インフレの高進と同時に消費の停滞も生じるのですが、国内需要ではなく海外からのインバウンドにより小売業販売額の伸びが支えられてい可能性があります。ですから、国内消費の実態よりも過大に評価されている可能性が否定できません。他方で、最近まで石油価格の上昇に伴って増加を示していた燃料小売業が、1月統計の前年同月比では+0.7%の増加にまで縮小しています。おそらく、数量ベースではさらに停滞感が強まっている可能性が強いと私は考えています。
2023年02月27日 (月) 17:00:00
今日はポケモンデー2023、もう27周年なんですね
2023年02月27日 (月) 15:00:00
リクルートによる1月のアルバイト・パートと派遣スタッフの募集時平均時給やいかに?
今週金曜日3月3日の雇用統計の公表を前に、ごく簡単に、リクルートによる9月のアルバイト・パートと派遣スタッフの募集時平均時給の調査結果を取り上げておきたいと思います。参照しているリポートは以下の通りです。計数は正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、以下の出典に直接当たって引用するようお願いします。

まず、いつものグラフは上の通りです。アルバイト・パートの時給の方は、前年同月比で見て、昨年2022年11月+2.3%増、12月+3.3%増の後、今年2023年1月も+2.9%増と順調に伸びています。ただし、足元でやや伸びが鈍化している上に、+4%を超える消費者物価指数(CPI)の上昇率には追いついておらず、実質賃金はマイナスと想像されますので、もう一弾の伸びを期待してしまいます。でも、時給の水準を見れば、昨年2021年年央からコンスタントに1,100円を上回る水準が続いており、かなり堅調な動きを示しています。10月には最低賃金が時給当たりで約30円ほど上昇しましたので、その影響も出た可能性はあります。他方、派遣スタッフの方は昨年2022年11月+1.8%増、12月+2.0%増の後、今年2023年1月も+2.2%増と、伸びを加速させていますが、こちらも消費者物価指数(CPI)の上昇率を下回っています。
まず、三大都市圏全体のアルバイト・パートの平均時給の前年同月比上昇率は、繰り返しになりますが、1月には前年同月より2.9%、+32円増加の1,142円を記録しています。職種別では、「フード系」(+52円、+5.0%)、「製造・物流・清掃系」(+37円、+3.3%)、「専門職系」(37円、+2.9%)、「販売・サービス系」(+27円、+2.5%)で上昇を示した一方で、「事務系」(▲13円、▲1.1%)、「営業系」(▲73円、▲5.7%)、では減少しています。「フード系」では過去最高額になっています。なお、地域別では関東・東海・関西のすべての三大都市圏でプラスとなっています。
続いて、三大都市圏全体の派遣スタッフの平均時給は、1月には前年同月より+2.2%、+35円増加の1,602円になりました。職種別では、「クリエイティブ系」(+87円、+4.8%)、「製造・物流・清掃系」(+53円、+4.0%)、「IT・技術系」(+78円、+3.7%)、「営業・販売・サービス系」(+37円、+2.6%)、「オフィスワーク系」(+4円、+0.3%)、「医療介護・教育系」(+4円、+0.3%)、とすべてプラスとなっています。「営業・販売・サービス系」、「製造・物流・清掃系」、「クリエイティブ系」、「IT・技術系」の4職種では過去最高を記録しています。なお、地域別でも関東・東海・関西のすべての三大都市圏でプラスとなっています。
基本的に、アルバイト・パートも派遣スタッフもお給料は堅調といえますが、物価上昇を下回っていて実質賃金は減少していると考えるべきです。加えて、日本以外の多くの先進国ではインフレ率の高まりに対応して金利引上げなどの金融引締め政策に転じていることから、世界経済が景気後退の瀬戸際にあることは確実であり、雇用の先行きについては下振れ懸念が払拭されていないと考えるべきです。

まず、いつものグラフは上の通りです。アルバイト・パートの時給の方は、前年同月比で見て、昨年2022年11月+2.3%増、12月+3.3%増の後、今年2023年1月も+2.9%増と順調に伸びています。ただし、足元でやや伸びが鈍化している上に、+4%を超える消費者物価指数(CPI)の上昇率には追いついておらず、実質賃金はマイナスと想像されますので、もう一弾の伸びを期待してしまいます。でも、時給の水準を見れば、昨年2021年年央からコンスタントに1,100円を上回る水準が続いており、かなり堅調な動きを示しています。10月には最低賃金が時給当たりで約30円ほど上昇しましたので、その影響も出た可能性はあります。他方、派遣スタッフの方は昨年2022年11月+1.8%増、12月+2.0%増の後、今年2023年1月も+2.2%増と、伸びを加速させていますが、こちらも消費者物価指数(CPI)の上昇率を下回っています。
まず、三大都市圏全体のアルバイト・パートの平均時給の前年同月比上昇率は、繰り返しになりますが、1月には前年同月より2.9%、+32円増加の1,142円を記録しています。職種別では、「フード系」(+52円、+5.0%)、「製造・物流・清掃系」(+37円、+3.3%)、「専門職系」(37円、+2.9%)、「販売・サービス系」(+27円、+2.5%)で上昇を示した一方で、「事務系」(▲13円、▲1.1%)、「営業系」(▲73円、▲5.7%)、では減少しています。「フード系」では過去最高額になっています。なお、地域別では関東・東海・関西のすべての三大都市圏でプラスとなっています。
続いて、三大都市圏全体の派遣スタッフの平均時給は、1月には前年同月より+2.2%、+35円増加の1,602円になりました。職種別では、「クリエイティブ系」(+87円、+4.8%)、「製造・物流・清掃系」(+53円、+4.0%)、「IT・技術系」(+78円、+3.7%)、「営業・販売・サービス系」(+37円、+2.6%)、「オフィスワーク系」(+4円、+0.3%)、「医療介護・教育系」(+4円、+0.3%)、とすべてプラスとなっています。「営業・販売・サービス系」、「製造・物流・清掃系」、「クリエイティブ系」、「IT・技術系」の4職種では過去最高を記録しています。なお、地域別でも関東・東海・関西のすべての三大都市圏でプラスとなっています。
基本的に、アルバイト・パートも派遣スタッフもお給料は堅調といえますが、物価上昇を下回っていて実質賃金は減少していると考えるべきです。加えて、日本以外の多くの先進国ではインフレ率の高まりに対応して金利引上げなどの金融引締め政策に転じていることから、世界経済が景気後退の瀬戸際にあることは確実であり、雇用の先行きについては下振れ懸念が払拭されていないと考えるべきです。
2023年02月26日 (日) 16:30:00
今年初めての野球観戦は打撃戦で日本ハムに競り負ける
一 | 二 | 三 | 四 | 五 | 六 | 七 | 八 | 九 | R | H | E | ||
阪 神 | 3 | 1 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 1 | 0 | 6 | 12 | 1 | |
日本ハム | 1 | 1 | 1 | 0 | 0 | 1 | 3 | 1 | x | 8 | 11 | 1 |
今年初めての野球観戦でした。
まだ2月ですから、勝敗はこだわるべきではありませんし、選手の調子は仕上がり次第ですから、それほど神経質になる必要もないと思います。ゆったりとした野球観戦です。目についた選手は、日本ハムにトレードで出した江越選手です。守備では、阪神ドラ1ルーキーの森下選手の左中間の当たりをスライディング・キャッチしてシングルで止めたり、打つ方でも、レフト線の当たりで送球ミスもあったとはいえ一気にホームを駆け抜けたりと、本来の能力が発揮されている気がしました。ソフトバンクにトレードされた中谷選手が引退というニュースを聞きましたが、江越選手とともに阪神で育て切れなかった恨みが募ります。米国大リーグに渡った藤浪投手も頑張って欲しいと思います。
今年こそリーグ優勝と日本一目指して、
がんばれタイガース!
2023年02月25日 (土) 09:00:00
今週の読書は不平等に関する教科書をはじめとしてミステリ小説まで計6冊
今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、平沢和司『格差の社会学入門[第2版]』(北海道大学出版会)では、社会学ないし経済学の教科書として執筆されていて、格差や不平等について、特に、現在の日本で機会の平等はホントに確保されているのか、について議論しています。続いて、鮫島浩『朝日新聞政治部』(講談社)では、東日本大震災の際の福島第1原発の運営にかんする「吉田調書」の「誤報」事件の際にデスクだったジャーナリストが、ご自分の半生を振り返るとともに、メディアと権力の関係などについて論じています。続いて、トニ・マウント『中世イングランドの日常生活』(原書房)では、中世イングランドにタイムトラベルするとすれば、どのように生き残るか、について解説しています。続いて、今村夏子『とんこつQ&A』(講談社)は、芥川賞を受賞した小説家が、持ち前のやや不気味な雰囲気ある短編小説4話を収録しています。続いて、五十嵐彰・迫田さやか『不倫』(中公新書)では、社会学者と経済学者が不倫という婚外性交症について定量的な分析を加えています。最後に、ホリー・ジャクソン『優等生は探偵に向かない』(創元推理文庫)は、英国を舞台に女子高校生が行方不明になった友人の兄を探すというミステリです。シリーズの第2作です。
ということで、今年の新刊書読書は、先月1月中に20冊、そして、2月に入って先週まで14冊、今週の6冊を含めて計40冊となっています。これらの新刊書読書のほかにも何冊か読んでいますので、順次、Facebookやmixiでシェアしたいと思います。
まず、平沢和司『格差の社会学入門[第2版]』(北海道大学出版会)です。著者は、北海道大学の研究者であり、専門分野は社会学です。第2版であり、しかも、2021年年末の出版で1年余りを経過していますが、私の興味分野のひとつである格差や不平等に関する学術書ですので、まあ、いいとしておきます。繰り返しになりますが、出版社から軽く想像されるように、学術書です。しかし、本書冒頭にあるように、教科書としての役割を期待されているように、学生諸君にも理解しやすいような工夫がなされており、定量分析のいくつかのテクニカル・タームを別にすれば、一般ビジネスパーソンにも判りやすい内容となっている気がします。やや先進的な部分は「発展」として別枠で記述されていますし、「コラム」も適切に配置されています。ということで、本書の結論として、おそらくは社会学の観点から、平等と不平等を論じる際にもっとも重要な観点である「機会の平等」が現代日本では必ずしも確保されていない、という点が重要であると私は考えます。経済学的には、ついつい、平等と不平等を結果としての所得を代理変数として考えますが、社会学ですので排除や包摂とも考え合わせて、まあ、複雑ながら経済学よりも深みのある議論が展開されています。そして、平等と不平等を考える際に、原因から結果に向かう中間経路として、本書では教育ないし学歴を大きなポイントに据えています。要するに、制度上はあくまで義務教育ではないにも関わらず、ほぼほぼ事実上の全入制となった高校進学を前提として、ホントに機会の平等が保証されているのであれば、誰でもが大学に進学する機会を平等に有しているかどうか、について定量分析も含めて考察を加えています。そして、その結論は否定的といわざるを得ません。すなわち、日本では大学進学における機会の平等は確保されていない、ということになります。その詳細な議論は本書を読むしかないのですが、私は少なくとも機会の平等を考える上で、あるいは、貧困からの脱出を考える上で、大学進学は重要なポイントになると考えています。その点は本書の著者と基本的によく似た見方をしています。米国の「大統領経済報告」ではじめて示されたグレート・ギャッツビー曲線を援用したりして、定量的なパネル分析からも大学進学が「親ガチャ」からは独立ではありえない、という分析結果です。本書は社会学的な分析ですが、経済学的に私が授業で教えているポイントは、その昔の高度成長期に広く観察された雇用慣行である年功賃金制にあります。チョット見では、いかにも子供達が大きくなって大学進学などで教育費がかかる時期にお給料が上がるのは好ましく思えますが、実はそうではありません。というのは、親が大学授業料を負担できる給与体系である年功賃金をもらっているがために、いわば、行政がサボって大学の学費を低く抑える必要がなかったわけです。すべてではありませんが、米国などの一部を除いて欧州諸国、特に北欧諸国では大学の学費を極めて低く、しばしば無料にしている点は広く知られているとおりです。
次に、鮫島浩『朝日新聞政治部』』(講談社)です。作者は、長らく朝日新聞で記者をし、政治部を主にキャリアを積んだジャーナリストです。東日本大震災の折の福島第1原発の吉田調書に関する報道で処分を受けて、現在ではネットメディアを主催しているようです。本書では、基本的に著者自身の経験とある程度の憶測を交えながら、著者の半生の自伝を語りつつ、同時に、メディア論についても展開しています。すなわち、権力とメディアの距離感、そして、メディアの企業としてのあり方、などです。まず、よく知られたように、著者は朝日新聞特別報道部のデスクとして「吉田調書」を入手した部下とともに読み解き、吉田所長の待機命令に反して福島第1から第2に退避した職員がいたことを明らかにするスクープをモノにします。「新聞協会賞」に相当する快挙として社内ではもちろん、広く称賛されますが、実は、吉田所長の待機命令に反してではなく、その命令を知らずに避難した職員がいたのではないか、また、実際に退避した職員への取材がなされておらず、裏付けが取れていない、などといった疑問が持ち上がって、逆に「捏造」としてバッシングを受けます。社長が辞任し、現場の記者やデスクだった著者も処分を受けます。そして、同時に慰安婦問題に関する「吉田証言」も虚偽であったことなどをはじめとして、著者はここで朝日新聞は死んだと表現します。すなわち、権力の対するチェック機能とか、「社会の木鐸」と呼ばれる存在でなくなった、という意味なのだろうと私は考えています。そして、大手全国紙が横並びで東京オリンピックのスポンサーとなり、オリンピック開催反対の意見はしぼんでゆきます。現在では、大手メディアは権力と癒着し提灯持ちの記事が多くなっていることも事実です。本書に関して、私から2点だけ指摘しておきたいと思います。第1に、問題の「吉田調書」の読み方ですが、「待機命令に反して退避」というのは、「命令違反」というコンポーネントと「退避」というコンポーネントの2つの要素があり、私は報じられた当時から前者の「命令違反」がどこまで重要かを疑問視していました。むしろ、重点は「退避」の方にあるのではないか、という気がしていたからです。すなわち、現場を放棄して退避することが問題なのであって、命令違反というのはその退避という行動の悪質さをより重くするものであることは確かです。しかし、現場を放棄しての退避が重要と私が考えるにもかかわらず、本書でも「命令違反」の方に重点が置かれています。不思議です。この重心おき方を誤らなければ、この問題はここまでこじれることはなかったような気がします。本書で指摘する朝日新聞社内の危機管理体制以前の報道の問題です。第2に、本書の著者もそうですが、メディアと権力との距離感に関しては、記者クラブ制というシステムを考慮する必要があります。記者クラブという極めて特殊で排他的なシステムを、おそらく、全国紙やテレビのキー局の記者は当然のように考えているのでしょうが、地方紙や海外メディアからすれば、とてつもない特権としか見えません。こういった特権を与えたれているわけですから、全国紙やテレビなどのキー局が権力に近いという印象を持たれるのは当然です。私は、役所が主催する閣僚の出席する会議の写真を撮ろうとして、写真を撮れるのは記者クラブ所属のカメラマンだけ、といわれて諦めざるを得なかったことがあります。会議の事務方の公務員ですら写真が撮れなかったわけです。こういったべらぼうな特権を与えられている記者クラブ制がある限り、メディアの権力依存は続く、あるいは、少なくとも眉に唾つけて見る国民がいるような気がします。
次に、トニ・マウント『中世イングランドの日常生活』(原書房)です。著者は、歴史家、作家となっています。英語の原題は How to Survive in Medieval England であり、2021年の出版です。原題からほのかに理解できるように、21世紀の現代人が中世、本書では1154-1485年のプランタジネット王朝のころのイングランドにタイムトラベルしたとすれば、どのように生き残るか、という観点で記述されています。単純な修正の歴史書ではありません。まず、中世ですから、私が時折主張するように、英国=イギリスあるいは連合王国とイングランドが区別すべきです。本書でも、イングランドはスコットランドと戦争したりしています。おそらむ、本書の対象とする中世初期にはイングランドとウェールズでは言語がビミョーに違っていたのではないかと私は想像しています。そういった意味からも現代的にイングランドを英国やイギリスと同一視するべきではありません。ただ、細かい点ながら、タイトルに "survive" を用いているにも関わらず、以下に生計を維持するか、稼ぎを得るか、という観点は本書では極めて希薄であり、もっと原始的、というか、まるで無人島で生き残るかのような観点が支配的である点は申し述べておきたいと思います。まず、今もってそうなのですが、欧州諸国、というか、日本以外の多くの国は階級社会であって、所属する階級によっていかに生活するかは大きく異なります。最初の第2章の社会構造や住宅事情などは本書でもその観点がありますが、食べ物や医療事情になると、かなりの程度に忘れられている気がします。おそらく、電話や鉄道などはいかんともしがたいと思いますが、居宅近くでの日常生活では上流階級の人々は現在とそう遜色ない生活を送っていたのではないか、と私は想像します。だた、第2章の社会構造に次に第3章に信仰や宗教に関する歴史を持ってきているのは秀逸です。私はイングランドに限らず、おそらく、日本でも前近代においては宗教の果たしていた役割がかなり大きいと考えています。本書の対象とする期間のイングランドの宗教は、いうまでもなく、キリスト教の中でもカトリックなのですが、普段の日常生活を律するのは死後の天国と地獄ではなかったか、と私は想像しています。日本の中世のひとつの時代区分である鎌倉時代に仏教の新宗教が浄土宗や日蓮宗のように日本地場で起こるとともに、禅宗の臨済宗や曹洞宗が中国から持ち込まれたように、中世の12世紀から15世紀くらいまでは宗教の役割は大きかったですし、変化もありました。私の勝手な想像では、ゲーテが「もっと光を」といって死んだように、光が不足する、というか、夜が暗かったのが地獄をはじめとする異世界を想像たくましくさせたような気がします。今でも都会に比べて夜が暗い、というか、早くに暗くなる地方部では必ずしも宗教に限らず信心深い気がします。
次に、今村夏子『とんこつQ&A』(講談社)です。著者は、芥川賞を受賞した純文学の作家です。この作品は短編集であり、4話を収録しています。まず、表題作の「とんこつQ&A」では、大将と坊っちゃんで切り盛りする中華料理店「とんこつ」で30代半ばの独身女性である主人公が働き始めます。しかし、「いらっしゃいませ」や「ありがとうございました」すらいえなかったため、しゃべるのではなくメモを読み上げることで克服します。それから、挨拶をはじめとする店内で発するあらゆる会話、例えば、店の名前の由来、おすすめメニューなどをメモに記入し、「とんこつQ&A」を作り上げます。おしゃべりではなく、メモを読むことで対応するわけです。そこにもうひとり、主人公よりももっと鈍なアルバイトの丘崎さんが働き始めることになり、いろいろとお話が展開します。最後の結末は、思いもしなかったものでびっくりです。続いて、「嘘の道」では、小学校でのイジメられっ子の与田正のクラスメートの少女を主人公に、いじめられていた与田正が「イジメはよくない」という教師の指導などもあって、逆に、チヤホヤされるようになります。でも、おばあさんが教えられた近道でケガを負うという事件があり、濡れ衣を着せられた与田正が再びイジメにあいます。でも、おばあさんにその近道を教えたのが誰であるか、という真相は別のところにあるわけです。「良夫婦」では、小学生のタムに親切にする若妻を主人公に、タムがその主人公の家の庭にあるサクランボを取りに来て期から落ちて大怪我する時間があった際、すべてを処理する夫の事件処理のやり方を描き出しています。それは、夫婦が結婚前にそろって勤務していた介護サービス事業所での妻が起こした不都合な出来事の処理方法と同じでした。最後に、「冷たい大根の煮物」では、高校を卒業してひとり暮らしの工場勤務を始めた女性を主人公に、同じ工場の同僚で中年女性の柴山さんとの人間関係を描き出しています。柴山さんには寸借詐欺のウワサあるにも関わらず、主人公にはそれなりに親切で料理してくれたり、レシピを教えてくれたりします。でも、結局、柴山さんは工場を辞めることになります。あらすじは以上の通りですが、読者としては、主人公とそれ以外の登場人物の間のズレをどう考えるか、という点がポイントになります。ある意味で、ものすごく深い読み方をしなければ、この作者の作品をホントに味わうことが出来ないと私は考えており、その意味で、この短編集はこの作者の典型的な作品ともいえます。特に、4話の短編の中でも短めな「嘘の道」と「良夫婦」はホラーとすらいえる内容ですが、スラッと読めばホラーでも何でもなく読めてしまう可能性もあります。最後に、私もこの作者の作品をすべて読んだわけではありませんが、この作品の理解を進めるためには、『あひる』を読んでおくと参考になりそうな気がします。
次に、五十嵐彰・迫田さやか『不倫』(中公新書)です。著者は、社会学の研究者と経済学の研究者であり、おそらく、ともに計量分野のご経験が豊富と思います。本書ではタイトル通りに、不倫、本書では婚外性交渉と定義されている行為について定量的な分析を試みています。ただし、婚外性交渉とはいっても風俗店での行為や風俗店できっかけの出来たものは除外されています。定量的な分析ですから、その基礎となる情報を得るために、NTTコムオンラインでアンケート調査を実施しています。ただし、選挙におけるブラッドリー効果のように、アンケート調査で真の結果を得られていない可能性もありますから、そのあたりはリスト実験などの工夫がなされています。ということで、構成として、第1章で不倫とは何かを考え、第2章でどれくらいの人が不倫しているのかの把握に努め、p.31表2-1のような結果を得ています。すなわち、既婚男性の半分近く、既婚女性の15%ほどが、結婚後に現在進行形も含めて何処かの段階で不倫の経験あり、という結論です。第3章で、不倫しやすい属性を検討し、第4章で誰と不倫するのかを解明しています。軽く想像される通り、男性の場合は職場で不倫相手が見つかりやすい、ということがいえます。第5章で不倫の終わり方、あるいは、なぜ終わらないのか、を検討し、不倫行為に関する定量的な分析はここまでなのですが、最後の第6章で社会的に不倫を非難する人たちについても考察を進めています。本書でも言及されているように、シカゴ大学のノーベル経済賞を受賞したベッカー教授などの「経済学帝国主義者」が結婚の経済学を分析したことは有名ですが、本書は経済学的なアプローチもなくはないですが、基本的に、社会学的なアプローチを取っていると私はみなしています。日本においては、ほぼほぼ先行研究のない分野ですし、本書も新書とはいえ、定量分析の手法の選択や参考文献の渉猟など、学術書とみなしていいと私は考えます。いくつかの章の終わりに置かれている補論は学術書っぽくなないですが、まあ、いいとします。ですから、基本的に、本書の不倫に関する分析結果は、諸外国、特に、米国の先行研究との整合性も考えると、十分に受入れ可能なものだといえます。分析結果は本書を読んでいただくしかありませんが、十分に評価するという私の基本を踏まえた上で、たった1点だけ指摘したのは、不倫においてマッチング・サービスの果たす役割です。基本的に、マッチング・サービスは結婚を希望する人々に開かれていて、私のような高齢の既婚者には関係ないと考えていますので、私はまったく情報がありませんが、おそらく、あくまでおそらくですが、既婚者の不倫行動に対して何らかのポジティブな役割を果たしている可能性が否定できません。でも、本書では、それについてはまったく無視しているように見えます。
最後に、ホリー・ジャクソン『優等生は探偵に向かない』(創元推理文庫)です。著者は、英国のミステリ作家です。この作品は、英国のリトル・キルトンのグラマー・スクール最上級生のピップ(ピッパ)が探偵役を務めるシリーズの第2作であり、前作は『自由研究には向かない殺人』であり、3部作といわれています。英語の原題は Good Girl, Bad Blood であり、2020年の出版です。3部作最後の As Good As Dead もそのうちに邦訳されることと私は想像しています。ということで、この作品では、主人公のピップに友人のコナー・レノルズから兄のジェイミーが失踪したので行方を探して欲しいと依頼が入ります。ほぼほぼ1週間7日が経過してもジェイミーは見つかりません。その間に、ピップは着々とリサーチを進めるわけです。前作と違って、この作品ではPodCastが多用されます。ミステリですので、あらすじも早々に、5点ほど指摘しておきたいと思います。第1に、前作では主人公のピップはきわめて強気に捜索を進めたのですが、この作品では少なくとも前作に比べれば控えめです。最後の方に、ピップの仲間、すなわち、前作で相棒になったラヴィ・シンとこの作品の依頼者のコナー・レノルズが家宅侵入をしたりしますが、まあ、強気な捜索というよりは控えめといっていいと思います。第2に、前作でも女子高生(当時)の行方不明事件であって、殺人事件とは確定していませんでしたが、本作品でもやっぱり行方不明事件です。ただ、この作品では最後の最後に殺人事件が起こります。主人公のピップの目前での銃撃殺人ですので犯人探しは不要ですが、生々しい殺人が描かれていることは確かです。第3に、この作品では有色人種に対する差別はそれほど大きく扱われていません。記者のスタンリーは前作では差別意識が激しい人物とされていたように私は記憶していますが、別の事情もあって、この作品ではとても好意的に、しかも、主人公のピップも同情を寄せるように描かれています。やや矛盾を感じる読者は私だけではないと思います。第4に、先週レビューした『罪の壁』で少し言及しましたが、このシリーズは登場人物が多岐に渡り、隠れた顔がいっぱいあります。それを「深みがある」と称するかどうかはともかく、極めて複雑なミステリ作品に仕上がっていることは確かです。第5に、最初の作品である『自由研究には向かない殺人』に比較して、この作品はミステリとしてクオリティは大きく落ちます。3部作の最後の作品がやや心配です。最後に、おそらく、作者はまったくあずかり知らぬことなのでしょうが、日本人であれば神戸の連続児童殺傷事件、俗にいう「酒鬼薔薇事件」を強く思い起こさせる可能性があります。
まず、平沢和司『格差の社会学入門[第2版]』(北海道大学出版会)では、社会学ないし経済学の教科書として執筆されていて、格差や不平等について、特に、現在の日本で機会の平等はホントに確保されているのか、について議論しています。続いて、鮫島浩『朝日新聞政治部』(講談社)では、東日本大震災の際の福島第1原発の運営にかんする「吉田調書」の「誤報」事件の際にデスクだったジャーナリストが、ご自分の半生を振り返るとともに、メディアと権力の関係などについて論じています。続いて、トニ・マウント『中世イングランドの日常生活』(原書房)では、中世イングランドにタイムトラベルするとすれば、どのように生き残るか、について解説しています。続いて、今村夏子『とんこつQ&A』(講談社)は、芥川賞を受賞した小説家が、持ち前のやや不気味な雰囲気ある短編小説4話を収録しています。続いて、五十嵐彰・迫田さやか『不倫』(中公新書)では、社会学者と経済学者が不倫という婚外性交症について定量的な分析を加えています。最後に、ホリー・ジャクソン『優等生は探偵に向かない』(創元推理文庫)は、英国を舞台に女子高校生が行方不明になった友人の兄を探すというミステリです。シリーズの第2作です。
ということで、今年の新刊書読書は、先月1月中に20冊、そして、2月に入って先週まで14冊、今週の6冊を含めて計40冊となっています。これらの新刊書読書のほかにも何冊か読んでいますので、順次、Facebookやmixiでシェアしたいと思います。
まず、平沢和司『格差の社会学入門[第2版]』(北海道大学出版会)です。著者は、北海道大学の研究者であり、専門分野は社会学です。第2版であり、しかも、2021年年末の出版で1年余りを経過していますが、私の興味分野のひとつである格差や不平等に関する学術書ですので、まあ、いいとしておきます。繰り返しになりますが、出版社から軽く想像されるように、学術書です。しかし、本書冒頭にあるように、教科書としての役割を期待されているように、学生諸君にも理解しやすいような工夫がなされており、定量分析のいくつかのテクニカル・タームを別にすれば、一般ビジネスパーソンにも判りやすい内容となっている気がします。やや先進的な部分は「発展」として別枠で記述されていますし、「コラム」も適切に配置されています。ということで、本書の結論として、おそらくは社会学の観点から、平等と不平等を論じる際にもっとも重要な観点である「機会の平等」が現代日本では必ずしも確保されていない、という点が重要であると私は考えます。経済学的には、ついつい、平等と不平等を結果としての所得を代理変数として考えますが、社会学ですので排除や包摂とも考え合わせて、まあ、複雑ながら経済学よりも深みのある議論が展開されています。そして、平等と不平等を考える際に、原因から結果に向かう中間経路として、本書では教育ないし学歴を大きなポイントに据えています。要するに、制度上はあくまで義務教育ではないにも関わらず、ほぼほぼ事実上の全入制となった高校進学を前提として、ホントに機会の平等が保証されているのであれば、誰でもが大学に進学する機会を平等に有しているかどうか、について定量分析も含めて考察を加えています。そして、その結論は否定的といわざるを得ません。すなわち、日本では大学進学における機会の平等は確保されていない、ということになります。その詳細な議論は本書を読むしかないのですが、私は少なくとも機会の平等を考える上で、あるいは、貧困からの脱出を考える上で、大学進学は重要なポイントになると考えています。その点は本書の著者と基本的によく似た見方をしています。米国の「大統領経済報告」ではじめて示されたグレート・ギャッツビー曲線を援用したりして、定量的なパネル分析からも大学進学が「親ガチャ」からは独立ではありえない、という分析結果です。本書は社会学的な分析ですが、経済学的に私が授業で教えているポイントは、その昔の高度成長期に広く観察された雇用慣行である年功賃金制にあります。チョット見では、いかにも子供達が大きくなって大学進学などで教育費がかかる時期にお給料が上がるのは好ましく思えますが、実はそうではありません。というのは、親が大学授業料を負担できる給与体系である年功賃金をもらっているがために、いわば、行政がサボって大学の学費を低く抑える必要がなかったわけです。すべてではありませんが、米国などの一部を除いて欧州諸国、特に北欧諸国では大学の学費を極めて低く、しばしば無料にしている点は広く知られているとおりです。
次に、鮫島浩『朝日新聞政治部』』(講談社)です。作者は、長らく朝日新聞で記者をし、政治部を主にキャリアを積んだジャーナリストです。東日本大震災の折の福島第1原発の吉田調書に関する報道で処分を受けて、現在ではネットメディアを主催しているようです。本書では、基本的に著者自身の経験とある程度の憶測を交えながら、著者の半生の自伝を語りつつ、同時に、メディア論についても展開しています。すなわち、権力とメディアの距離感、そして、メディアの企業としてのあり方、などです。まず、よく知られたように、著者は朝日新聞特別報道部のデスクとして「吉田調書」を入手した部下とともに読み解き、吉田所長の待機命令に反して福島第1から第2に退避した職員がいたことを明らかにするスクープをモノにします。「新聞協会賞」に相当する快挙として社内ではもちろん、広く称賛されますが、実は、吉田所長の待機命令に反してではなく、その命令を知らずに避難した職員がいたのではないか、また、実際に退避した職員への取材がなされておらず、裏付けが取れていない、などといった疑問が持ち上がって、逆に「捏造」としてバッシングを受けます。社長が辞任し、現場の記者やデスクだった著者も処分を受けます。そして、同時に慰安婦問題に関する「吉田証言」も虚偽であったことなどをはじめとして、著者はここで朝日新聞は死んだと表現します。すなわち、権力の対するチェック機能とか、「社会の木鐸」と呼ばれる存在でなくなった、という意味なのだろうと私は考えています。そして、大手全国紙が横並びで東京オリンピックのスポンサーとなり、オリンピック開催反対の意見はしぼんでゆきます。現在では、大手メディアは権力と癒着し提灯持ちの記事が多くなっていることも事実です。本書に関して、私から2点だけ指摘しておきたいと思います。第1に、問題の「吉田調書」の読み方ですが、「待機命令に反して退避」というのは、「命令違反」というコンポーネントと「退避」というコンポーネントの2つの要素があり、私は報じられた当時から前者の「命令違反」がどこまで重要かを疑問視していました。むしろ、重点は「退避」の方にあるのではないか、という気がしていたからです。すなわち、現場を放棄して退避することが問題なのであって、命令違反というのはその退避という行動の悪質さをより重くするものであることは確かです。しかし、現場を放棄しての退避が重要と私が考えるにもかかわらず、本書でも「命令違反」の方に重点が置かれています。不思議です。この重心おき方を誤らなければ、この問題はここまでこじれることはなかったような気がします。本書で指摘する朝日新聞社内の危機管理体制以前の報道の問題です。第2に、本書の著者もそうですが、メディアと権力との距離感に関しては、記者クラブ制というシステムを考慮する必要があります。記者クラブという極めて特殊で排他的なシステムを、おそらく、全国紙やテレビのキー局の記者は当然のように考えているのでしょうが、地方紙や海外メディアからすれば、とてつもない特権としか見えません。こういった特権を与えたれているわけですから、全国紙やテレビなどのキー局が権力に近いという印象を持たれるのは当然です。私は、役所が主催する閣僚の出席する会議の写真を撮ろうとして、写真を撮れるのは記者クラブ所属のカメラマンだけ、といわれて諦めざるを得なかったことがあります。会議の事務方の公務員ですら写真が撮れなかったわけです。こういったべらぼうな特権を与えられている記者クラブ制がある限り、メディアの権力依存は続く、あるいは、少なくとも眉に唾つけて見る国民がいるような気がします。
次に、トニ・マウント『中世イングランドの日常生活』(原書房)です。著者は、歴史家、作家となっています。英語の原題は How to Survive in Medieval England であり、2021年の出版です。原題からほのかに理解できるように、21世紀の現代人が中世、本書では1154-1485年のプランタジネット王朝のころのイングランドにタイムトラベルしたとすれば、どのように生き残るか、という観点で記述されています。単純な修正の歴史書ではありません。まず、中世ですから、私が時折主張するように、英国=イギリスあるいは連合王国とイングランドが区別すべきです。本書でも、イングランドはスコットランドと戦争したりしています。おそらむ、本書の対象とする中世初期にはイングランドとウェールズでは言語がビミョーに違っていたのではないかと私は想像しています。そういった意味からも現代的にイングランドを英国やイギリスと同一視するべきではありません。ただ、細かい点ながら、タイトルに "survive" を用いているにも関わらず、以下に生計を維持するか、稼ぎを得るか、という観点は本書では極めて希薄であり、もっと原始的、というか、まるで無人島で生き残るかのような観点が支配的である点は申し述べておきたいと思います。まず、今もってそうなのですが、欧州諸国、というか、日本以外の多くの国は階級社会であって、所属する階級によっていかに生活するかは大きく異なります。最初の第2章の社会構造や住宅事情などは本書でもその観点がありますが、食べ物や医療事情になると、かなりの程度に忘れられている気がします。おそらく、電話や鉄道などはいかんともしがたいと思いますが、居宅近くでの日常生活では上流階級の人々は現在とそう遜色ない生活を送っていたのではないか、と私は想像します。だた、第2章の社会構造に次に第3章に信仰や宗教に関する歴史を持ってきているのは秀逸です。私はイングランドに限らず、おそらく、日本でも前近代においては宗教の果たしていた役割がかなり大きいと考えています。本書の対象とする期間のイングランドの宗教は、いうまでもなく、キリスト教の中でもカトリックなのですが、普段の日常生活を律するのは死後の天国と地獄ではなかったか、と私は想像しています。日本の中世のひとつの時代区分である鎌倉時代に仏教の新宗教が浄土宗や日蓮宗のように日本地場で起こるとともに、禅宗の臨済宗や曹洞宗が中国から持ち込まれたように、中世の12世紀から15世紀くらいまでは宗教の役割は大きかったですし、変化もありました。私の勝手な想像では、ゲーテが「もっと光を」といって死んだように、光が不足する、というか、夜が暗かったのが地獄をはじめとする異世界を想像たくましくさせたような気がします。今でも都会に比べて夜が暗い、というか、早くに暗くなる地方部では必ずしも宗教に限らず信心深い気がします。
次に、今村夏子『とんこつQ&A』(講談社)です。著者は、芥川賞を受賞した純文学の作家です。この作品は短編集であり、4話を収録しています。まず、表題作の「とんこつQ&A」では、大将と坊っちゃんで切り盛りする中華料理店「とんこつ」で30代半ばの独身女性である主人公が働き始めます。しかし、「いらっしゃいませ」や「ありがとうございました」すらいえなかったため、しゃべるのではなくメモを読み上げることで克服します。それから、挨拶をはじめとする店内で発するあらゆる会話、例えば、店の名前の由来、おすすめメニューなどをメモに記入し、「とんこつQ&A」を作り上げます。おしゃべりではなく、メモを読むことで対応するわけです。そこにもうひとり、主人公よりももっと鈍なアルバイトの丘崎さんが働き始めることになり、いろいろとお話が展開します。最後の結末は、思いもしなかったものでびっくりです。続いて、「嘘の道」では、小学校でのイジメられっ子の与田正のクラスメートの少女を主人公に、いじめられていた与田正が「イジメはよくない」という教師の指導などもあって、逆に、チヤホヤされるようになります。でも、おばあさんが教えられた近道でケガを負うという事件があり、濡れ衣を着せられた与田正が再びイジメにあいます。でも、おばあさんにその近道を教えたのが誰であるか、という真相は別のところにあるわけです。「良夫婦」では、小学生のタムに親切にする若妻を主人公に、タムがその主人公の家の庭にあるサクランボを取りに来て期から落ちて大怪我する時間があった際、すべてを処理する夫の事件処理のやり方を描き出しています。それは、夫婦が結婚前にそろって勤務していた介護サービス事業所での妻が起こした不都合な出来事の処理方法と同じでした。最後に、「冷たい大根の煮物」では、高校を卒業してひとり暮らしの工場勤務を始めた女性を主人公に、同じ工場の同僚で中年女性の柴山さんとの人間関係を描き出しています。柴山さんには寸借詐欺のウワサあるにも関わらず、主人公にはそれなりに親切で料理してくれたり、レシピを教えてくれたりします。でも、結局、柴山さんは工場を辞めることになります。あらすじは以上の通りですが、読者としては、主人公とそれ以外の登場人物の間のズレをどう考えるか、という点がポイントになります。ある意味で、ものすごく深い読み方をしなければ、この作者の作品をホントに味わうことが出来ないと私は考えており、その意味で、この短編集はこの作者の典型的な作品ともいえます。特に、4話の短編の中でも短めな「嘘の道」と「良夫婦」はホラーとすらいえる内容ですが、スラッと読めばホラーでも何でもなく読めてしまう可能性もあります。最後に、私もこの作者の作品をすべて読んだわけではありませんが、この作品の理解を進めるためには、『あひる』を読んでおくと参考になりそうな気がします。
次に、五十嵐彰・迫田さやか『不倫』(中公新書)です。著者は、社会学の研究者と経済学の研究者であり、おそらく、ともに計量分野のご経験が豊富と思います。本書ではタイトル通りに、不倫、本書では婚外性交渉と定義されている行為について定量的な分析を試みています。ただし、婚外性交渉とはいっても風俗店での行為や風俗店できっかけの出来たものは除外されています。定量的な分析ですから、その基礎となる情報を得るために、NTTコムオンラインでアンケート調査を実施しています。ただし、選挙におけるブラッドリー効果のように、アンケート調査で真の結果を得られていない可能性もありますから、そのあたりはリスト実験などの工夫がなされています。ということで、構成として、第1章で不倫とは何かを考え、第2章でどれくらいの人が不倫しているのかの把握に努め、p.31表2-1のような結果を得ています。すなわち、既婚男性の半分近く、既婚女性の15%ほどが、結婚後に現在進行形も含めて何処かの段階で不倫の経験あり、という結論です。第3章で、不倫しやすい属性を検討し、第4章で誰と不倫するのかを解明しています。軽く想像される通り、男性の場合は職場で不倫相手が見つかりやすい、ということがいえます。第5章で不倫の終わり方、あるいは、なぜ終わらないのか、を検討し、不倫行為に関する定量的な分析はここまでなのですが、最後の第6章で社会的に不倫を非難する人たちについても考察を進めています。本書でも言及されているように、シカゴ大学のノーベル経済賞を受賞したベッカー教授などの「経済学帝国主義者」が結婚の経済学を分析したことは有名ですが、本書は経済学的なアプローチもなくはないですが、基本的に、社会学的なアプローチを取っていると私はみなしています。日本においては、ほぼほぼ先行研究のない分野ですし、本書も新書とはいえ、定量分析の手法の選択や参考文献の渉猟など、学術書とみなしていいと私は考えます。いくつかの章の終わりに置かれている補論は学術書っぽくなないですが、まあ、いいとします。ですから、基本的に、本書の不倫に関する分析結果は、諸外国、特に、米国の先行研究との整合性も考えると、十分に受入れ可能なものだといえます。分析結果は本書を読んでいただくしかありませんが、十分に評価するという私の基本を踏まえた上で、たった1点だけ指摘したのは、不倫においてマッチング・サービスの果たす役割です。基本的に、マッチング・サービスは結婚を希望する人々に開かれていて、私のような高齢の既婚者には関係ないと考えていますので、私はまったく情報がありませんが、おそらく、あくまでおそらくですが、既婚者の不倫行動に対して何らかのポジティブな役割を果たしている可能性が否定できません。でも、本書では、それについてはまったく無視しているように見えます。
最後に、ホリー・ジャクソン『優等生は探偵に向かない』(創元推理文庫)です。著者は、英国のミステリ作家です。この作品は、英国のリトル・キルトンのグラマー・スクール最上級生のピップ(ピッパ)が探偵役を務めるシリーズの第2作であり、前作は『自由研究には向かない殺人』であり、3部作といわれています。英語の原題は Good Girl, Bad Blood であり、2020年の出版です。3部作最後の As Good As Dead もそのうちに邦訳されることと私は想像しています。ということで、この作品では、主人公のピップに友人のコナー・レノルズから兄のジェイミーが失踪したので行方を探して欲しいと依頼が入ります。ほぼほぼ1週間7日が経過してもジェイミーは見つかりません。その間に、ピップは着々とリサーチを進めるわけです。前作と違って、この作品ではPodCastが多用されます。ミステリですので、あらすじも早々に、5点ほど指摘しておきたいと思います。第1に、前作では主人公のピップはきわめて強気に捜索を進めたのですが、この作品では少なくとも前作に比べれば控えめです。最後の方に、ピップの仲間、すなわち、前作で相棒になったラヴィ・シンとこの作品の依頼者のコナー・レノルズが家宅侵入をしたりしますが、まあ、強気な捜索というよりは控えめといっていいと思います。第2に、前作でも女子高生(当時)の行方不明事件であって、殺人事件とは確定していませんでしたが、本作品でもやっぱり行方不明事件です。ただ、この作品では最後の最後に殺人事件が起こります。主人公のピップの目前での銃撃殺人ですので犯人探しは不要ですが、生々しい殺人が描かれていることは確かです。第3に、この作品では有色人種に対する差別はそれほど大きく扱われていません。記者のスタンリーは前作では差別意識が激しい人物とされていたように私は記憶していますが、別の事情もあって、この作品ではとても好意的に、しかも、主人公のピップも同情を寄せるように描かれています。やや矛盾を感じる読者は私だけではないと思います。第4に、先週レビューした『罪の壁』で少し言及しましたが、このシリーズは登場人物が多岐に渡り、隠れた顔がいっぱいあります。それを「深みがある」と称するかどうかはともかく、極めて複雑なミステリ作品に仕上がっていることは確かです。第5に、最初の作品である『自由研究には向かない殺人』に比較して、この作品はミステリとしてクオリティは大きく落ちます。3部作の最後の作品がやや心配です。最後に、おそらく、作者はまったくあずかり知らぬことなのでしょうが、日本人であれば神戸の連続児童殺傷事件、俗にいう「酒鬼薔薇事件」を強く思い起こさせる可能性があります。
2023年02月24日 (金) 14:00:00
+4%台の上昇続く消費者物価指数(CPI)をどう見るか?
本日、総務省統計局から1月の消費者物価指数 (CPI) が公表されています。生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPI上昇率は、季節調整していない原系列の統計で見て前年同月比で+4.0%を記録しています。報道によれば、第2次石油危機の影響がまだ残っていた1981年12月の+4.0%以来、41年ぶりの高い上昇率だそうです。ヘッドライン上昇率も+4.0%に達している一方で、エネルギー価格の高騰に伴うプラスですので、生鮮食品とエネルギーを除く総合で定義されるコアコアCPI上昇率は+3.0%にとどまっています。というか、エネルギーと生鮮食品を除いてもインフレ目標の+2%を超えています、というべきかもしれません。まず、日経新聞のサイトから統計を報じる記事を引用すると以下の通りです。
なにせ今一番の注目の経済指標ですのでやや長くなりましたが、いつものように、よく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、消費者物価(CPI)上昇率のグラフは下の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIと生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPI、それぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフはコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。寄与度はエネルギーと生鮮食品とサービスとコア財の4分割です。加えて、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1ケタの指数を基に私の方で算出しています。丸めずに有効数字桁数の大きい指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。統計局の公表数値を入手したい向きには、総務省統計局のサイトから引用することをオススメします。

まず、引用した記事にもあるように、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは+4.3%の予想でしたので、実績の4.2%の上昇率はほぼほぼ予想通りと考えられます。もちろん、物価上昇の大きな要因は、基本的に、資源とエネルギー価格の上昇による供給面からの物価上昇と考えるべきですが、もちろん、円安による輸入物価の上昇も一因です。すなわち、コストプッシュによるインフレであり、日銀による緩和的な金融政策による需要面からのディマンドプルが主因となっている物価上昇ではありません。CPIに占めるエネルギーのウェイトは1万分の712なのですが、1月統計におけるエネルギーの前年同月比上昇率は+14.6%に達していて、ヘッドラインCPI上昇率に対する寄与度は+1.17%あります。このエネルギーの寄与度+1.17%のうち、電気代が+0.75%と大きな部分を占め、次いで、都市ガス代の+0.35%などとなっています。加えて、生鮮食品を除く食料の上昇率も高くなってきていて、昨年2022年10月統計+5.9%、11月統計+6.8%、12月統計+7.4%に続いて、今年2023年1月統計でも+7.4%の上昇を示しており、ウェイトがエネルギーの3倍超の1万分の2230ありますので影響も大きく、+1.66%の寄与となっています。統計からしても、値上がりの主役はエネルギーから食料に移ったと考えるべきです。1月統計の生鮮食品を除く食料の前年同月比上昇率とヘッドライン上昇率に対する寄与度を少し細かく中分類で見ると、+17.9%の上昇を示したハンバーガーをはじめとする外食が+5.9%の上昇率で+0.27%の寄与、+9.9%の上昇を示したからあげをはじめとする調理食品が+7.7%で+0.27%の寄与、+10.0%の上昇を示した豚肉(国産品)をはじめとする肉類が+7.6%で+0.19%の寄与、+11.5%の上昇をを示した食パンをはじめとする穀類が+8.1%の上昇率で+0.17%の寄与度、+16.1%の上昇を示したポテトチップスをはじめとする菓子類が+7.0%の上昇で+0.17%の寄与、などとなっています。私も週に2~3回くらいは近くのスーパーで身近な商品の価格を見て回りますが、ある程度は生活実感にも合っているのではないかと思います。繰り返しになりますが、ヘッドライン上昇率とコアCPI上昇率は1月統計で、どちらも+4%ですから、エネルギーの寄与度が+1.17%、生鮮食品を除く食料による寄与度が+1.66%ですから、これだけで+3%近い寄与となります。それ以外の寄与は+1.5%ほどなわけです。
ただし、現在のインフレ目標+2%を超える物価上昇率は長続きしません。すなわち、おそらく、今年2023年1月統計で+4%が続く可能性は十分あるとしても、その後、急速にインフレ率は縮小します。引用した記事にもある通り、日本経済研究センター(JCER)によるEPSフォーキャストでは今年2023年1~3月期+2.95%、4~6月期+2.51%の後、7~9月期には日銀のインフレ目標を下回って+1.82%まで上昇幅を縮小させると予想されています。他にも、ニッセイ基礎研究所のリポートによれば、「23年1月のコアCPIは前年比4.2%と41年4ヵ月ぶりの高い伸びとなったが、2月には電気・都市ガス代の負担緩和策が実施されることから、一気に3%程度まで伸びが低下する可能性が高い。」と日本経済研究センターのESPフォーキャストと同じように物価上昇率は高止まりしつつも鈍化するという見方をしています。加えて、引用した記事の最後のパラにあるように、「全国旅行支援」が宿泊料に及ぼす影響も無視できず、需給や通貨供給ではない政府による物価の撹乱が大きいといえます。
最後に、現在の物価上昇がなぜ家計へのダメージ大きいかについてグラフを追加しておきます。以下の通りです。上のパネルは購入頻度別消費者物価上昇率、下は基礎的・選択的支出別消費者物価上昇率です。見れば明らかなように、購入頻度が高くて、基礎的な生活必需品である品目ほど物価上昇率が大きくなっています。ですから、平均的な家計では+4%を上回る物価上昇の実感を持っている可能性が高いと考えるべきです。
日本の消費者物価、1月4.2%上昇 41年4カ月ぶり伸び
総務省が24日発表した1月の消費者物価指数(CPI、2020年=100)は変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が104.3となり、前年同月比で4.2%上昇した。第2次石油危機の影響で物価が上がっていた1981年9月(4.2%)以来、41年4カ月ぶりの上昇率だった。円安や資源高の影響で、食料品やエネルギーといった生活に身近な品目が値上がりしている。
上昇は17カ月連続。QUICKが事前にまとめた市場予想の中央値(4.3%)は下回った。消費税の導入時や税率の引き上げ時も上回り、日銀の物価上昇率目標2%の2倍以上となっている。
調査品目の522品目のうち、前年同月より上がったのは414、変化なしは44、下がったのは64だった。
生鮮食品を含む総合指数は4.3%上がった。81年12月(4.3%)以来、41年1カ月ぶりの上昇率だった。生鮮食品とエネルギーを除いた総合指数は3.2%上昇し、消費税導入の影響を除くと82年4月(3.2%)以来40年9カ月ぶりの伸び率となった。
品目別に上昇率をみると、生鮮を除く食料が7.4%上昇し全体を押し上げた。食料全体は7.3%だった。食品メーカーが相次いで値上げに踏み切っており、食用油が31.7%、牛乳が10.0%、弁当や冷凍食品といった調理食品は7.7%伸びた。
エネルギー関連は14.6%上がった。都市ガスは35.2%、電気代は20.2%の上昇だった。
宿泊料は2022年12月のマイナス18.8%からマイナス3.0%となり、指数全体を押し下げる効果は小さくなった。政府が観光支援策「全国旅行支援」の割引率を縮小した影響が表れた。
なにせ今一番の注目の経済指標ですのでやや長くなりましたが、いつものように、よく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、消費者物価(CPI)上昇率のグラフは下の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIと生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPI、それぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフはコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。寄与度はエネルギーと生鮮食品とサービスとコア財の4分割です。加えて、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1ケタの指数を基に私の方で算出しています。丸めずに有効数字桁数の大きい指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。統計局の公表数値を入手したい向きには、総務省統計局のサイトから引用することをオススメします。

まず、引用した記事にもあるように、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは+4.3%の予想でしたので、実績の4.2%の上昇率はほぼほぼ予想通りと考えられます。もちろん、物価上昇の大きな要因は、基本的に、資源とエネルギー価格の上昇による供給面からの物価上昇と考えるべきですが、もちろん、円安による輸入物価の上昇も一因です。すなわち、コストプッシュによるインフレであり、日銀による緩和的な金融政策による需要面からのディマンドプルが主因となっている物価上昇ではありません。CPIに占めるエネルギーのウェイトは1万分の712なのですが、1月統計におけるエネルギーの前年同月比上昇率は+14.6%に達していて、ヘッドラインCPI上昇率に対する寄与度は+1.17%あります。このエネルギーの寄与度+1.17%のうち、電気代が+0.75%と大きな部分を占め、次いで、都市ガス代の+0.35%などとなっています。加えて、生鮮食品を除く食料の上昇率も高くなってきていて、昨年2022年10月統計+5.9%、11月統計+6.8%、12月統計+7.4%に続いて、今年2023年1月統計でも+7.4%の上昇を示しており、ウェイトがエネルギーの3倍超の1万分の2230ありますので影響も大きく、+1.66%の寄与となっています。統計からしても、値上がりの主役はエネルギーから食料に移ったと考えるべきです。1月統計の生鮮食品を除く食料の前年同月比上昇率とヘッドライン上昇率に対する寄与度を少し細かく中分類で見ると、+17.9%の上昇を示したハンバーガーをはじめとする外食が+5.9%の上昇率で+0.27%の寄与、+9.9%の上昇を示したからあげをはじめとする調理食品が+7.7%で+0.27%の寄与、+10.0%の上昇を示した豚肉(国産品)をはじめとする肉類が+7.6%で+0.19%の寄与、+11.5%の上昇をを示した食パンをはじめとする穀類が+8.1%の上昇率で+0.17%の寄与度、+16.1%の上昇を示したポテトチップスをはじめとする菓子類が+7.0%の上昇で+0.17%の寄与、などとなっています。私も週に2~3回くらいは近くのスーパーで身近な商品の価格を見て回りますが、ある程度は生活実感にも合っているのではないかと思います。繰り返しになりますが、ヘッドライン上昇率とコアCPI上昇率は1月統計で、どちらも+4%ですから、エネルギーの寄与度が+1.17%、生鮮食品を除く食料による寄与度が+1.66%ですから、これだけで+3%近い寄与となります。それ以外の寄与は+1.5%ほどなわけです。
ただし、現在のインフレ目標+2%を超える物価上昇率は長続きしません。すなわち、おそらく、今年2023年1月統計で+4%が続く可能性は十分あるとしても、その後、急速にインフレ率は縮小します。引用した記事にもある通り、日本経済研究センター(JCER)によるEPSフォーキャストでは今年2023年1~3月期+2.95%、4~6月期+2.51%の後、7~9月期には日銀のインフレ目標を下回って+1.82%まで上昇幅を縮小させると予想されています。他にも、ニッセイ基礎研究所のリポートによれば、「23年1月のコアCPIは前年比4.2%と41年4ヵ月ぶりの高い伸びとなったが、2月には電気・都市ガス代の負担緩和策が実施されることから、一気に3%程度まで伸びが低下する可能性が高い。」と日本経済研究センターのESPフォーキャストと同じように物価上昇率は高止まりしつつも鈍化するという見方をしています。加えて、引用した記事の最後のパラにあるように、「全国旅行支援」が宿泊料に及ぼす影響も無視できず、需給や通貨供給ではない政府による物価の撹乱が大きいといえます。
最後に、現在の物価上昇がなぜ家計へのダメージ大きいかについてグラフを追加しておきます。以下の通りです。上のパネルは購入頻度別消費者物価上昇率、下は基礎的・選択的支出別消費者物価上昇率です。見れば明らかなように、購入頻度が高くて、基礎的な生活必需品である品目ほど物価上昇率が大きくなっています。ですから、平均的な家計では+4%を上回る物価上昇の実感を持っている可能性が高いと考えるべきです。

2023年02月23日 (木) 16:00:00
京都に行ってフェアトレードのオーガニック・チョコを買う
今日ではないのですが、今週になってから京都に出かける機会があって、第3世界ショップの系列のシサム工房というお店でウィンターチョコレートというフェアトレードのオーガニック・チョコレートを買い求めました。
とっても高かったです。100gの板チョコであればフツーは100円少々で売られていると思いますが、上の写真のチョコレートはケタは違わないものの、数倍のお値段でした。ですから、私のような公務員や教員といった薄給の勤め人には、いつもいつもというわけにはいきません。でも、時には、別の贅沢をしたつもりになって、こういったフェアトレードのオーガニック食品を買い求めるのもいいのではないか、と考えています。
ただし、何度かこのブログでも主張しましたが、人の意識だけでフェアトレードやオーガニック製品の普及が進むとはエコノミストは考えません。もっと、法律を含めた制度的あるいは組織的な裏付けが必要です。そのために、何が出来るかは、ひょっとしたら、個々人の意識の問題かもしれません。
2023年02月22日 (水) 16:00:00
企業向けサービス価格指数(SPPI)はそろそろピークアウトするのか?
本日、日銀から1月の企業向けサービス価格指数 (SPPI)が公表されています。ヘッドラインSPPIの前年同月比上昇率は+1.6%を記録し、変動の大きな国際運輸を除くコアSPPIも+1.5%の上昇を示しています。サービス物価指数ですので、国際商品市況における石油をはじめとする資源はモノであって含まれていませんが、こういった資源価格の上昇がジワジワと波及している印象です。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。
コンパクトによく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業向けサービス物価指数(SPPI)のグラフは下の通りです。上のパネルはヘッドラインのサービス物価(SPPI)上昇率及び変動の大きな国際運輸を除くコアSPPI上昇率とともに、企業物価(PPI)の国内物価上昇率もプロットしてあり、下のパネルは日銀の公表資料の1ページ目のグラフをマネして、国内価格のとサービス価格のそれぞれの指数水準をそのままプロットしています。企業物価指数(PPI)とともに、企業向けサービス物価指数(SPPI)が着実に上昇トレンドにあるのが見て取れます。なお、影を付けた部分は、日銀公表資料にはありませんが、景気後退期を示しています。

上のグラフで見ても明らかな通り、企業向けサービス価格指数(SPPI)の前年同月比上昇率の2022年中の推移は、2022年6月に上昇率のピークである+2.1%をつけ、その後も、7月と9月は+2.0%を記録しましたが、10月+1.8%、11月+1.7%、12月1.5%、そして、本日公表された1月統計では+1.6%と、ジワジワと上昇幅を縮小させ始めているように見えます。もちろん、前年同期比プラスは2年近い23か月の連続となっていますし、石油価格の影響の大きい国際運輸を除くコアSPPI上昇率は昨年2022年9~11月に3か月連続で+1.5%まで拡大した後、1月でもまだ+1.5%を記録しています。すなわち、上昇幅が縮小し始めたと判断するのは早計かもしれませんが、他方で、少なくとも上昇率がグングン加速するという段階は脱したといえそうです。しかも、ヘッドラインSPPI上昇率は日銀の物価目標に届かない+1%台半ばですから、私の見方からすれば高止まりしているとすら表現しかねます。もう何度も指摘されている点ですが、基本的には、石油をはじめとする資源価格の上昇が円安と相まってサービス価格にも波及したコストプッシュが主な要因と考えるべきです。もちろん、ウクライナ危機に起因する資源高の影響に加えて、新興国や途上国での景気回復に伴う資源需要の拡大というディマンドプルの要因も無視できません。
もう少し詳しく、SPPIの大類別に基づく直近1月統計のヘッドライン上昇率+1.6%への寄与度で見ると、引用した記事にもある通り、機械修理や宿泊サービスなどの諸サービスが+0.71%と大きな寄与を示し、ほかに、石油価格の影響が強い外航貨物輸送、鉄道旅客輸送などの運輸・郵便が+0.32%、リース・レンタルが+0.32%、などとなっています。また、寄与度ではなく大類別の系列の前年同月比上昇率で見ても、特に、運輸・郵便が+2.0%の上昇となったのは、エネルギー価格の上昇が主因であると考えるべきです。ただし、この上昇率も昨年2022年12月の+2.5%からはいくぶん縮小しています。もちろん、資源価格のコストプッシュ以外にも、リース・レンタルの+4.1%、広告の+2.8%の上昇など、ヘッドライン上昇率を超える上昇幅を示している項目は、それなりに景気に敏感な項目であり、需要の盛り上がりによるディマンドプルの要素も大いに含まれている、と私は受け止めています。ですので、エネルギーなどの資源価格のコストプッシュだけでなく、国内需要面からもサービス価格は上昇基調にあると考えていいように私は受け止めています。
最後に、本日公表された企業向けサービス価格指数(SPPI)だけでなく、幅広く物価動向について一般的に考えると、第1に、私はクルーグマン教授がニューヨーク・タイムズで述べているように、一貫して Team Transitory の一員、すなわち、高インフレは一時的とみなしています。第2に、物価上昇が中小企業の価格転嫁を認めないという大企業の過酷な取引慣行によって阻害されるのは好ましくないと考えています。例えば、朝日新聞やNHKで報じられているように、中小企業庁では「価格交渉促進月間(2022年9月)フォローアップ調査の結果について」と題して、中小企業10社以上から名指しされた発注元150社の実名を公表しています。こういった点を考え合わせると、あるいは、下請けに対する価格転嫁の受入れ拒否などの不当な取引慣行によって物価が上昇しないのも、日本経済の弱点のひとつかもしれません。ただし、これは企業担当者や経営者の気持ちの問題ではなく、価格転嫁のシステムに関して制度的な裏付けが必要です。
企業向けサービス価格、1月1.6%上昇 23カ月連続プラス
日銀が22日発表した1月の企業向けサービス価格指数(2015年平均=100)は107.4と、前年同月比1.6%上昇した。23カ月連続でプラスだった。観光振興策「全国旅行支援」の割引率縮小やインバウンド(訪日外国人)需要の回復を背景に、宿泊サービスが全体を押し上げた。
機械修理サービスも価格が上がった。光熱費や人件費の上昇を転嫁する動きがみられる。新聞広告も旅行関連の出稿需要の高まりで押し上げられた。
タンカーなどの国際運輸は下落した。海運市況の悪化や円高傾向が影響した。
調査対象となる146品目のうち、価格が前年同月比で上昇したのは98品目、下落したのは16品目だった。
コンパクトによく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業向けサービス物価指数(SPPI)のグラフは下の通りです。上のパネルはヘッドラインのサービス物価(SPPI)上昇率及び変動の大きな国際運輸を除くコアSPPI上昇率とともに、企業物価(PPI)の国内物価上昇率もプロットしてあり、下のパネルは日銀の公表資料の1ページ目のグラフをマネして、国内価格のとサービス価格のそれぞれの指数水準をそのままプロットしています。企業物価指数(PPI)とともに、企業向けサービス物価指数(SPPI)が着実に上昇トレンドにあるのが見て取れます。なお、影を付けた部分は、日銀公表資料にはありませんが、景気後退期を示しています。

上のグラフで見ても明らかな通り、企業向けサービス価格指数(SPPI)の前年同月比上昇率の2022年中の推移は、2022年6月に上昇率のピークである+2.1%をつけ、その後も、7月と9月は+2.0%を記録しましたが、10月+1.8%、11月+1.7%、12月1.5%、そして、本日公表された1月統計では+1.6%と、ジワジワと上昇幅を縮小させ始めているように見えます。もちろん、前年同期比プラスは2年近い23か月の連続となっていますし、石油価格の影響の大きい国際運輸を除くコアSPPI上昇率は昨年2022年9~11月に3か月連続で+1.5%まで拡大した後、1月でもまだ+1.5%を記録しています。すなわち、上昇幅が縮小し始めたと判断するのは早計かもしれませんが、他方で、少なくとも上昇率がグングン加速するという段階は脱したといえそうです。しかも、ヘッドラインSPPI上昇率は日銀の物価目標に届かない+1%台半ばですから、私の見方からすれば高止まりしているとすら表現しかねます。もう何度も指摘されている点ですが、基本的には、石油をはじめとする資源価格の上昇が円安と相まってサービス価格にも波及したコストプッシュが主な要因と考えるべきです。もちろん、ウクライナ危機に起因する資源高の影響に加えて、新興国や途上国での景気回復に伴う資源需要の拡大というディマンドプルの要因も無視できません。
もう少し詳しく、SPPIの大類別に基づく直近1月統計のヘッドライン上昇率+1.6%への寄与度で見ると、引用した記事にもある通り、機械修理や宿泊サービスなどの諸サービスが+0.71%と大きな寄与を示し、ほかに、石油価格の影響が強い外航貨物輸送、鉄道旅客輸送などの運輸・郵便が+0.32%、リース・レンタルが+0.32%、などとなっています。また、寄与度ではなく大類別の系列の前年同月比上昇率で見ても、特に、運輸・郵便が+2.0%の上昇となったのは、エネルギー価格の上昇が主因であると考えるべきです。ただし、この上昇率も昨年2022年12月の+2.5%からはいくぶん縮小しています。もちろん、資源価格のコストプッシュ以外にも、リース・レンタルの+4.1%、広告の+2.8%の上昇など、ヘッドライン上昇率を超える上昇幅を示している項目は、それなりに景気に敏感な項目であり、需要の盛り上がりによるディマンドプルの要素も大いに含まれている、と私は受け止めています。ですので、エネルギーなどの資源価格のコストプッシュだけでなく、国内需要面からもサービス価格は上昇基調にあると考えていいように私は受け止めています。
最後に、本日公表された企業向けサービス価格指数(SPPI)だけでなく、幅広く物価動向について一般的に考えると、第1に、私はクルーグマン教授がニューヨーク・タイムズで述べているように、一貫して Team Transitory の一員、すなわち、高インフレは一時的とみなしています。第2に、物価上昇が中小企業の価格転嫁を認めないという大企業の過酷な取引慣行によって阻害されるのは好ましくないと考えています。例えば、朝日新聞やNHKで報じられているように、中小企業庁では「価格交渉促進月間(2022年9月)フォローアップ調査の結果について」と題して、中小企業10社以上から名指しされた発注元150社の実名を公表しています。こういった点を考え合わせると、あるいは、下請けに対する価格転嫁の受入れ拒否などの不当な取引慣行によって物価が上昇しないのも、日本経済の弱点のひとつかもしれません。ただし、これは企業担当者や経営者の気持ちの問題ではなく、価格転嫁のシステムに関して制度的な裏付けが必要です。
2023年02月21日 (火) 13:00:00
第一生命経済研究所のリポート「花粉の大量飛散が日本経済に及ぼす影響」やいかに?
昨日2月20日に第一生命経済研究所から「花粉の大量飛散が日本経済に及ぼす影響」と題するリポートが明らかにされています。やや、際物っぽい気もしますが、今年の花粉飛散で苦しんでいる身としては切実なものもあります。まあ、何と申しましょうかで、それほど真面目に考えるべき分析ではありませんが、まあ、面白半分に取り上げておきます。
まず、リポートから 1-3月期の家計消費と前年7-9月期の気温の関係 の散布図グラフを引用すると上の通りです。決定係数が極めて低いので、基本的に無相関なのですが、順相関か逆相関か、といわれれば、一応、夏季の気温とその半年後の家計消費の間には負の相関関係が観察されています。そして、この相関関係は、時間をさかのぼって因果関係となることはない、という絶対的な真理により、夏季の気温から半年後の家計消費への因果関係は考えられなくはないものの、その逆はあり得ません。家計消費が半年前の夏季の気温の原因となることは絶対にありえません。当然です。
続いて、リポートから 1-3月期の消費支出と前年7-9月期の平均気温の相関関係 のグラフを引用すると上の通りです。保健医療に正の相関があるのは、「あるいは」という気を起こさせます。また、通常の食料や被覆及び履物と負の相関があるのは、花粉飛散による外出手控えが関係している可能性もあり得ます。
まあ、何と申しましょうかで、バックグラウンドに理論モデルがほぼほぼ存在せず、単純な回帰分析の計測で終わっているわけですので学術論文にはなり得ませんが、十分に遊び心は感じられます。
まず、リポートから 1-3月期の家計消費と前年7-9月期の気温の関係 の散布図グラフを引用すると上の通りです。決定係数が極めて低いので、基本的に無相関なのですが、順相関か逆相関か、といわれれば、一応、夏季の気温とその半年後の家計消費の間には負の相関関係が観察されています。そして、この相関関係は、時間をさかのぼって因果関係となることはない、という絶対的な真理により、夏季の気温から半年後の家計消費への因果関係は考えられなくはないものの、その逆はあり得ません。家計消費が半年前の夏季の気温の原因となることは絶対にありえません。当然です。
続いて、リポートから 1-3月期の消費支出と前年7-9月期の平均気温の相関関係 のグラフを引用すると上の通りです。保健医療に正の相関があるのは、「あるいは」という気を起こさせます。また、通常の食料や被覆及び履物と負の相関があるのは、花粉飛散による外出手控えが関係している可能性もあり得ます。
まあ、何と申しましょうかで、バックグラウンドに理論モデルがほぼほぼ存在せず、単純な回帰分析の計測で終わっているわけですので学術論文にはなり得ませんが、十分に遊び心は感じられます。
2023年02月20日 (月) 10:00:00
帝国データバンク「2023年度の賃金動向に関する企業の意識調査」結果やいかに?
先週水曜日2月15日に帝国データバンクから「2023年度の賃金動向に関する企業の意識調査」の結果が明らかにされています。調査対象起業の過半数となる56%で賃上げが見込まれている一方で、中小企業では人件費負担から厳しい部分も予想されています。まず、帝国データバンクのサイトから調査結果の用紙を4項目ヘッドラインだけ引用すると以下のとおりです。
2023年度に賃金改善があると見込む企業は56.5%に上っており、昨年2022年度の同じ時点から+1.9%ポイント増加しています。他方、賃金改善が「ない」企業は17.3%となり、前年から▲2.2%ポイント減となっています。賃金改善の具体的な内容では、「ベースアップ」が49.1%、「賞与(一時金)」が27.1%となり、「賞与(一時金)」が昨年の27.7%から低下し、「ベースアップ」は前年の46.4%を上回っています。
また、規模別に少し詳しく見ると、「6~20人」、「21~50人」、「51~100人」で賃金改善があると見込む企業は6割を超えているものの、「5人以下」の小規模企業では39.6%「1,000人超」の大企業でも39.4%と、小規模と大規模の両端の企業で賃金改善を行う割合が低くなっています。加えて、賃金改善を実施しない割合は「5人以下」(33.1%)が突出して高くなっています。大規模企業はすでに賃金が高水準にあって、賃金改善の必要性が小さい可能性あるものの、従業員が5人以下の小規模企業では環境が厳しくなっている可能性があります。
2023年度の賃金改善見込みのグラフをpdfの全文リポートから引用しておきます。
調査結果
- 2023年度、企業の56.5%で賃金改善見込み、ベアは過去最高
- 賃金改善の理由、「物価動向」が急増。「従業員の生活を支えるため」も7割超
- 総人件費は平均3.99%増加見込みも、従業員給与は平均2.10%増と試算
- 非正社員は企業の25.9%で賃金改善「あり」
2023年度に賃金改善があると見込む企業は56.5%に上っており、昨年2022年度の同じ時点から+1.9%ポイント増加しています。他方、賃金改善が「ない」企業は17.3%となり、前年から▲2.2%ポイント減となっています。賃金改善の具体的な内容では、「ベースアップ」が49.1%、「賞与(一時金)」が27.1%となり、「賞与(一時金)」が昨年の27.7%から低下し、「ベースアップ」は前年の46.4%を上回っています。
また、規模別に少し詳しく見ると、「6~20人」、「21~50人」、「51~100人」で賃金改善があると見込む企業は6割を超えているものの、「5人以下」の小規模企業では39.6%「1,000人超」の大企業でも39.4%と、小規模と大規模の両端の企業で賃金改善を行う割合が低くなっています。加えて、賃金改善を実施しない割合は「5人以下」(33.1%)が突出して高くなっています。大規模企業はすでに賃金が高水準にあって、賃金改善の必要性が小さい可能性あるものの、従業員が5人以下の小規模企業では環境が厳しくなっている可能性があります。
2023年度の賃金改善見込みのグラフをpdfの全文リポートから引用しておきます。